文との結婚を報告するために屋敷に呼び出した文の兄、光臣。
彼は予想外の土産を持って参上した。
応接間にいるのは俺と文、光臣の3人だ。若干心細い。華琳たちにフォローしてもらいたい。
だが、政財界の大物を相手にするよりはましだ。光臣のあとには、そんなのがひかえている。ここでびびっているようでは駄目なのだ。
「こいつらに見覚えはあるか?」
その前置きから光臣が取り出した、いや、
ウェルシュコーギー、セントバーナード、チャウチャウの3頭の犬と、ホワイトタイガー、ジャイアントパンダ。
……えっと、これってさ。
「
「……失敗作だ。予定とは全く違う形になっている。どうやらこいつらはお前の妻たちに会いたいらしい」
「きゃんっ!」
「ばうっ!」
コーギーとセントバーナードが同意とばかりに大きく鳴く。
こいつらあれだよね。でもどうして剣魂に?
俺が悩んでいると勢いよく
「セキト」
「きゃんきゃんっ」
現れた恋にとびつくようにしてじゃれるコーギー。
「やっぱりか。恋、ねねと鈴々、シャオちゃんを呼んできてくれ」
こくりと頷いてセキトを抱いたまま去る恋。襖は閉めてくれなかった。
恋の動物好きを知っていたのか、苦笑しながら襖を閉める文。
「説明できるか?」
「半分くらいはね。状況はわかるけど、原因がわからない」
「使えんな」
その一言に文が剣を抜きそうになったので慌てて止める。
「おさえて、ね。本題に入る前にそれじゃ困るから」
「こいつに許可などもらう必要はありません」
文ってばブラコンの反動か、光臣には過剰反応気味なんだよな。
「本題?」
「そ、それは……まず、こいつらの説明が先でしょ」
あ、文がジト目で見てる。結婚報告から逃げたのがばれちゃったみたいだね……。
正直に話すことにする。信じてもらえるかは別だけど。
「この剣魂たち、俺の嫁さんたちが昔、飼っていたんだよ。さっきのがセキト、セントバーナードが張々、チャウチャウがコリン、虎が周々でパンダが善々だ」
言葉がわかっているのか、俺の紹介に合わせて鳴く彼ら。パンダの鳴き声って初めて聞いたよ。
「それが剣魂になったと? 馬鹿馬鹿しい」
偶然似たような外見になったというのは5体もいたのでは無理だろう。
「だから原因がわからないと言った」
「……生まれかわり、なのでは?」
文から転生説。
どうなんだろう? 神様に調べてもらえれば確認できるかな?
「たしかに以前飼っていたペットそっくりの剣魂をほしがる者はいるが」
あー、ペットのクローンみたいな感じか。
でも恋はセキトと認識したみたいだし、本人、いや本犬、本虎、本パンダじゃないのか?
「誰かにデータを改竄されたんじゃ?」
「俺のセキュリティを突破するとは信じられんが、そのセンが一番高いのも事実。侵入経路を現在調査中だが、真っ先に疑ったのは貴様たちだ。その調査中にこいつらが貴様たちに会いたいと言い出した」
言い出したって、剣魂の言葉がわかるのだろうか?
「煌一さんはあなたを牢から出す手助けをしてくれてる人ですよ。その恩人を疑うなんて」
「正直に言ってくれたんだから怒らないでいいよ。彼が俺たちを高く評価してくれてるってことなんだから」
光臣はエヴァ事件の関係者として牢屋で生活中だ。
俺が要求した遺体処置の剣魂作成のおかげで、減刑と監視付きながらも研究を行うことはできるようになっている。
能力は高いから遊ばせておくのはもったいない。ただ、対魔忍ムラサキの桐生佐馬斗に近いものを感じないでもないので、紫には近づかないようにいっておいた。
「コリン!」
「周々! 善々!」
「張々!」
またも勢いよく襖が開けられ、とびこんで来る3人の少女。
後ろには恋ほか数名の嫁さんたち。
「お兄ちゃん、コリンなのだ!」
チャウチャウを抱き上げて俺に紹介してくれる鈴々ちゃん。
「煌一、周々と善々よ。……シャオたちを呼んだってことはもしかして知ってたの?」
小蓮ちゃんは、首をかしげながらも2頭をなでなで。
「恋殿、張々がいるのです!」
ねねちゃんも嬉しそうだ。
「飼い主みんなが認めてるってことはただのそっくりさんってわけじゃないんだろうなあ」
「まさか貴様まで生まれかわりと言い出すのではないだろうな?」
冷たい目の光臣。剣魂の研究者なのに魂は信じていないのかもしれない。
……魂か。
「犯人に心当たりがないわけじゃない」
「ほう」
「人間をぬいぐるみに変える方法を持っているやつだ」
たぶん、干吉たちだろう。目的はわからないけど。
「ぬいぐるみに? なにか意味があるのか?」
「むこうにはあるんだろう。だけど、俺はそれを元に戻すことができる。だから今度は別の方向でせめてきたんじゃないのか」
「なるほど。魂のデジタル化か。人間を剣魂にしようと……あまり面白くはないな」
あれ? あんまり興味なし? 光臣の求める剣魂とは方向性が違うのか。
「データ化した魂が元に戻されないかを試すつもりだったのかもしれない」
「俺を利用して実験したと?」
「あっさり剣魂化しちゃったから、犯人側は焦っているんじゃないか? ……まあ、まだ罠の可能性も捨てきれないけどさ。実験なら1体だけでもよさそうな気もするし」
「実験だからこそ、数体よこしたのだろう。ふむ。データはとられたな」
むう。だとしてもなんで? 目的がイマイチわからん。それはいつものことだけどスッキリしないな。
「コリンといっしょにいちゃ駄目なのか?」
鈴々ちゃん、そんな悲しそうな顔をしないで。
「……いや、いいんじゃないかな? この屋敷内で実体化できたってことは結界の影響を受けてないから、魔族の手下ってわけじゃなさそうだ。光臣君もこの子たちをそれなりに調べてから持ってきてくれたんだろう?」
「ああ、それなりに」
俺の言葉が気にくわなかったのか、オウム返ししてくる光臣。ミスったかな? 文とのことを切り出しにくくなったかも。
「ありがとうなのだ!」
「あ、ああ」
コリンをずいっと前に出してお礼する鈴々ちゃんの勢いに若干ひいている光臣。
今ならいけるかな?
「お礼はあとにしてもらっていいかな? これから大事な話があるから」
「わかったのだ!」
鈴々ちゃんたちは剣魂とそのコードが刻まれた小太刀とともに応接間を去った。今度はちゃんと襖をしめてくれた。
「もらっちゃってよかったんだよね?」
「代金はもらうが、あいつらが剣徒ならば問題はない。データはとらせてもらうぞ」
「ありがとう。あとで払うよ」
剣魂の剣っていくらぐらいするのかな? ヤマちゃんの時はニホン政府が出してくれたからよくわからないけど。
まあ、火事場泥棒気味にトウキョウで回収したニホン円もあるし、ニホン政府からの報酬もあるからなんとかなるだろう。
「それで、俺を呼び出した理由はなんだ? 貴様用の剣魂の依頼か?」
「それも面白そうだけどね、もっと大事なことだよ」
「大事なこと? 他に俺の時間を消費させるほどのことはないが」
こいつ相手には本題をさっさと切り出すのが一番か。
ええい。男は度胸だ!
「文さんを俺にください!」
「……疲れた」
「すみません」
「いや、文のせいじゃないよ」
文を挑発する光臣が悪い。
彼が義兄となるとは……頭が痛いな。
「認めてはもらったのでしょう?」
「まあね。これで心配事に1つが減ったよ」
残りはもっとキツそうだけどさ。
ああ、胃が痛い。穴が開いても、回復魔法で治るといいのだが。
「もらった剣魂たちの様子はどう? なにかおかしなところはない?」
「……元気」
「よく寝てるのだ」
今のところ、問題はなしか。
「餌やその他の世話は剣魂持ってる娘たちに聞いてね」
普通に餌が必要だったら、虎の餌は大変だろうなあ。でも、龍や熊の剣魂もいるからその心配はないか。ヤマちゃんも遺体は圧縮してるだけで餌にしてるわけじゃないのだし。
「剣魂だからなにか特殊能力を持ってるかもしれないけど、光臣には聞きそびれたんだよな。……失敗作と言っていたから、ないのかな?」
「その調査ならおいらにまかせとくれよ!」
輝か。剣魂以外の発明のイメージが強いけど、自分の剣魂キガイを改造するぐらいにその知識はある。
「てるてる、なんか企んでないッスか?」
「いやだなあ、おいらだってみんなに協力したいんだよ。それにイレギュラーな剣魂にも興味あるんだ」
後半が本音だろうな。開発部に顔を出しているせいか、大魔神もある程度完成していて暇なのかもしれん。
「でも、剣魂だから学園島以外では呼び出せないのです」
ねねちゃんの説明を聞いて悲しそうな恋。
「だよなあ。光姫ちゃんたちの固有スキルは個人用だから、他人の剣魂には影響しないし」
スキルレベルを上げれば違うのかもしれないけど。
GPで一気に上げて試してようか?
「なんだ、それなら剣魂フィールドの発生装置を作ればいい」
「レーティア?」
「スカイタワーの携帯版を作ろう」
「ちょっと待つんだよ。出力や持続時間を考えたら携帯なんて無理だよ」
輝の反論もレーティアは気にしない。
「そこは私たちならなんとかなるのだ。他の連中には使うことすらできなくなるが、問題はなかろう」
あ、ビニフォンみたいにMPで充電方式にすればいいのか。
「なるほどねえ。となると形は無難に腕時計型かい?」
ちょっと待て輝。
もしかしてそれってさ。
「
「それはまずいでしょ」
レーティア、なんでいつもみたいにドイツ語じゃないのさ?
それだと呼び出すのに使うのは刀じゃなくてメダルになりそうじゃないか。
「それならわたしもお猫様の剣魂がほしいのです!」
明命ちゃん、このタイミングだと尻尾が2本とかにされそうなんですが。
「……妖精型のはできないのか?」
ゆり子もプリキュアには妖精が必要って思っているのかな? それともコロンのことを気にしてるのか?
「そのへんは、携帯型耀界発生器が完成してから考えようね」
このまんまだとみんなほしがるだろうな。
「私は美少女型がいいわね」
華琳それ、剣魂じゃないんじゃ? せめて猫耳尻尾付きじゃないと。……いや、そういう問題でもないか。
「なんで紫燕たちはこないんだろうな……」
紫燕は翠の愛馬だ。たしか他に2頭いたはず。セキトやコリンたちを見て羨ましくなったのかな?
「だよねえ。ねねや小蓮がまたがってるのを見ると、どうしても思い出しちゃうよねえ」
そっちか。たしかに2人は張々と周々に乗っていたな。
「お前たちにはモトスレイヴがあるではないか」
慰める愛紗。
「コリンに乗る……のはやっぱり無理そうなのだ。コリンが潰れちゃうのだ」
慰めようとして追い討ちをかける鈴々ちゃん。
「だってさあ、なんかあたしのモトスレイヴ、紫燕っぽく思えてきちゃって……」
もしかしてかなり重症? 慌てて翠の
「お姉様も? ……実はたんぽぽも自分のモトスレイヴが黄鵬っぽいかな、って……」
蒲公英ちゃんまで? でもEPはそこまで減ってない。
「なんかさ、癖が似てるんだよ」
癖か。モトスレイヴはAIで自律行動できるけど、それに癖? 馬っぽいの? どうなっているんだ?
翠の愛馬の残る1頭に似たのも出てくるんだろうか……。
「鈴々はばいくが羨ましいのだ! 鈴々も乗りたいのだ!」
「モトスレイヴはもっと増やすつもりだから、免許をとってね」
鈴々ちゃんには大きいかもしれないけれど。
あ、EX-ギアが複製できて、それを着ればちょうどいいかな? ……EX-ギアがあればバイクはいらないか。
「愛紗のケツに乗せてもらえばいいじゃん。免許持ってるんだからさ」
「愛紗のおケツに?」
まじまじと義姉のお尻を見つめる鈴々ちゃん。そうじゃないって。
「違う! 単車の2人乗りの後ろの方のことだ。翠も紛らわしい言い方をするな!」
ほら、真っ赤になって怒っちゃったじゃないか。でも愛紗、よくその言い方知ってたね。
「ねー、そろそろさー、たんぽぽはバイクにじゃなくて煌一さんに乗りたいんだけどー」
「た、たんぽぽっ?」
今度は翠が真っ赤になって慌てている。
「そうだったのだ。今夜は鈴々たちの番だったのだ」
そう。今夜の初夜の当番は、愛紗、鈴々ちゃん、翠、蒲公英ちゃんの4人。
また一気に4人もだけど、雪蓮いわくこれでも少ないらしい。そんなことはないってのに……。
「……鈴々と蒲公英が抜け駆けしそうだからと、早めに番を回してくれたのではないか」
自分を落ち着かせるためか、大きくため息をついてからの愛紗。でもその頬はまだ赤い。怒りのせいじゃなくて、初夜のことを考えているからかな。
「ふっ、ふつつか者ですがよろしくお願いします!」
愛紗が布団の上で三つ指をつく。
いったい誰が吹き込んでいるんだか。
「よろしくなのだ!」
「よ、よろしく……」
「よろしくね!」
残りの3人もそれに続いた。
なにこの光景? 俺まで緊張してくるんですけど。
「こちらこそよろしく。……俺の乗り方は2人乗りが基本らしいからしっかりおぼえてね」
軽いおっさんノリなギャグをかまして緊張をとこうとしたら、愛紗と翠がさらに赤くなって固まっちゃった。鈴々ちゃんと蒲公英ちゃんは目を輝かせているし。
今日はいろんな意味で苦戦しそうだ……。