フルメタルWパニック!!   作:K-15

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わかる人にはわかるネタを入れてみました。



第26話 壊れる日常

小テストを午後に控えたかなめは、昼休み中に教室でノートを見直して居た。

範囲もあまり広くはなく、覚えやすいように赤線を引いた単語を重点的に頭の中へ詰め込もうとする。

集中して勉強しようとするが、今日は来ていない宗介の事が気になってしょうがなかった。

欠席も多く、テストの点数も悪い宗介では留年の可能性も充分にある。

かなめは思わず隣に居る恭子へ愚痴をこぼしてしまう。

 

「次の期末テストには来れるんでしょうね? 下手したら本当に進級出来ないかも」

 

「相良君、来れない日が続いてるね」

 

「全く、あのバカ」

 

口では悪態を付いて居るが心の中では違って居た。

初めて出会った頃は戦争ボケの変人としか思わなかったが、長く一緒に居た事でかなめの心境にも少しずつ変化が現れる。

 

「電話してみたら? かなちゃんの言う事なら相良君も聞くと思うよ?」

 

「こう言う時に電話しても、アイツ絶対に繋がらないからさ。今度は何処に行ってんだか。感が鈍いと言うか、こっちの心配なんてこれっぽちも――」

 

「もしもし、相良くん。ほら、かなちゃん。繋がったよ」

 

そう言っていつの間にか折り畳みの携帯電話を取り出していた恭子は宗介に電話をして居た。

画面には相良宗介と表示されており、受話器の向こう側からボソボソ何か音が聞こえて来る。

渡された携帯をかなめは受け取るが、突然の事に驚いてしまって居るのと心の準備が出来てなかった。

胸が高鳴り頬が赤くなって来る。

表示されて居る名前を見つめ息を飲んだかなめは携帯電話を耳元へ運ぶ。

出す声はいつもに比べて小さかった。

 

「もしもし、宗介?」

 

『千鳥か、何があった?』

 

聞こえて来る宗介の声には雑音が大量に混じっており、ザーザーと耳障りな音が鳴り続いて居る。

電話の向こう側では銃撃戦が繰り広げられて居り、マシンガンの銃声が引っ切り無しに鳴り響く。

 

「この音は何? 何処に居るのよ?」

 

『今はイタリアだ!!』

 

「イタリアって。次の期末テストはちゃんと受けなさいよ」

 

『わかってる。だが今日の小テストは無理だ!!』

 

「そりゃぁ、ヨーロッパから日本に今すぐ来るなんて無理だろうけどさ。有給とか取れないの?」

 

『日本の企業とは違う!! 何時、いかなる時に招集されるかわからん!!』

 

会話の最中も宗介の背後から聞こえて来る雑音は鳴り止まない。

時々途切れてしまう声を何とか聞き取りながらもかなめは電話を続けた。

 

「そう。仕事でケガとかしないでね」

 

『それも保証出来ん。そうならないように全力は尽くす』

 

「あと古典のノート!! 前みたいに忘れないでよね」

 

『あぁ、了解し――』

 

『次のカーブを右!!』

 

突然聞こえて来た大声にかなめは思わず携帯を遠ざけてしまう。

聞き覚えのある声はマオだった。

 

「ねぇ、マオさんも一緒なの?」

 

『そうだ、クルツも居る』

 

『撃って撃って撃ちまくれ!! トリガーを引かないヤツは荷物だ!! 只のバラストだよ!!』

 

後ろからはまた威勢の良いマオの声が聞こえて来る。

 

「バラスト? アンタ今何してるの!?」

 

『運転中だ!! クソッ、加速が鈍い。セカンダリータービンがイカレタか!!』

 

「運転? 宗介、免許持ってるの? それに運転中に携帯触ったら警察に捕まるかもしれないわよ。何処か駐車場に止めてからじゃないと」

 

『それは無理だ。警察ではなく敵に捕まる!!』

 

『宗介!! ヘッドライト消せ!!』

 

今度はクルツの声が聞こえて来た。

以前雑音は鳴り止まず、聞こえにくい状態が続く。

 

「そっか、時差でイタリアでは夜なんだ。でもヘッドライト消したらダメよ。自分も周りからも見えないから」

 

『アスファルトの段差だ!! ここしかねぇぞ!!』

 

またクルツの大声が耳に響き、こちらの話を聞いていないと感じたかなめは口を閉ざし1度話題を切り上げる。

唾を飲み込んで気分を落ち着かせ、心配して居る進級の事を話す。

 

「ねぇ。アンタ最近学校休みがちだけど、このままだと留年しちゃうわよ?」

 

『それは困る!!』

 

「アタシだって困るんだから」

 

『何だって? 良く聞こえない!!』

 

「何でもない!!」

 

現地では爆撃音と銃声、タイヤのスキール音が絶え間なく鳴り続けて居た。

宗介はかなめの声を上手く聞き取れず、そのせいでかなめに怒られてしまう。

上の空で会話する宗介にかなめはイライラを募らせる。

 

「もう良い!! どうせ今は忙しいんでしょ!!」

 

『周囲がうるさくて聞き取り難いだけだ!! それで、さっきは何と言ったんだ?』

 

「何かさ、宗介ってたまにアタシの話を全然聞かないわよね」

 

『それは違う!!』

 

「どうなんだか」

 

こうして話していてもまだ後ろからはマオとクルツの声が聞こえる。

 

『次のC-131地区のストゥラーダを全開!! 流しっぱなしで突っ込んで!!』

 

『ここしかねぇ、ラストチャンスだ!!』

 

「やっぱり聞いてない。もう切るからね」

 

『大丈夫だ、千鳥。今終わ――』

 

携帯電話を耳から離しボタンに指を掛けるかなめ。

最後に宗介の声が聞こえて来たが構わず指に力を入れ、通話を終わらせてしまう。

恭子は使い終わったかなめから自分の携帯電話を受け取り、学校に来れてない宗介の様子を伺った。

 

「相良君どうしてた?」

 

「知らない、あんなバカ」

 

そっぽを向くかなめに恭子は微笑ましく笑顔を浮かべる。

長く交友して居る恭子にはかなめが一時的にイライラしてるだけだとすぐにわかった。

宗介のフォローをし、かなめの機嫌も良くなるようにする。

和気あいあいと話す2人を、ヒイロは教室の隅でチラリと見て居た。

 

「世話の焼けるヤツだ」

 

ボソリと呟いた一言をかなめも恭子も、教室の誰一人として気が付かない。

そうして居る間にも休み時間は終わり小テストが始まる。

結局宗介は学校に登校せず、その日は終わってしまう。

 

///

 

あれから2日経過しても宗介は来なかった。

いつもの事と思うかなめだが、何処か上の空になって居る事にも気が付かない。

平和に過ぎて行く日常に安心するも、心にポッカリ穴が開いて物足りなく感じる。

6時限目の授業も終わり帰りの学活の時間。

担任の神楽坂が前に立ち、生徒達に連絡事項を報告して居た。

既に帰って何をするかを考えて居る生徒も多く私語も入り乱れる。

そこへ教室の扉が開かれて全員の視線が1点に集中した。

 

「遅れて申し訳ありません」

 

「相良君!? 今何時だと思って居るんですか!! もう学校は終わりです」

 

「はい、すみません」

 

「はぁ~、席に着いて下さい」

 

呆れる神楽坂を他所に宗介は表情1つ変えずかなめの後ろの席へ行く。

ずっと使われなかった机には薄っすら埃が溜まっており、宗介は軽く手で払ってからイスへ座った。

かなめは久しぶりに見る宗介の姿に胸が高鳴る。

背中に意識が集中してしまいながらも学活の時間は過ぎて行く。

 

「かなちゃん帰ろ」

 

「え……」

 

気が付いたら学活は終わっており、神楽坂の姿も見えず他の生徒はカバンを持って教室から出て行く所だ。

恭子に呼び掛けられてかなめはイスから立ち上がり、机に横掛けたカバンを手に取る。

生徒会の仕事もなくマンションに帰るつもりだったかなめに恭子は無邪気な笑顔を浮かべてかなめを誘う。

 

「ねぇねぇ、明日は土曜日だから何処かに遊びに行かない?」

 

「良いけど、何処に行くの?」

 

「その前に、他の人も誘おうよ。相良君も一緒に来る?」

 

宗介はまだ自分の席から移動しておらず、恭子の提案に心良く賛同した。

 

「問題ない。今日は予定は何もないからな」

 

「ならあとは~」

 

次に恭子が探す目線の先に止まったのは写真部の風間とヒイロ。

一眼レフカメラを片手に話す風間に恭子は歩み寄り2人を遊びに誘う。

 

「風間君とユイ君も来ない? みんなで遊びに行くんだけど」

 

「行きたいんだけど、コンクールも近いんだ。ゴメン」

 

「そっか。ならユイ君も無理だよね」

 

「俺は構わない」

 

同じ部でも風間と違いヒイロは行けると言う。

その事に風間は驚くしか出来ない。

 

「えぇ!? ダメだよ。まだ出展する写真が決まってないのに」

 

「俺はコンクールなんてどうでも良い。後はお前の好きにしろ」

 

「そ……そんなぁ~」

 

突き放すヒイロに泣き崩れる風間。

本気でコンクールに興味のないヒイロは風間の元を離れて恭子達の所に行ってしまう。

1人残されてしまった風間は瞳に涙を溜めながら、渋々ではあるがみんなの所へ合流する。

メンバーが揃った所で恭子が先頭を切って進む。

 

「5人で遊べる所ならアラウンド2に行かない?」

 

「アタシはそれで良いよ」

 

「問題ない」

 

同意したメンバーは教室を出て廊下を歩いて下駄箱に向かおうとする。

けれども扉を開けて出た瞬間に、別の教室から瑞樹が猛ダッシュで突撃した来た。

上履きの靴底のゴムが摩擦熱ですり減る程にフルブレーキングをして、5人の中のかなめをピンポイントに狙う。

 

「ちょっとかなめ!! アタシのダーリン連れて何処行く気よ!!」

 

「何処って、みんなで遊びに行くだけだけど」

 

「ダーリンの恋人は私なんだから!! 許可無く勝手な事をしないで!!」

 

「許可って……」

 

粘着質な瑞樹に少し引いてしまうかなめ。

ヒイロの傍まで擦り寄り腕に抱き着こうとするが、寸前の所で避けられてしまい何もない空気を抱く。

あからさまに避けられて居るのに気を落としたりはせず、瑞樹はハイテンションのまま大声で宣言する。

 

「私も一緒に行くからね」

 

「こう言ってるけど、どうする恭子?」

 

「人数が多い方が楽しいし良いよ。みんなで行こ!!」

 

6人は街まで足を伸ばし、アミューズメントパークのアラウンド2に行く。

 

///

 

「いらっしゃいませ~」

 

自動扉を抜けた先では館内放送で音楽が大音量で流れて居る。

全室空調設備の施された店内は快適で、熱くもなく寒くもない。

かなめ達と同じように他校の学生やカップル、家族連れの姿も良く見える。

3階建ての広い店内であるが故に、人が多くても余り気にならない。

入り口近くの受付に列んだ6人は何をして遊ぶのか悩む。

 

「で、何して遊ぼっか?」

 

「ボウリングとか良いんじゃない? 人数も多いし」

 

「ボウリングか~。暫くやってない」

 

「なら丁度良いんじゃない?」

 

恭子の提案に悩むかなめ、けれども時間が勿体無いとすぐに結論を出す。

 

「よし、ならボウリングに決定!!」

 

「6人で2時間、4800円になります」

 

かなめの一声で決まったボウリング。

けれども誰も不満を言ったりはせず、みんなで財布を取り出し店員に料金を支払う。

レシートとパスが挟まれたバインダーを受け取ったかなめはみんなを引き連れてエスカレーターに乗り2階まで行く。

通路に到着して歩く中で宗介はかなめに質問を投げ掛けた。

 

「千鳥、ボーリングなんかして楽しいのか?」

 

「うん? まぁ、ストレス解消にはなるかな」

 

「ボーリングがストレス解消……道具や設備はどうする?」

 

「全部店で用意されてるから大丈夫」

 

「そうか」

 

進むかなめ達はボウリング会場に付き、自分のサイズに合ったシューズを取りに行く。

大きくサイズが表示されてロッカーのレバーを回して、中から白いシューズが落ちて来る。

ピンク色のスニーカーから履き替えたかなめは次にボールを選ぶ。

 

「どの重さにしようかな?」

 

ラックに幾つも並べてあるボールに指を入れて持ち上げては感覚を確かめ、数回の吟味の末自分にとって投げやすいボールを選択した。

オレンジ色のボールを1つ抱えて自分達のレーンの所にまで行く。

他のメンバーも既にボールを持って来ており色とりどりのボールが機械に並べられて居る。

 

「みんな早いね」

 

「それでかなめ。順番はどうする?」

 

「なら俺がやろう」

 

瑞樹が聞いた後に1歩前に出る宗介。

一瞬、不安が過ぎるかなめに冷や汗が流れる。

 

「アンタ、ルールわかってるんでしょうね?」

 

「大丈夫だ。知識は頭に入って居る」

 

そう言った宗介は赤いボールを抱えて床に置いた。

転がらないように左手で支えながら、何処からかバッテリー式電動ドリルを取り出す。

 

「宗介、何する気?」

 

「ボーリングだ。コレで穴を空けて見せれば良いんだろ? 工具を使えばこんな事は簡単に――」

 

「ふん!!」

 

かなめのハリセンが唸り、宗介の脳天に直撃する。

 

「痛いぞ千鳥」

 

「やかましい!! それはボーリング、シリンダーを作るやつ!! アタシ達がやるのはボウリング!!」

 

説明されてもイマイチ納得出来ない宗介。

それを見かねてかなめがボールを掴み一番手を務める。

ボールを構えて三角形に10本固まったピンの先端へ狙いを定めた。

助走を付けて指にハメたボールを投球し、オイルが敷かれた床を猛スピードで転がって行く。

 

「あ~!? 真っ直ぐ行かない」

 

ボールは少しずつ逸れて行き三角形の頂点には当たらない。

白いピンを弾き飛ばし投げたボールは奥の機械に飲み込まれるが、右側にはまだ3本残って居る。

 

「もう1回!! もっかい!!」

 

レールに運ばれてオレンジ色のボールが戻って来た。

かなめは再び指にソレをハメて、残っているピンに目掛けて投球する。

転がるボールは今度は真っ直ぐに進み、かなめの狙い通り残された3本のピンに当たり、設置された全てのピンが倒された。

 

「こうやってやるの。わかった?」

 

「ボールを投げるだけなのか?」

 

「そうよ。ほら、やってみる」

 

言われた宗介は指に赤いボールをハメて、見よう見真似でかなめと同じようにやってみる。

助走して投げられたボールは正確な位置へ飛び、中央のピンに真っ直ぐ進む。

力強く投げられた一投は勢い良くピンを弾き飛ばし、残ったピンはない。

 

「凄い、ストライク!!」

 

「こんなので良いのか? 随分簡単だな」

 

「そんな感じでジャンジャン投げれば良いから」

 

「了解した」

 

やり方を掴んだ宗介はストライクを量産し点数を稼ぐ。

かなめもスペアを取りに行き、恭子と風間は8本は倒し無難な点数に落ち着く。

 

「かなちゃんは凄いねぇ」

 

「僕はボウリングあんまり得意じゃないんだけど」

 

瑞樹は自分はそっちのけでヒイロの事ばかりを見て居た。

 

「キャァァァ!! ダーリン頑張ってぇぇぇ!!」

 

声援を送る瑞樹だがヒイロは一切反応を示さず、何事もないようにボールを投げる。

スコア画面はストライクを表示して、点数は宗介と並ぶ。

 

「ヒイロ君やるわね。次は宗介よ」

 

「あぁ、わかった」

 

イスから立ち上がりボールを取りに行く宗介は戻って来るヒイロとすれ違う。

言葉を交わす訳でもなく、互いに鋭い眼光で睨み付ける。

 

(何故だ、この男には負けたくないと感じるのは。実戦でも何でもない只の遊びで)

 

自分の感情を説明出来ずにモヤモヤする宗介。

視線の先にはみんなに囲まれるヒイロと楽しそうなかなめの様子が伺える。

和気あいあいと聞こえる笑い声、自分ではないモノに向けられる笑顔。

その感覚が何なのかを宗介はまだ気付く事は出来ない。

 

「どうしたの宗介? 早く投げないと」

 

「あ、あぁ。すまない」

 

投げられたボールは変わりなく、力強くピンを押し倒しストライクを取る。

 

///

 

時刻は夕方に差し掛かり、パスの時間も過ぎてボウリングは終わってしまう。

かなめは右肩をグルグル回して使った筋肉をほぐして居た。

 

「いや~、ちょっと頑張り過ぎた」

 

「みんな止めてもかなちゃんだけはもう1ゲームやったからね」

 

「だって時間とお金勿体無いし」

 

みんなでエスカレーターを下りながら、それでもまだかなめは疲れを見せてなかった。

恭子と風間はもう体を動かすだけの気力はなく、瑞樹は声を出し過ぎて喉を痛めて居る。

宗介とヒイロはぶっきらぼうな表情で何も言葉を発さず、エスカレーターが1階に到着するのを只待って居た。

 

「そうだ!! 最後にみんなでプリクラ撮ろ!!」

 

まだ元気の有り余ったかなめは1人で先にエスカレーターを下り、ゲームセンターのプリクラの所に向かって小走りに行く。

3台設置されたプリクラの中へ入り、財布を取り出して100円玉を3枚入れる。

撮影の設定をして居る間に恭子と宗介が入って来た。

 

「あれ? 他のみんなは?」

 

「風間が来たくないらしい」

 

外では風羽がプリクラを撮る事を渋っており、中々進もうとはしない。

ヒイロと一緒に居たい瑞樹はウジウジした態度の風間に激しく怒った。

 

「本当に行くの!? 恥ずかしいんだけど……」

 

「早くしなさいよ!! こんなので一々恥ずかしがってどうする!!」

 

「でも、プリクラって女の子がやる事でしょ? 男の僕がやるなんて――」

 

「もう良い!! アタシはダーリンと行くから!!」

 

業を煮やした瑞樹はヒイロの上着を強引に掴んで引っ張って行く。

寸前で避けようとしたが間に合わず、がっちり掴んだ右手は学ランを離さない。

逃げられないと判断したヒイロは風間の襟元を掴み、無理やり引っ張り千鳥足で進む風間に構わず一緒に連れて行く。

 

「ちょっと!? 何で僕まで!!」

 

風間の問にヒイロは無言を貫き、瑞樹と2人はかなめ達の所へ行く。

6人入っても充分にスペースの余る空間。

設定を終えたかなめは全員が揃うのを待ちくたびれて居た。

 

「やっと来た。ほら早く早く」

 

かなめの両隣には宗介と恭子が立ち、瑞樹に連れられてヒイロと風間も巨大ディスプレイ前に立つ。

 

「じゃぁ撮るわよ」

 

かなめはボタンを押し機械音声が流れカウントダウンを開始する。

笑顔を作るかなめや恭子とは違い、宗介は証明写真を撮る様に無表情なまま。

風間はプリクラを撮る事にまだ恥ずかしがっており、体を密着させて来る瑞樹にヒイロは鬱陶しく感じながらもそのままで居た。

わざとらしい『カシャッ』とシャッターを切る音が鳴り、撮影はあっと言う間に終わる。

 

「あと2回あるからね。場所変わろ」

 

移動しようとするかなめの腕を宗介は反射的に掴んだ。

突然の事にかなめは驚き、宗介の行動が理解出来い。

 

「どうしたの?」

 

「いや、どうもしない。だがここに居るんだ」

 

「だからどうして?」

 

「それは……」

 

また説明出来ない感覚に心が覆われてしまう。

それを理解出来ず、説明出来ないせいで、かなめの腕を掴んだまま宗介は動かないまま。

目を見ずにうつ向く様子を見てかなめは宗介の感覚を理解し、嬉しく思うと同時に気恥ずかしくも感じ頬を赤らめる。

 

「ま、まぁそんなに言うなら居てあげる」

 

1回目とは対照的に2回目3回目の撮影ではかなめの表情はガチガチだった。

恭子はニヤニヤして様子を見守り、ヒイロは横目で一瞬見るだけ。

楽しい時間はあっと言う間に過ぎて行き、かなめと宗介は帰路に着き夜の街灯に照らされながら歩く。

 

「今日は久しぶりに遊べたから楽しかった~」

 

「こう言うのはまだ慣れてない」

 

「でも転校して来たばっかりの頃を思えば進歩してる。このまま色々覚えてけば、普通に暮らす事だって出来るよ」

 

「そうだと良いが」

 

虫も鳴かぬ秋の夜空。

冷たい風が2人に当たり、かなめの長髪がしなやかに揺れる。

宗介はそれに見とれて居た。

周囲への警戒心も薄れ、彼女の事だけが頭の中を埋め尽くす。

けれども進んで行く先にはマンションがあり、2人はここで別れなければならない。

 

「そうだ、これ渡し忘れてた。じゃあ、また明日ね。おやすみ」

 

「あぁ……」

 

宗介の手にかなめはプリクラで撮影した小さな写真を渡し、背を向けて自分のマンションへ行ってしまう。

写真に映るかなめの顔を見ながら、宗介も自室へ戻る為に歩く。

空には雨雲が出始める。

エレベーターに乗り、コンクリートの通路を進み住み慣れた部屋に戻って来た。

蛍光灯の明かりを付け、殺風景な室内に設置されて居る折り畳みテーブルとパイプ椅子が目に付く。

宗介は日課である業務連絡をする為にパイプ椅子へ座り、ノートパソコンを開き電源を入れる。

ディスプレイに光が宿り、キーをタッチし受信した報告書に目を通す。

 

「っ!!」

 

息を呑み右手でディスプレイを殴り付ける。

ヒビ割れたディスプレイは真っ暗になり、ノートパソコンはもう使えない。




宗介とかなめの関係にも進展が見え始めて来ました。
これからどのようにストーリーが進んで行くのか!?
ご意見、ご感想お待ちしております。

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