真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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52話 五○大将軍

 俺を疑った春蘭の暴走により、元に戻ったばかりの魏軍の娘全員に祝福(のろい)が発動してしまった。

 それの解決策として、全員と結婚すればいいと言う華琳とレーティア。

「いくらなんでも多すぎるでしょ!」

 ロリっ娘の許緒と典韋だけだったら、1秒で了承したけどさ。

 全員ってことは春蘭と荀彧もいるわけでしょ。納得するわけないじゃん。

 

「そうだ、こんなやつらが煌一と結婚するなんてあたしは認めない! ……凪は許してもいいけど」

 ギロリと魏少女たちを睨んだあと、補足を入れる梓。

 さっきのがんばりが効いたんだろう。あれには俺も感動したし。

「わ、私が……ありがとうございます」

 辛いだろうにこっちを見てぎこちなく微笑む凪。ホンマにええ娘や。

 

「ボクも兄ちゃんと結婚するの?」

 あれっ?

 許緒ちゃんはあんまり辛そうにしてないな。

「許緒ちゃんは平気なの?」

「うん。なんでみんながこんなにまで驚いているかよくわかんないよ。びっくりしたけどそんなにすごい顔かなあ?」

 じーん。まさかこんな娘がいるなんて。

「もしかして君、男の子なの?」

 ヨーコ、そりゃ失礼でしょ! いくら呪いがかかってないみたいだからってさ。

「ボクは女だ!」

「そうね。季衣は可愛い女の子よ。季衣もいいのね?」

「はいっ! よろしくね、兄ちゃん。ボクは季衣だよ」

 華琳の問いに元気よく答えて、さらに俺に真名までくれてしまった。

 こんなことってあるんだろうか? ……もしかしたらあんまり考えてないのかと不安になって聞いてみた。

「俺でいいのか? あったばかりでよく知らないでしょ。結婚だよ、よく考えて」

「んーとね、兄ちゃんのことはよくわかんないけど、華琳さまが選んだ人だもん。兄ちゃんはきっとすごい人なんだよ! そんな人と結婚できるんならいいんじゃないかな?」

 むう。ちゃんと考えていたのか。でも、やっぱり愛はなさそう。

 どうしたもんかと俺が悩んでいるうちに華琳はビニフォンで婚姻届を呼び出し、凪と季衣ちゃんに署名させた。

 

「煌一も書きなさい」

 ビニフォンって各種用紙の代わりもできるんだ、そう思いながら流されるままに指で名前をタッチ記入する。

 ……って、これで凪も季衣ちゃんも俺の嫁じゃん!

 華琳はビニフォンを受け取って、さらにかけたばかりの俺の眼鏡を奪う。

「……凪、煌一の顔はどうかしら?」

「は、はい。……え?」

 妻になりたての少女は、青から今度は真っ赤な顔になってしまった。

 

「凪?」

「は、はい!」

 なんだかさっきとは違うベクトルで緊張している。

 呪いはとけたっぽい。成り行きとはいえ、結婚した相手を意識してくれているのだろう。

 

「季衣はどう?」

「さっきより兄ちゃんの顔がすっごいかっこよく見えます!」

 うわ、嬉しい。季衣ちゃんはなんでこんなに俺を喜ばせてくれるんだろう。

 ……見え方が変わったってことは呪いはかかっていたのかな?

 

「ふむ。なるほどな」

「レーティア?」

「その娘が煌一の呪いの影響が小さかったのはたぶん、呼び方だ」

「そうね。煌一のことを兄と呼んだので、柔志郎のように義妹として家族扱いの補正がかかった」

 ああ、そういうことか。

 呼ぶだけでもいいのか、それとももっと親しく感じていてくれたか。前者の方がこれからの対策立てやすくなるけど、なんとなく俺は後者だったらいいなと思っていた。

 

「試してみましょう。流琉」

「はい」

「煌一を季衣のように兄と呼びなさい」

「は、はい。……に、兄様」

 いいなあ。こんな可愛い娘たちに兄扱いされるのって。おっさんの時だったら「おじ様」だったろうし。……それはそれでアリか。今はこれがせいいっぱい、って。

 

「どうかしら流琉、あなたは煌一と結婚するのは嫌かしら?」

「い、いきなり結婚というのは……でも、さっきより兄様のお顔を嫌とは感じなくなりました」

 ふられちゃったか……。

 でも、これで解決策が判明したな。

 

「なんだ、別に結婚しなくても妹扱いでいいんじゃないか」

 梓がやれやれと肩の力を抜く。その後小声で「初音がヤキモチやくんじゃないか?」と呟いてた。

「いえ、結婚してもらうわ。それ以外は駄目よ」

「華琳?」

 まさか俺の嫁じゃなくて、自分の嫁を増やすつもりなんじゃ?

 

「……春蘭、煌一を兄と呼んでみなさい」

「こんな気味悪いやつをですか? それに、どう見ても年下ですよ華琳さま」

「春蘭」

「はっ。……あ、兄者?」

 華琳の冷たい視線と声にしかたなく俺を兄と呼ぶ春蘭。

 呼んだあとはすぐに視線を俺の顔から外してしまった。わかっているさ。見るのも嫌なんだろ。

 

「春蘭、煌一の顔を見なさい」

 華琳の指示でチラリと俺の顔を見るが、再び即座に視線外し。

「やはり無理です。直視に耐える顔ではありません!」

 酷い。いくら呪いのせいだからって……。

 俺の落ち込みを察したのか、クランと梓が手を握ってくれた。ありがとう。

 ……ヨーコ、慰めるためだろうけど頭をなでられるのはちょっと恥ずかしい。このナリだと子供扱いされてるみたいだ。

 

「わかったでしょう、形だけ妹ではうまくいかないわ。それとも見た目も妹に相応しくなかったのかしら?」

「華琳さま?」

「名を書きなさい、春蘭。これは命令よ。できないのならあなたはもう」

 華琳が処置を言い終わる前に慌てて春蘭はビニフォンに指を走らせる。

 なんて言おうとしたのかな? 閨には呼ばない、とか?

 

「書きました!」

「よくできたわ春蘭。さっそく、夫の顔を御覧なさい」

 恐る恐る俺の顔を見る新妻。今度は顔をそらさない。

「平気です。なんだ、ちゃんと人の顔ではないか!」

 人の顔って……呪いのかかった女の子にはいったいどんな風に俺の顔が見えてるんだろう?

 

「春蘭までもが俺の嫁とかなんかおかしくないか? 俺のこと嫌いなんだろ?」

「……別に嫌いではないぞ。元に戻してもらったり、目を治してもらった恩もある。ただ、華琳さまの夫というのが羨ましいだけだ!」

 嫌いでもないのに、用済みと言っちゃうとかどんだけ華琳優先なんだろ。

 ……俺に命の恩人がいたとして、嫁さん寝取られてたら恩人でも許せるわけないか。

「理由はわかった。俺も華琳が好きなんで別れるつもりは全くないけど、嫌ってないなら仲良くやってくれると助かる」

「ふん。ならば華琳さまに相応しいところを見せてもらうぞ」

 一応、認めてくれたってことでいいのかな?

 

「次は誰? 桂花かしら?」

「いえ、私が」

 立候補してくれたのは夏侯淵。春蘭の双子の妹だ。

「姉者がその道具に名を書き込んだ瞬間、私もその少年の顔が平気となりました」

「少年って……でもそうか。春蘭の妹だから、義理の妹になって呪いの対象外になったんだ。……それなら結婚する必要ないんじゃない?」

「姉者を独り占めするつもりか?」

 独り占めって、華琳もいるんですが。

 ……華琳もいるから余計になのかもしれない。

 華琳が差し出したビニフォンにささっと署名してしまう夏侯淵。

 

「秋蘭だ。よろしく頼むぞ夫殿」

「よ、よろしく」

 なんかなし崩しだなあ。このまま流されてもいいんだろうか?

 梓の顔も険しくなってきたし……。

 そろそろストップをかけた方がいいんじゃないかと声をかけようとした瞬間、部屋の襖が勢いよく開いた。

 

「邪魔するぞ」

「おお、ここにおったか。玄関で呼びかけたが誰もこないんで勝手に入らせてもらった……」

 現れたのは十兵衛と光姫ちゃんの2人。

 誰もこないって、智子たちは出かけたのかな?

 

「……これが呪いか」

 震える声でそう切り出したのは十兵衛。

 華琳の手には俺の眼鏡がまだ握られたままだ。

 つまり……。

「むう……。聞いてはおったがすさまじいものじゃな」

 2人にも俺の呪いが発動してしまったということになる。

 

「いくら煌一の呪いに気を取られたとはいえ、私たちに気づかれずに入ってくるとは、できるわね」

「かっかっか。驚かそうと気配をたっておったからのう」

 十兵衛だけじゃなくて、光姫ちゃんも強そうなのか。ファミリア資格持ってるわけだ。

 

「これで私も天井殿に嫁入りすることになるな」

「不束者じゃがよろしく頼む、と言っておくかのう」

 顔色は悪いが俺から視線を逸らさずに、軽口を言う2人。なんという精神力だ。

 ……軽口だよね? 本気じゃないよね?

 この前だって冗談だって言っていたし。

 

「ふふふ。この者たちの方がよほど覚悟があるようね」

 華琳、なにビニフォンを渡してますか!?

 光姫ちゃんもすぐに察して署名しないの!

「うむ、たしかに婿殿の顔が可愛らしく感じるようになったの」

 婿殿ってなに? 可愛らしくってなにさ!

「ほう、これは役得かもしれぬ」

 十兵衛まで?

 照れくさくなって華琳から眼鏡を返してもらう。

 一段落したら、絶対にサイズ補正つきのニュー眼鏡を用意しよう。……簡単には外れない仮面の方がいいかもしれない。

 ハクオロの仮面なんて外れそうになくていいなあ。ついでにアルルゥも成現(リアライズ)したくなりそうだけどさ。

 

「待ちい! まだウチらがその可愛え顔を拝んでおらんで」

 かけようとした眼鏡がまた奪われた。お前らイジメっ子か?

「このまんまやとなんか負けた気がするんや!」

 張遼がひったくるようにして華琳からビニフォンを受け取り、名前を記入する。

「どや! おお、ごっつ可愛えやんか! ウチは霞や。よろしゅうな」

 だから可愛いは勘弁して。中身おっさんなんだから。

 

「……そうですね。秋蘭さまや季衣だけに辛い思いをさせるわけにはいきません。やっぱりわたしもお願いします!」

「辛い思いってんなら無理しなくても」

「もう書いちゃいました……ええっ? に、兄様?」

 いきなり真っ赤になって俯いちゃった。

「うん。本当によかったの?」

「はい! る、流琉です」

 それだけ答えて再びもじもじする流琉ちゃん。チラチラこちらを見てはすぐに下を向く。

 まさか俺がこんな視線を女の子から受ける日がこようとは。

 ……美少年から受けたことはあったけどさ。

 

「流琉ちゃんがいったなら風たちもいかないわけにはいきませんねぇ」

「そうですね。天井殿には恩がありますし」

 流琉ちゃんに続くように程昱と郭嘉が婚姻届に記入。

 ……ええと、その婚姻届、何人まで記入できるのさ? サービスセンターの用紙は夫婦合わせて6人までだったんだけど。

「私たちのことは知っているらしいですが、一応真名を名乗らせて下さい。稟です」

「風ですよ」

「う、うん。よろしく」

 風と稟までも嫁になってしまった。

 どうしよう。怖くて梓の方が向けない……。

 

「次はウチらやな!」

「可愛いってのなら、沙和も見るの!」

 李典と于禁まで?

 そりゃ李典はファミリアとして、開発役としての活躍を期待してたけどさあ。

「ずっと見てたけど、やっぱこれ、すごいなあ!」

「でもちょっと地味なの、もっと可愛い方がいいの!」

 署名するよりもビニフォンで騒ぐほうが先の2人。あとで自分用のを渡すつもりだけど、于禁は思いっきりデコりそうだなあ。

 

「沙和なの! ホントにとっても可愛いのぉ!」

 ……いつまで続くんだろう、この羞恥プレイ。

「真桜や。なんやノリで結婚してもうたけど、よろしゅうな!」

 ノリですか。

 そんなんで結婚しちゃってよかったんだろうか? 後悔しないでくれるといいけど。

 結婚した以上は別れるわけにはいかないし。

 

「書いたよー」

 っていつの間に?

 気づけば張角が張宝にビニフォンを渡していて、さらにすぐに張梁に移動していた。

「うん! 可愛いー。お姉ちゃんはね、天和だよ、よろしくね」

「地和よ。……あなた、ちぃたちと組まない?」

「人和です。姉さん、さすがにそれは……ありかもしれないですね」

 きらんと眼鏡を光らせた三姉妹の末妹。

 張三姉妹も嫁になってしまったか。あと俺音痴なんで歌手は無理です。

 

「最後は桂花ね」

「か、華琳さま……」

 青い顔で震えている荀彧に華琳はため息。

「最後の手段しかないのね」

 え? 結婚(これ)が最後の手段じゃなかったの?

「男嫌いのあなたには酷な命令だったわね。煌一には義理の妹と娘がいるわ。それと結婚なさい」

「ちょ、ちょっと!」

 智子やゆり子と結婚させるつもり? そりゃ変な男にやるよりはいいかもしれないけど!

「華琳さま、ありがとうございます」

 納得したのか、ほっと息を吐く荀彧。

 俺は納得してないってば!

 

「ただし、私は義妹や義娘を閨で可愛がるつもりはないの。それでもいいわよね?」

 ……安心させてから、どん底に落としますか。

 さっき以上に真っ青な顔になって荀彧は泣きそうになりながら、というか泣きながら華琳にすがる。

「華琳さま、それだけはお許し下さい!」

「なら、どうすればいいかわかるでしょう?」

 泣きながら荀彧は俺の嫁になってしまった。

 

「夫に真名を教えないのかしら?」

「……桂花よ」

 真名だけを告げてキッと俺を睨む桂花。

 呪いがとけてもあまり変わってない?

「よろしくするつもりはないだろうけど、よろしくね」

「ふん!」

 やれやれとわざとらしく俺はゼスチャーして、やっと眼鏡を装着した。

 

 

「煌一ぃぃぃ」

 唸るように俺を呼ぶのは梓、うう、怖いよう。

「どうすんだよ、こんなに嫁さん増やしちまって! あたしたちじゃ不満なのかよ!」

「そんなことあるはずないだろう!」

 俺も怒鳴ってしまった。不満なんか……本番は許してくれないことぐらいしかない。

 いつかはちゃんとさせてくれるって、信じているし!

 

「じゃあなんで?」

「……ごめんなさい。俺にも流されたとしか言いようがない」

「流されるなよ!」

 そうだよね。流されちゃ駄目だよね。

「だけど信じてほしい。梓たちを大事だと思っているこの気持ちを」

「煌一……って、いい雰囲気なのになに見てるんだよ!」

 気づけば、他の嫁さんたちの視線にさらされていて。

「いや、修羅場からよく生還したもんだぜ」

 宝譿、生還どころか誰もいなかったらキスぐらいにはもちこめたよ!

 

「わたしたちだって、嫁が増えたからって華琳さまを蔑ろにするようなやつは認めないからな!」

「そうですね。華琳さまをはじめとした元からの方たちは別格とした方がよろしいでしょう」

「うむ。五嫁大将軍といったところじゃのう」

 楽しそうだね、光姫ちゃん。

 俺は君と十兵衛の親にどうやって挨拶するか、気が重いってのにさ。

 

「別に将軍ではないのだから、大細君(さいくん)の方がおさまりがよいのではないか?」

「クラン殿、細君というのは目上の者に使うと失礼にあたるのだ」

 そうだっけ? あまり使うことがなかった言葉だから覚えてないや。……嫁ってのも本当は、息子の妻のことじゃなかったけ?

 

 でもそうすると、光姫ちゃんも十兵衛も華琳たちを立ててくれてるのか。

「順位がはっきりしない大奥はもめるでの」

 大奥って……。順位がはっきりしててももめそうな印象しかないんですが。

 

「さあ煌一、残りの者も元に戻しましょう」

 まだいたんだよね。

 なんか嫌な予感がしてならないんだけど。

 ……呪われてる袁紹もいるしさ。あれも嫁にすることになるのかなあ?

 

 


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