真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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76話 聖水

 男の巫女は不可だということをせつせつと語ったおかげで、なんとか巫女服は着ないですんだ。

 俺が巫女さんフェチだという誤解は発生したようだったが。

 決め手はやはり「男の巫女って卑弥呼みたいのなんだけど」と言ったことだろう。漢ルートの恋姫キャラたちなので卑弥呼にも会ってるからね。

 

「はいみんな、隠形OFFにしてねー」

 真っ白い小袖に鮮やかな緋袴。

 着替えてくれたみんなの巫女姿は素晴らしいの一言。

 俺はデジカメのシャッターを切りまくった。この面が夜の季節なのが残念だが、夜の巫女さんも悪くはない。

 ……夜の巫女さんか。なんか別の意味っぽくて興奮するよね。

 

「なんやそのカメラは?」

「この日のために新調したデジタル一眼だ」

 真桜が目ざとく気づいたが、このデジカメは俺の元いた世界に通販で注文したものだ。剣士経由が使えるようになってよかったなあ。

 対魔忍シリーズの舞台は近未来のはずなのだが、あっぱれ世界と融合しているせいか、学園島を除けば俺の故郷な世界とほとんど同じぐらいの技術力らしい。

 トウキョウや他の大都市がゾンビタウンになってしまっているせいで、本社や部品を納入している町工場が無くなってしまった影響は大きく、むしろ製品的に新開発があまり進んでないようだ。

 

「ウチにくれたやつよりもすごそやないか?」

「最新型だからな」

 真桜に渡したのは俺の愛機だったフィルム式の一眼レフ。プリワインド方式を採用しており、撮影したフィルムの保護に優れたカメラだ。

 ……もう分解されて真桜自作カメラの部品にされてしまったけれど。

 

「カメラの基本構造は覚えたし、そろそろウチもデジタルのほしいんや。フィルムの入手も大変やし」

 学園島ではフィルムを売ってないし、現像してくれるとこもないもんなあ。

 トウキョウや2面で現像用の道具を入手してきたとはいえ、自分で現像までできるようになった真桜はさすがだ。

 

「……なんだか落ち着かないわ。本当に、髪をこうしなければいけないの?」

 いつもの縦ロールと違い、後ろで束ねられている華琳。

「うん。いつものくるくるもいいけど、こっちもすごくいいよ!」

 シャッターを切るスピードが上がる。

 メモリも電池も予備があるから安心だ。

「なんだか変な感じです」

 流琉ちゃんのように髪が短い娘たちは付け毛をつけている。(かもじ)というそうだ。

 追加された部分が黒いんで丸わかりだけど、それもまたよし。

「いや、可愛いって。秋蘭なんて春蘭そっくりになってるし」

 やはり双子だな。

 

「たしかに可愛いわね、これ。次の公演の衣装にしようか?」

 公演って、満月の戦いのこと?

「うーん、祝詞ソングは美羽ちゃんたちが歌ったから、彼女たち用かな」

「そう。あの歌の祝詞はこの服に対応しているのね。ならば、聖歌やお経は?」

「それはまた今度ね」

 人和に問われて、シスター人和を妄想してしまった。ショートで眼鏡のシスター……カレー先輩か? 彼女、尻担当だったなあ。

 あ、パイルバンカー繋がりで第七聖典を桔梗用に作ってもいいかもしれない。魔族のファミリアがカードになるのを防いでくれる装備にならないかな?

 

 ……っと、今は巫女さんに集中しなくちゃもったいないよね。

 撮影撮影!

「そろそろ始めるのですわ」

 巫女姿でない戦女神(ワルテナ)に止められて、修行を開始することになってしまった。もっと撮影したかったのに。

 

 座禅。

 何も考えないで頭を空っぽにするんだっけ?

 その方が神様からの電波を受信しやすいんだろうか?

 けど、何も考えないなんて無理だよなあ。

 

 などと瞑想していたら、神職スキルを手に入れていた。魔法使いスキルのおかげかな? それとも、みんなの巫女姿を眺めるのを必死に我慢していたのが苦行扱いになってよかったんだろうか?

 

 座禅の時間がおわり、巫女スキルを入手していたのは風だけだった。

 やはり魔法系のスキルで軍師も覚えやすいのか?

 けど、桂花と稟は未修得だ。

「桂花ちゃんと稟ちゃんは華琳さまの巫女姿で座禅に集中などできなかったのですよ」

 なるほど。きっと華琳もみんなの巫女服に意識を奪われてスキルを習得できなかったんじゃないかな?

 

 次の滝行はエルフたちの1面の滝を使うので、チ子が案内してくれる。

「あんたは覚えたんでしょ、こなくていいわ」

「そんなっ!」

 滝行は絶対に集中できないからって、先にがんばっておいたというのが裏目に出てしまうなんて!

「この子たちは男子禁制の滝に連れて行くから、あんたがまだだったとしても連れてったのは別の滝よ」

 ……そうだったのか。

 嫁さんの色っぽい姿が覗かれないですむと喜ぶべきなのだろうか……。

 

「だいたいね、あんたはドンさんの次に危険人物なのよ。里に連れていけるわけないでしょ」

「危険人物? 俺、人畜無害だよ」

 俺って嫌われているんだろうか? いつのまにかチ子にも呪いが発動してしまっているとか?

「自分の嫁の数、数えたことある?」

 あ、そういうことか。言われてみればなるほど、危険人物かもしれない。また嫁さん増えちゃってるし。

 ……ドンさんの次にってことは、ドンさんってもっと嫁さん多いの?

 

「まあ、よその使徒やファミリアに手を出してないだけ、あれよりはマシだけどさ」

 手を出すっていうか、不可抗力なんだけど……。

 言ってもこのロリエルフは聞いてくれないか。

「どうしても滝に打たれたきゃ、ドワーフんとこに行くのね」

「6面は今、冬だろ!」

 ドワーフたちの6面の山にもそれは大きな滝があるらしいが、今は冬で凍っている。だから春になっている1面で滝行をするしかない。

 夏の季節な4面(うち)でできれば一番なのに昭和な町並みで滝なんてない。

 みんな風邪ひかなきゃいいけど。

 

「みんなを頼むね」

 小隊を再編成し、デジカメとスタッシュに入れておいた魔法瓶を数本、華琳に渡して見送るしか俺にはできなかった。

 中身はお湯だ。本当は温かい甘酒を入れたかったが、次に断食が控えている。

 

 

「では、師匠と風さんはさっそく聖水の作成を行うのですわ」

「え、もう?」

「師匠ならできますわ」

 って言われてもね。そんな簡単にできちゃうもんなの?

 俺には祓串を、風には神楽鈴を渡すワルテナ。さらに風には巫女服の上に千早を着せる。本格的なのね。

 

 ワルテナに倣って15の鈴と五色布のついた柄を持つ神楽鈴を鳴らしていく風。

 動作の都合上、邪魔になるからと預かった宝譿を手に眺めながら思う。デジカメだけじゃなくて、ビデオカメラも持ってくるんだったと。

「次は師匠の番ですわ」

 俺の前にラベルの貼ってない一升瓶を置くワルテナ。中にはたぶん水だろう液体が満ちている。

 

「はらいたまえ、きよめたまえ、かむながら……」

 ワルテナに教わった祝詞を唱えながら祓串を振っていく。

 さっさっさっ……こんなもんでいいの?

 見た目には一升瓶には変化がなかったので、鑑定してみると聖水になっていた。

 

「できてる……」

「GPを確認するのですわ」

 そうだった。ビニフォンで確認すると、たしかにGPが減っている。俺の固有スキルと同じようにGPが減るわけか。

「生産系はGPを消費するのですわ」

「それでも百貨店で買うよりかなり安い。……質は売り物の方が高いようだけど」

「レベルが上がるか、作業の人数を増やせばもっと質も高く、量も増やせるのですわ」

 ふむ。これは使えるかもしれない。みんなが巫女スキルを習得できることを期待しよう。

 

「坊主、その聖水はどうすんだい?」

 風にライドオンした宝譿が問う。

「いろいろと使い道がありますわ。普通にお清めや魔除けとして用いたり、墨を磨る時に使って、お(ふだ)を書いたり」

「……お札? こないだ言ってた結界用の呪符も作れる?」

 小メタボ吸血鬼が学園島に現れ、防衛を見直さなきゃと思い、ワルテナに相談した時に教えてもらった結界符。それを使えば結界を構築できるらしい。

 値段はかなり高く、しかもある程度の枚数で護りたい場所を囲まないと効果が薄いとのことだったので、すぐには買えなかった。

 ……それが作れる?

 

「もちろんですわ。たぶん、師匠ならマジックカードも作れるはずですわ」

 ポータルカードやマーキングカードのようなマジックカードまで?

 本当に作れるのならかなり助かるんだけど。

「試してみるのですよ」

「うん。やってみよう」

 硯と墨を借りて、墨液を作る。

 こんなことするの何年ぶりだろう。学校でも墨汁を忘れた時しかやってなかった気もする。

 ……ふと思いついたことをワルテナに聞いてみる。

「墨汁をお清めしたら駄目かな?」

「それは考えつきませんでしたわ」

 そうなの?

 ……こういうものだっていう思いこみがあったのかな?

 

 試してみた。

「神墨汁?」

 できてしまった。聖墨汁じゃないのはスキルが神職なのと関係あるのかな? それとも素材? インクだったら聖インクになるのかも。

「これは面白いですわね」

 できた神墨汁で結界符を書いてみることにする。

 見本のために1枚ワルテナが貸してくれたのでスキャンしてみる。……紙は和紙でいいのか。

 続いてデコード。プログラムではないが、使用されている魔法もわかるスキルだとチ子が言っていたので使ってみたら、たしかにわかってしまった。

 

「なるほど。対象はあらかじめ魔族に設定されているのか」

「ええ。他を対象にしたかったら、特注するか、自分で作るしかありませんですわ」

 構造はだいたいわかったけど、これを書くのはどうやるんだろ?

 見本を真似して、普通に書いてみたが、駄目なようだった。

 

「GPが足りない? ……いや、文字に魔法が乗っていない、か」

 自作の呪符もどきをスキャン、デコードしてみたがやはり失敗作だった。

「書く時にもう魔力を乗せるということか?」

「正解ですわ」

 知ってるんなら教えてくれと思いつつも、さっそく試してみる。

 

「……難しいな。魔力を意識すると筆の運びが疎かになるし、こっちの文字とこっちの図形じゃ、籠めてる魔力が違うみたいだし」

「もうそこまで気づいたとはさすが師匠ですわ」

 いや、何枚も失敗ばかりで調べながら書いてるから。

「これを何枚も書くのは大変なのですよ」

 風もチャレンジしているが、やはり上手くいかないようだ。

 

「やっと1枚完成か……」

 そのおかげか呪符スキルは1レベルで習得できたけど、次も成功する自信はない。高価なだけのことはあるようだ。

「筆なんか普段プラモにしか使わないもんなあ」

 いくら大江戸学園でもノートをとるのは普通にシャーペンだし。

 いっそのこと、筆ペンも聖別してみようか? 咄嗟に呪符が必要になった時に便利かもしれないし。

 

「……まてよ」

 筆ペンにしても、結局は手書きだから大変だ。

「プリンターで印刷できないかな?」

「お札をですか?」

「うん。書く時と同じ魔力を先にインクに籠めておいてさ」

 印刷なら、1度上手くいけば、もう失敗はしないだろう。

 

「でも、魔力のパターンは何種類もありますわ」

「そのパターンごとに違う魔力を籠めたインクを準備すればいい」

 パソコンのプリンターなら物によっては6、7もインクタンクを使っているのもある。全部同じ黒でも、魔力パターンごとにタンクを変えればいけるはずだ。

 

 俺たちは神社をあとにし、開発部へと向かった。

「ふむ。それは面白いな」

 開発部の連中も興味を持ったようだ。

「こないだ置いていったプリンターをベースにすればそんなに手間はかからないと思う」

「それが上手くいったら、コンカも作れるか?」

「コンカか。あれもマジックカードの1種らしいけど、どうだろう?」

 ヘンビットがそう聞いてきた意味もわかる。

 開発部製の試作型ビニフォンが完成したが、コンカ機能の内蔵に予想以上にてこずり、コンカを直接内蔵しているという状況だ。

 コンカを内蔵しないで同じ機能を持たせようとすると、厚みが3倍くらいになってしまうらしい。

 

 コンビニエンスカードはその重要性からスタートセットにも含まれてはいるが、単品の値段は驚くほど高い。

 俺は固有スキルで作っちゃったけど、ファミリアにまで持たせているのは修行が進んだ神のとこだそうだ。

「コンカが作れれば量産型ビニフォン初代モデルはほぼ完成と言えるだろう」

「そうか。呪符ができたらそっちもやってみよう」

 かなり難しそうだけど。

 それに今は結界の方が先だ。

 

 プリンターのインクタンクを持って再び神社に行き、それをお清めする。できたのは聖インクだった。

 やっぱり素材で名前が変わるんだろうか?

 

 開発部に戻って、インクタンクに魔力を注入し、プリンターにセットする。

 その間にエルフたちが見本の結界符をスキャナーで取り込んで、プリントソフトを使って、印刷用のデータを作ってくれていた。

 ドワーフはプリンター用に和紙を調整している。

 やはりこの開発部の連携は素晴らしい。

 

「妙なことをしているわね」

「もう終わったの?」

 開発部に滝行に行っていた嫁さんたちがやってきた。神社に戻ってもいなかったのでこちらにきたらしい。

「滝に打たれるといっても、長い時間打たれればいいというものではないようよ」

 忍耐力や根性を試すものではないらしい。

 

「それで、どうだった?」

「ええ。……素晴らしかったわ」

 巫女さん姿で満足した表情の華琳。

 滝行で巫女スキルを習得した娘はもう巫女服から着替えていたので、華琳はまだ習得できてないようだ。やはり、濡れ透け白装束のみんなに煩悩を刺激されてしまったのだろう。

 

 他に巫女姿なのは桂花と稟と人和と光姫ちゃん。

 ……考えすぎちゃって失敗してるんだろうか?

「断食決定とは辛いのう。頭を空っぽにできたおぬしらが羨ましいぞ」

「何を言う。華琳さまが断食なさるのであれば、我らもつき合うのが当然だ!」

 まあ、春蘭の言うとおり、魏の娘たちは華琳を差し置いて、自分は食事をとるなんてできないだろうな。

 

「気にすることないわ。あなたたちはちゃんと食べなさい」

「華琳さま、姉者には他にも理由があるのです」

「しゅ、秋蘭、別にわたしは水着を着る時のためにだいえっとをするつもりなどではないのだっ!」

 春蘭、自分で理由喋っちゃってるってば。

 

「沙和ももちろん断食するの!」

「ウチもや」

「お姉ちゃん、人和ちゃんだけに辛い思いさせないよ」

 ……みんなそんなに太ってないと思うけどなあ。こないだの吸血鬼の影響があるのかな?

 

「ぼ、ボクも我慢しますっ!」

「季衣……」

 季衣ちゃんにまでこう言われては、華琳も困った顔になってしまった。

 

「成功したぞ」

 嫁さんたちと話してるうちにいつの間にかプリントアウトまで完了したようで、それを十三(ドライツェン)たちが持ってきてくれた。

「うん。見本より質は落ちるけど、上手くいってるみたいだ」

「こう何枚も簡単にできてしまってはありがたみが薄いのですよ」

 あとは切り離せば数枚のお札になるという印刷物にそう評価する風。

 気持ちはわからないでもない。さっき苦労したもんなあ。

 

「煌一の無駄に大きい魔力がたっぷり籠められててこの質だから、改善するには素材の質を上げる方向だろうな」

「巫女さんが増えるからお清めのレベルは上がるよ」

「ならば、その前の紙とインクだな」

 聖別前からこだわった厳選素材か。

 何種類も試すしかないのかな?

 

「紙なら心当たりがある。うちの神木の世界樹ほどじゃないけど、聖性の高い木がダイ姉の担当世界に生えている」

「そんなの使っちゃっていいの?」

 チ子情報に思わずツッコミ。

「いや、生命力の強い植物で繁殖力も強い。多少持ってきてもすぐに回復するわ」

「ならいいけど」

 環境破壊はしたくないもんな。

 

「インクか。顔料にミスリルあたりを……」

「高くなりすぎるって。俺が聞いた話だと、使徒やファミリアの血を塗料に混ぜる符術師もいるらしいぜ」

 なにそれ怖い。使徒の血だからって、聖性が高いんだろうか?

 ファミリアでもいいんなら稟の鼻血ってのもちょっとありえそうで……。

 あれ?

 

「……血じゃなきゃ駄目かな?」

「ん? 当てがあるのか?」

「イカ墨なら」

 そうだよ、イカ娘ちゃんがいたじゃないか!

 

 




今回巫女修行のメンバー

魏第1小隊
 華琳、春蘭、秋蘭、桂花、季衣、流琉、稟、光姫
魏第2小隊
 煌一、風、凪、真桜、沙和、天和、地和、人和

満月戦の時のメンバーに稟が加わっています
霞は教習所

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