「ミスっちまった」
そう苦笑するヘンビット。
だが、彼の左腕は肘のあたりから先がなかった。
「やっぱスナイパーは接近戦に入られる前に仕留めないと駄目だわ。ははは」
「笑ってる場合か、早く治療しないと!」
俺の回復魔法(中)では無理だが、欠損してしまった身体さえも修復してしまう魔法はあったはずだし、もしそれを覚えていなくても病院の回復ベッドを使えば生えてくる。
……まさか、俺のようにステータスやスキルが上がり過ぎて治療費が払えないのか?
「なに情けない顔してんのさ。こいつのはそんなのじゃないって」
片腕エルフの頭を軽く叩くミシェル。
「え? GPが足りないんじゃないのか?」
「ちゃうちゃう。わざと治してないだけだ。心配してくれてありがとうな」
なんだ。わざとか。……わざと?
「心配させちゃった手前、言い出しにくいんだけどさー、お願いがあるんだ」
「お願い?」
「そう! 俺の義手を作ってくれ!」
「義手って……」
元に戻るんだから普通に治せばいいじゃないか。わざわざ作り物なのかにしなくても。サイボーグに憧れでもあんのかな。
そう考えながらアゴルフの状態を見て気づく。失ったのは左腕。
「まさか……あれを作れっていうのか?」
「そう。あれしかないでしょ!」
「あれ?」
嫁さんたちが首を捻る。知らなくて当然だろうな。
「ガッツの鋼鉄の義手?」
おしいな、梓。そっちじゃない。
「ミストルティンの槍?」
ARMSか。よく知ってるね、レーティア。まさか開発中?
「左手に仕込むといったらサイコガンで決まりだろうが!」
やはりそっちか、ヘンビット。
「サイコガンか」
宇宙海賊コブラの左腕に仕込まれている強力な銃で精神エネルギーを弾丸にしてる。
うん。あれなら俺もほしいわ。
「でもなあ。手持ちにサイコガン、ないんだよ」
「そんなあ」
「ふむ。形だけでいいなら作ってやらんこともないぞ」
髭をいじりながらのこのドワーフはたしかミットヴォッホ。フライタークと同じ小隊のメンバーだって紹介された。……あってるよな? ただでさえ似たような髭面が多くて区別がつきにくいのであまり自信はない。
「けどさ、魔法で治っちゃったら結局無駄になるよね。また切断するのか?」
「いや、スキルに被改造ってのがある。それを持っていれば改造された箇所は治らない」
そんなスキルがあるのか。
「私も持っています」
「マイン?」
「うん。マインはこまめにバージョンアップしてるぞ」
知らなかった。ロボ子のためにあるようなスキルなのに。
マインは主にレーティアのEPによって設定されているから、そこまで考えられていたんだろうか。
「なら、そのスキルがあればライダー化も可能なのか」
目を輝かせているエルフやドワーフが数名。
「……最近のライダーって別に改造人間ってわけじゃないんだけど」
「なんだと!?」
そんなに驚くとこ?
みんな平成ライダーが出回る前に亡くなっちゃったのかも。
エルフやドワーフになってるってことは俺と違って転生だろうから、赤子からやり直してたらそんなものなのかもしれないな。
「あ、サイコガンだけじゃなくてそのカバーになる義手も作ってもらって。あれがないと普段困るでしょ」
「そうだった。あれのロケットパンチはいざという時に必要だもんな!」
普段使いよりもそっちを優先か。こいつ、普段どんな生活してるのやら。
「それとサイコガンと全く同じだとEPを消費して弾を撃つことになるから仕様変更が必要だ」
精神を消費って、
サイコガンが上手くできたら
あの辺は中華感が強いから恋姫出身の嫁さんたちに合う武器も作れそうだ。
アウトロースター号……好きだけど、操船にメルフィナが必要だっけ。
ライトシールドは魔法でありそうだ。
ならばドカンボーは……問題ないな。これなら岩打武反魔を使う季衣ちゃん向きじゃね? 形状的にはアゼルパパのアドバンスド・ドカンボーだけど、こっちで練習してもらおう。
季衣ちゃん魔法少女化計画? ちょっと違うか。他の娘の分も考えてみよう。
「で、いくら払えばいい?」
「えっ?」
「いや、タダってわけにもいかないだろ」
なに? GP払ってくれるの? エルフってそんなに儲かってるの?
……いかん。駄神のとこでGP節約を意識しているせいか、咄嗟にそんなことを思ってしまったのが情けない。
「モデルは作ってもらえるみたいだし、
サイコガンか。かなり高そうだよなあ。
あっ、漫画の方でも10年くらいで故障したから10年分のMPで成現にすればいいのかな?
「そうか。よろしく頼む」
大きく頭を下げるヘンビット。そんなにサイコガンほしかったのか……。
「あと、完成しても真似するために葉巻吸わないでくれ。俺は煙草苦手だから」
「そっちは大丈夫だ。そんなもん吸ってたらダイ姉ちゃんのファミリアの大蛇に怒られる」
蛇もヤニ嫌いらしいもんな。親近感がわくね。って、そんなのいるのか。ヤマちゃんと会わせたらどんな反応するか気になるな。
「ねえ、あんたのスキルってなんでも本物にできるの?」
チックウィードからの質問。今まで静かだったのは弟の大怪我に落ち込んでいるせいかと思ったらどうやら違うらしい。
「さすがになんでもってわけじゃないよ」
「そうかしら? かなりの能力を持つ人間や物語の武器、ロボットまで本物にしてるじゃない」
「ビニフォンのように能力の改変もしている」
十三まで……。たしかにそうだけどさ。両さんみたいにできない事例もある。俺の呪いの解除もできなかった。
「あんまり強力なのは消費コストの表示がバグって成現できないし、それでなくても消費GPが激しくて、MPで誤魔化しても時間制限つきだ」
「試してみない?」
「……なにを企んでいる?」
チ子たんはそんなに男の浪漫である巨大ロボに盛り上がってないみたいだから、最近の開発部に不満があるのかな?
「前世の私が気になっていたモノの正体を知りたいだけよ」
「気になっていたモノ?」
「聞けばあなたも引き返せなくなるわ。それでもいい?」
いつになく真剣な表情のチ子たん。こんな顔は差し入れのお菓子のアソートから、どれがいいかを選ぶ時以来だ。
「い、いったいそれは……」
「パップラドンカルメ」
「は?」
「知らないの? パップラドンカルメよ!」
知ってますよ。未確認のお菓子物体ですよね?
小学生の時の同級生にも食ったことがあるって言い張ったやつがいたっけ。
「パップラドンカルメか……」
「たしかに儂も気になる」
エルフやドワーフたちの中にも童謡、いや動揺が広がる。
嫁さんやミシェルたち若い世代には全く理解してもらえてないようだが。
「なに? パップラドンカルメって?」
「歌に出てきた謎のお菓子だよ。味や形はわかるんだけど正体不明なんだ」
「お菓子!」
「お菓子にゃー」
「お菓子ー」
ロリたちが目を輝かせている。
「いったいどんなお菓子なのよ」
華琳の疑問にチ子が歌いはじめる。
上手いな、というか、よく覚えているな。他の開発部のメンバーもそれにあわせて歌いだした。
「白くて四角くて……」
「バナナにメロン?」
懐かしいなあ。聞いてたら俺も気になってくるじゃないか。
今考えると無茶苦茶な味になりそうな気もするけどさ。
たしか、かるかんだってのは嘘情報サイトのネタだったらしい。
「どう?」
「うん。綺麗な歌声だった」
「そうじゃなくて!」
褒めたのに怒鳴られました。頬が赤いのは怒りのせいじゃなくて照れ隠しだと思いたい。
「食べ物は試したことないなあ、そういえば」
聖水は成現じゃないし、近いものといえばローションぐらいか。口に入れても平気な素材をベースに成現してるんだよ。
「プラモを素材にするわけにもいかないから、なにか食べられるものをベースにしてやってみるか」
「それって、食べた後は元に戻るわけ?」
「時間がくればたぶん。試してみないとわからないけど」
GP使ってまで試すこともないだろうから時間制限付きになるのはしかたがないだろう。
「そっちも使えるわね」
「使える?」
「考えてみなさい。例えばコンニャクを一時的に高カロリー食品にできるとしたら」
「ダイエット食品か」
今度は桃香や春蘭の目の色が変わったな。まだ気にしているのか。太ってないと思うんだけど。
「試してみないことにはわからないか」
「こいつを使いな」
梓がマカロンを渡してくれた。ふむ。似ているね。梓はパップラドンカルメを知っていたのか。
「白くも四角もないのだけれど?」
「いや、歌といっしょに流れた映像だとピンクで丸くて顔がついていた」
だから俺たち当時の子供は余計に混乱したんだけどね。
「これはこれで美味しいわね」
サクサク、サクサクと次々にマカロンを食べるチ子たん。小動物のようで可愛らしいが全部食べられても困る。
「食べてないでEPを籠めてくれ。それをパップラドンカルメだと思って」
「私がやるの?」
「うん。みんなでやってね」
歌っていたメンツにもマカロンを渡す。もちろんその前に手は洗わせた。
「……な、なんか恥ずかしいわね」
「雑念は振り払って集中して」
俺はEP籠めをせず、みんなを指導することにした。たまにはいいでしょ。
エルフとドワーフがマカロンを両手で持ってじっと見つめたり、天にかざしているのはなにかの儀式のようだ。
「私も偃月刀の準備をしている時はあんなだったのでしょうか?」
微妙な表情の愛紗たち。
「やっぱり人に見られたくはないよねえ」
俺も見られたくない。今まで以上に注意することにしよう。
30分後。
「こんなものでどう?」
チ子たんからマカロンを受け取ってチェック。うん、EPに不足はないな。
「いけそうだ。試してみよう」
時間は1時間もあればいいかな?
「いっぺんに全部やらないの?」
「完成形が不明のケースだからね、別々に成現して違いを確かめたい」
全く同じになるか、それとも個人の認識の違いが影響するのか確認できるチャンスだ。
「もうできたの?」
「俺のスキル、エフェクトなくて地味だよね」
もっと光るとか、爆発するとかの演出がほしい。
完成したパップラドンカルメを鑑定してみる。……できてるっぽい。
「試してみて」
「う、うん」
おそるおそるといった感じでドラ焼き大となったそれを口にする。今度はサクサクとは違う食感らしい。
はふぅ、とチ子たん。
「これがパップラドンカルメかぁ……」
どんな味なんだろ? 俺も気になるけど、他のやつらがマカロンを手に俺の前に並んでいるのでそっちを先にすました。
「やはり、違いが出たわね」
代表として食通の華琳が全員のパップラドンカルメを一欠けらずつ試食する。ロリたちも食べたがったが、量が足りないし「あとで作ってあげるわ」との言葉で引き下がってくれた。
「EPを籠めた当人たちはこれで合っている、思っていた通りの味だという意見だ」
「個人の認識の差、かしら」
「興味深いデータだな。しかし、私やヨーコといった煌一の知らない知識を持つものは……その知識を持っていると煌一が設定したか、もしくはベースとなったフィギュア製作者の……」
レーティアも気になるか。
……もし、俺以外がレーティアにEPを籠めていたら、今とは違ったレーティアになっているのか?
「つまり、だ。俺に望むものを望む形で作らせたかったら、EP注入は依頼者がするのがベストということか」
「あたしたちは煌一に望まれた形、ってことだよな!」
梓が上機嫌だ。……設定改竄までしちゃってるから、本当にその通りで否定できん。
「やっぱあんたの能力、とんでもないわ」
「そうか? レアらしいけど金食い虫だよ」
剣士じゃなくてワルテナのような廃課金のとこだったら今頃、担当世界の救済、終わっていたんだろうか?
……どう考えてもカミナやミシェルの方が活躍してそうだ。
嫁さんとも会えたし、やっぱ俺は剣士んとこでよかったのかもな。
「サイコガンも期待できるな」
「なに言ってんの、次は光るカツ丼でしょ!」
まだ食う気か。そっちはゆり子に頼んでほしい。
「次からは
「えー」
「今回は実験ってことでサービスしたけどさ、サイコガンにGP払ってくれるっていうヘンビットに悪いでしょ」
MPは余ってるけどさ、このままいくと変なものばっかり頼まれることになりそうで怖い。
なにより、食べ物関係は華琳の駄目出しがあるからね。パップラドンカルメの試食も華琳の「ここをこうすれば」という意見が止まなかったよ。
後日、完成した試作EXギアの訓練中に割れた卵を使用して華琳が再現し、改良してくれたパップラドンカルメは非常に評判がよろしかったが、俺には真似できそうになかった。
「梓と智子の誕生日にケーキでも焼こうって思ってたけど……やっぱり買うことにしよう」
これの後ではガッカリ感がすごすぎる。やっぱ華琳ってチートだわ。
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