真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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7話 添い寝

「うううぅぅぅぅ……」

 タオルを噛みしめながら痛みに咽び泣く。

 回復ベッドの力で傷が治っている最中のはずなのだが、さすがのこのベッドも痛みをなくす麻酔機能はないらしい。

 折れた骨が正しい位置に戻ろうとしてるのか、ものすごく痛い。

 ベッドにはEPも回復する機能があるからなんとか耐えられている状態だ。

 

 MPの強化だけでなく、HPも鍛えるために華琳ちゃんにパーティアタックしてもらうことになった。

 ベッドから降りて成現したばかりの華琳ちゃんと向き合って立つ。

「MPが回復したらすぐにまた成現できるように上半身が動ける程度の攻撃にしてね……」

 HPの回復時間は1からフルまでで5時間。

 それを考えると、MPがフル回復しても動けないってことがあるかもしれない。

「そうね」

「ぜ、絶対に殺さないでね」

 死ぬのは嫌だ。

 それだけではない。

 使徒となった俺は復活できるらしいが、死亡時には俺のスピリット召喚のためにGPがかかってしまう。そしてその額は能力値によって変わるらしい。

 MPを大幅に上げてしまった俺の場合、結構かかってしまうかもしれない。

 だから復活できるからといって、簡単に死ぬわけにはいかないのだ。

 

「時間がないからさっさといくわ」

 その声と同時に自分の骨が折れる音を聞いた。

 ……それも数回。何本折れたか数えることなどできずに気絶した。

 

「んぬぐぅぅ……」

 完全に治るまで気絶していられればよかったのだが、そううまくはいかず途中で目が覚めてしまった。

 ベッドには華琳ちゃんが入れてくれたらしい。ベッド横の丸椅子の上に華琳ちゃんぬいぐるみが乗っている。

 痛い……。

 あの小さい身体で俺をベッドに運ぶなんてすごいな。

 痛い痛い……。

 情けないことにどんな攻撃をもらったかよくわからなかったけど、打撃技だと思う。俺の骨を折るほどの攻撃して華琳ちゃんの方は手とか痛めてなきゃいいけど。

 痛い痛い……。

 

 むうう。痛みを誤魔化そうと別のことを考えようとしても痛さの方が先にきてしまう……。

 先に回復魔法とか覚えてからの方がよかったかな。

 痛い痛い……。

 基礎訓練で教えてくれるのかな?

 でも、基礎訓練終えたらこのベッド無料じゃなくなっちゃうしなあ。

 痛い痛い……。

 

「んぐっ、ふぐっ……」

 痛い……。

 痛い痛い……。

 痛い痛い痛い……。

 

 

 どうにか痛みが引いたころには3時間が過ぎ、MP全回復2回分が無駄になっていた。もったいない。

 華琳ちゃんのぬいぐるみに見えないように眼鏡を外して涙と汗と涎で汚れた顔を拭く。もちろん忘れずにまた眼鏡を装着。

 ベッドから出て、少し歩いてみる。うん。折れた両足の骨もちゃんと繋がったみたい。

 動かせない期間が短いからリハビリも必要なさそうだ。

 コンカでステータスを確認すると最大HPが5割ほど増えていた。

 辛さのわりに上昇率が悪い。MPのように使いきってないから、鍛錬度の上がりが低いのか。でも使いきってゼロにしちゃうと死んじゃうし……。

 ん? なにか通知が表示されている。

『耐性・痛みスキルを0レベルで習得しました』

 耐性・痛み?

 まさに今、求めているスキル!

 俺はすぐにスキルをチェックする。

 

 ふむ。痛みに強くなるスキル、か。そのまんまだ。

 痛みによって失うEPが減少し、痛みによる気絶もしにくくなる……気絶した方が痛くなくていいけど、戦闘中に気絶することを考えたら有効だな。

 どうやって使うんだろう。常時発動するパッシブスキルだったらありがたいんだけど……。

『0レベルなので使えません』

 はい?

 

 がっかりしながらもプレイヤーの書で調べる。

 なるほど。行動によってゼロレベルでスキルを入手できることがあるのか。

 ただし、熟練度を貯めて1レベルになるまでは使えない、と。

 GPを消費しないでスキルが手に入るのはいいけど、ちょっと面倒だな。

 ……GPを消費すればスキルレベルも上げることができる!?

 ど、どうしよう?

 あの辛いのが少しでも楽になるなら……でもGPは使いたくないし……。

 

 悩んだが結局、貧乏性の俺は痛みを堪えることを決意して華琳ちゃんを成現する。

「ずいぶんと待たせるのね」

「ごめん、今度はもっと手加減してくれると嬉しい」

「仕方ないわね」

 大きくため息をつかれてしまった。

 ……気持ちはわかるけど、俺だって辛いんだよ。

 

「準備はいいわね?」

「ど、どうぞ」

 ボキバキッ! やはり速くてよく見えなかった。

 足が上がったから蹴りだったのかな? 残念というか当然というかパンチラも拝めず。

 ちゃんと手加減してくれたおかげか、今度は気絶せずにすんだ。

 うずくまる俺をひょいと横抱きに持ち上げる華琳ちゃん。

「お、お姫様だっこ……」

 憧れではあったけど、される方ではなく、する方でだ。

「大の男が泣くほど痛いのね」

 嬉しそうなドSな華琳ちゃん。でも、この涙は痛さのせいだけじゃない。

 ……いつか、華琳ちゃんをお姫様だっこすることを心に誓った。

 そのためには後で腕力もつけないと……俺って非力だし。

 

 コンカを眺めながら痛みに耐えていると、30分を経過したあたりでついに待っていた表示が現れる。

『耐性・痛みスキルが1レベルになりました』

 その表示を見た途端に痛みがだいぶ軽くなった気がした。パッシブスキルだったようだ。思い込みの部分もあるのかもしれないけど、これはありがたい。

 やっと痛み以外のことを考えやすくなったので他のステータスも調べる。

 最大HPは3桁に、最大MPは3万を超えていた。やっぱりMPの方が伸びがいい。けど、耐性・痛みスキルが上がったしHPも増えているから、もう少しダメージが増えても大丈夫そうだ。

 

 

「今回はお休み、ね」

 MPが満タンになったので華琳ちゃんを成現したが、HPはまだフル回復していない。

 このまま手加減攻撃してもらうより、HPが全快してからギリギリまで攻撃してもらった方が鍛錬度の上がりがいい気がするので、HP特訓はおあずけ。

「耐性・痛みすきる?」

「うん。だから次はもう少し耐えられると思う。最大HPも増えたし」

「ふむ。その耐性というのはどんな痛みにも効くのかしら?」

「え?」

「例えば、病による頭痛や腹痛。打撲以外の切り傷や火傷はどう?」

 どうなんだろう?

 たぶん大丈夫だと思うけど。

 あ、それで思い出した。

 

「華琳ちゃんは頭痛持ちだったよね」

「それも知っているのね。……皆を助け出すまではこの痛みが軽くなることはなさそうよ」

 うん。頭痛イベントは漢ルートだったから、この華琳ちゃんの頭痛が治ってない可能性は高い。

「……こっち、くる?」

 若干……いや、かなりの下心とともに聞いてみた。

「こ、この回復ベッドならその頭痛も治るかも。まだ時間もあるし」

 もう5分以上も人間でいられるようになっているので、まだ時間はある。

 華佗というスーパードクターにも治せなかった頭痛だが、このベッドなら治ると思う。

 

「……そんなに私と寝たいの?」

「お、俺といっしょが嫌ならどくから!」

 もうベッドから動けるぐらいには回復している。数分ならば華琳ちゃんにベッドを譲ってもかまわない。

 ……かなり無念だけど。

「まだ治ってないのでしょう。時間が惜しいわ」

 ベッド横の丸椅子から立ち上がる美少女覇王。

 躊躇いもせずに布団をめくる。

 

「少し、空けなさい」

「は、はいっ!」

 慌てて俺は隅へと移動。華琳ちゃんはその衣装のまま、俺に背を向けながらベッドへと潜り込んでくる。

「……におうわ」

 しまった! たしかにこのベッドには俺の体臭が染み付いていてもおかしくない。HP特訓中にかなりあぶら汗もかいているし……。隣のベッドにしておけばよかった。

 

「男のにおいなどついたら、あの子はどんな顔をするかしら?」

 猫耳の軍師のことかな?

「と、隣のベッドにする?」

「時間がないわ」

 と、急に華琳ちゃんが布団の中で回転。俺に顔を向けてきた。

 自分のにおいはわからないけれど華琳ちゃんからはいい香りがする。

 やばい、ドキドキしてきた。顔も熱い。

 ど、どうしよう?

 

 ……あれ?

 華琳ちゃんが黙ってしまった。

 もしかして寝ちゃった?

 頭痛がうまいこと無くなったのかもしれない。

 ……本当に寝ちゃったのかな?

 

 どうしよう、ちょっとだけ触っちゃ駄目かな?

 寝たふりだったら、怒られるかな?

 でもちょっと触れるだけなら……成現する時には触っているんだし!

 悩む俺に、華琳ちゃんの吐息が聞こえる。

「すぅ…………」

 これは寝息?

 

 可愛い寝顔だ。

 見惚れていたら、時間切れでぬいぐるみに戻ってしまった。

 うん。触らないでよかった。あの安らかな寝顔を壊さないですんだのだから。

 ……やっぱり、惜しかったかなあ。

 ちょっとだけ……胸とかお尻とかなんていわないから、手とかほんのちょっとだけ触ればよかったかなぁ……。

 

 

 悶々と後悔していたらあっという間にMPが全快してしまった。HPも満タンだ。

「たしかに効くようね。……でも、寝台から出たら頭痛が戻ってきたわ」

 成現した華琳ちゃんはちゃんと起きていた。

 よかった。寝たままだったら、起こすためという大義名分のために触りまくっていたかもしれない。

「完治には時間が足りないのかもしれないね」

 ぬいぐるみの間はベッドの効果がないのかも。

 MPとHPの違いのように、症状によって完治までの時間が違うはずだ。

 

「もっと長い時間試せと言うのね」

「そ、そのためにはもっとMPを増やさないとね」

 既に65535というカンスト候補の値も軽く超えたのでMP最大値はまだまだ増えるはずだ。

 カンストあるのかな?

「えっちぴいもでしょう。少し強くしてよいのね」

「う、うん。……お願いします」

 

 やはりパンチラは無理だったパーティアタック後、ベッドに寝かせてもらうとまた華琳ちゃんが潜り込んでくる。

「と、隣のベッドで寝ても、効果があるかもしれないよ」

 つい、においを気にしてそんなことを聞いてしまった。

 よく考えたら、ベッドを替えても俺がいっしょだと汗のにおいとか強いと思う。

「そうね、次はそっちで試してみてもいいかもしれないわね」

 がーん。

 自分で聞いておいて、やっぱりショックを受ける俺。

 次はってことは、人間でいられる時間がもったいないからこっちにいてくれるんだろうなあ。

 

「……あれ?」

 落ち込んだ気持ちでコンカをチェックしていたら、通知が表示されていた。

『耐性・打撃スキルを0レベルで習得しました』

「耐性・打撃……物理レジ?」

 華琳ちゃんの攻撃がちょっとだけ強くなったせいか、そんな耐性スキルを入手できた。やっぱりゼロレベルだったけど。

 これって、打撃で受けるダメージが減るのかな。

 

「打たれ強くなるのね。面白いわ」

 説明したら楽しそうにニヤリ。ううっ、これも教えなければよかったかも。

「ぶ、物理レジがあるってことは他のもあるのかな」

「他?」

「火炎レジとか雷レジとか」

 属性ごとにレジストがあるのはもはや基本だよね。

「ふむ。雷はともかく、火炎は試せそうね」

 えっ?

 

「……ふふっ。どう? 熱いかしら」

 裸でうずくまった俺を踏みつけるボンテージルックの華琳ちゃん。

 手には大きな蝋燭。その炎が俺に迫る。

「さあ、どんな声で鳴いてくれるのかしら?」

 ぶ、ぶひぃ……って、俺にそんな趣味はないってば。

 思わずそんな妄想をしてしまった。

 ……華琳ちゃんにボンテージか、似合いそうだなあ。

 

「どうしたの?」

 妄想から戻ったら、間近で俺の顔を覗き込む女王様、いや、覇王様。

「い、いや、なんでもないよ、うん」

 妄想よりも数倍可愛いな、ナマの華琳ちゃんは。

「お、俺が打撃に強くなったら他を試そう」

 その為には、武器とか用意した方がいいのかな?

 最大MPは10万以上とかなり上がったし、次からはノートパソコンの出番だ。

 

 

 MPが全回復したので、華琳ちゃんを成現する。

 が、その前にサイドテーブルのノートパソコンを起動。

 自宅から持ってきた荷物からDVDとプラモのパーツを出し、起ち上がったノーパにDVDをセットする。

 再生が始まったら、ベッドに戻って、布団の中で華琳ちゃんを成現した。当然、華琳ちゃんが現われるのも布団の中。

 

「どういうつもり?」

「そろそろEPも強化しようと思って」

「いいぴい?」

「EPは感情値。華琳ちゃんたちと違って魂のない人形を成現するためにそれを使うんだ。己の想いを籠めるってとこかな? それで、イメージ……想像がしやすいようにその人形の物語を見るんだ。いっしょに見よう」

 俺に聞きながらも、華琳ちゃんの顔はずっとノートパソコンの画面を見ていた。

 HP全回復はまだだし、寝たままでもできることをする。

 それに、これなら華琳ちゃんと同じベッドでいられるし。そのために華琳ちゃんが興味を引くような作品を選んだ。

 

「動く絵ね。これは妖術?」

「そういう絡繰、かな」

「ふむ。……三国伝?」

「そう。これも三国志の派生作品」

 アニメの三国伝は15分番組。なんとかぬいぐるみに戻る前に1話見終えられるだろう。

 俺が手に持つのはプラモの曹操ガンダムの武器、『炎骨刃』だ。

 ガンダムではあるけれど、三国伝のキャラは人間サイズ。成現しても大きすぎることはないだろうし、成現コストも曹操ガンダム本体を丸ごと成現するよりはかからないはずだ。

 ちょっとトゲトゲしい剣ではあるが、曹操繋がりできっと華琳ちゃんにも似合うはず。

 

「……この頭身がおかしくて硬そうな人形が、劉備?」

「うん。この作品の登場人物はみんなあんな感じ」

「そう」

 ……アニメ初心者にいきなりSDガンダムはまずかったかな?

 横山版か蒼天の方がよかったのかもしれない。でも、DVD持ってないしなあ。

 

 そう不安にもなったが華琳ちゃんは「これが公孫賛?」とか「爆発した?」とか疑問を持ちながらも楽しんでくれたようだ。

「続きもあるのね」

「うん。途中で華琳ちゃんがぬいぐるみになっても見れるようにするから」

「ならばよし」

 気に入ってくれたみたい。

 曹操ガンダムを見てどんな反応するかちょっと楽しみ。初登場を映す時はこのタイミングだとぬいぐるみだけど、成現するまで待っててもらおうかな?

 

 

「さて、話もそこそこ楽しんだし、煌一の身体も回復したわね」

 成現した途端、俺の手にある物を確認する華琳ちゃん。

 結局は時間を優先させてぬいぐるみのままDVDを流し続けた。

「やはり、あの硬そうな曹操の武器ね。それを使えるようにするつもり?」

「うん。華琳ちゃんの大鎌みたいな素材は見つからなくて」

 デスサイズのビームサイズじゃ大きすぎるしね。

 バルディッシュは似合いそうだけど……インテリジェントアイテムは必要EPもMPも高そう。

 

「いいけれど、まだあなたに使うには早いのではなくて」

 俺が、じゃなくて、俺に?

「もう少しえっちぴいが増えてからの方がいいでしょうね」

「……俺のHP特訓に使うつもりなの?」

「ええ。だからしっかり想いを籠めなさい」

 今度は斬られるの!?

 武器なんて選ばないで、ボンテージかバニー服を選べばよかった……。

 

 


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