フルメタルWパニック!!   作:K-15

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タイトルでどういう事なのか想像が付いてしまうかも。


第14話 育ての親はドクター

6時限目の授業も終わり、教室に居る生徒は帰り支度を始めている。

教科書とノートをカバンに詰める者、自分の机の中に入れて学校へ置いていく者など様々だ。

残りは帰りのホームルームが残っているだけで、帰宅する生徒は早く担任の神楽坂か来ないかと待ちわびている。

帰りのホームルームと言う物は、体外の生徒がグループや隣の席の友人達と話しているもの。

かなめは生徒会に所属しているが、今日は何もないのでホームルームが終わればマンションに帰るつもりだ。

 

(結局、来なかったな)

 

チラリの覗いたのは宗介の空いたままの机だった。

昼には来ると言われていたが宗介は今になっても学校には来ていない。

アレだけ喧嘩して、宗介の事を嫌いと思っていたにも関わらず、彼女はほとんど無意識に彼を思い出していた。

自分のあやふやな感情にかなめはまだハッキリとは気が付いていない。

ぼんやりと眺める視線はずっと、居ない筈の宗介を見つめており周囲のやかましい声も耳に入ってこなかった。

 

「はい、静かに!! ホームルームを始めますよ」

 

担任の神楽坂が扉をガラガラと鳴らして教室に入り、騒ぎ立てる生徒達を大声で一括した。

立ち歩いていた生徒も取り敢えずは自分の席に戻って教卓に立つ神楽坂の方を見る。

神楽坂は持ってきた出席簿と束になったプリントを机に置き一息付いた。

額に微かに滲む汗を、スーツのポケットからハンカチを取り出して軽く叩くようにして吸い込ませる。

そうして気分を一段落させて、生徒達と向き合った。

 

「え~、予定していた三者面談ですが、こちらの都合により申し訳ないのですが変更になりました。その旨を記載したプリントを配りますので、皆さんちゃんと保護者の人に渡してくださいね」

 

神楽坂はプリントを掴み机の列の先頭に立ち、枚数を数えてそれを生徒に渡して行く。

渡された生徒は何も言われずとも、受け取ったプリントを後ろの席へ回す。

しばらく待っているとかなめの所にもプリントが回ってきた。

最後尾がヒイロ、その前がかなめなのでプリントは自分の1枚だと思い込んでいたが、渡されたのは2枚。

 

(1枚多い、間違えてる)

 

今日欠席のヒイロの分は必要ないと考えたかなめは、右手を上げて神楽坂にその事を伝える。

 

「先生、1枚多いんですけど?」

 

「あぁ、ヒイロ君の分ね。悪いんだけど千鳥さん、家まで届けてくれない?」

 

簡単に言う神楽坂に対して、かなめは苦い顔をした。

かなめはヒイロが何処に住んでいるのかを知らない為、悪い事ばかりを想像してしまう。

 

(何でアタシなのよ!? まぁ、委員長で席もすぐ近くだけどさ。でも明日渡せば問題なくない?)

 

心の中で愚痴を溢すかなめ。

思っている事を何でもかんでも言うのは良くないと、過去の経験から学んだお陰でこの場はこらえた。

それでも面倒だと感じずにはいられない。

神楽坂はかなめの心情を見透かしたかのように、笑顔で言葉を続ける。

 

「大丈夫、住所は相良君のマンションと同じだから。そんなに離れてもないし、お願い出来る?」

 

「そうなんですか? わかりました」

 

「よかった、お願いね。部屋の番号は――」

 

ヒイロが住んでいる部屋番号を言いかけた途端、教室の扉がタイミングよく開かれた。

全員が音のする方に首を傾け、そこに立つ人物を見る。

入って来たのは昼までには来る筈だった相良宗介だ。

 

「遅れて申し訳ありません」

 

「相良くん!? 今何時だと思っているんですか? もう帰りのホームルームですよ!!」

 

「すみません。予定よりも遅れてしまいました。弁論の余地もありません」

 

宗介は指1つ動かさず直立不動で立ったまま、腰を直角に折り曲げて深々と神楽坂にお辞儀した。

軍で上下関係を叩き込まれている宗介は、学校の中では立場が上の神楽坂に心の底から謝罪する。

一方の神楽坂はいつも言う事をまともに聞かない宗介の行動にしどろもどろしてしまう。

それにこんな場面を大勢に見られてしまったせいで、自分の待遇が心配になった。

 

(何なのこの子は!? 備品を壊すわ騒動を起こすわ、面倒な事ばかりしてくれるけど決して謝らなかったこの子が!? 今日に限ってナゼ!! いえ、その前にこの立ち位置はマズイ気が。いくら相良君が問題児だとしても、教師に平謝りさせたなんて事がPTAや教育委員会に知られたら!? 減給、いいえ、あのねちっこい会長に知られたら――)

 

神楽坂の頭の中では始末書を書く自分や、中年を過ぎて少しふっくらしてきてメガネを掛けたPTA会長に言及されている姿が脳裏に過ぎった。

それは、ただ謝るだけでも宗介にされるのは面倒だと思っているのも同じなのだが、当の本人はそんな事をわかる筈もないし、神楽坂も考える余裕はない。

でも宗介は既にお辞儀を止めて普通に立っていた。

会長に睨みを効かされているのを想像していたせい神楽坂は気が付いていない。

体を硬直させて1人ぶつぶつと呟いている神楽坂に、さすがの宗介でも不審に思う。

 

「先生、ご無事ですか?」

 

「でも……あぁ……それで……」

 

「先生。先生!!」

 

「はっ!?」

 

2度目に大声で呼びかけてようやく、神楽坂は塞ぎこんだ自身の心の中から出て来れた。

落ち着きを取り戻した神楽坂は咳払いを1回だけする。

 

「もう大丈夫です。相良君は席へ戻って下さい」

 

「はっ!!」

 

教師に対しても敬礼する宗介は、言われた通りに自分の空いている席へと歩く。

その途中にかなめとすれ違うがそっぽ向いて宗介を見ようともしなかった。

気まずい別れ方をしたせいでどのように接すればいいのかがわからないかなめだが、一方の宗介は気にも留めないでイスに座る。

カバンを机の横へ引っ掛け、真っ直ぐに神楽坂を凝視した。

 

(何さ、アイツ)

 

一切無反応の宗介にかなめは少し拗ねる、

 

「相良君が来たのなら、ヒイロ君のプリントはアナタに頼んで――」

 

「アタシが行きます!!」

 

神楽坂は同じマンションに住んでいる宗介にヒイロの分を頼もうとした。

けれども言葉を言い切る寸前に、かなめが声を上げる。

宗介と会話もしたくない彼女は、ここで彼に任せる事になるとプリントに引き渡しの時に否が応でも対面してしまう。

それだけは避けたかったかなめは面倒な仕事に進んで取り組む。

鬼の形相で神楽坂を睨むかなめに神楽坂は簡単に押し負けてしまった

 

「そ、それじゃあお願い出来る?」

 

「大丈夫です」

 

他の生徒はケガをしたくないが為に言葉ひとつ挟まない。

2人のやりとりを理解出来ない宗介は、考えてもわからない疑問を神楽坂に聞いてみた。

他人の感情を読み取る能力が乏しい宗介は平然とした表情で居る。

 

「ヒイロ・ユイに何かあったのですか?」

 

「今日はヒイロ君は欠席です。保護者の方の連絡ですと明日も来れないかもしれないと言っていたので、今度の三者面談の日程が変更になった事を書いたプリントを届けて欲しいだけです」

 

(アイツが学校を休む。おかしい。自分の体調管理も出来ないで工作員は務まらない。なら休んだ理由はなんだ? この学校の情報をリークする為の準備でもしているのか、それとも……)

 

ただ学校を休んだだけで様々な可能性が浮かび上がってくる宗介。

情報のリーク、自爆テロ、要人の拉致監禁など。

どれも普通の高校生がするはずもないし考えもしない事ばかりだ。

でも宗介はヒイロが本当に行動するのではないかと、本気で疑っている。

神妙な面持ちになる宗介をかなめはチラリと覗き、そしてまたすぐにそっぽを向いた。

 

「相良君も予定通りにキチンと保護者の方と一緒に来るように」

 

「把握しています。それでヒイロ・ユイにプリントを届ける役目が千鳥だと」

 

「役目って程でもないけれど」

 

大げさな物言いをするのをやんわりと否定する神楽坂。

顎に手を添えて考える宗介は、かなめの安全性を考えるとこの場を黙って見過ごす事は出来ない。

 

「了解しました。彼女には自分も同行します」

 

「はぁ!? アンタなんて付いて来なくていい!! これぐらい1人で出来るっての!!」

 

かなめの同意も得ず勝手に話を進める宗介の彼女は声を荒らげた。

何が何でも宗介を自分から遠ざけたいかなめ。

けれども知る由もない宗介は、かなめが少し声を上げたぐらいでは引いてはくれない。

曇りのない真っ直ぐな瞳で彼女を見つめる宗介は、至って冷静に諭すようにかなめに言う。

 

「いいや、危険だ。何が起こるかわからない」

 

「たったこれだけの事で何か起こる訳がないでしょうが!!」

 

「それでもだ。俺もキミと一緒に行く」

 

強引な宗介にかなめはこれ以上の抵抗はしなかった。

何度言った所で宗介は絶対に付いて来るとわかったし、必要以上に今は話をしたくない。

かなめの心のキズが癒えるまでは、まだもう少し時間が掛かる。

 

///

 

宗介の住むマンションはかなめのマンションの向かい側で歩いて数分の距離だ。

2人は神楽坂に教えてもらった部屋番号に歩く。

隣り合う宗介を意識してしまうかなめだが、絶対に振り向かないと前だけを凝視する。

対する宗介は敵地に乗り込むが如く、制服の上着の内ポケットに忍ばせた携帯銃を握ったまま、警戒心を剥き出しに進む。

奇妙な関係の2人ではあるが、道中は問題なくヒイロの部屋までやって来れた。

 

「着いた。ここね」

 

神楽坂が間違っていなければかなめの目の前の部屋の主はヒイロである。

ドアの表札は真っ白のまま何も書かれていないせいで、部屋番号を当てにするしかない。

かなめはインターホンに手を伸ばすが、寸前の所で宗介に止められてしまった。

 

「待つんだ千鳥」

 

「どうしたの?」

 

「トラップが仕掛けられている可能性もある。ここは慎重に――」

 

いつもの悪い癖が出たと、かなめは宗介の言葉を無視してインターホンを人差し指で押し込んだ。

部屋の中で来客を知らせる音が鳴り、ドアを通り越して微かにだがかなめにも聞こえてくる。

音が鳴った瞬間に宗介は目を見開き、内ポケットから携帯銃を取り出して構えるが、爆弾が起爆するような事もなく普通にチャイムが鳴っただけだ。

 

「あれ、誰も居ないのかな?」

 

インターホンのチャイムの音が鳴って数秒経過するが部屋からは誰も出て来ない。

不審に感じたかなめはもう1度インターホンに手を伸ばしてボタンを押して見る。

さっきと同じように部屋の中にチャイムの音が響き渡るのが聞こえて来た。

それでも部屋の扉は開けられない。

 

「留守なのかも。プリントどうしよう?」

 

「作戦もなしに敵の拠点に立ち入るのは危険だ。ここは引いて作戦を――」

 

誰も部屋に居ないとなればプリントを渡す事も出来ない。

頼まれ事をそのままにする訳にもいかずかなめは悩む。

宗介の戯言を聞き流しながらしばらくドアの前で待ちぼうけていると、ドアの内側からチェーンロックを外す音が聞こえて来た。

ノブが捻られ、ドアがゆっくりと開かれた先に居たのはヒイロではなかった。

 

「やれやれ、来客とは珍しい」

 

中から出てきたのは白衣を纏った老人。

両目に付けたゴーグル、左腕の鉄のアーム、不敵な笑みは異様な雰囲気を醸し出す。

 

「ワシに何か用かな?」

 

「あの、アタシはヒイロ君の同級生の千鳥かなめと言います」

 

「ほぉ、ヒイロの。アイツは今はここに居らんが、良ければ上がって行くがいい」

 

そう言うと老人は返事も聞かずに部屋の中へ入って行った。

断る訳にもいかずにかなめと宗介も老人に続いて部屋の中へ入る。

玄関で履いている革靴を脱ぐが、老人はスリッパを履いているのでそのままフローリングの床を歩いて行ってしまう。

 

「あの老人、何者だ」

 

「お父さん、には見えないし。おじいちゃんかしら?」

 

「そう言う事ではない」

 

「あっそう!! だったら一々話しかけないで!!」

 

「むぅ」

 

宗介は老人が一般人ではないであろう事を見抜いていたが、決定的な証拠がなかった。

その事に付いてかなめに意見を求めたのだが、返って来た答えは方向違いのモノ。

余計な一言を添えてしまったせいでさらにかなめに嫌われてしまい、口を閉ざし黙って進むしか出来なくなる。

老人に案内されたリビングは酷く殺風景で、1台だけ置かれた大きなテーブルの上には暗号文のように敷き詰められた数式の書かれた紙が乱雑にばら撒かれてあった。

最低限の生活必需品しか用意されておらず、昼間なのにカーテンの敷かれた部屋は薄暗い。

 

「適当にくつろいでくれて構わん。茶でも飲むか?」

 

老人は白い冷蔵庫にゆったりと歩いて行き、右手で扉を開け中の明かりが漏れる。

冷気が空気に乗って拡散し、鈍いモーター音が響く。

アームのような義手で横たわっているお茶のペットボトルを掴み、右腕に抱え込み再び扉を閉じた。

フタの部分を、動くとカチャカチャと鳴る3本のアームで掴み立ったままの2人に手渡す。

笑みを浮かべる老人の表情は不気味で、かなめは引きつった笑いでペットボトルを受け取った。

 

「ありがとう……ございます」

 

「まぁ、そんな気にせんでくつろいでくれ」

 

「あは、あはははは」

 

言われてテーブルに備えてあるイスに腰を下ろすかなめ、ペットボトルのお茶は両手で握ったまま飲む気にもならない。

宗介も受け取ったペットボトルを握ったままかなめの隣へ座った。

無論、宗介もペットボトルの中身を飲む気はない。

でもその理由はかなめとは違い、敵地での迂闊な行動を避けようとした行動だ。

老人も向かい側のイスへ座り、ばら撒かれている紙を右手と義手を器用に使って片付け始める。

 

(オモチャ……よね?)

 

かなめは動く義手を凝視して心の中で呟いた。

袖の中がどうなっているのか覗く勇気もないし、聞いてみるなど到底無理だ。

 

「アイツにも友達が出来たのか。心配せんでも良かったわい」

 

「あの、おじいさんはヒイロ君の」

 

「ワシはアイツの肉親でも何でもないよ。ただ育て上げただけじゃ」

 

「ふ、複雑な家庭環境なんですね!?」

 

それを聞いてしまってかなめは声を裏返らせ、何とか場の空気をなごまそうとする。

人の家庭環境の事をあまり踏み入って聞いてはダメなのは、日本に住んでいれば自然と身に付く。

宗介にはそう言う感情は持ち合わせていないので、かなめが慌てている理由がわからない。

警戒心を持ちつつ、いつでも銃を引き抜けるよう老人の行動からは一瞬の目も離さなかった。

 

「ヒイロ君、今日は居ないんですか?」

 

「そうだな。帰って来るかもしれんし、帰って来ないかもしれんし」

 

「あは、アハハハハハ」

 

暗い部屋が空気を増々重くして、ポジティブ思考のかなめでも心が折れそうになる。

カラ元気もキツくなってきたかなめは視線を落としたら、視線の先に束ねられた紙が入った。

羅列された数式は暗号文のようで、常人には読み解く事は出来ない。

それでも気になるかなめは紙に手を伸ばし、テーブルの隅に置かれている内の1枚を手に取った。

上から下までビッシリと敷き詰められた数式、宗介も首を伸ばし覗きこむが理解出来る筈もない。

すぐにまた老人を見る宗介だが、かなめだけはずっと紙に書かれた数式を読み込んでいる。

彼女の中のウィスパードの能力が囁きかけ、今のかなめになら誰にもわからないこの数式の意味が理解出来た。

 

「これって、荷電粒子の方式。それもかなり高出力の」

 

「ほぅ、お嬢さんにはそれが読めるのか。学生にしては見上げた子じゃ」

 

「おじいさん、コレって普通のとは全然違う。コレだけのエネルギーを制御なんて出来ない。使ったら機械そのものが耐え切れなくて壊れてしまう」

 

「そこまで理解したか。確かに、普通の装甲板では制御は出来ん。その為に、ワシらはガンダニゥム合金を選んだ。金も時間も掛かったが、そんなモノは些細な事じゃ」

 

「ガンダニゥム合金……ガンダム」

 

知識が、情報が、泉のように頭の中から湧き出てくる。

かなめの知らない事、知る筈もない事が次々と。

ウィスパードの囁きが彼女に語りかけてくるのは、ベヘモスとの戦いの時に現れたアノ機体。

あの時に見た事と目の前の数式、ウィスパードの囁きがパズルのように噛み合う。

そうして見えてくる1つの結論。

 

「羽の生えたあのロボットを作ったのはおじいさんなの?」

 

「イッヒッヒ。ガンダムはワシが作った最高の芸術品じゃよ」

 

隣で聞いていた宗介には2人が話している会話に付いて行く事が出来ない。

紙の数式も、飛び交う専門用語も、何1つとして理解出来なかった。

それを平然と話すかなめに宗介は驚きを隠せない。

 

「千鳥、キミは一体何を話している? ガンダムとは何だ?」

 

「あの時、突然出てきた羽の生えたロボットの事。そしてそれを作ったのが目の前の人」

 

「この老人が!?」

 

「そうじゃよ。ガンダムを作ったのはワシじゃ」

 

「なら、そのガンダムのパイロットはヒイロ・ユイだな」

 

「如何にも。ヒイロがガンダムに乗る為にワシが育て上げた。兵器としてな」

 

老人が語る真実に2人は聞き入る。

機密事項を隠す素振りもなく、老人は聞かれていもいない事を淡々と話し始める。

 

「ワシの作ったガンダム、ウイングガンダムは単機での拠点強襲を目的として作った。1機で複数の敵との交戦を想定し、エネルギーを食う余分な兵装は付けておらん」

 

「だがガンダムの性能は異常だ。たった1機で戦争でも仕掛ける気か?」

 

「そうだとも。ガンダムは戦争の為の兵器じゃ。技術の粋を結集させて作った最高の芸術品」

 

「何の為にこんな事をする。それだけの技術力を持ちながら、ガンダムの動きは不可解だ。今までの襲撃を考えてもおかしい。襲撃するのなら、もっと重要性のある場所を攻撃する筈だ」

 

「こんな事を言っても信じてくれるかの? ガンダムにはもう戦うべき理由はない」

 

「戦う理由がない? ふざけているのか!!」

 

「ふざけてなどおらんよ。では、何故ヒイロがまだガンダムに乗っているのかを説明するとするかの」

 

そう言うと老人はイスから立ち上がり、また冷蔵庫へと歩いて行った。

扉を開けてアームでペットボトルを掴むと、ゆっくりと歩きながらイスへ戻って来る。

アームでペットボトルを掴んだまま左手でフタを捻り、密封されていたペットボトルの口から空気が入る。

取ったフタをテーブルに置き中身を一口飲むと、ようやくイスに座った。

 

「ふぅ、一々湯を沸かすのが面倒での。買い置きしておるんじゃよ」

 

アームをカシャカシャ動かしてまた不気味な笑みを浮かべるが、宗介は老人を睨みつけて話の続きを聞きたがる。

老人は宗介の事など意にも返さず、マイペースに話を再開させる。

 

「そんな事はどうでもいい。話して貰うぞ、ガンダムについて」

 

「ワシは逃げも隠れもせんよ。そう言えば名前を聞いておらんかったの」

 

「そんな事はどうでもいい!!」

 

イスから勢い良く立ち上がると両手でテーブルを思い切り叩き、大声を荒らげる宗介。

叩いた拍子に数式の書かれた紙が数枚床へ落ちるが老人は拾おうとしない。

不敵に笑ったまま、何処を見ているのかわからないゴーグルで宗介を見ているだけだ。

何を考えているのか全くわからない相手に、宗介はストレスを募らせる。

 

「ちょっと宗介」

 

かなめは宗介をなだめようと肩を掴み、座るようにと押さえ付ける。

横目でかなめをチラリと見た宗介は口から大きく息を吐き、頭をクールダウンさせてイスに座り直す。

一部始終を見ていた老人は何をするでもなく笑みを浮かべたままだった。

 

「悪かった。俺の名前は相良宗介。安全保障問題担当、生徒会長補佐官だ」

 

(そこまで言う必要があるのかな?)

 

かなめは疑問に思いながらも続けて目の前の老人に向かって自己紹介をする。

 

「千鳥かなめです」

 

「そうかい。ワシの事はそうじゃな……ドクターJとでも呼んでくれ」




以前に感想で書かせていただいたもう1人のウイングのキャラはドクターJです。
予め言っておきますもうこれ以上はウイングからキャラを登場させません。あしからず。
いよいよ語られる、この世界に来てもなおヒイロがガンダムに乗る理由。
一体そのワケとは何なのか!?
次回の更新をお待ちください。

話はそれますが、ガンダム00の番外編は皆さんはどう思いますか?
書いて欲しいのか、遅れるくらいなら書かなくてもいいのか?
次の投稿までにあまり返事とかがないようでしたら書かないことにします。

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