真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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68話 桃色

 対魔忍。

 18禁ゲームの対魔忍アサギシリーズに登場する職業。

 対(退)魔の忍者。政府直轄の組織だったはず。

 

 ……なんだけど、ゲーム内容がかなりハードでヒロインたちが酷い目にあい過ぎて人を選ぶゲームだ。ようするに鬼畜陵辱系。調教、触手、モンスターとからしい。

 俺、寝取られと触手って特に苦手なんだよなあ。

 もちろん、女の子が酷い目にあうのも駄目なんで、あのシリーズはほとんど知らない。

 

 それがまさか、この世界にいる?

 いや、俺たちが戦うのも魔族なんだけどさあ。

 

 ……後で対魔忍シリーズを勉強しなきゃいけないか。

 4面本拠地(アパート)の回線使えばDL販売で買えるかな?

 超昂閃忍の方が衣装がカラフルなんだよなあ……。

 

 嫁さんたちにはチョーカーと指輪を渡してあるから、そう簡単にはまずいことにならないと思うけどやっぱり不安だ。

 娘たちにもリングネックレスの形で指輪をMP1兆入りで渡してある。柔志郎小隊は防衛のためって理由で学園島に残っていてもらってよかったなあ。

 最強戦力である智子がいれば大江戸学園が襲われてもなんとかなるはず。でも、もし襲撃されでもしたら無茶苦茶心配するな。

 そうだ、智子の剣徒の刀は『破邪の剣』にしよう! うん、魔物ハンターのあれ。……髪型でいったらシャオちゃんもアリかな? 2本用意するか。

 

 あまりのショックに俺の思考が脱線しかけていたら、敵接近の報告が入ってしまった。

 その数、およそ2千。

「2千?」

「ほう、今回は多いようじゃな」

 いつもはどれぐらいなんだろう?

泣き女(バンシー)が2体確認されています」

「そやつの相手がわしらの任務じゃな」

 ゾンビはこっちの人間でも倒せるけど、魔族の使徒である魔人とその使い魔には、神の使徒とファミリアでしかダメージを与えられないらしい。

 そうでない者がダメージを与えるには神の祝福だか加護だかが必要……元々いた神様は、この世界を放棄しちゃったようでそれは無理。現在、この世界の担当になりかけてる神ってのがうちの駄神だから、祝福はちょっと難しそう。

 

「今回は実験みたいなもんだから気楽に歌って」

 設置された簡易ステージ上の、緊張した表情になっているシスターズに声をかける。

 実際、泣き女の叫びに対して効果があるかは試してみなければわからない。

「天和ちゃんたちはボクたちが守るよ!」

 季衣ちゃんもシスターズのファンだったっけ。

「隊長は私たちが守ります! ……た、隊長?」

 気づいたら凪をなでなでしていた。

 きっと緊張をほぐしたかったんだろうな。……俺の。

 なんか見たことあるような対魔忍のお姉さんも微笑ましそうに見ている。いや、俺小さくなってるから背伸びしてる感じがするんだろうけどさ。

 

 くやしいのでそばにいた身長差のない季衣ちゃんをなでる。

「ひゃわ……っ!?」

 1なでで真っ赤になって逃げられてしまった。

 むう。まさか俺、ナデポスキルを1レベルで習得したというのか? ……まあ、真の拠点イベントであった、Hイベントのあと俺を意識するようになって恥ずかしくなっちゃって、ってやつなんだろうけどさ。

 

「えへへー」

 いつのまにか天和になでなでされていた。

「あー、 天和姉さんずるい」

「お姉ちゃんだもん」

 いえ、俺の方が年上なんですが。

 地和までが俺の頭に手を伸ばしたところで、爆音が響き渡った。

 

「地雷にかかったようじゃの」

 事前に知らされてはいたが、この国にそんなものが撒かれてるなんてと驚いた。それと、トウキョウ脱出にイナズマががんばってくれたことに感謝したよ。じゃなきゃ俺たちもかかっていた可能性が高いもんなあ。

「少しは減ってるといいけど」

 なにしろ2千だ。

 こっちは15人と対魔忍のお姉さんたち。うち3人は歌担当で非戦闘要員。

 数が違いすぎる。

 

 初期は警察や自衛隊員も戦って、戦車まで繰り出していたらしいが、泣き女の叫びにより状態異常が多発。恐慌状態や混乱で、同士討ちも発生して被害が広がるだけだったらしい。

 そのため、対魔忍が直接戦闘することになっているようだ。

 

「きたようですよー」

 寝ているのかと疑っていた風が急に目を開けて、開戦を告げた。

 数台の移動式照明車が照明塔の向きを変えて、戦いやすいようにわざと一部が解放されたバリケードから侵入してくるゾンビたちを照らす。

 ゾンビたちは暗闇や光源は関係ないから灯火管制をするだけ無駄らしい。

 

「たしかに昼間のゾンビよりも足が速いな」

 距離をどんどん詰めてくる。

 ゾンビはスピードが遅いので俺でもなんとか戦えていたのに。

 パワーは強いから、つかまれたら終わりだとゾンビに殺された経験のある柔志郎が言ってた。そのパワーもさらに増しているのかな。

 

「ふん。それでもあの程度か。いくら強くなろうと、頭を壊せば死ぬのならばかまわん!」

「ボクも行きますっ!」

 春蘭が突っ込んでいき、その後を季衣ちゃんが追う。対魔忍のお姉さんたちもいっしょだ。

 さっき言っていたシスターズの守りは流琉ちゃんにまかせてるのかな?

 それともまさか、まだ俺から離れたいわけじゃないよね?

 

 武将全員の武器も製作が間に合ってよかった。

 衣装も元々着ていた恋姫の衣装で、戦装束用の金属部分は真桜も手伝ってくれた。

 特殊効果の付与は今回の戦闘の結果を見て考えようと思う。

 

「あれが泣き女か」

 ゾンビたちの上空10メートルくらいに2人の女性が飛んでいた。

「顔がよく見えないわね」

 気になるとこそこですか。

 華琳の注文で魔法光球を3つほど発生させて泣き女の方へと飛ばした。

 何度も使ってるのでスキルレベルも上がっており、もっと多くの光球を出すこともできるのだが、同時制御は難しいのでこの数だ。

 別に嫌がりもしないのか、魔法の光に照らされる泣き女。

 緑色の服に灰色のマントという伝承通りの姿だ。長い髪をたなびかせて、ゆらゆらと飛んでいる。

 

 注目していたら、うぅぅぅぅ、あぁぁぁ、と嗚咽の声が聞こえてきた。くっ、これはまだ叫びじゃないはずなのに背筋がゾクッとする。

 

「始めてください」

 風の指示で、シスターズが演奏を開始する。

 時折、銃火器の轟音が響くが、マイクと楽器、スピーカーの動作は確認したので問題はない。

 気になるのはサウンドエナジーシステムの動作だ。

 

 シスターズが歌いだすのと同時だった。泣き女の1体が叫んだのは。

「……いぃぃぃぃぃぃイィィィアァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 ……こ、これが戦った人が口々にやっかいだって言う叫びか。

 地の底から、地獄から聞こえてくるような苦悶の声。しかもスピーカーも使っていないのに辺りに響き渡るほど大きい。

 事前に知っていて身構えてなかったら、腰を抜かし失禁してしまいそうなほどの恐怖を感じる。

 

 だが、恐怖よりも歌手としてのプロ根性が勝っていたのだろう、それでも負けずにシスターズは歌っていた。

 その歌声に励まされるように、俺の震えも収まってきた。

「もしかして、効果あり?」

「どうなのかしら? 戦闘経験のある者たちから聞かないと比較できないでしょうね」

 それもそうか。

 でも、少なくても俺には効果があったと思う。

 

「……おぉぉぉオォォォォォォォォォォォロォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 今度は2体同時に叫び声を上げる。さっきのとは違う、それよりも大きな叫び。

 意味のない叫びなのに感情が伝わってくる。……これは悲しみ?

 彼女たちはこの戦場で死ぬ俺たちを悲しんでいるのだ。それがわかった瞬間、再び俺の身体が震えだす。

 くっ、ま、負けるものか。

 シスターズだって、がんばって歌って……あれ?

 

 ステージを振り返ると、シスターズの3人ははへたりこんで泣いていた。

「悲しい、悲しいよ……」

「……なんでこんなに心が痛いの?」

「言葉でもないのに、こんなにも想いを乗せられるなんて……」

 思った以上にシスターズの感受性が高かったようで、あの叫びに同調しちゃったらしい。

 どうしよう?

 

「……煌一、ここはまかせるわ」

「え?」

「泣き女たちを倒すのが最優先のようよ」

 華琳は震えてこそいなかったが、顔色が悪い。

 

「秋蘭」

「はっ」

 弓を構え、次々と矢を発射する秋蘭。

 しかし、泣き女2人はゆらゆらとそれをかわしていく。

 

「震えている……のか」

 矢を放つのを止めて呟く秋蘭。

 地上に目を向ければ、ゾンビたちと春蘭、季衣、対魔忍たちが戦闘中だが、さっきまでの春蘭の怒号が聞こえなくなっている。

 予想以上にピンチなのかもしれない。

 

 俺はステージに上がって、シスターズを励ます。

「このまま悲しんでたら、本当にみんな死んじゃうよ。君たちの歌、効果があったんだからがんばろうよ」

「でも……こんな気持ちのままじゃ歌えないよぅ」

「ちぃたちの歌も悲しくなっちゃう……」

 むう。なんとかして悲しみを取り除かないと。それも一瞬で。

 俺にギャグの才能があったらよかったのに。……くすぐってみようか。

 

「3人とも、負けたままでいいの?」

「……負け?」

「うん。歌でもない叫びに、君たちの歌が負けたってことだよね。それを認めるの?」

 物理的ではなく、彼女たちのプライドをくすぐってみることにした。

 

「ま、負けてなんか……」

「ちぃたちの歌の方がすごいんだから!」

「……」

 震えながらもよろよろと立ち上がろうとする三姉妹。

 少しでも不安が減るように魔法光球を出して、ステージをさらに明るくする。

 

「そうだよね、俺の大好きなシスターズの歌は、あんな叫びなんかに負けないよね」

「……ほんとにそう思ってる?」

「もちろん。君たちの歌はあんな叫びなんかには負けない!」

 彼女たちを励ましていたら、俺の震えも治まってきた。

 ……俺もまだ熱くなれるのね。若返ったせいかな?

 

「そこじゃなくて!」

「え?」

「……大好きって」

 頬を染めた天和の顔が魔法光球に照らされている。

 

「ちぃたちのこと、大好きだって言ったでしょ!」

 震えがなくなったのかスッと立って、俺を指差す地和。

 ……あれは、シスターズの歌が好きだって言ったんだけどな。

 まあ、シスターズのことも大好きなのは間違いないんだからいいか。

 

「あとでもう1回お願いします」

 人和も立ち上がって要求してきた。

「いいよ。何度でも言ってあげる。天和、地和、人和、3人とも大好きだ、愛してる」

 ……言い終わってから、急に恥ずかしくなってきた。

 さっきとは別の意味で精神的にやばい!

 

 戦闘直前の季衣ちゃんのようにステージから逃げる俺。

 もう、3人は歌えるだろう。そう信じてる。

「戦闘中になにをやってるの?」

 泣き女ほどではないけど、冷たい声を浴びせかけらた。

 振り向けば、燃え盛る炎骨刃を手にした華琳。

 

「励ましただけだってば」

「そう? 私には言わないくせに。……愛してるなんて」

 後半、小声だったけどしっかり聞こえちゃった。

 もしかして焼きもち?

 そりゃ、なんか最近恥ずかしくて、愛してるどころか好きともあまり言ってないけどさ。ちゃんと愛してるんだってば!

 ……意識したらまた恥ずかしくなってきた。

 赤い顔を見られるのも恥ずかしかったので、華琳を抱きしめて、その耳に囁く。

「……愛してるよ、華琳」

 こんなに顔が熱いのは、炎骨刃の炎のせいじゃないよね?

 

「だから、戦闘中になにをしてるのよ!」

 猫耳軍師に引き剥がされてしまった。

「問題ないわ、桂花」

「ですが華琳さま」

「ほら、煌一のおかげでシスターズも復活した」

 再び、シスターズの歌が始まる。

 さっきとは別の歌、恋の歌が。

 

「この歌は、あなたへの歌ね」

「……いい歌だ」

 華琳の顔が恥ずかしくて見れないのを誤魔化すために、ゾンビと戦っているみんなの方へと視線を移す。

 春蘭が泣き女に負けじと叫びを上げ、対魔忍たちもゾンビを蹴散らしていく。

 あのお姉さん、あんなでかい斧を振り回すとか、怪力だったのね。

 あ、火柱が上がった。華琳がここにいるってことは、あれは火遁?

 

「……おぉぉオォォォォォォォォォォ……」

「グウォォォォーーン!!!」

 また泣き女が2体がかりの叫びを上げたが、途中で空気がビリビリと震える咆吼に邪魔された。

「こ、これって?」

 今のは光姫ちゃんのスタンド、いや剣魂のカクによるものだろう。

 スケ、カクの2体の狛犬型の剣魂を持つ光姫ちゃん。ファミリアになったことにより得た固有スキル、耀界により、学園島以外でも剣魂を使うことができるのだ。

 スケの方は擬似重力を発生……音と重力ってなんかエコーズみたいだな。あれのスタンド使いもこういちだったんでよく憶えている。

 

「どうやら余計なことじゃったな」

 ステージを見つめてる光姫ちゃん。

 シスターズは泣き女や狛犬の叫びにも負けずに歌い続けていた。

 あれ? もしかして……。

 シスターズのまわりの魔法光球をキャンセルしてみる。

 

「やっぱり!」

 照明が減ったことで、彼女たち3人がうっすらと揺らぐ光に包まれているのがわかった。その光は彼女たち自身から発生しているようだ。

 

 シスターズがステージ衣装の上に着けている機械式のジャケットは歌エネルギー変換ユニット。

 人間の歌に秘められた波動を経絡ラインを通して歌エネルギーコンバータに送り、そこで高次空間方程式に基づいた波動変換を行って、再び肉体へとフィードバックして外部に放出する装置。

 エネルギーコンバータが作動を開始したってことは1000チバソングを超えたってことなんだろう。

 

 チバソングってのは歌エネルギーの単位。大きい方が強い。……そういやここはチバ県だったっけ。

 黄巾の乱を引き起こす原動力になるほど、やはり彼女たちもかなりの歌エネルギーの持ち主だったようだ。

 光は徐々に強くなっていき、大きくなっていく。

 色がピンクってことは……。

「ラブハート?」

 嬉しい。偽りのない彼女たちの気持ちが伝わってくる。だってピンクの光が伸びてきて俺を包んでいるんだもん。

 

 叫びが通用しないと悟ったのか、泣き女たちがステージへとつっこんできた。

 シスターズから放出されるピンクの光が泣き女を迎え撃つ。

「アアアアァァァぁぁぁぁ……ふぅぅううん!」

 ん? 叫びが急になんか妙に色っぽいもんに変わった気が……。

 空中で悶えているようにも見える泣き女の片方に、華琳の炎骨刃の火炎が襲い掛かる。

 もう1体も秋蘭の矢を何本も受けて、墜落しながらカードになってそして消えた。

 

「残るはゾンビだけね。……季衣の動きがまだおかしいわね」

「あの、さっき兄様から逃げてしまったこと、まだ気にしてるんじゃ?」

 華琳はここは大丈夫そうね、と流琉ちゃんを連れてゾンビの群れに向かって行ってしまった。季衣ちゃんのフォローをするつもりか?

 俺もできることをするとしよう。

 

「季衣ちゃん、聞こえる?」

 ビニフォンのトランシーバー機能を使って彼女に通信する。

 戦闘時、両手が塞がっていても使えるように、チョーカーに空きスロットを使ってマイクとスピーカー機能を追加してあるので、聞こえているはずだ。ビニフォンはコンカの思念操作も受け継いでいるので、直接操作しなくても返事をすることができるし。

「逃げたことは怒ってないから、安心して戦ってね」

『ほ、本当!?』

「うん。大好きな季衣ちゃんのこと嫌いになったりするわけないでしょ」

『よかったぁ……』

 その安堵の声の直後、ゾンビたちが宙を舞い始めた。……ゾンビたちが飛行能力に目覚めたわけではない。

 弾き飛ばされているのだ。季衣ちゃんの巨大鉄球によって。

 

『あ、あのね兄ちゃん、なんかボク、兄ちゃんのことすっごく大好きみたいだから! ……うわっ、言っちゃったよ。……恥ずかしー!』

 季衣ちゃんが振り回す鉄球の速度が上がったのか、ゾンビが吹き飛ぶ高さが、飛距離が増した。落下前にすでに原型を留めていないゾンビたち。

 頭部もちゃんと破壊されているようで、落下後も動き出す気配がない。

 フォローに向かったはずの華琳と流琉ちゃん、対魔忍たちも巻き込まれてはかなわないと、季衣ちゃんの周辺から逃げるように距離をとる。

 

 おかしい。

 真・恋姫の拠点イベの時と季衣ちゃんの反応が違う気がする。

 ……もしかして、サウンドエナジーシステムで強化されたシスターズのラブソングの影響?

『に、兄様、わたしも兄様のこと……好きです』

 最後、小さい声だったけど流琉まで……って、トランシーバーモードだから今の、ここの嫁さんみんなに聞かれちゃったの?

 

「隊長、私も隊長のことが好きです!」

 凪はトランシーバーを通さずに直接言ってきてくれた。

「凪ちゃんずるいの!」

「せや! 自分は梓姐さんと亞莎と済ませたからって」

 沙和と真桜はまだだったなあ。

 

『おい、わたしにはないのか?』

 今度は春蘭からの催促?

 さっきまでピンチだったはずなのに、もう楽勝ムード?

 それだけ、泣き女が強敵だったんだろうけど……。

 

「まだ戦いが終わってないんだから気を抜かないでね。大好きなみんなが怪我でもしたら俺、泣いちゃうからね!」

 ビニフォンを手に俺が叫んでから数十分で戦闘は終わってしまった。

 

 

 ……あれ?

 もしかして俺、戦ってなくね?

 

 


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