書く暇がないのです。何卒お許しを……
<Infomation>
時計塔の同僚:
ケイネスと同じ専門で時計塔に所属する謎の青年。ボロ衣ローブ姿ではない。
時計塔で彼の姿を見ることは稀だという。
彼の研究室に脚を踏み入れたものはおらず、場所も定かではない。
噂によると金髪の少女の写真や絵画やその他もろもろが安置されているらしい。
『この欠片を使うといい。きっと、貴方の助けになるはずだ』
本当に自分に扱えるのだろうか。
同僚から託された聖遺物を眺めながらケイネスは静かに溜息をついた。
私ならばどのような事であっても成し遂げられる、などど豪語していたものの不安の念は払えない。
この聖遺物は今まで自分が見たものと次元が違う。この輝きにはどのような宝物でさえもガラクタに見えることだろう。
見るものの魂を侵食する破壊の光。絶対的な武の奔流。厳重に封印を施したはずであるが、不足であったらしく未だその気配を感じる事ができる。
これから喚び出される英霊は一体誰なのだろうか。欠片の状態では判断することはできないが、さぞ強力な駒であろう。それだけは確信できる。
資料を捜し求めてみたものの情報の少なさ故か検索に引っかかることはなかった。何が出てくるか分からない以上有効な対策を考えることはできないが、やれることはやっておきたい。
ケイネスは決して愚かではない。失敗を経験したことが無く、成功を得るための不断の努力が日常化しているだけである。ただ成功することが常であるために自身の失敗する光景が想像できないだけなのだ。
成功を得るためにはどのようなアプローチでいけばよいのか、不確定要素は何か、どうやればそれを削減できるか、成功を得るための必要要素はどのようなものか。日常にて論理的思考を欠かさないケイネスには容易い思考である。
さぁ、そろそろ刻限だ。不安はあるものの、成し遂げて見せよう。さぁ、神秘との邂逅だ。
「ソラウ、往くぞ」
ケイネスは行動する。目指すは勝利。魔道の頂を目指してただひた走る。もしかしたらこの積極的な探究心、そして研究者特有の頭の固さこそが、彼に目をつけられた理由かもしれない。尤も、それは神だけが知ることだ。
古時計がその太針を天へと掲げる。新たな一日が始まる。光ある民は眠りにつき、百鬼が蠢き出すこの刻に、ついに行われるのだ。
「ねぇ、ケイネス。一体どのようにやるのかしら?」
ソラウが問いをなげる。何をとは言わない。分かっているからだ。彼女とて魔道を修める者故に、これから行われようとしていることはいうまでもなく理解していた。
「召喚は変則的な手法を用いて行う。本来ならば令呪を持つ魔術師がその英霊の維持を行うが、今回はソラウ、君にもそれを担ってもらう。
令呪をもたぬ君ならば他のマスターから狙われる可能性は低くなる。さらに単純に考えると二人分の魔力をサーヴァントに供給できるのだ。サーヴァントの現界及び戦闘行為には普段以上の魔力を消費する、宝具の使用などその顕著な例だろう。一人分の魔力だとどうしても限界がある。だがそれを二人で賄うのだ。それならば――」
「その分手札をきれる、という訳ね」
「その通りだよ、ソラウ。私をこれをもって聖杯を獲る。私たちの魔力さえあれば狂戦士の維持すら従えるのも造作ないだろう」
ケイネスは祭壇に聖遺物を安置する。召喚を行うための魔法陣は通常のものより巨大で複雑な紋様をしている。変則召喚を行うための用意なのだろう。
「ソラウ、こっちへ」
続いてケイネスはソラウを近くへと呼び寄せ、魔術防壁を起動させる。
――降り立つ風には壁を
――四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ
――閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。
――繰り返すつどに五度、ただ満たされる刻を破却する
英霊の座と現世を接続する。陣に魔力を送り込み、無理矢理次元に孔を空ける。
何かが軋む音がする。世界に干渉し、事象を限定的に改変しようとしているためなのか、まるでとてつもなく大きな何かで鋼鉄を引き裂くような音が響き渡る。
――告げる
――汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に
古の世界に生きた英雄よ。私の剣となって現世に蘇れ。
座の管理者は
――汝は並ぶものなき至高の黄金、汝の前に敵は無し
――今こそ
そう、願い奉るのは正史における管理者ではない。世界を侵食し、座を侵す水銀の影。
そして彼が保有する宇宙に存在した、とある人物にである。
この祝詞によって術式は書き換えられる。英霊の座へ繋がっていた世界は永劫回帰とある城へと対象を変更する。
――どこかで誰かが笑みを浮かべた気がした。
――誓いを此処に
――我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者
――
水銀よ、永劫回帰よ。至高の黄金に我が願いを伝えたまえ。
術式は改変され、その意味を大きく変える。本来の目的である英雄の座への接続は果たされず、水銀の保有する宇宙、とある城へと接続される。
「獣殿よ。刻は来た。今一度世界に降り立とうぞ」
水銀の術式は聖杯を侵す。黒く染まった聖杯、その中に潜むものは突然の来訪者に驚き畏れる。
塵芥、貴様は邪魔だ。消えてなくなれ。
術式は法となり聖杯を書き換えてゆく。汚濁した聖杯はその様相を変える。狂気は払われ、新たな理が書きもまれてゆく。
何をする、侵入者よ。ここから立ち去れ。
潜むものは必死に抵抗するが水銀は意に介さない。象が蟻を気にするか、などど言わんばかりに処理を進める。
水銀にとって
やがて塵は払われ、聖杯は掌握される。
聖杯から漏れ出す異常な魔力がケイネスの魔法陣へと流れ出す。
唯人では何人集まろうと、至高の黄金の影すらも現世へ呼び出すことは叶わない。
本来聖杯がその魔力を提供する事で成っているのだ。だが、通常の出力では不可能。ならば、書き換えるしかあるまい。
魔法陣が白熱する。空間に罅が入り激しい揺れがケイネスを襲う。
それだけではない。ケイネスが自身とソラウを守るために展開した防壁さえも悲鳴をあげている。
ああ、分かる。理解してしまう。この程度の防壁では壁にもならないと。
だが諦めるわけにはいかない。為すべき事があるのだ。何が起ころうともこの儀式、完遂してみせる。
ケイネスは決意した。そして、召喚の為の最後の節を紡ぐ。
――今こそ黎明の鐘を鳴らし、まだ見ぬ地平へと誘わん
至高の黄金よ。私を新たな世界へと誘って欲しい。
未知の領域、根源にたどり着きたい。我が一族、我が一門、いや魔術を学ぶ者達共通の悲願なのだ。
故に見たい。故に至りたい。私は未熟だから。これこそが私を導く光なのだ。
ケイネスの元々の動機は何処へやら、ケイネスはただ乞い願う。
上辺だけのプライドをもって外観を取り繕うなど水銀、ひいては黄金には非礼千万。真の願い、それこそ世界を揺るがすほどの渇望でなければ彼らがその呼びかけに応えることはない。
故の本能的な選択なのか、ケイネスは普段の仮面を投げ捨てて祝詞を唱える。
「ケイネス……」
ソラウの声は虚しく宙へ広がり消える。
彼女は儀式が始まってからのケイネスの豹変に驚く、そして魔法陣から発せられる異様な力に疑問を覚える。
本来召喚の儀式はこのような精神汚染のようなものをばらまくものだっただろうか? いや,そんなはずはない。少なくとも霊体が出てきてないような状況ではありえない。
聖杯戦争とはこのような儀式を必要とするのだろうか?
彼女の疑問は至極当然のものだろう。しかしこれは本来の儀式ではない。ケイネス曰く同僚の手が加えられている儀式なのだ。
祭壇の欠片が光輝く。破壊の奔流は誰にも受け止める事はできない。
防壁に罅が入る。周りが抉れ消え去る。
だがケイネスは臆さない。僅かに残ったプライドがここで諦めてはいけないと告げていたのだ。
破壊の光がケイネスに届く。服は裂け、血液が飛び散る。しかし彼は儀式を中断しない。彼は祝詞を唱え続ける。
あと数節なのだ。ケイネスは歯を食いしばり最後の祝詞を紡ぎだす。
――汝三大の言霊を纏う七天、
――天秤の守り手よ
「ふむ。卿がカールの言っていた魔術師か」
暴風が吹き荒れた。
世界が震撼し、魂は砕け散る。
「――――ッ」
「あっ……あっ……」
ケイネスとソラウは言葉を漏らす。圧倒的は力に呑まれ、自分を保つのに精一杯だった。
だがケイネスは考える。この程度なのかと。
答えは本人の口から語られる。
「心配するな。卿らは触媒、故に壊さぬ。ああ、この場合はこの口上が最適か。
――サーヴァント"ランサー"、嘆願に応え現界した。今宵、未知を見ようぞ、魔術師よ」
そこに立つのは至高の黄金。宇宙を統べうる神の一柱。
黄金の獣。愛すべからざる光。
<Servant Data>
CLASS:Lancer
STR:A
DEF:EX
AGI:A
MAG:EX
LUC:A
NIP:EX
-ステータス確認後のケイネス-
「勝ったわ」
という設定の獣殿。形成とかすると能力値上昇するチート。
やっぱ獣殿はチートじゃないと。
プロローグはこれにて終了です。
次回は遂に聖杯戦争に参戦……かもしない。