真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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51話 剣魂

「なんだこれは? なまくらではないか」

 渡された刀に不満の春蘭。

 学園の刀には刃は入っていない。見ただけで斬れないってわかるとはさすがだね。

 俺にはよくわからん。違いの見極め方を聞いておくか。プラモ作る時の参考にしたい。実剣持ってるロボってカッコいいからね。

「訓練用の模造刀ってむこうにはなかったっけ?」

「それぐらいあったわよ」

 だよなあ。じゃなきゃ天下一武道大会なんてできないよなあ。

「……仕方ない。これで我慢するとしよう」

 軽く2、3回振って具合を確かめる魏の大剣。

 ボソリと軽すぎるって呟きが聞こえてきた。

 

「ふん。さっさとしろ」

 酉居君はこっちを急かす。

「焦るな。そっちこそ別れは済ませたのか? 今日限りで学園を去るのだろう?」

「それは貴様たちだ!」

 刀を構える2人。

 これはもう止められないと判断したのか、詠美ちゃんがため息の後、開始を宣言した。

 

「どうした? 防戦一方ではないか」

 名に合わせてか、鳥居型の鍔を持つ刀で攻撃を続ける酉居君。春蘭の方はかわすのみ。

「久しぶりの戦いと、さらに久しぶりの両目なのでな、勘を取り戻していただけだ。だが……期待外れだった」

 えっ? もしかして治ったはずの左目の調子が悪い?

 慌てて華琳の方を見ると、微笑んでいるのでそうではないらしい。

 

「もう少し楽しませてくれると思ったのだがな」

 一閃。そうとしか見えなかった。

 春蘭が勢いよく酉居君に近づいた次の瞬間、肩をおさえている執行部会計。

「おや、まだ意識があるか。いかんなこの刀は。軽すぎてまだ慣れん」

 気絶させられなかったと残念がるとか、どんだけ余裕があるのか。

 命のやり取りをする戦場を駆け巡った将軍と学生とじゃこんなもんなんだろうか。

 

「……い、一本」

 あまりの実力差に硬直していた詠美ちゃんが判定をしようとしたが、酉居君はまだ諦めていなかった。

「ま、まだだ!」

 苦しそうにしながらも声を絞り出す。

「い、出でよ、我が剣の僕よ……」

 やっぱり出すのね。そりゃ見たい気もしたけどさあ。

 気配を察知したのか、間合いを取った春蘭の前に現れる巨大な蛇。

「マムゥーッ!」

 酉居君の剣魂、クチバミである。

 先端が棘となっている幾本もの鎖の尻尾を持つ巨大なマムシ。

「貴様、妖術使いか!」

 いや、剣魂(けんだま)だってば。今朝、説明したじゃん。

 

 剣魂。

 特殊な粒子で形成され、実体化した動物型のプログラム。

 粒子や制御電波の関係で学園島のみでしか扱えないが、様々な能力を持つ。

 スタンドよりはアルター寄りかな。普通の人も見えるし。

 呼び出しのための装置は刀やその他のアイテムに埋め込まれているらしい。

 

「蛮族め。剣魂も知らぬとは……」

 フラフラしながらも嫌味を言うとは、彼も筋金入りだね。

「た、隊長」

 青い顔になったのは俺の隣に立っていた凪。……蛇、苦手だったっけ。

 俺を隊長と呼ぶのは、小隊編成で俺の小隊に入っているからである。春蘭のように華琳の小隊に入ればよさそうなのだが、俺の護衛役ということらしい。

 

「てっ、鉄鎖陣を……」

「マムッ」

 無数の鎖を周囲に張り巡らせる巨大マムシ。

 よく俺、ネビュラチェーンって言うの我慢したと思う。

 

「そんなもの!」

 春蘭が斬りかかるが、鎖に阻まれて攻撃が届かない。

 元々刃がないんで、刃こぼれの心配はないが、刀と鎖が打ち合う度にもの凄い火花が散っている。

 

「卑怯よ、酉居!」

「なにをおっしゃる。化け物どもと戦えるかどうかの腕試し。……この程度に勝てぬようでそれを証明することなど、できますまい」

 最初っからそのつもりだったのか、彼は即座に答えた。

 ふむ。筋は通るか。

 

「そう。いいでしょう。春蘭、使いなさい」

 楽しそうに微笑んで華琳は指示を出した。

「はっ」

 春蘭は大きく返事をすると、模造刀をポイと捨てる。

 その後、首を捻って悩みだした。

 

「刀を捨てるとは負けを認めたか」

「バカを言うな。ちょっと、すたっしゅのやり方を忘れて困っているだけだ!」

 スタッシュ? 華琳はふふっとまだ微笑んでいる。……可愛いけどちょっと怖い。

 春蘭、お仕置きされるのかな?

 

「ええと……」

「叫べ!」

 思わずアドバイス。春蘭には詳しい説明や理屈よりも、この方がいいだろう。

 一瞬睨まれたが、すぐに春蘭は行動に移した。

「すたっしゅ!」

 彼女が叫ぶとその眼前に大きな黒い穴が開く。直径2メートルぐらい?

 そこに腕を入れる。勢い余って半身をつっこんでるようにも見える。

 

「……まさか、彼女も剣魂を?」

「いや、あれは個人の能力だよ」

 他国で剣魂が開発されたんじゃないかと不安そうな詠美ちゃんに説明。

 ここじゃよくわからんことはほとんど剣魂の仕業なんだろうな。

 

「あった。これだ!」

 半身を出し、スタッシュホールを閉じた春蘭が握っていたのは一振りの剣。

 あれは……。

「華琳さまにお借りしたこの剣の切れ味、確かめさせてもらうぞ!」

 貸したって、あの剣を?

 そりゃ春蘭の武器の七星餓狼に名前が似てるけど。

 

「でやあああああああっ!」

「マ、マムゥッ!?」

 裂帛の気合いとともに斬撃がクチバミの鎖を切断していく。

 あまり使ってるシーンはなかったけど、斬れるなあ、七星剣。

 たしか後に覚醒して星凰剣(せいこうけん)になる剣だから、元ネタの青紅剣(せいこうのけん)の影響があるのかもしれない。成現(リアライズ)する時に色々調べたからね。

 

「なっ」

 能力の1つである毒を使う前にクチバミは頭から両断され、ノイズを走らせながら粒子が霧散していく。

「さすが華琳さまがお貸し下さった剣。見事な切れ味だ」

「ば、馬鹿な……」

「わたしはバカではない!」

 いや、酉居君はそういう意味でいったんじゃないけどね。

 春蘭はよくバカって言われるのを気にしてるんだろう。

 

「動くなよ、手元が狂ってしまうかもしれん」

「って、春蘭それ、刃がついてるから! もう勝敗は決したから!」

 俺の叫びも間に合わず春蘭は七星剣を振るい、酉居君が倒れる。

 

「……はっ。勝者! 夏侯惇!」

 慌ててこちらの勝利を告げる詠美ちゃん。

「バカ、やりすぎだ」

「なんだと! 殺してはないではないか」

 ああ、殺さなければオッケーって認識だったのか。

 

 駆けつけた医療班に介抱されている酉居君を見たら右腕が肘の辺りで切断されていた。

 むごい。

「手加減してやれよ」

「この剣が切れすぎるのだ! さすがは華琳さまの剣!」

 ……もしかして七星剣を成現した俺のせいってこと?

 責任感を感じてしまった俺は、詠美ちゃんたちに相談する。

 

「あの、酉居君はやっぱりここを出て行かなくちゃいけないの?」

「自分から言い出したことですから」

「そうは言ってもね、こっちとしてもやりすぎちゃったし。最初に渡された刀以外を使ったってことでさ、引き分けにしない?」

 酉居君にはまだ復讐したい娘もいるから、勝手にいなくなられても困るだろう。

「……ですが、あの腕ではもはや剣徒としてはやっていけないでしょう。このまま学園に残っても辛い思いをするだけです」

「そっちはまかせて」

 病院に運ぼうとしていた医療班を引き止める。

 普通は反対しそうなものだが、素直に待ってくれたのは酉居君の普段の行いのおかげだろう。つまり、医療班にも軽視されてる嫌われ者なのね。

 

「うん、その斬られた手を持っててね」

 出血もかまわずに右腕を切断面で合わせて、そのまま固定してもらいながら回復魔法を使う。

 俺の回復魔法(中)では欠損した部位は復活しないが、斬られた先があればだいじょうぶなはず。切れすぎるといった春蘭の言葉通りに切断面も見事なので、くっつきやすいと思う。

 なにより、上げにくかった回復魔法の熟練度を稼ぐ絶好のチャンスなのだ。

 万が一契約空間に入っても面倒なので、直接触れないように気を使いながら治療を続けた。

 

「はい。治療おわりっ!」

 腕はちゃんと繋がった。春蘭の最初の攻撃で折れていたらしい肩の骨も繋がって、顔色もよくなっている。

 痛かったろうに気絶もせずに嫌味を言って戦っていたのだから根性はあるのだろう。褒めないけど。

「……」

 右腕を動かし、驚いた顔でこちらを見ている酉居君。

「礼もないとはね。礼儀作法も知らぬと言われたけれど、どちらが無作法者なのかしら?」

 華琳に言われて、ついに酉居君が頭を下げた。無言なのは彼の意地か。

 そこへ、彼女が現れた。

 

「これは一体何事ですか!」

 眼鏡で巨乳の緩そうな雰囲気の女性は、しかし怒りを露にしている。

「……転校生のテストです」

「酉居君? 血塗れじゃないですか! これがテストだと言うのですか。私は校長代理として、学園秩序を預かる者として、このような乱暴者の入学を絶対に許すわけにはいきません」

 まるで今、初めて状況を知ったようなことを言っているけど、ずっと見ていて出るタイミングを見計らっていたんだろうな。

 

「あら? 校長代理は飛鳥鼎と聞いたのだけど?」

 今朝立てた作戦通りに華琳が挑発を始める。

「私が飛鳥鼎です」

「替え玉では話にならないわ。本人を出しなさい!」

 殺気とともに言い放つ我が妻にして美少女覇王。

 思わずびくっとなってから、詠美ちゃんが飛鳥鼎(仮)に質問する。

「飛鳥先生、ですよね?」

「ええ。あなたまで私を疑うの?」

 目をうるうるさせて怯えた表情。すごい演技だ。

 ビッチだって知らなかったら、嘘だってわかっていても俺の心も揺らされたかもしれない。

 

「彼女の名はエヴァ・ヨーステン。それが私の鑑定結果よ」

 本名までわかっちゃうなんて相変わらず華琳の鑑定・人物はすごい。

 ……変身魔法中の俺の鑑定結果ってどうなっているのか、気になるなあ。

 

「い、一体何のことだか、先生全然分かりませんけど?」

「そう。動いてもいいわよ。手元が狂ってしまうから」

 台詞はさっきの春蘭のにかぶせてるんだろう。華琳の手にはいつのまにか七星剣が握られている。

 華琳が剣を振るうと同時に、飛鳥鼎(仮)がひらりと跳び上がった。

 

「な、なにをするんですか!」

「ずいぶんと身軽なのね。あやうく切り損ねるところだったわ」

「えっ?」

 はらりと、飛鳥鼎(仮)の髪を結わえていたリボンが落ちていく。華琳の狙いは最初からこれだったのだ。

 巨乳眼鏡の髪の色が、羽織の色がみるみる変わっていく。

 金髪の白人女性、それが飛鳥鼎(仮)の正体、エヴァ・ヨーステンである。

 

「おお、もう始まっているようじゃのう」

 登場したのは杖を片手に持つ少女。

「光姫さん……」

 詠美ちゃんに名を呼ばれた彼女は水都(みと)光姫(みつき)。生徒会の副会長相当の副将軍だったけど、イベントで解任された少女。

 つまりは先の副将軍ってやつだ。ご隠居……ある程度の改造が認められているらしい学園の制服が、襟元ぐらいしか残っていない水戸黄門っぽい衣装をしている。

 

「先生、その姿は……」

「くっ、こうなったら……」

 エヴァがなにかをしようとしたが、急にばったりと倒れてしまった。

 その後、かすかに聞こえる寝息。

「ふう。上手くいったか」

 そう。エヴァが寝たのは俺のスリープの魔法のせい。華琳が攻撃した時からこっそり使っていた。

 華琳の挑発は実は目くらましで、本命はこの攻撃だったり。

 これは、戦女神(ワルテナ)に精神攻撃された後、かけられた魔法をラーニングしていたもの。

 魔法使いのスキルはこんなとこでも役に立つもんだから、俺がなかなか卒業できなくて困る。

 レベルはまだ低いけど、レジストに失敗したようであっさり効いてくれてよかった。寝不足だったのかもしれないね。

「いったい何が?」

 あまりの急展開に動揺する詠美ちゃんに光姫ちゃんが説明し、十兵衛が睡眠中のエヴァを縛り上げ、その所持品をチェックしていく。

 

 

 たぶん牢に運ばれていくエヴァにもう一度スリープを重ねがけすると、十兵衛が「あとでまた」とそれだけ言ってエヴァといっしょにいってしまった。

 彼女がいっしょならエヴァが目覚めて暴れてもなんとかなるだろう。ラスボスであるアウトリミット剣魂のキュウビもまだ完成してないはずだし。

 残ったのは詠美ちゃんと黄門少女。

「逃げたり変なことができないように厳重に調べといた方がいい」

「わしは水都光姫。協力に感謝する」

 作戦が成功した安心感から、出された手に思わず握手してしまった。

 今朝方、柔志郎に注意したばかりだというのに!

 

 一瞬で周りにはなにもない、見慣れた風景。

「やっぱりか……」

 思わず大きくため息。

 一方、光姫ちゃんの方は目を輝かせて辺りを見回しておる。もしかして狙っていた?

「おお、本当になにもないのう。ここが十兵衛の言っておった契約空間か」

「……そうだよ。十兵衛に相談されなかったか?」

「人間を止めれば、妖怪変化と戦えるようになるという話じゃな」

 ……妖怪変化って、どんな説明をしたんだろう?

 間違ってはいないけどさ。

 

「わしにもそのファミリアになる資格があったとはのう」

 この分だと、あっぱれの主要登場人物のほとんどにその資格があるかもしれない。

 迂闊に触れないように注意しないと。

「でも、君をファミリアにするわけにいかない」

「ほう。なぜじゃ?」

「徳河家の血筋だから。これからのニホンに君は必要なんでしょ」

 甲級3年という最上級生のわりに、低い身長、小さい胸の俺好みのロリっ娘な光姫ちゃん。それだけに、非常に惜しい気もするけどさ。

 

「ずいぶんとかってくれとるのう。じゃが、わしはファミリアにしてもらいたい」

「……理由を聞いてもいいかい?」

 聞いたら断れなくなるかもしれないけど、聞かなかったらもっと断れない雰囲気だ。

「あやつには世話になっておるからのう」

「あやつって……十兵衛?」

「うむ。わしの友じゃ」

 くっ。友情か。俺ってそれにも弱いのよ。友達少ないから余計に。

 もう会うことはないだろうけど、あいつら元気かなあ。俺の結婚式には絶対行くって言ってくれてたのに……。

 

「エヴァのことが解決したら、あやつはファミリアになることを絶対に諦めぬ。ならば、わしも共に戦うというのが当然じゃろう?」

 こんなに小さいのにそこまでの覚悟を……。

 美しい友情におじさん思わず泣いちゃいそうになってしまう。……幼くなっていなかったら確実に泣いてたな。年を食うと涙腺緩くなるって言うし。

「……それこそ彼女としっかり話し合ってくれ。今回は契約しないからね」

「しかたないのう」

 やっと、契約空間(コントラクトスペース)から現実世界へと戻る俺たち。俺は光姫ちゃんの小さな手と握手したままだった。

 

「ふふ。色よい返事を待っておるぞ」

「今はまず人質の救助しようか」

 問題は先送りにしておこう。

 2人はもう覚悟決めちゃっているっぽいけどさ。

 

「人質?」

「そう。前生徒大将軍と行方不明の科学者たち」

 本当は科学者の方は違うけどね。

「うむ。頼まれた者たちは連れてきておる」

 十兵衛にメールしたんだけど、光姫ちゃんにもちゃんと連絡はいったらしい。

 彼女の合図で2人の少女が連れてこられた。

 

「あに……前生徒大将軍、徳河吉彦が見つかるってのは、本当か?」

 鬼島(きしま)桃子(ももこ)。双子を嫌う徳河の風習によって産まれてすぐに養子に出された吉彦の双子の妹。怪力で褐色巨乳。

「兄さんを探せるというのは……君ですか?」

 五十嵐(いがらし)(あや)。行方不明となってしまった兄を探すため、生徒でないにもかかわらず、学園島に潜りこんだ三度笠の渡世人少女。

 2人とも俺を見て半分ガッカリした表情なのは、この幼い姿のせいかな?

 

「うん。早速探すよ。怪しいのはあのタワーの付近だったよね?」

 城の隣に立つスカイタワーを指差し、そこへ移動する。

「スカイツリーより先にパチもんの方にくるとはね」

 苦笑する梓。

「スカイツリーの方もそのうち行くのだ」

 うん。行くことになるかもしれないね。

 ……修学旅行生とかのゾンビがいるんだろうなあ。気が重い。

 

「この辺でいいか。華琳とレーティアは前生徒大将軍を探知(サーチ)してくれ。桃子が双子の妹だから反応はかなり近いはずだ」

「な、なんでそれを!?」

「それは秘密です」

 いっぺん言ってみたかったんだよね、これ。

 驚いた表情の褐色おっぱいと詠美ちゃん。そうか、詠美ちゃんはまだ知らなかったんだっけ。

 

「俺は君のお兄さんを探すから、動かないでね」

 触っちゃうとまた契約空間に行きそうだからね。

「こ、これ、写真です!」

 文に触れないように気を使って写真を受け取り、探知開始。

 本当はこの2人いなくても見つけられそうな気もするけど、この際いっしょに問題をクリアしちゃおうって作戦。

 

「……反応あったよ」

「こっちもだ。場所は……」

 俺、華琳、レーティアの3人はスカイタワーの地下を指差した。

「ずいぶんとあっさり見つかるものじゃな。地下の構造に詳しい者を連れてこよう」

 地下か。俺たちだけだったらダンジョン攻略っぽいのかな。

 

 

「おや。これからだというのに、もう見つかってしまったのかい?」

「兄さん!」

 スカイタワーの地下、ドーム球場ほどの広大な空間に彼らはいた。

 かたや拘束された長髪眼鏡、かたや長髪眼鏡から繋がったケーブルの先で作業していた白衣の眼鏡たち。

「兄貴っ!!」

 長髪眼鏡に桃子が駆け寄っていく。

 拘束していたケーブル類を力任せに引きちぎって解放された兄を抱きしめる。

 

 感動の再会のむこうで、こっちは微妙な兄妹。

「まだデータも取ってないのだが」

「兄さん、こんなことは止めて下さい」

「技術の進歩発展を邪魔してはいけないよ」

 ああ。文の兄、光臣はこんなタイプだったっけ。

 マッドサイエンティストというか、自分勝手な男だ。

 

「君の雇い主は捕まったよ」

「それは残念ですね。俺の能力を把握してくれた人だったのに」

 把握、ね。

「……ふむ。つまらない男ね」

「いきなり無礼な女だな」

「私ならお前をあの女以上に使ってやることができる。でも、いらないわ」

 華琳はあっぱれのプレイ中も光臣に文句言ってたもんなあ。

 レーティアも同意してたのには驚いたけど。……彼女もマッド寄りではあるけど、研究と国民だったら国民の方に比重を置くタイプだから当然といえば当然か。

 

「研究が第一で、完成品がどう使われるのかは二の次。それでは到底、初代の技術力を追い越せないでしょうね」

「なにを言っている」

「剣魂の開発者は何重にもセキュリティを施した。それは使う未来像が明確にあってのこと。あなたたちにはそれがないわ」

 ファンディスクの方にもそんな話があったな。プレイしてないのにそれに気づくなんて華琳すごすぎ。

 隣でレーティアもうんうん頷いてるし。

「だいたいだな、コアに人間を使うのはよくないぞ」

 コアに人間、というワードは大帝国だとダークなルートが開かれちゃうもんなあ。そりゃレーティアも嫌うわ。

 

「とにかく強いのを作りたいってのは、男だからわからないでもないけどね」

 ぼくの考えた最強のってのは、男のロマンの1つだよね。

「知ったようなことを言う」

「彼が兄さんを見つけてくれたんです。あまり失礼なことを言わないで下さい」

 文もこんな面倒な兄がいて大変だねえ。

 もうちょいマシだったら彼こそファミリアにほしかったかもしれないけど、あの性格じゃなあ。

 眼鏡フェチの柔志郎でさえ、スカウトする気なさそうだし。

「せっかくの眼鏡男子が両方不可とか、もったいないッスねえ」

 光臣が女だったら俺はスカウトしたかな? ……近いのがこの学園にいたっけ。そっちはロリなんだけどねえ。

 

 

 行方不明者を地上に連れて行き、違法剣魂の開発チームはお縄となった。

 前生徒大将軍は病院へ。

 俺たちは屋敷へ。

「なんか疲れたな」

 主に精神的に。

「これでこの島の騒乱の元は絶たれたのかしら?」

「残るは由比雪那かな? もう反乱終わってるかもしれないけど」

 どこまで進んでいたかは情報収集しないと。

 まあ、エヴァや光臣が捕まったんだし、そう大きな騒ぎにもならないだろう。

 

「とにかく、屋敷の掃除のためにも人手がほしいし、みんなを元に戻そう」

 そのためにここにきたんだもんね。

 屋敷にマーキングしてから、拠点へポータルを開きゲートを使って4面本拠地(アパート)へと戻る。

 ぬいぐるみを回収して、再び屋敷へ。

 最初っから持ってきてなかったのは用心のため。二度手間になっちゃったけどなにかあってからでは困るからね。

 

「全員いっぺんだと、さすがに部屋が大変だからまずは魏軍からいこう」

 畳の上に恋姫ぬいぐるみを並べていく。宣言通り魏のキャラだけだ。

 智子たちは部屋が狭くなるからと別室へ移動してくれた。

 そして成現。

 人数が多いけど、問題なく成功した。

「戻った?」

「やった! 動ける!」

「華琳さまぁ!」

 元の姿に戻った少女たち。若干1名、なによりも先に人妻に抱きつくことを選んだ不届き者もいたが。

 

「よくぞ戻ってくれたわ、みんな」

「華琳さまのおかげです!」

「いいえ、煌一の、私の夫の力よ」

 華琳がそう言ってくれるなんて嬉しいなあ。……問題はこの後なんだろうけどさ。

 

「兄ちゃん、ありがとう!」

「こら、季衣、華琳さまの旦那様よ。……ありがとうございます」

 身構えていた俺に先制攻撃をくれたのは許緒と典韋のロリ将軍2人。

 反対されるかと思っていたのにいきなりお礼とはやってくれる。……そうか、兄ちゃんか。若くなってよかったなあ。

 

「凪ちゃんのお肌が本当に綺麗になってるの。よかったの!」

「ほんまや。よかったなあ」

 凪の治療を喜んでいる于禁と李典。

「ありがとうなの! できれば沙和のそばかすも消してほしいの!」

「あんたには感謝しとる。ありがとなあ」

 

「やっぱ動けるってええなあ。礼言うわ」

 フランクなのは張遼。

 

「おう、礼を言うぜ坊主」

「宝譿、中身はおじさんなんですから坊主はあんまりなのですよ」

「言ってるのはあなたでしょうに。天井殿、ありがとうございます」

 これは郭嘉と程昱か。

 宝譿はやっぱり腹話術なのかな?

 

「ありがとう。お礼に1曲歌ってあげるね」

「姉さんが歌いたいだけでしょ」

「それはまたあとにしましょう。ありがとうございます」

 張角、張宝、張梁の3姉妹。歌は聴きたいんで是非歌って下さい。

 

「姉者、本当に目が?」

「ああ。生えてきたのだ!」

 夏侯淵も姉の治療を喜んでくれた。

「姉者の治療、心より感謝する」

 

 そして、春蘭と並んで心配だった荀彧はいまだ華琳にひっついたままだ。

「桂花、あなたはお礼も言えないのかしら?」

「か、華琳さま!」

 慌てて荀彧が華琳から離れ、こちらを向いた。

「礼を言うわ。だから、華琳さまと別れなさい!」

 ……やっぱりか。

 

「そうです華琳さま、みんなが元に戻ったんです。もはやこいつは用済みのはずです」

 春蘭までが当然のように乗っかるし。

「春蘭、元に戻っていられる時間には限りがあると説明したでしょう」

 時間制限なくなっちゃったら別れるの? そんなことないよね……。

 離すつもりなんて絶対にないし!

 

「ですが! 華琳さまの夫に相応しいとはとても思えません!」

 指差して言うな。

 悪かったな、相応しく見えなくて。そんなの俺が一番よくわかってるっての!

「だいたい眼鏡を取ったら呪われるというのがおかしいのだ。そう言って華琳さまをだましたのだろう!」

 俺を指差した手がいきなり、俺の眼鏡に伸びてきた。

 幼くなったことで少し大きめになっていた俺の加護(のろい)封じのアイテムはあっさりと奪われてしまう。

 

「あ」

 慌てて顔を隠すが時既に遅し。

 俺の呪顔はこの部屋にいた全員に見られてしまった。

 即座に上がる悲鳴。

 

「な、なんなのその顔!」

「華琳さま、別れるべきです」

「気持ち悪い……」

 まただ……。

 こんなことなら、みんなよりも先に今のサイズにあった眼鏡を成現しておくんだった。

 

「ふざけるなっ!」

 梓の一喝で部屋が静まり返る。

「返せよ……ほら、煌一」

 春蘭から取り返して、眼鏡を俺にかけてくれる梓。

 

「貴様ら、呪いにかかってしまったのだから気持ちはわかるが、恩人相手にその態度はどうかと思うのだ」

「あの顔にショックが大きいのはあたしたちも経験済みよ。まずは落ち着きなさい」

 クランとヨーコがみんなを説得してくれる。

 

「た、隊長は私の傷跡を治してくれました。例えどんな顔だろうと私は……」

 青い顔であぶら汗を流しながらもそう言ってくれる凪。

 やばい、俺泣きそうかも。

 

「これはやはりあの手段しかなさそうだな」

「ええ、それしかないようね」

 レーティア、華琳、あの手段って?

 ……まさか。

 

「みんなにも煌一と結婚してもらうわ」

 やっぱりか!

 嬉しくないっていったら嘘になるけどさ、これはちょっと多すぎなんじゃない?

 

 


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