EXギアの試作型が完成した。
装甲材は残念ながらオリハルコンではなく鋼鉄製だが、現代ドワーフの鍛冶技術により軽量かつ強固な仕上がりらしい。
「まさか夏休み中に完成するとは……」
「これぐらいなら余裕だ」
自分用に作ったのかドワーフサイズの試作EXギアをなでながらニヤリと笑うドライツェン。
「これだけ並ぶと壮観ね」
開発部の倉庫には待機状態で充電中の試作EXギアが数十機並んでいた。
翼が無く、背中のエンジンユニットが円盤状のロボ掃除機改になっている他はマクロスFのEXギアとほぼ同じ外見だ。
背の低い子用に小さいのがあったり、ドワーフ用に太めのもあったりする。
「これは学習型。ミシェルの話だと着用者に合わせて操作を最適化するようだから、今は専用機にして多くのデータを取りたいのよ」
チックウィードはミシェルのファンだったはずだが、開発中はアタックやべたべたする様子もなかった。
シャオちゃん情報だと、自分がクランの代用品にされたと思い込んで急激に熱が冷めたらしい。どっちも見た目ロリだけど、そんなに似てないと思うけどなあ。
「ハァハァ……体型的な理由もあるから共用は無理だろ? 胸部装甲とか」
ヘンビットがハァハァしてるのは興奮のためではなく、疲労で息が上がっているからだ。失言によって、実の姉であり開発部主任ポジションでもあるチ子たんの機嫌を損ねてしまった彼は先ほどから倉庫をランニング中。それも装備したEXギアのパワーエクステンダーの機能をOFFにして。
動力の切れたEXギアは重い。もちろんこれは懲罰だ。
サイコガンを手に入れてからアゴルフは浮かれすぎている。何個地雷を踏み抜いたのだろう。
「10周追加」
容赦のない姉の言葉に彼はその場に倒れた。まあ、ほっとけばそのうちまた走り出すだろう。サイコガンを持ってるのは不死身の男なのだから。ただ……赤い半袖全身タイツはやめれ。
「シート形態への変形もできるけど、そっちの方はまだいいわ。今はパワードスーツ形態の操作に慣れて」
「まだATができてないから操縦席になっても無意味か」
座席状態での操作はマクロスプラスやマクロスFに出てきたシミュレータを作っておいた方がいいかもしれない。
「各自、自分のEXギアをチェックして」
サイズの問題や、さっきの理由による専用機のため、間違いのないように試作EXギアの胸部にはそれぞれの着用者の名前が大きく書かれたシールが貼られていた。
今回はインナースーツの作成が間に合わず、EXギアの着用の支障にならない衣装ということで全員が体育着だ。しかもブルマ!
「なんかおそろいだね」
自分の胸の名札と試作EXギアのシールを比べる桃香。名前の字が胸の膨らみによって歪んでしまっているのは見事だ。
「地味な色ですわね」
文句をつけているのは麗羽。彼女の専用機の胸部装甲はかなり大きい。
「試作機だからね。完成型になったら好きな色にすればいいさ」
それともオリハルコンで作れたら、黄金聖衣みたいに金色になるのかな?
ちなみに先ほどからサイズ云々いっているが、実は今の段階ならサイズ補正の魔法を追加しておけば、ある程度は問題ない。
ただ、シート形態に変形した時に
データが取れ、ある程度共有できるようになるはずの完成品にはサイズ補正の能力も付けられる予定だ。
「それじゃこれから装着を始める。付け方がわからなかったり、サイズが合わなかったら近くの開発部のやつに聞いてくれ」
これについて詳しいので講師となったミシェルの合図で、全員が装着を始める。
「動力はまだ入れないでくれよ」
EXギアの操作はけっこう難しく、順番に覚えていかなければ危険だろう。
「た、立てません……」
「重いです……」
朱里ちゃん、雛里ちゃんといった非力な軍師たちが、装着できたはいいが立つこともままならず両手と膝をついていた。
また一方では。
「ちょっと重いですね?」
「鈴々はこれぐらいよゆーなのだ!」
「ボクだってちょ-よゆーだ!」
鈴々ちゃん、季衣ちゃんたちが飛び跳ねている。
「なああれ、動力はまだ入っていないよな?」
「ああ、ミシェルはまだ知らなかったのだな。あいつらはあのサイズでゼントラーディ並のパワーなのだ!」
なぜか得意気なクラン。彼女は既に自分の試作EXギアを装着済みだ。装甲の隙間から覗くブルマがまぶしい。
「マジで地球人?」
そこそこ、ショック受けてないでちゃんと説明続けてくれ。
「そっちも静かに聴いてて」
エスカレートしそうだった2人のロリを止める。
まあ、季衣ちゃんと鈴々ちゃんは言い争いはよくするけど、ケンカになることは滅多にない。訓練ではよく戦っているんで相手の力をそれなりに認めてはいるみたい。実力はほぼ互角だからね。
その後、全員いっぺんは無理だから、数人ずつに分かれて動力を入れて訓練開始。
まずは基本動作からなんだけど、これが難しい。基本的には動きをトレースしてくれるんだけど、増幅された力を制御するのがけっこう大変。特にパワーハンドは、操縦桿による操作――着用者の手はEXギア前腕内に収納――で、細かい作業には慣れが必要だ。
ここでTV版マクロスFでやった卵掴み訓練となるわけだけど、ミシェルすげえ。なんで卵が立てて並べられるの?
EXギアも魔法で消毒殺菌したので失敗した卵も『このあとスタッフが美味しくいただきました』がTVのような嘘くさいものでなく本当にできるわけだけどさ。
割れる割れる。めっちゃ難しいよ、これ。
「お嬢様、がんばって」
卵の破片に塗れた美羽ちゃんを応援してる七乃はあっさり成功している。いろんな意味で器用な女だ。
「も、もうちょい……やった!」
蒲公英ちゃんも成功したか。EXギアでガッツポーズしてる。
免許を取っただけでなく、運転や操縦のスキル持ちは慣れるのが早いみたいだ。これを続けていたら操縦・強化服のスキルが入手できるかも。
「こ、こうか?」
意外なのは焔耶も成功していること。
どうやら敏感肌がEXギアからのフィードバックを鋭く感じて、それで力の加減を行っているようだ。
「明命も上手いな」
「お猫様をなでるように繊細に行えばいいのです!」
なるほど。いかにも明命らしい。
その日は、熟練度が上がりやすくなる俺の小隊のメンバーを入れ替えながらずっと基本動作の訓練をしてみんなそれなりには動けるようになった。
「やっと儂らの番じゃの」
「お館様は小娘どもばかり可愛がるからのう」
「今はわたくしたちも若いでしょう?」
今夜の当番は熟女3人組。
「おっと、そうであったな」
スタッシュから先端に大きなハート状の輪がついたステッキを取り出す桔梗。
「パラリンリリカル……パラポラマジカル」
ステッキ『ハートブローム』を振り回すとその輪からシャボン玉があふれ出し、桔梗が光に包まれる。
「ふむ。あの呪文はもう少しなんとかならんか?」
光の中から現れたのは本来の姿に戻った桔梗。
やはりあの変身は恥ずかしいのか、頬が赤い。
「ならば儂らも」
「あらあら」
祭と紫苑もステッキを取り出しアダルトチェンジ。
祭のは『ミンキーステッキ』、紫苑のは『クリィミーステッキ』だ。ちなみに華雄のは『クルクルリンクル』である。
魔女っ子というか、大人変身系魔法少女の変身アイテムを成現して彼女たちに渡したのだ。スキルで元の姿に戻る時にこれらを使えば消費MPを軽減できるように作ってある。
呪文と変身モーションは必要だけどね。ロリっ子たちには受けているけど、彼女たちには恥ずかしいようだ。……そりゃそうか。
「さすがにあの姿では煌一のを受け止めるのは不安じゃからのう」
祭の普段の姿は小蓮ちゃんと同じくらいの外見だ。小蓮ちゃんはなんとかできたけど、それでもつらそうだったもんなあ。
「お館様に大人の女の良さをお教えしようぞ」
普段の桔梗は熟女の中では一番成長した姿になっているかな? 焔耶と同じくらいで胸もそれなりに大きい。変身しないでもよかったのにな。
「ふふっ」
紫苑は蒲公英ちゃんぐらいのあの胸からここまで大きくなるなんて。
本来の姿と迫力を取り戻した熟女たちに気圧される俺。だが、ここで負けるわけにはいかない。
なんとしても小さい姿の彼女たちともしたいのだ。
「どうしたお館様? そんなに手をわきわきさせて……」
「いやなに、今日の訓練で予想外のスキルが手に入ってね」
そう。EXギアの基本動作訓練で俺は新たなスキルを入手していた。
「ま、まさかお館様のフィンガーテクニックはあれほどとは……」
普段の姿に戻った桔梗が嘆息する。
俺が入手したスキルは運転でも操縦でもない。
その名も『指技』のスキルだ! ……そりゃパワーハンドの操作は繊細なタッチが必要だったけどさ、なんでこんなの覚えちゃうの?
「しかもこの姿になったらまた処女に戻っておった。まさか変身の度に戻るのではあるまいな?」
そう。変身を解いて普段の小さい姿に戻った彼女たちは処女に戻っていた。俺は2度も彼女たちの初めてを奪ってしまったわけだ。……後ろを入れたら3度か?
彼女たちが変身する時は成長した姿ということで、身体の時間を進めていて変身が解けるとそれが巻き戻されるのかもしれない。
「今の姿でもしちゃったから、もうそれはないんじゃないかな?」
「それは、残念かもしれませんわ。わたくしは何度でもはじめてをさしあげたいのに」
うっ。元の小さい姿に戻ったはずなのになんだろう、この紫苑の色気は!
結局、それに負ける形で俺は延長戦に突入するのだった。
翌日は走りかたと止まりかたの訓練から。
EXギアの脚部には走行用のグライディングホイールが収納されており、走行時には展開して使用する。それの訓練だ。
睡眠不足だが、まあ、なんとかなるだろう。ローラースケートはやったことがある。
「車輪なんか使わないで走ればいいだろ?」
「……全力でやってみて」
今回は広さが必要なので屋外での訓練だ。
「いくぜ……って、……そうか」
1歩目でいきなり高く跳び上がってしまった梓。EXギアで増幅された脚力で思いっきり走ろうとすればそうなってしまうのは当然だ。
「なら……難しいな」
梓はできるだけ地面と水平に跳ぶように調整しているみたいだ。難しいと言いつつ上手くできているように見えるのは気のせい? 鬼のパワーに慣れてる彼女だからだとは思うけどさ。
「もうちょいスピード出えへん?」
不満そうな霞。
設定上だとたしか最高時速55キロ。素材やモーターが違うから今はどれぐらいだろう?
かなりスピード出てると思うんだけど、最近バイクを乗り回している霞には物足りないのかもしれない。
「スピード出したかったらロードサンダー使ってよ」
「それもそうやな」
「あとは飛べばいい。飛行時はもっと速度が出るのだ!」
飛行システムは元のEXギアとかなり違うが、たしかに地上よりは速度が出そうだ。速度は計測してみないとわからないけど。
グライディングホイールによる走行はわりと早くみんなが覚えてくれた。
さすがに俺もこれでは変なスキルは覚えなかったよ。
「飛行訓練もやってみる? 一応みんな箒やロボ掃除機改による魔法飛行は経験済みだし」
「そうだな、こいつはカタパルトや助走もいらないし、試しておくか」
ブオォっという動作音を発する背中の飛行ユニット。ロボ掃除機改を調査改良してできたこのパーツは、ロボ掃除機改のように吸気しているわけではない。この音は動作しているかわかるようにわざと発生させているらしい。不要なときは音をカットすることもできる。
飛行経験はあるのでみんなあっさりと空に浮き上がった。
「どう?」
スタッシュから取り出した青龍偃月刀を軽く振り回してみる愛紗。EXギアでもうそこまで……。
「これなら泣き女と戦えそうです」
バンシーか。飛び道具がないと自分が飛んで戦うしかないもんな。
空中戦の訓練も考えておかないといけないか。
訓練と試作EXギアのアップデートを重ねているうちに残りの夏休みは終わってしまった。もう1度くらい海に行きたかった……。
「どうやらEXギアのお披露目は意外と早くなるかもしれない」
始業式と避難訓練を終えて学校から帰ってきたら紫が真剣な表情でそう言ってきた。
「なにがあった?」
「中国に動きがあったらしい」
中国か。トウキョウの次に解放予定だったんだけど、孫策を名乗る謎の人物の登場で、俺たちは入れなくなっちゃってるんだよね。
「孫策がやっと出てきた?」
「いや、そちらはまだだ。シャンハイには中国軍が万単位で投入されているが発見した様子はない」
万単位ですか……余計な被害が出てないといいけど。
「ゾンビやスケルトンだけでなくキョンシーも現れだした」
「やっぱりか。ゾンビが進化したのか?」
「わからん。ゾンビと違い、キョンシーの動きは遅くなく、被害は大きい」
出るとは思ったけどさ、やはり来たか。がしゃどくろのように強力な地元妖怪を狙っている可能性が高いな。
ゾンビより強いとして、数はどれぐらいなんだろう?
「さらに飛行するキョンシーも確認されている」
キョンシーの上位種?
なるほど、EXギアの出番ってわけね。