あの後、マーキュリーのポケコン操作に言い出しにくかったヨーコが、ライフルのスコープを使用した。
「やっぱり車が動いているわね。道路を何台も走っているわ」
「生きてる人がいるのかな? それともスケルトン?」
「さすがにスケルトンは運転はせんじゃろ?」
そこまでは賢くないのか。
ということはゾンビになってない人間がいるってことだ。
「生きてる人がいそうでよかった。原発とか管理する人が全滅してたら大変だろうし」
いくら稼動してなくても放置してたらやばそう。
まあ、放射線の耐性スキルを入手してないから大丈夫だとは思うけどね。
「どれぐらい生き残っているんだろう?」
「それはわからない」
この近所だけがゾンビタウン化したから隔離してるのだろうか?
もしそうなら、人間もそれなりにいるはず。
……隔離されてたら出るのも大変か。
イナズマポータルしかないかな。
「夜のスカイツリーもライトアップしてなかったんだよね?」
「そうッス。夜は真っ暗闇ッス。まあ、夜はほとんど安全な場所を探して休んでいたッスけど」
「アンデッドは夜の方が活発ぜよ」
なるほど。遠くの明かりなんて気にしてなかったと。そんな余裕なかったろうし、当然か。
「今見たらビニフォンで位置情報確認できたわ。GPS衛星は生きてるらしいで」
コンカのマップ機能ばっかりで、そっちは試してなかったっけ。
「衛星か。もしかしたら俺たちも監視されてたりして」
有名なゾンビ映画の続編でそんなのあったし。
屋上でのんきに会話なんかしてたら見られてるかな?
「それは大丈夫だろう。隠形のスキルを使用中は、カメラには写り難い」
レーティアが教えてくれた。
ビニフォンのカメラで仲間を写そうとしたら撮れなかったので調べてみたら、感知や探知系のスキルで相殺しないとカメラでの撮影はできないとのこと。
「ふうん、スキルを使えばカメラで撮影はできるのか」
ディスクロンたちにサーチ系のスキルを上げて貰わないと盗撮はかなわないのか。
いや、夫婦なんだから頼めば撮影させてくれないかな?
……俺ってば華琳と一線を――いや、半線ぐらい? 超えちゃったから気が大きくなっているのかもしれない。
「ともかく、見つかりにくいのなら夜まで待たないでもいいわ。イナズマに偵察してもらいましょう」
華琳の提案でふと気づいたので聞いてみる。
「イナズマってビニフォンのカメラ使える?」
「ガァァ」
「がおがお」
「使えるって言ってるぜよ」
頷いてくれれば通訳はいらないんだけど。
けど、その
「試してもらっていい?」
結果は成功だった。
イナズマは鳥足で器用にビニフォンを持ち、レンズをこちらに向けて……そのままパシャリとシャッターを切ってしまった。
持っただけで操作はしてなかったが、よく考えればビニフォンにはコンカ機能も統合している。
思考操作でカメラ機能を呼び出し、シャッターまで操作したのだろう。一応イナズマを一時的な持ち主として仮登録してあるとはいえ、ここまで使いこなすなんて。
「イナズマ凄い」
「これはあとでちゃんと専用のビニフォン作ってあげないといけないな。カシオペアにも首輪型のとかいいかも」
「そうッスねえ。人のいるとこに連れてくなら首輪がいるっすね」
首輪とリードをつければたぶんみんな犬と思ってくれるだろう。
「ガウッ」
「がおがお?」
「ガウガウッ」
「ガァァ」
カシオペアとイナズマ、それにセイバーライオンが会話してる。
ガァガウがおと聞き分ける方も大変だ。
「なんて言ってるの?」
「首輪つけて犬扱いすんならドッグフード欲しい言うてるわ」
狼としての誇りってないの?
ハッハッハッと涎垂らしているのを見るとそんなものは重要じゃなさそう。
「ドッグフードってあげたことあるの?」
「はいッス。拠点捜索中に缶詰のやつをよくあげたッス」
「ありゃ美味そうじゃった。ワシもちいと欲しかったぜよ」
……ホントにこれ、神様?
2メートル越えの巨体の両肩をがしっと掴んで説得する。
もしくは説教。
「頼むからそんなことは言わないでくれ。ろくな物を食べさせてないみたいでしょ!」
「わ、わかったぜよ」
まったくもう。
「ふむ、煌一もそんな顔するのね」
「え?」
「ちょっと怖かったぞ」
むう。
これではまるでオカンの躾っぽくはなかろうか?
俺のポジションっていったい……。
悩む俺を置いて、イナズマは偵察へと向かっていった。
俺たちはスキルで鍵を開けてマンション内へ。
ポータルで図書館へ行ってもよかったのだが、剣士がワープするとイナズマもついてきてしまうので断念。
持ち主のゾンビは留守だったが、さすがに最上階の部屋は立派だった。
「連絡くる前に現金を探すッス」
「……ますます火事場泥棒じみてきたな」
いや、人のいるところに行くことになるのなら現金は必要だろうけどさ。
「こんな所に住んでるだけあって、けっこう持ってたッスねえ」
見つけた現金を数えている柔志郎。台詞だけ聞くと完全に悪党。
「探知して金庫見つけて、スキルで鍵開け。これって間違いなく犯罪じゃね?」
まあ、今までも盗難だけじゃなくて不法侵入や器物破損他やってるけどさ。
「お父さんは真面目すぎや。今は非常時や、そんなこと言うてる場合と違うやろ」
「……言ってみただけだって」
娘に言い聞かされてしまった。ここは割り切るしかなさそうだ。
「ワシらは人間の法律では裁けんぜよ」
「それってさ、人間として法律に守られてないってことなんだよ」
いきなり撃たれたりしなきゃいいなあ。
なんか知らない人と会うことになりそうって不安になってきた。ヒキコモリやってたから、対人スキル低いしなあ。
メールの着信音がライオンセイバーのビニフォンから鳴り響いた。
「がお!」
「お、イナズマから連絡きたらしいぜよ」
メールに添付された画像をみんなで見る。
「バリケード?」
ゾンビの進入を防ぐ目的なのかそれらしきものが築かれていた。
建材っぽいものも混じっているので急ごしらえにも見える。
そして側には銃を持った自衛隊員らしき人たち。
数枚見ていくと監視カメラも写っていた。
「こっちに攻めてくるっていうより、むこうを守っているのかな?」
「そうだな。あれならゾンビは越えられまい」
ゾンビだけじゃなくて俺たちも苦労しそう。
「イナズマの位置は?」
「……県境の付近やな。もう千葉県には入っとるようやけど」
コンカの時点であった機能らしいけど、味方の位置情報がマップ表示できるのは助かる。
「もっと普通の人のいそうな所に行ってもらえないかな」
さっきの話じゃないが、こんな最前線な感じの場所に行ってもいきなり撃たれそうで怖い。
「がお」
セイバーライオンが剣士のファミリアになったのは、思った以上に上手い組み合わせだったのかもしれない。電話中の獅子騎士王を見てそう思った。
あとは後衛だろう。剣士は動物ばかりほしがるけど、もう自分でなんとかしてくれるかな。
柔志郎の方は娘もいるから、追加を考えないでもないけどさ。
それからイナズマから次の情報がくるまで、さっきの画像を見たり、入手した現金を調べたりして待つ。
「やっぱりニホン銀行券になってるな」
ここは日本じゃなくてニホンってことになる。
手持ちの日本円を出さない方がよさそうだ。偽札扱いされるだろう。
まあ、財布ごとサイコロ世界に置いてきてるけどさ。
「やっぱり異世界なんスねえ」
「俺たちんとこがゾンビ世界になったわけじゃないって確信できてちょっとほっとした」
「そうッスね」
柔志郎は元の世界に戻りたいって思わないのかな?
……聞けないか。戻りたくても戻れそうにないし。
使徒なんかにされて人間じゃなくなっちゃったし。
次にイナズマから送られてきた画像には普通の街並みが写っていた。道行く人も一般人っぽい。
「ここならいいかな?」
「いいッスね。駅もあるッス」
「人がいる駅でも拠点になるのかな?」
「だいじょうぶじゃろ」
ううん、この駄神の言うことはイマイチあてにならないんだけど。
「駅として使えなくなったら困るッスよ。普通の人も入れるッスか?」
「たぶんだいじょうぶぜよ。ワシのとこの拠点じゃって、普通に人は出入りしちょるぜよ」
ならいいかな?
「イナズマに人気のなさそうな安全そうな場所を探してもらって、そこにポータルを開けてもらおう」
「イナズマワープッスね!」
剣士が上手く使えてなかっただけで、航空戦力ってのは便利すぎる。
ディスクロン部隊もみんなに紹介してもっと活躍してもらうべきか?
……いや、盗撮の可能性は残しておこう。
「そ、それぜよ!」
突然剣士が叫んだ。
「よう考えたらイナズマのポータルで大魔王の城に行けるぜよ!」
ああ、やっと自分のファミリアの有効さに気づいたか。
って大魔王の城?
なんかすごいラスボス臭がする地名なんだけど。
「これでやっと大魔王が倒せるぜよ!」
「大魔王って、剣士の担当の世界はそんなのがいんの?」
「そうぜよ。あと少しで救済が終わるはずなんじゃが、大魔王の城がある島にたどり着けなくてのう。もう見えてるのに、船がないんじゃ」
「見えてるぐらい近いんじゃ泳いでいけば?」
「なにを言うとるんじゃ? 人は泳ぐようにできとらんぜよ」
……カナヅチなの?
というか人じゃないでしょ。
「いや、スキルとれば泳げるだろう?」
「無理じゃ無理。そんなことは絶対にできんのじゃ!」
……この駄神め。
水が苦手なの?
「イナズマに行かそうとするぐらいなら、飛んで行けば?」
「ワシ飛べんぜよ」
「神様なのに?」
「本体とは違うぜよ。飛行アイテムや飛行モンスターを使うのかとも思うたんじゃがのう、イナズマではまだワシは運べんのぜよ」
まだ、っていつかは運んでもらうつもりか? その2メートルの巨体を。ワイバーンでも捕まえなさいって。
飛行アイテムだとできそうなのは気球か飛行船か。
「飛ぶ必要はないか。距離にもよるけど、ボートぐらいならこの辺でも見つかるんじゃない?」
「あんまし大きいもんはまだスタッシュにおさまらんぜよ」
それもそうか。
俺のだってだいぶ広がったけど車はちょっと無理だし、6人分の共有スタッシュでやっと普通自動車が入るかどうかだと思う。あとで試そう。
「剣士の担当の世界ってどんなの?」
「普通ぜよ。初心者向きによくあるパターンの世界ぜよ」
「それじゃわからないッスよ」
まったくだ。神の常識で普通と言われても困る。
「ええと……文明はこっちほど発展はしておらんぜよ。あとは魔法があって、普通にモンスターがいる普通の世界ぜよ」
「よくあるゲームの世界っぽい?」
梓の意見に頷きたいとこだけど、情報が少なすぎる。
「大魔王っていうのは?」
大魔王ってぐらいだから下に魔王がいたりするのかも。
「たぶん魔族ぜよ。何十年か前に代替わりしたらしいがようわからん」
「わからん、って。人間の国を攻めたりとかしてるの?」
「先代はそんなことをしておったらしいが、詳しいことは知らんぜよ。今の大魔王はたまに若い娘を浚うぐらいぜよ」
……なんだかずいぶんとスケールの小さい大魔王のような。
いや、若い娘を浚うのは許せないけどさ。
「許せないわね」
華琳も俺と同意見のようだ。
うん、通じ合ってるね俺たち。繋がっただけはあるね!
「なぜもっと早く言わなかったのかしら?」
「も、もう少しで倒せると思うちょったんじゃ!」
華琳の迫力に気圧されてる剣士に大魔王が倒せるのだろうか?
ちょっと不安だ。
「アニキも手伝ってあげてほしーッス」
「柔志郎?」
「このアホだけじゃ大魔王を倒すのは無理そうッス」
「なんじゃと!」
うん。柔志郎は剣士には厳しいな。……心配してるのか。
やっぱり仲いいな。
「アニキたちのおかげでこっちはだいぶ進んだと思うッス。しばらくは情報収集するんでオレと智子ちゃんでだいじょうぶッス」
「ガウ!」
ドッグフード所望中の狼が抗議する。
「もちろんカシオペアの鼻も頼りにしてるッスよ」
頼りにされて尻尾をふりふり。嬉しそうだ。
やっぱり犬で通用するな、これ。
「ワシは?」
「剣士はいいッス。邪魔ッス」
そんな邪険にしなくても。
ほら、肩を落としちゃったってば。
「剣士はでかいし、そのカッコじゃ目立ちすぎるッス」
「このカッコはワシのポリシーぜよ!」
ファッションバンカラのくせに。
「それにセイバーライオンちゃんも、イナズマもかなり目立つッス。情報収集には向いてないッス」
言われて見ればたしかに。
セイバーライオンだけじゃなくて、オレの嫁さんたちも目立つな。衣装を変えてもファンならわかりそう。
「あ、でもそれなら2人も目立つんじゃないか? 美少女が2人もいたら」
「オレは美少女って歳じゃないッス」
見た目は中学生なのになあ。
あ、ナンパされるのが嫌でこんな口調なのかも?
「私も平気や」
そうかなあ。いくら古いとはいえ、智子も人気なんだけど。
それにゲームの方でもしつこく言い寄られてなかったっけ?
「カシオペア、2人のこと頼むな」
「ガゥ」
両さんに聞いた情報で、こっちでちょっとした任務中のディスクロン部隊も呼び出してつけた方がいいかもしれない。
「がおがお!」
「うん。ここならよさそうだ」
送られた画像を見て安全そうと判断し、カードでポータルを開けてもらった。
今後のことを考えたらイナズマにもポータルのスキルを覚えてもらった方がいいんじゃないかな。GPを消費しても結果的にはカードを買うのより安くすむだろう。
「あんまり無理しないように」
「お父さんは心配性やなあ」
「カシオペアはまだ首輪用意してないから、こっちで留守番ッス」
項垂れる狼犬。あとでいい首輪作ってやるからな。
「夜にはちゃんと戻ってくるんだよ」
「行ってきます」
2人を見送った後、俺のポータルで亀有のデパートに移動する。
まだカードのマーキングは生きていた。剣士がワープするとイナズマもついてくる。その顔はどこか得意気に見えた。
マーキングのスキルも気づけば1レベルで入手している。さっきの図書館でのカードの使用で覚えたらしい。
これでかなりワープしやすくなった。問題は俺のワープに小隊のみんながついてきちゃうこと。
奥さんたちから隠れてこっそりな活動にはポータルは使えないんだよね。
デパートでは犬用の首輪やリード他を探す。探知を使うとすぐに見つかった。サイコロ世界への入荷用も考えてあるだけ持っていく。
ついでに犬缶や猫缶もスタッシュに放り込む。
「ここの電気店もよっていこう」
ビニフォン用のスマホや小型カメラも手に入れないと。
ゾンビがこちらに気づく前にアイテム入手、移動を繰り返す。
遺体の処理がなんとかできれば倒すんだけど。
「録画用のディスクはこれでいいんじゃろうか?」
「そっちはデータ用だって」
剣士に録画を教えたのは間違いだったかな?
いや、教えたっていってもまだ操作を覚えてなくて、俺に録画の設定を頼みにくるんだけどさ。
メモリやデジカメ、プリンタにインク等もスタッシュに。
「後は両さん用に机と椅子と」
適当に詰め込んでいったらスタッシュがいっぱいになってしまった。
「最後に車を試そう」
「ついに自動車か」
「ワシも運転してみたいぜよ」
下駄じゃ無理だって。
俺たちはデパートの駐車場でゾンビのいない軽自動車を選び、小隊の共有スタッシュに入れた。
「……入った」
「これでGPが稼げるな」
うん。華琳の仲間の救出も進みそうだ。
俺の作業があるので、髑髏小隊は先にサイコロ世界へと戻ることにする。
剣士はカシオペアを1人残すのは可哀想じゃから残ると言う。
ちょっと見直す。
が、その後の台詞がいけなかった。
「図書館で漫画見るから、ポータル開けてくれぜよ」
なんかそっちの方が目的っぽい。
「剣士かイナズマもポータルのスキル取るように」
「煌一さんのがあれば十分ぜよ」
「イナズマがポータル使えれば、移動がすごい楽になるだろ」
「そうじゃなあ。……お、もう0レベルで入手してるぜよ。最近煌一さんのポータルで移動しまくってるのが効いているんじゃろか?」
たしかに俺がポータルのスキルを入手したのもポータルを利用してたからみたいだし、そういうのもあるかもしれない。
0レベルでは使えないけど、1レベルにするのにそれほどGPはかかるまい。
「今回は開けてやるけど、後でちゃんとスキル取っておくように」
「ラジャーぜよ」
どこで覚えたんだろう、変な敬礼を返す剣士に呆れながら俺たちはゲートへと戻った。
「スタッシュに入りきる量でよかったな。剣士が帰ってくるまでポータル使えないから」
ポータルは1人1つまでしか同時に使えない。
俺のポータルのスキルは使いまくっているので、熟練度が貯まって3レベルにまで上がっているけど、持続時間が延びただけで同時展開数は増えてない。
これとマーキングのスキルのレベルが両方高レベルになったら、マーキングなしでも一度いったことのある場所ならポータルで行けるようになると予想、というか願っているのだが。
徒歩で百貨店へ行き、サービスセンターで買取り用紙をもらって皆で記入。
自動車は車種と年式、それに中古で鍵なしと記入した。それでもかなりの高額だった。
「鍵付きだったらいくらになるかな?」
「探知で鍵を持ってるゾンビを探せばよかったんじゃないか?」
「それも考えたんだけど、かんっぺきに強盗っぽい」
魔法で鍵なら開くんだけど、エンジンの点火もそれでするっていうのはやりにくそう。
解錠・物理スキルのレベル上げたら合鍵作れたりしないだろうか?
「鍵のとこだけ別パーツにしてみるか?」
「そんなことできるの?」
「工具と材料があれば」
頼もしいなレーティア。
明日は工作機械を探すかな? 剣士の大魔王退治は1日待ってもらって。
でも世界を救済した方がGPやGMが大量に入手できるんだっけ。
工作作業のための研究所の設置もあるし、先に大魔王を倒すことになるのか。
ビニフォンの追加ロットや、ビニフォン機能付きの首輪、その他思いついたアイテムを適当に成現して、両さんに会う。
「おお、デスクと椅子は助かる」
両さん銅像の側に他の銅像も並べていたが、他の人たちは現れていない。
失敗したけれど、成現を行うことが契約空間もどきに入る条件なのかも。
「なるほど。千葉は無事か」
「たぶんですけどね」
梓が用意してくれた弁当をかっこみながらの両さん。
「それで、大魔王? そんなもん戦車でイチコロだろ」
戦車にこだわるなあ。よっぽど好きなんだろう。
「けど、海の向こうらしくて」
「ならば戦艦だな」
「さすがにMPが足りないってば」
ん? 艦娘なら海を渡れるかな?
フィギュア持ってないけど軍艦のプラモからチャレンジしてみる?
「で、銃か」
「ええ。両さんに教えてもらったとこで入手してきたんですけど……」
スタッシュからモデルガンやエアガンを取り出し両さんに見せる。
ディテールアップや使用方法で両さんと盛り上がって、起こされた時にはもう夕飯が出来上がっていた。
……今日は俺も作ろうと思ったんだけどな。
柔志郎たちもちゃんと戻ってきていたのでほっとした。
土産にケーキを買ってきたのはさすが女の子といったところか。
ただ、かなり高価だったらしい。
「1年ぐらい前から各国の大都市がいきなりゾンビタウンになるようになったらしいッス」
「大都市って、東京も?」
「そうや。んで、東京やのうてトウキョウ言うらしいで」
むう。駅名はカタカナだったっけ? それどころじゃなくてよく見てなかったな。
食事を取りながら情報収集するも、短い時間ではトウキョウがゾンビタウンになってしまって、ニホンが大変になってしまったこと。
ニホンだけじゃなくて外国も混乱してるので先行きが不安なことぐらいしかわからなかったという。
「明日はもう少し調べてくるッス」
「あ、首輪とリードとか用意したからカシオペアも連れて行ってあげて」
「助かるッス。あと、拠点も見つけたッス。千葉駅ッス」
ええと……どんな駅だっけ?
千葉でわかるのって海浜幕張か幕張本郷ぐらいなんだよなあ。
「魔法陣も普通の人には見えないみたいッス」
「ふうん。駅だと、カシオペアはペットキャリーに入れていった方がいいかな? 一応、そっちも持ってきたし」
「さすがアニキッス」
隠形使って入れば気にされないかもしれないけど、念のため、ね。
食後はこのところずっと観てるグレンラガンのDVD。
ついに最終回。これが終わったらマクロスを見るかな。
その前に劇場版があったか。
夜、203号室にきてくれたのはヨーコ。
「あたしの当番の時に最終回って狙ってなかった?」
……実は狙ってました。
前回、ヨーコ当番の翌日にグレンラガン観てその時に「今日だったら流されてオッケーしちゃったかも」って言われてから計算してました。
順番はわからなかったけど、人数はわかってるから次の当番はたぶん今日だって予想して。
「いいよ」
「え?」
いい、ってもしかして?
「なんか大魔王と戦うって言うしさ、約束だけして先に延ばすとあたしのスキル発動するかもしれないし……」
「ヨーコ!」
最終回観たのが効いたのかも。
嬉しくてヨーコに抱きつく。
「け、けど、その……」
どんどん小声になっていく。それに反して顔の赤は濃くなっていくヨーコ。
「……り……だから」
「え?」
ごめん、よく聞こえなかった。
「だあからぁ! お尻までだからって言ってんの!」
「お尻だけ?」
「そう。あんたの魔法使いがなくなんないように、って華琳と約束したの! だから今日はお尻まで!」
ああ、そういうことか。
俺はそれでも全然オッケー!
「いいの?」
「……うん」
また小声で。
「やさしく……してよ」
なんて言われちゃったよ。
ヨーコ、ごめんなさい。
当然のようにまた俺が張り切っちゃって、回復魔法の熟練度を貯めてしまいました。
お尻、すごくよかったです。
サブタイトルは英訳すると本当の意味がわかるかも?