奇跡の杯は黄金の掌の上に   作:Akimiya

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01_プロローグ 聖杯戦争開始前 _1


 ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは天才である。

 彼は幼い頃から神童と称され,また自身もそれに応えるかのような結果を出し続けた。

 誰もが彼を認め,尊敬し,そして畏れた。しかしこれは当然の摂理でありこれといって不思議なことではない。

 9代続く魔導の名門「アーチボルト」,その正当後継者。若年ながらも魔術協会本部,時計塔の一級講師。加えて彼自身も才能の塊なのだから。

 人は度を越した才能を畏れるものである。

 

 

 さて、このような評価を受けるケイネスであったが、ただ一つ思うところがあった。

 彼は俗にいう研究畑の人間であり、魔術戦は今までに経験はあるものの実践を重視する同胞からの認識は自分が想像するものと少々違ったのだ。

 認めぬ、断じて認めるものか。彼は思った。

 どのように自身が努力しても、分らない奴には分からない。専門家が専門以外のことを十分に理解しているのか、というのと大体同じである。

 ならば。ケイネスは考えた。

それならば、彼らにでも分かるように証明しよう。ケイネスは彼らと同じ土俵に立ち、その力を示す事を決めたのだ。

 そこで彼は手っ取り早くそれを可能とさせる方法を探した。大規模な魔術戦が可能で、且つ魔術師が多数知る、そんな方法を。

 

 そして、見つけた。

 名を”聖杯戦争”。ドイツのアインツベルン、ロシアのゾォルケン、そして日本の遠坂が始めた聖杯光臨の魔術儀式。7人の選ばれた魔術師によるバトルロワイヤル。

 資料を見るところ近々4回目が行われるらしく、自身は”英霊”を使役しこの戦いを生き残ればいいのだ。

 これだ、ケイネスは確信した。

 過去に名だたる魔術師が挑戦し、終ぞ勝者が現れることのなかったとされる争い。

 選ばれるのは7人。全世界には何千何万もの魔術師が存在するであろうが、その中から7人しか選ばれない。

 その7人の中に自分が入り、且つ勝者の出ない戦いに終止符をうつ。このケイネス・エルメロイ・アーチボルトこそが聖杯戦争初の勝者となるのだ。

 そうと決まれば話は早い。直に準備に取り掛からなくては。資格を得、そして戦いを制することのできる駒を揃えねば。

 

 ケイネスは足早にその場を去る。向かうは資料館。更に多くの情報を手に入れなくては、とその歩みに迷いはない。だが彼は忘れていた。既に戦いは始まっているのだ。水面下で全てが動き出しているのだ。

 そして、彼を始めとする魔術師はおろか法を司るもの(魔法使い)さえも認識できない存在さえも動き出していた。

 

**************

 

 そうして時計はその針を進めていく。

 ケイネスは己が計画の通り聖杯戦争参加資格である”令呪”を手にいれ、駒を得るための手配を済ませた。

 あとは自身が誇る降霊術の全てをもって儀式を行い、戦場へと赴くだけなのだが一つ問題が発生した。

 聖遺物の盗難。

 まさかの目の届く範囲での犯行。やられた、ケイネスは行き場のない怒りに身を焦がす事になる。

 マケドニアから送られてくるはずだった聖遺物。恐らくは自身の聖杯戦争参加を妨害する者の犯行だろうとケイネスは想像した。

 マケドニアの聖遺物は確かにすばらしいものだ。喚びだせるだろう英霊も特A級や最上級と呼称しても問題ない程の力を持つだろう。それを盗られたのは確かに痛い。

 だが、こんなことは想定済みだ。たかがイレギュラー一つでどうにかなってしまうことのないように対策はしてある。

 スペア。ケイネスはもう一つ、聖遺物を調達したのだ。

 ケルト神話、フィオナ騎士が一人。”輝く貌”ディルムッド・オディナ。それを喚ぶための聖遺物。彼が生前扱っていたとされる槍の欠片。

 この聖遺物が本物ならば喚びだせるのは彼のはずだ。

 ディルムッドは名こそかのアーサー王やアレクサンドロス王などには及ばぬがそれでも強力な英霊だ。

 少なくとも、霊媒なしに召喚するよりはよいだろう。

 

 

だがここで正史とは違う流れが発生する。暗躍する影は遂に動き出すのだ。

 

 

「アーチボルト殿。そのような物を使う必要はない」

「この欠片を使うといい。きっと、貴方の助けになるはずだ」

「貴方のご懸念は杞憂に終わることでしょう。これは(わたくし)めが知る最高の聖遺物。ああ、ただ召喚の際、祝詞の一節に以下の言葉を加えていただきたい――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■、と」

 

 時計塔の()()から手渡された聖遺物。最初は半信半疑だったが、一目見た途端その疑いは崩壊した。

 黄金。その身を焦がし、全てを消し去る破壊の奔流。

 素人や半人前の魔術師ではこの瞬間に魂が崩壊し、消えてなくなることだろう。だが彼はアーチボルト。その程度で消えてなくなるような柔な鍛え方をしていない。

 だが、これは……

 降霊術を扱ううえで体をのっとられないように自身の精神を鍛える事は常識となっており、それを修めているケイネスでさえも気を抜けば魂をもっていかれそうになる。このような事態は初めてだった。

 

「くれぐれも扱いには注意してくださいませ。これは本来、唯人の扱えるものではないのですから」

 

 ケイネスはこの強大な力にこそ恐怖したが、同時に確信していた。これさえあれば自身の勝ちは揺るがないと。

 この欠片を霊媒としたならば、どれほどの英雄が召喚されるのだろうか。

 ああ、楽しみだ。楽しみで楽しみで仕様がない。

 

「感謝する。■■■■殿。心配なされるな、アーチボルトの名にかけて必ずやこの戦いを生き抜いてみせよう」

 

 即席ながら欠片に封印を施し、ケイネスはその場を去る。目指すは日本――冬木の地。

 

 

 

 

 

「貴方の成功を心よりお祈り申し上げる」

 

 ケイネスの背に浴びせられる言葉はどこか遠くの友人に贈るような、そんな感じがした。




-その後-
ケイネス「(とりあえず研究室で厳重に封印しよう)」



同僚、……一体何クリウスなんだ……!?
/*次回予告*/
新たな聖遺物を得、ケイネスは遂に召喚に挑む。
喚びだされるのは一体誰なのか。ケイネス先生のご活躍を乞うご期待。
次回、奇跡(きせき)(さかずき)黄金(おうごん)(てのひら)(うえ)に。第二話、プロローグ 聖杯戦争開始前 _2 お楽しみに



もう一つのSSの方は実は7回書き直していて全てボツにしているオチ

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