フルメタルWパニック!!   作:K-15

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今回はアニメの展開とそこまで変化はありませんが、いつもと同じくらい時間が掛かってしまった。
あとウイングガンダムの通名は羽付きで落ち着きそうです。
感想に書いてくれた全ての人に感謝です。


第22話 深海の女神、現る!!

トゥアハー・デ・ダナンの作戦司令室、そこにテッサとマデューカスは居た。

明かりの付いていない部屋でスクリーンには今までに収集したガンダムの戦闘映像と、そこから考えられるデータが映し出されている。

ビームサーベル1本でラムダドライバを登載したベヘモスと対等に戦うガンダム。

バスターライフルの銃口から発射される高エネルギービーム。

その破壊量はASなど有に及ばず戦略級の被害をもたらす。

ミスリルも、敵対するアマルガムでさえまだ開発出来ていない単独での自立飛行と変形、音速を超える長距離飛行。

島の半分を消し飛ばす爆発を直撃しても耐えられる強靭な装甲。

破壊数値はダナンのAIであるダーナでも現状ではデータ不足で計測出来ず、どれだけの物量をぶつければガンダムを倒す事が出来るのかテッサでさえも検討が付かない。

彼女は映像を眺めながら隣に直立不動で立つマデューカスに意見を求める。

 

「今までは敵かもしれないと私は考えていました。ですが、この前の朝鮮半島での破壊活動で彼はかなめさんの説得に応じました。名前はヒイロ・ユイ。ウェーバーさんの報告にもあった、新しく転校して来たかなめさんの同級生」

 

「1歩前進出来たのは幸いです。これであの羽付きの素性が少なからず掴めます。ここは先手を取り、隠密部隊を送り込むべきかと」

 

「それも考えました。ですが裏で暗躍している組織も存在する筈です。あれだけの性能を持つ機体を開発するからには、ミスリルに匹敵する規模かもしれません」

 

「ですので、こちらの存在を気付かれる前にパイロットを捕獲すれば、我々は動きやすくなります」

 

テッサは小さな顎に右手を当てて思考を巡らせる。

マデューカスはそれ以上は何も言わずに掛けているメガネの位置を直し、透明なレンズにスクリーンの映像が反射する。

誰も言葉を発しない部屋の中ではガンダムが戦っている様子が延々と流れ続けて居た。

数秒が経過した後、テッサは人差し指を横髪にクルクルと巻きつけながら、マデューカスに自身の考えを述べる。

 

「マデューカスさん。手伝って貰いたい事があるのですが宜しいですか?」

 

「勿論です、艦長。全力でサポートさせて頂きます。これは今まで以上に警戒せねばなりません」

 

「そうですよね。だから、私が言う事に反対しないでくれますか?」

 

「当然です。もしそのような不届き者が居るとすれば、この場で艦を降りて貰うか、魚雷に詰め込みます」

 

マデューカスは真顔のまま、本気か冗談かわからない事を言い出す。

それを聞いたテッサは心を落ち着かせ、両手を握りしめながら安心して口を開けた。

彼女の表情は年頃の少女のように、恥ずかしさで赤面し心は高揚して居る。

 

「あのですね~」

 

「はい」

 

「その~、私が短期留学と言う名目で陣代高校へ潜入します!!」

 

勇気を振り絞って出した言葉はマデューカスを戦慄させた。

顔が引きつり右脇に抱えていたファイルを床へ落としてしまう。

額から汗が滲み、動揺して居るのが表情からも伺う事が出来る。

焦りながら喋るマデューカスはテッサを何とか引き止めようとした。

 

「か、艦長!? 潜入任務など他の隊員にやらせます!! アナタ程の人がそのような事をなさらずとも!!」

 

「さっきは全力でサポートするって言ってくれたのに!!」

 

「くっ!? それは……」

 

言い返されてマデューカスは防止を深々と被り、テッサから視線を反らし床の方を見る。

吹き出す汗の量は増え、彼女の言葉に反論する事が出来ない。

怒るテッサはさらにマデューカスへ追い打ちを掛ける。

 

「私はちゃんと念を押して聞き返しました!! そうしたら当然ですって!! 従わない人は魚雷に詰め込むとも言っていました!!」

 

「うぅ……ですがっ!?」

 

何も言えないマデューカスは歯を噛み締めて呻き声を上げるしか出来ない。

反論しない様子を見てテッサは承諾と受け取り、両手を合わせて笑顔を浮かべる。

 

「はい、決まりです!! それでは早速、準備に取り掛かりましょう!!」

 

「イエス……マム」

 

マデューカスの言葉にいつもの覇気はない。

イスから立ち上がったテッサは潜入とは名ばかりの、旅行へ行くような様子でうきうきしながら部屋を後にした。

1人残されたマデューカスが動けるようになるまでには少し時間が掛かってしまう。

 

///

 

月曜日の昼休み、昼食をコッペパンと干し肉で早々に済ませた宗介は持ち込んだノートパソコンと睨み合って居る。

キーボードを叩き文字を入力し、『パワードスーツ修正プラン』と書かれた画面へ数値等を入力して行く。

隣の席でカレーパンを食べていたかなめはそれを覗き見て、どのようなモノなのか興味を示す。

 

「宗介、何してるの?」

 

「この前使用したパワードスーツだ。現状の性能でも充分に戦えるが、使用者の身長が170㎝台でないと使えない」

 

「まぁ、元はキグルミだし。中に入る人は選ばないと」

 

「それではダメだ。パワードスーツとして使用する以上、装着者の体格が制限されては数を揃えられない。1人が強いだけでは戦場で勝つ事は出来ん」

 

「あっそ。でも、ボン太君がショットガンみたいな武器持って戦場ねぇ」

 

真面目に語る宗介を他所に、かなめは大量のボン太君が様々な武器を持って進撃して行く様を想像した。

歩く度にポムポム足音を鳴らし、伝達の為に出した声は全てフモフモと機械に変換されてしまう。

荒れた荒野、銃弾の飛び交う街中、野生動物が生息するジャングル。

目の前に立ち塞がる敵をマシンガンで撃ち殺し、邪魔な障害物はバズーカでぶち壊す。

近づく者はプラズマ警棒で感電させ動きを封じる。

女性や子供達に人気の有るマスコットキャラクターが大群を引き連れてそれらを行進するのは、シュールを通り越して人の理解を超えた異常な光景だ。

背中に冷たい汗が流れたかなめは恐る恐る、パソコンのキーボードを打ち込む宗介に聞いてみる。

 

「一応、聞きたいんだけど。そのボン太君、買い手は付いたの?」

 

「いいや、何処へ行っても門前払いされてしまう。日本の自衛隊、アメリカ軍、イギリス、ドイツ、スイスにも行ったが取り合ってくれなかった。安価でこれだけの性能を持つパワードスーツは他にはない筈なのだが、何故だ?」

 

「そう。はぁ~、良かった」

 

日本のマスコットキャラクターが戦いの象徴にならなかった事に安堵し、かなめは口から息を吐いた。

宗介は自身が開発したボン太君が売れない理由も、かなめは安心している理由もわからない。

 

「何が良かったんだ?」

 

宗介は喋りながらもデータ入力の手は止めない。

かなめはぼんやり眺めたまま購買で買って来た『爆熱!! ゴッドカレーパン』の最後のひと口をほうばり、包装されて居たビニールをクチャクチャに握り潰す。

咀嚼しながらイスから立ち上がり、要らないビニールを教室の隅へ置かれているゴミ箱へ捨てに行く。

転校してすぐゴミ箱係に任命された宗介は今もまだ真面目に職務を真っ当しており、中身が僅かでも入ったままのペットボトルを捨てようとすれば容赦なく銃を突き付けて来る。

それもかなめの教育でマシにはなって来ており、以前のように過敏に反応する事はなくなった。

かなめがゴミを捨てて自分の席へ戻って来るのとほぼ同時に、宗介はパソコンのディスプレイを閉じイスから立ち上がる。

 

「どうしたの?」

 

「ヒイロ・ユイの偵察だ。裏で何をしているのかわからん。怪しい行動を見つけ次第、速やかに捕縛する」

 

「ヒイロ君はそんな事しないから、大丈夫だって」

 

「俺はプロフェッショナルだ。いかなる場合であろうとも手は抜かない」

 

そう言って宗介は教室から出て行ってしまい、何処に居るのかもわからないヒイロを探しに行ってしまう。

宗介を手放しで自由に動かせる程かなめはまだ安心しておらず、急いで宗介の後に付いて行く。

早歩きで廊下を進む宗介にかなめはどうする気なのかを聞く。

 

「昼休みも半分過ぎちゃったけど、探してる内に時間が来るんじゃない?」

 

「心配する必要はない。今朝、アイツの制服へ発信機を仕込んだ。居場所はすぐにわかる」

 

宗介はズボンのポケットから発信機の小型受信装置を取り出し、ヒイロが居る場所を特定する。

一昔前の携帯電話くらいの大きさの受信装置のディスプレイには、発信機からの信号を拾って小さく赤い丸がチカチカ点滅して居た。

 

「職員室のすぐ前だ。もしや不可侵領域へ忍び込む気かもしれん」

 

「普通に先生に用があるだけだと思うんだけど?」

 

「のんびりしては居られん!!」

 

受信装置をポケットに戻した宗介は次に拳銃を取り出し、職員室前に居るヒイロを捕まえるべく走った。

 

「ちょっと!? 危ない事しないでよ!!」

 

かなめは宗介に念を押してから一緒に職員室前まで走って付いて行く。

廊下に居る他の教室の生徒を潜り抜け階段を降る。

わざわざ避けようとしなくても、宗介の姿を見るだけでその場から逃げて行き通路を空けてくれる生徒も居た。

2人の身体能力の高さを相まって目的地までスムーズに到着し、宗介は目標の後ろ姿を捉える。

銃口を後頭部へ突き付けホールドアップの体制にし、いつでも発砲出来るようにトリガーに指を掛けた。

 

「両手を後ろに回して膝を付け!! さもなくば――」

 

「さもなくば。何なのかね?」

 

聞こえて来たのはヒイロの声ではなかった。

ヒイロは背後の宗介に振り返り、銃を突き付けられて居るにも関わらず鋭い目線で睨む。

同時に職員室のドアが開き、低くて渋い声の主が現れた。

宗介はその主を見た途端に体を硬直させ体中から汗が噴き出して来る。

金魚のように口をパクパクとさせ喉の奥から声を絞り出し、目の前の人物の名前を呼ぶ。

 

「ま……まま、マ、マデューカス中佐!?」

 

「久しぶりだな、相良君。元気そうで何よりだ」

 

スーツを着たマデューカスはメガネのレンズを怪しく光らせながら宗介に言う。

普段とは違う物言いに宗介はさらに汗を垂れ流す。

 

「所で、キミは学友にその銃口を向けるのかね?」

 

言われてハッと息を呑む。

ヒイロがガンダムのパイロットだと知っているのは宗介とかなめ、あの時のヘリコプターのパイロットだけ。

名前が『ヒイロ』と言う事しか知らない、それも諜報部員でもない彼には真実にたどり着くには時間が掛かる。

上層部へ報告されても1度はテッサを通る故に、彼女はヒイロと面識がるあるので少し安心して居た。

だからマデューカスはヒイロの事を学校の生徒として見て居る。

宗介は急いで銃を戻し、直立不動でピンと背筋を伸ばした。

 

「ハッ!! し、失礼しました」

 

「私に謝る必要はない。この少年に謝りたまえ」

 

マデューカスは眉間にシワを寄せ威圧感を出し、宗介は言う事に黙って従うしか出来ない。

ゆっくり視線をヒイロに向け顔色を伺うが、何も言わず無表情に睨んでくるだけ。

同級生であると同時に戦場では敵として戦った相手に、頭を下げるのはプライドが阻み簡単には出来ない。

汗まみれの顔をヒイロに向け、歯を噛み締めながら腰を折ろうとするが心がそれを拒む。

少しだけ折れ曲がり視線が床を見ると、見下しながらヒイロの口が開く。

 

「気にするな。俺は気にしない」

 

「くっ!?」

 

悔しいがマデューカスが見ている前で手を挙げる訳には行かず、ヒイロの心遣いを甘んじて受け入れる。

姿勢を元に戻すと後ろに居るかなめが耳元でヒソヒソした声で聞いて来た。

 

「ねぇ、あの人誰だっけ?」

 

「言葉に気を付けろ!! こちらは俺の部隊の副司令官であるリチャード・マデューカス中佐だ!!」

 

覚えて居ないかなめに怒鳴りながら応える宗介。

説明を聞いたマデューカスはメガネの位置を正し、柔らかい表情をかなめに向ける。

 

「お久しぶりですな。千鳥かなめさん」

 

「はぁ、あの時はどうも」

 

「それとキミは~」

 

マデューカスはヒイロにも視線を向けるが、知ってか知らずか全く反応を見せない。

その様子を見てかなめはまた聞こえないよう小さな声で宗介に尋ねた。

 

「ねぇ、あの事知ってるんじゃないの?」

 

「いや、まだ内密にして居る。ヤツの正体を知っているのは俺達だけだ」

 

「なら黙って置こう」

 

裏で2人が内緒話をして居る間に、マデューカスはヒイロの事をまじまじと観察して居た。

身長は低いが瞬発力と柔軟性に長けた体。

どんな些細な事も見逃さない目。

相手を威圧する雰囲気。

戦場で戦う兵士が必要なモノを全て持って居るヒイロに、マデューカスは素質を見抜き目を付けた。

 

「良い目をして居る。覚悟を持った男の目だ。少年、軍隊に入る気はないかね?」

 

「中佐殿、彼の名前はヒイロ・ユイ。少し前に転校して来たばかりで!?」

 

「物静かですけど、気にしないで下さい!!」

 

あっさりと見抜いたマデューカスに急いでごまかそうと取り繕う宗介とかなめ。

ヒイロは何をするでも言うでもなく、ただ黙ってマデューカスの事を見つめて居た。

自分よりも年上で背も高い相手に対してもヒイロは怖じけたりせず普段の態度を崩さない。

視線が交わる2人、瞬間周囲の空気が張り詰めたモノに変わる。

間に割り込む事など出来ず、宗介とかなめは固唾を呑んで見守った。

 

「厳密には日本に軍隊はない。自衛隊なら存在するが、興味はない」

 

「キミには素質がある。私が保証しよう。入隊すれば戦果を上げる事も出来るだろう」

 

「失敬」

 

マデューカスの誘いには耳を貸さず、ヒイロは背を向けて何処かへ歩いて行ってしまう。

秘密もバレず事が穏便に済んだ事に2人は胸を撫で下ろす。

けれども宗介に休んで居る暇はなかった。

 

「軍曹!!」

 

「ハッ!!」

 

先ほどまでとは違い覇気のある声で宗介を呼ぶマデューカス。

言われて反射的に声を上げ、直立不動で立つ。

 

「学校が終わり次第、すぐに部屋に戻れ!!」

 

「了解です!!」

 

「宜しい、事は一刻を争う。余分な時間はない。わかったな!!」

 

「ハッ!!」

 

右手をピンと伸ばし敬礼する宗介。

返事を聞いたマデューカスも、廊下を歩いて行ってしまい校舎から出て行く。

良くわからない状況にかなめは頭を傾げる。

 

「結局、何をしに来たの?」

 

「わからん。だが、嫌な予感がする」

 

///

 

6時限目の授業が終わった宗介は生徒会には寄らず、日課となって居るヒイロの偵察もせずにマンションへ急いで帰った。

エレベーターで階を昇り、コンクリートの通路を駆け抜けた先の自分の部屋の前では、スーツ姿のマデューカスが仁王立ちして待っている。

 

「遅い!! 一刻を争うと言った筈だ!!」

 

「申し訳ありません!!」

 

「御託は結構。今すぐに部屋の鍵を開けるんだ」

 

「了解です!!」

 

カバンからキーホルダーも何も付いていない銀色の鍵を取り出し、急いでカギ穴に差し込んで施錠を解いた。

ドアを外側に開き、マデューカスが入りやすい様にしてから招き入れる。

口をムの字にしたまま入るマデューカスは玄関で革靴を脱ぎ、カーキ色の靴下でリビングに足を踏み入れた。

部屋の中は酷く殺風景で生活必需品ですら最低限しか置かれていない。

テレビもなく、冷蔵庫も小型のが設置されて居るだけ。

外から光を遮断して中を見えないように深緑の分厚いカーテン。

電話もなくトゥアハー・デ・ダナンと交信する為の通信機と壁に銃火器が立て掛けられて居る。

この有り様を見てマデューカスは青筋を立てた。

 

「何と言う部屋だ。文明の欠片も見当たらん」

 

後から部屋に入り靴を脱いだ宗介は、マデューカスの背後から様子を伺いながらではあるが意見を述べる。

 

「お言葉ですが中佐、必要のない備品は任務の支障になります」

 

「軍曹、私はそんな事を言っているのではない。あらかじめ予想して荷物は持って来た。1時間で終わらせろ。わかったか!!」

 

「サッー!! イエッサー!!」

 

大きな掛け声と敬礼をしてから宗介はプレッシャーに脅かされながら体を動かした。

そうして命令を完遂した宗介は汗だくになりながら、借り物の自分の部屋を見渡す。

銃火器は全て見えない場所へ隠した。

カーテンも柄の刺繍が施されたモノへ変え、フローリングにもカーペットを敷き生活感を出す。

何故無意味な事をするのか、宗介には理解出来ないで居た。

今はただ疲れた体と精神を少しでも癒す為に、肩で息をしながら呼吸を落ち着かせる。

けれども休む暇もなくインターホンのチャイムが鳴り響き、宗介は来客を迎えるべく玄関へ向かった。

 

「いらっしゃった。良いか軍曹? 私は艦に戻るがくれぐれも失礼のないようにな」

 

「はぁ、了解です」

 

「彼女は貴重な人材だ、命を掛けて守り通せ。ケガ1つでも追わせればキミの居場所はミスリルにはない!! わかったか!!」

 

「ハッ!!」

 

マデューカスの言葉を胸に受け止め、宗介はドアノブを握る。

そして開けた先に待っていたのは私服姿のテレサ・テスタロッサだった。

キャリーケースの取手をスラリと伸びた両手で握り、見た目は旅行に来た少女にしか見えない。

 

「たっ!? 大佐殿!? どうして?」

 

「詳しい事情は後でお話します。取り敢えず、上がらせて貰っても大丈夫でしょうか?」

 

「すみません!! どうぞ」

 

「お邪魔しますね」

 

許可を受けてからテッサはドアを潜り、白いサンダルを脱いだ。

マデューカスの姿を見たテッサは軽い挨拶をする。

 

「マデューカスさん。ご苦労様です」

 

「ご無事で何よりです、艦長。それでは私はこれで」

 

笑顔を向けるテッサに後は任せて、マデューカスは最後に宗介の肩を力強く叩き、無言の圧力を掛けてから部屋を後にする。

宗介は何も言う事が出来ず喉を大きく動かして生唾を飲み込む。

 

「んっ!!」

 

ドアがバタンと閉じられ、部屋の中には2人が居るだけ。

気が気でない宗介は心休まらない状況が続く。

そんな事を知らないテッサはキャリーケースから手を離し、テーブルに置かれているリモコンを掴みテレビへ向けると電源ボタンを押す。

 

「1度、日本のテレビ番組がどのようなモノなのか見てみたかったんですよ」

 

「左様で御座いますか」

 

真っ暗な液晶画面から明るい映像が映し出され、清涼飲料水のCMが流れている。

 

『熱風!! 疾風サイダー。今ならプラーナを集めると抽選でラ・ギアス1週間の旅が手に入るぞ!! 俺と一緒に、旋風を感じようぜ!!』

 

炭酸を想像させる泡がブクブクする映像と共に年頃の少年が宣伝して居る。

テッサは物欲しそうにCMを眺め、無邪気に笑みを浮かべた。

 

「相良さん、旅行に行けるみたいですよ!!」

 

「前途多難だ……」

 

誰にも助けを乞う事も出来ずに、1人で解決するしかない宗介。

エアコンを作動させても体中の汗は中々乾いてはくれなかった。




本格的な絡みは申し訳ありませんが次回からです。
ご意見、ご感想お待ちしております。

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