真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

132 / 137
131話 美羽2

 大江戸学園祭。

 柔志郎担当のこの世界を構成している『あっぱれ! 天下御免』。

 それのファンディスク『あっぱれ! 天下御免[祭]』の時期になったということである。

 

 もっとも、俺たちのせいで外部からのお客さんは厳重にチェックされたり、ファンディスクのイベントが元から潰されたりしてるわけだが。

 諸悪の根源である一條三真もこないしね。

 

「輝も酉居と組んで長屋に迷惑かけたりしないように」

「おいら今はいいもんだからねえ、そんなことはしないさ」

 ちょい不安だが、ヴェルンド工房で完成した融合炉をモノにしようと躍起になって取り組んでいるから、学園祭の間はだいじょうぶかな。マスコミの相手もまかせてるんで時間ないだろう。

 

「あまり学生たちを甘やかしてはいかんぞ」

 十兵衛はスパルタだなあ。学園島でトラブルがおきるのがわかっていてもよほどのことがない限り放置して、学生たちに問題解決させて成長を促しているみたいなんだよね。

「俺だって自分たちの身を護る以外のことはするつもりないよ、忙しいんだから。ただ、学園祭の間は特に外国の目が入りやすいんで用心したいだけだって」

 俺たちが住むのに相応しくないって騒いで、自国に取り込むみたいな真似されると面倒だ。

 

 

 

「きちんと分量を計ってレシピどおりにやってください」

 乙級生徒たちを前に朱里ちゃん雛里ちゃんが手順を説明している。

 この生徒たちは夏休みのラジオ体操で知り合った子たちだ。俺の嫁さんたちの公式ファンクラブ第1号らしい。男子生徒だけでなく女子生徒もいる。トウキョウ出身で両親を失っている子も多い。

 学園祭での売り物のために菓子作りを教えてくれと頼まれ、梓がそれを受けてしまったので、こうして料理教室を開催している。

 

「魔奴隷濡? ずいぶんと如何わしい名前の菓子だな」

「マドレーヌだ春蘭。死麗濡みたいな当て字は止めなさい」

 乙級生徒ばかりでなく、嫁さんたちも混じっている。

 ついでに俺も。

 

「型はウチが作ったんや。せやけどなんで貝がらなん?」

「……初めて作った人がホタテの殻使ったって説があるらしいな」

 ビニフォンで調べながら答える。

「へえ、フィナンシェとはちょっと材料が違うのか」

 マドレーヌが全卵、フィナンシェが卵白だけ、らしい。形が違うだけかとずっと思ってたよ。

「フィナンシェって四角いやつだよね?」

「あれは金塊の形だってさ」

「金! ならばそっちの方が私に相応しいのですわ。おーほっほっほ!」

 麗羽まで参加していたのか。

 

「こら、こいつらの売りもん作るんだから勝手に決めんな。最近はフィナンシェの方が多いからな。他にも売るやつもいるだろ。だからあえてマドレーヌにすんだよ」

 そういう計算だったのか、梓。

「こらそこ、レシピどおりって聞いたでしょ。まずはプレーンな生地で作りなさい! アレンジはそのあとよ!」

 結真ちゃんが指差したのは……愛紗か。メシマズ属性持ちとしても有名だけど、愛紗はちゃんと練習すれば上達するんだったな。

 練習してる時間なんてなさそうだけどさ。

 

「凪、そのでっかい一味唐辛子の袋はまさか……?」

「安心して下さい隊長、売り物に使ったりはしませんよ」

 そうだよな、凪は辛いもの好きの激辛党だけど常識人だもんね。

「これは自分用です! 先日八雲堂でいただいたハバネロ煎餅には感動しました。お菓子なのに辛いとは。マドレーヌにもきっと合うはずです」

「俺は煎餅だったら胡椒せんが好きかな」

「人の好みにまで口を出す気はないけれど、食べた時はキスは禁止よ! だいたい唐辛子も胡椒も塗すのにも限度があるでしょう? あれが菓子なんて認めないわ」

 華琳は辛いの苦手だもんなあ。おかげで最近食べてない。ツマミにいいのに。

 

「故障せん、ってのはおいらたち機械屋にはいいねえ」

「そうだな。今度工房の土産に持ってこう」

 きっとツマミにされるけど。ああ、食いたくなってきたなあ。

 

「ボク、おせんべならガッチガチに固いのが好きだよ」

 以前はキャラメルと一緒で虫歯を治療した詰め物が心配で、すごい固いのは避けてたけど、治療ベッドで歯も生えたから今はもう固いのも平気なんだよね。

「あれはあとでアゴ痛くなるのだ」

 それは食べすぎたせいじゃない?

 

「なんだよ鈴々、アゴが痛くなるまでアニキのを咥えていたのか?」

「こら、乙級生徒(ちっちゃいこ)がいるんだ、シモネタ禁止!」

 猪々子を軽く小突く。その上よく見ると猪々子が用意したのは菓子にはむきそうにないネタ系のものばかり。

「青汁はともかく八目鰻やマムシの粉末なんてどこで買ったんだよ」

「だってアニキにもっとがんばってもらおうとさあ」

「そういうのに興味がないわけじゃないけど菓子に入れるもんじゃない。味見は自分でするんだぞ」

 使徒になったせいか、薬効とかすぐに出てくるみたいなんだよね。嫁さんが作ってくれるスタミナ料理だけでも十分なのに、そんなの摂ったら間違いなく夜は眠れなくなる。

 

「ごま煎餅も美味しいです。でも、ごま団子の方が……」

「いや亞莎、今回はマドレーヌだからね?」

「は、はいっ」

 マドレーヌじゃなくてドーナツだったらついでにごま団子も作れたかな?

 

 

 ……結局、嫁さんが試作したほとんどを試食することになった。嫁さんの作ったのを拒否するなんて俺にはできない。

 金粉入りとか、メンマ入りとかちょっと待てってのも多かったけどね。

 

「鑑定の結果、お腹を壊すのはなさそうね」

 真の春蘭の拠点イベントでは、彼女が作った杏仁豆腐で秋蘭と流琉がお腹を痛くした。それもあって、華琳やスキル持ちが鑑定して安全を確認している。

 ……学園島にも保健所ってあるのだろうか?

 

「みんな張り切って作ったからけっこうあるねえ」

「スタッシュに入れとけば傷まないから助かるよ、元々保存は利くみたいだし」

 講師の朱里ちゃん、雛里ちゃんはもちろん、華琳や流琉ちゃんが作ったやつはそれこそ高級店のに匹敵しそうな出来だったけど、俺たちがつくったのは商品にはせず、乙級生徒を含めたみんなで食べることにした。

 世界的に注目されている俺たちが作ったってだけで味に関係なく売れそうで、そんなのは納得いかないという華琳の意見に従ったのと、乙級生徒たちが面倒に巻き込まれるのを防ぐためだ。

 

「梓さんのは俺が!」

 ファンクラブなだけあってお気に入りが作ったマドレーヌを確保するので騒ぐやつもいたが個数を制限したので、まあ乱闘というほどにはならなかった。

 

 ちなみに俺も作ったけどレシピどおりなので、そこそこ普通にできた。変に生焼けや焦げたりしないのはオーブン設定してくれた朱里ちゃんたちのおかげだ。

 なのに乙級生徒たちは1個ももらってくれなかった。

「みんな遠慮してるのですよ」

「慰めてくれてありがとう、風。余ったら工房にでも持っていくよ」

「なに言ってるの? これはお嫁さんたちみんなで分けるのよ」

 え? シャオちゃんこそなに言ってるのさ?

 そう思ってたら嫁さんたちが分配してた。数が足りなかったので半分こにしてまで。

 

「煌一さんに会えない時に。寂しさを紛らわすよう、ゆっくり大事に大事に食べますね」

「る、留守番ばかりさせてごめんね月ちゃん。学園祭はいっしょに楽しもうね!」

 そんなの1口2口だから。すぐに食べ終わっちゃうから! 大事になんて無理だから!

 月ちゃんの瞳のハイライトが一瞬消えたように見えたのは気のせいか? あとでEPを確認してあげないといけないな。

 

 

 

 嫁さんたちとの時間をもっと増やさないと危険かもしれない。いろんな意味で。

 やっぱり分身覚えなきゃいけないかも。騎士技(モータースキル)の残像じゃなくて、ドッペルゲンガーみたいなやつを。

 

 天津飯を成現(リアライズ)して四身の拳を教えてもらうか?

 ……八雲君の額に(ウー)って書かれたりして。

 そう考えると八雲君の剣魂は(イエヤス)なんかよりも土爪(トウチャオ)でしょ。あ、攻撃以外も考えたら走鱗(ツォウリン)の方がいいか。

 

 そんなことを考えながら光臣に会いに行く。

 ファンディスクのイベントをつぶすついでに彼に仕事を発注したのだ。忙しければ犯罪に使う剣魂を作る暇なんてないだろうって。

「はいこれ差し入れ。文の手作りマドレーヌ」

「ほう。貝殻型の甘食だな」

 いや違うから。あんなおっぱい型じゃないから。

 あ、こいつ、おっぱい星人だったっけ。

 

「頼まれたものはできているぞ」

「もう? さすがだね」

 性格はともかく技術はたしかなんだよな。

 ……ファンディスクの悪役があっさりと彼以上の剣魂作成の腕でやっかいなのを作り出すけどさ。しかも短期間で。

 

「ふん。見本があった。それを複製するだけに時間がかかるわけがない」

「とはいってもイレギュラーな剣魂だからね。コピーだって簡単じゃないだろう?」

 だって俺が成現した剣魂だ。しかも能力はたぶん最強クラス。

「外見は多少変わったが問題あるまい」

 発動アイテムらしき懐刀を抜いて、剣魂を召喚する光臣。現れたのは果たして俺の予想通りの存在だった。

 

 体色はほとんど白で一部紫。宇宙生物のようなそれこそフリーザ! ……ではなく。

「ミュウツー!」

 そう。まさしくミュウツーだった。

 

 剣魂は基本的に動物型。けど他の剣魂とのカブりを避けようとするとこれが難しい。十二支で空いてるのって牛か馬ぐらいだ。馬は吉音の銀シャリ号がいるから残るは牛。

 でも牛か。……能力が思いつかん。

 剣魂はスタンドやアルターといっしょで特殊能力を持つ。

 

 牛からイメージできる特殊能力ってなにさ?

 いつでも牛乳が飲めるとか?

 光臣は女性ホルモンを刺激し続けて巨乳化させる能力にしようとしたが却下した。そんなことは許さん!

 

 風なんかは双頭の蛇がぴったりだって言ったけど、蛇枠はもういるから。しかも2匹も。だからパス。

 

 なので悩んだ結果思いついた。俺が剣魂としてミュウを一時的に成現して光臣にコピーさせたらミュウツーができるんじゃないかって。失敗しても光臣の犯罪フラグは潰せるだろうって。

 で、結果。成功してしまった。能力はもちろんサイコキネシス。もしかしたら他の技も持ってるかもしれない。

 

「璃々ちゃんが喜ぶな」

「アウトリミット級のここまで強力に作らせておいて護身用とは」

 俺の担当世界の救済に行くときは、予言神(ポロりん)から判断すると俺のファミリアみんなつれてってた方がよさそうなんだよね。

 そうなると璃々ちゃんの護衛が不安になる。だから強力な剣魂を持たせてあげたいのよ。

 

 いっそのこと璃々ちゃんもつれてくか?

 ゲート承認アイテムは持たせてるからそれも選択肢にいれてもいいかも。ミュウツーもいるし。

 難しいところだ。俺の担当世界次第か。

 

「いい加減貴様の剣魂は作らないのか?」

「ポケモンができるようになっちゃったら迷いすぎて決められないよ」

 デジモンも捨てがたい。レオモン系以外でさ。

 あ、ハロみたいのならいいかも。……マサムネが拗ねるかもしれん。いや、あいつなら惚れるか?

 まあ、必要になったら成現すればいいでしょ。設定だけは考えておくかね。

 

「明命が猫型ほしがってるんだけど」

「面白味にかける素材だな」

 犬猫の剣魂はモブ剣徒で持ってるみたいだしなあ。

 猫……猫か。ドラは狸だし道具も用意しなきゃいけない。ニャンコ先生のように喋るのも微妙な気がする。

 むう。ルナ、アルテミス、ハミィなら智子とクランも喜ぶだろうか?

 でも額に三日月傷だと小鉄を思い出すんだよな。やつも強いし以外と明命に合うか? ……なんか違うな。

 

「ただの猫なら俺はやらん」

 わがままな。でも普通の猫の剣魂だと明命も可愛がるだけで剣魂として役に立ちそうにないしなあ。

 妖怪ウォッチ系か? 特殊能力もわかりやすそうだ。

 ふむ。プーアルもいいな。特殊能力は変身で。主がかませ犬になるという不安はあるけど……。

 

 まあ、明命に説明して選んでもらった方が早いか。

 こんなとこで悩んでないで嫁さんたちとの触れ合いの時間を大事にしよう。

 

 

 

 

 学園祭の準備の合間に、レーティアと軍師たちがついに俺担当の世界を調べ始めた。

 正確には、その拠点を、だが。

 

「やはりあそこからは出られないな」

「そうか。まだなにか条件を満たしてないのかな?」

 いきなり拠点から出られるようになっていても、それはそれで困るのだが。

 まだ準備が整ったとも思えないしさ。

 

「それで調べた結果、重力はだいたい地球の6分の1。それだけで考えるならあの拠点は月にある可能性が高い」

「月か」

「断言はできん。重力制御している可能性もある」

「それはほとんどないでしょう。あそこの機器は人類、それも地球型に近いと思われます。それなら1G前後にした方が合理的だ」

 拠点に設置されている機器の画像をビニフォンで立体投影する稟。

 

「月で育った人間が別のとこで使ってるかもしれないけど……重力制御なんてできるなら月でも地球と同じ重力にするか」

「とりあえずは月と考えることにしましょう。他には?」

「あそこを使っている人間はいなかったの?」

 そうなんだよな。キーボードとかの入力機器があったってことは使うやつもいるはずなんだよな。

 まさかむこうもゾンビタウンになっている?

 

「私たち以外はあの部屋には現れなかった。それと、拠点の機械も動かなかった。これは次にいった時にばらす予定だ」

「そん時はウチもいくで!」

「感電とか爆発には注意してくれよ」

「スキャンはしてきたからだいじょうぶだ」

 今度はレーティアがビニフォンでデータを投影する。なにか設計図のような……これが拠点の機器のデータかな。

 魔法でスキャンしたデータはあまり複雑な物だと覚えたり、図面に起こすのが大変だから、新型ビニフォンでは直接データとして取り込めるようにしたんだよね。これはデコード魔法も同じ。そのために記憶容量もかなり大きくしている。

 

「拠点のあの部屋だけ、か。次はもっと広い範囲でスキャンしよう」

「うん。拠点の外までスキャンできればもっと詳しいことがわかるだろう」

 建築物等の大きい物をスキャンするのに慣れてなかったから、拠点のいける範囲だけのスキャンで疲れちゃったようだ。

 俺も学園の校舎をスキャンして練習しないと。スカイツリーもどきのスカイタワーぐらいスキャンできるようになっておこう。

 

「それとですね、レーティアさんの計測機器があの空間で特殊な粒子を検出しました」

「粒子? ……人体に害は?」

 穏の報告にちょっと心配になる俺。GN粒子だったらマズイよね。華佗に連絡した方がいいんだろうか?

 

「それはこれから調査する。まあ、有害なものだったら誰か耐性スキルを入手しているはずだから心配はあるまい」

「大気汚染の酷かった大陸で毒ガス耐性を入手したように、ね」

 嫁さんたちの表情が曇る。違う世界とはいえ、故郷の荒廃は悲しいのだろう。

 

「で、どんな粒子?」

「鑑定で名前だけはわかった。サイトロンだ」

 サイトロン……あれ?

 どっかで見た覚えがあるんですけど。

 

 




本編嘘予告

 華琳そっくりの顔を持つガンプラをバトルシステムにセットしながら春蘭が叫ぶ。
「これがわたしのスーパー華琳様マーク2だ!」
「姉者、次は子供相手に負けて泣かされんでくれ」

 春蘭と秋蘭が気づいたらそこはビルドファイターズの世界だった。


 ……春蘭ならなにげに世界大会でも勝つかもしれない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。