戦場のヴァルキュリア 蒼騎士物語   作:masasan

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第五話

ブルールでの防衛作戦決行のため133小隊、自警団員がそれぞれ配置についてから1時間が経過した頃。帝国軍への偵察のために放っていた斥候から通信が入った。

 

『こちらハウンド5。帝国のブルール侵攻部隊を視認。戦力はおよそ3個小隊規模。なお、戦車が計6台同行中』

 

「了解した。ハウンド5は即時帰投、作戦配置へと着け」

 

『了解』

 

「さて・・・聞いたとおりだ、メルケン団長代理。敵の戦力はおよそ3個小隊。戦車は6台だ。まぁ、大した数ではないな」

 

「大した数ではないって・・・戦車が6台も居るのですよ!とてもじゃないが、これだけの戦力じゃ太刀打ちなんてできっこない!」

 

先ほどまでの威勢はどこへやら。ヴァリウスから告げられた敵戦力の総数に怯えの色を隠せずにいる自警団の若い隊員。彼の纏う空気に影響されたのか、周囲にいた自警団員たちもまたそれまで「故郷を守る」と息巻いていたのが嘘のように静まり返り、表情に怯えの色を覗かせていた。

 

「なに、総数ではこちらと同程度だ。そこまで恐れる必要は無いさ」

 

「しかし、相手は訓練を積んでいる正規軍人なんですよ!それに比べて、こっちはあなた方を除けば手慰み程度の軍事訓練を受けただけの民間人だ!無茶にもほどがある!!」

 

正規軍人と、訓練を受けたことのあるだけの民間人では、実際の戦闘において大きな差が生まれてしまう。それは、人を殺すことに対し、恐怖感を覚え行動不能に陥ってしまう、死の恐怖によってまともに動くことさえできなくなってしまうなど、ここぞという場面で民間人は行動を起こすことが出来なくなってしまうケースが少なからず起こりうるのだ。

 

「今更何を言っているんだ、お前は!」

 

「ッ、メルケンさん・・・け、けどいくらなんでも無茶だ!あれだけの数の敵を俺たちだけで対処するなんて・・・!」

 

「お前はさっき、俺たちと一緒に故郷を守ると誓っただろう!それにな、今更何を言ってももう遅いんだ。敵はすぐ目の前まで来ている。戦うしか道は残されていないんだ」

 

元軍人だからだろうか。団長代理であるメルケンは、取り乱す青年とは反対に非常に落ち着いた表情で周りへと言い聞かせるように話し出した。

 

「それにな・・・お前たちは我慢できるのか?俺たちの故郷が荒らされ、帝国のやつらが我が物顔で歩き回るのを。逃げ遅れている町の人々が、あいつらによって害されても」

 

「・・・・・・」

 

メルケンの言葉に沈黙が訪れる。誰もが想像していた。自分の暮らしていた街を、帝国兵が荒らし、壊していく様を。自分の大切な人が、家族が、友人が彼らによって連れて行かれる様を。そして、殺されていく未来を。

 

「悪いが、俺はそんなのごめんだ。故郷を捨てなきゃいけないとしても、ただで捨てていくなんざ、俺には無理だ。なら、せめて一矢報いるしかないだろう・・・!」

 

「・・・そうだ・・・」

 

「・・・好きにさせて、たまるか・・・!」

 

「ああ・・・ここは、俺たちの町だ・・・!!」

 

暗い感情に囚われていた自警団の面々の顔に、強い意志の火が宿る。その火は、簡単に消え去るような代物ではなく、瞬く間にその場にいた自警団員全て伝染した。

 

「・・・もう、大丈夫そうだな」

 

戦意を喪失しかけていた自警団達の顔は既にない。あるのは、故郷を守ろうと、自分たちの居場所を守ろうという強い決意を持った戦士達の姿がそこにはあった。

 

「ライガー1より各員。総員所定の位置にて待機。こちらの合図で作戦を開始する」

 

『ハウンド1,了解』

 

『ジャガー3,了解です。お嬢さん達の方も準備出来てますよ』

 

「了解だ。さて、気合入れろよ、お前ら。帝国に、ガリアの土を踏んだことを後悔させてやれ」

 

獰猛な言葉で締めくくり、ヴァリウスは未だ肉眼では姿の見えない敵へと、挑発的な視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長、敵の姿は見えませんが・・・どうしますか?」

 

ブルール侵攻のために部隊を進めてきた帝国軍は、その歩みを郊外で一時的に停止させていた。

 

その理由としては、先行させていた偵察部隊による「ブルールにガリア軍らしき部隊が接近中」と言う報告の真偽を確認するためであった。

 

弱小ガリアの正規軍など、恐れるには足らん相手だ。このまま馬鹿正直に前進を続けていても大した問題にはならなかっただろう。しかし、一部隊を預かる身としては、最低限の情報は把握しておく必要があるからな。

 

帝国軍部隊の指揮官は胸中にてそう呟き、「再度偵察隊を出せ。敵の有無を確認する」と指示を出す。その命令を即座に実行すべく、部隊の中から数名の偵察兵がブルールへと迂回路を取って接近。

 

やがて市街地へと侵入していった。

 

それから30分ほどが経過した頃。先行した偵察兵からの通信は「敵影なし。ブルールは完全に無人」と言う戦闘を覚悟していた帝国兵たちにとっては肩透かしにも似た報告だった。

 

「まさか、一戦も交えずに逃げるとは・・・ブルールにも自警団くらいはあったと記憶していたのですが」

 

「フンッ、所詮は民間人が集まっただけのにわかに過ぎん。それよりも、やはりガリアには弱兵しかいないようだな。こうも容易く守るべき対象である町を見捨てるとは。帝国では考えられんことだ」

 

人気のないブルールの町中ジープに乗ったまま通過していく指揮官とその部下は、つい先ほどまで人がいた形跡を残す町をなんとなしに見渡す。

 

申し訳程度に積まれた土嚢や柵が抵抗の準備を進めていた形跡を物語っているが、それらは一瞬たりとも使われることなく役目を終えたようだ。

 

「まぁ、少なくとも自警団とやらは抵抗しようとしていたようではあるがな」

 

「と言うことは、やはりガリア軍が自警団を逃がしたのでしょうか?」

 

「だろうな。ついでに自分たちも逃げて行ったようだがな。さしづめ、「民間人警護のために」とでも言っていたのではないか?」

 

「ありえそうですな。綺麗に繕ってはいますが、ようは臆病風に吹かれたということでしょうに」

 

「フンッ、それがガリアと我々帝国の差だ。民を理由に敵に対して背を向けるような輩など、物の数ではない。それに、ギルランダイオのような汚い手も平然と使うような連中だ。最早敵に対する敬意さえも抱くに値しない」

 

「ああ、毒ガスの件ですか。確かに、あのような手段に訴え出る者に向ける敬意などありませんな」

 

ブルールの中心部、双子風車へと進んでいく帝国軍。兵士たちは完全に敵などいないと油断しており、また指揮官達士官組もこの町に敵がいるなどと言う考えを持つ者はだれ一人として存在せず、帝国軍部隊全員が今自分たちは戦場にいるのだという意識を失っていた。

 

だからこそ、戦車が爆発を起こし、数人の兵士が血を流しながら死んでいく事態に対し数秒間茫然としてしまった。

 

「・・・え?」

 

誰かが、何かを呟いた。その瞬間、部隊を包囲する形で敵が突如出現。状況を認識できていない帝国軍へと一斉攻撃を開始した。

 

「ッ!!何をしている!応戦だ!応戦しろ!!」

 

響き渡る銃声に負けず劣らずの大声で混乱する兵士たちへと叫ぶ指揮官。彼の声に、仲間が倒れ、敵が突如として出現したことで混乱していた兵士たちはそれぞれが銃を構え、自分たちへと攻撃を加えてくる敵へと反撃を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「予想通りの展開だな。出来すぎな気もするが」

 

「上手くいっているんだ、何も不満に思うことなど無いだろう」

 

突如出現したガリア軍、そして自警団による奇襲に混乱し、被害が拡大していく帝国軍を見下ろしながら、ヴァリウスとセルベリアは作戦が想定通りの展開を広げている様にそれぞれ感じたことを口にしていた。

 

「まぁ、そうなんだが・・・予想以上に上手くいきすぎてるからな。何か裏でもあるんじゃないかと疑いたくもなるさ」

 

「確かに、ここまで想定通りに事が運ぶとは私も思っていなかったがな。強いて言えば、敵の油断度合いが想定以上だったということくらいか」

 

奇襲直前までの戦場に居るとは思えないほどに緩んだ空気、そして奇襲直後の対応から敵の油断が自分たちの想定を上回ったのだろうと呟く。

 

「確かに、あれは酷かったな。けど、さすがにそろそろ立て直してきたみたいだ」

 

一方的に攻撃されていた帝国軍が徐々に態勢を立て直し始めている。仮にも相手はヨーロッパを二分する超大国。そう簡単に壊滅できるとは考えてなどいなかったヴァリウスにとって、その動きは少々襲いながらも想定の範囲内だ。

 

「部隊の損害はかなりのもの。士気も奇襲によって底辺まで落ちている。さて、冷静な指揮官ならここは無理せず引くところなんだが・・・」

 

ヴァリウスの呟きとほぼ同時に、敵の指揮官が何かを大声で叫び始める。すると、帝国軍は銃火を絶やさずに、しかしゆっくりとその場から後退を始めた。

 

「どうやら、最低限の冷静さは残ってたらしいな」

 

これ以上部隊の損失を見過ごすわけにはいかない。屈辱的だが、ここは一端引くべきだ。奇襲に混乱しながらも、指揮官として最低限残しておくべき理性に従った指揮官はそう部隊へと命令したのだ。

 

「指揮官として最低限のラインは守ってくれたか。ま、その動きもこっちの想定内なんだがね、残念ながら」

 

しかし、その動きもヴァリウスの想定内。次の手はすでに打ってあった。

 

「ライガー1より各員へ。作戦を第二段階へ移行する。第一陣はそのまま攻撃を続行。第二陣はこちらの合図とともに行動開始」

 

『『『了解』』』

 

帝国軍の混乱をよそに、ヴァリウスはさらなる策を発動させる。それは、弱体化する帝国軍への決めの一手となるものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えた!!来たわよ、ウェルキン!!」

 

「分かってる。こっちからも見えてるよ」

 

ヴァリウスからの通信により作戦が第二段階へと移行した直後、エーデルワイス号に乗ったウェルキン、イサラ、そしてアリシアはつい先ほど目前を通り過ぎて行った帝国軍が、先ほどよりも弱った姿を再び現したことに若干興奮していた。

 

「すごい、本当にヴァリウスさんが言ったとおりだ・・・!」

 

彼から言われたことは二つ。

 

一つ目は命令があるまでこの場所で待機していること。そして二つ目はこの大通りへと現れるであろう敵部隊へとエーデルワイス号による砲撃を合図とともに開始すること。その際、帝国軍はそこそこの戦力を第一段階で疲弊しているはずだから、残った敵戦車を叩いてほしいと言うことだったのだが、

 

「疲弊しているどころじゃないね。あともう一押しで壊滅しそうだよ、あれは」

 

ヴァリウス達の率いる第一陣の攻撃でかなりの戦力を削られたのか、後退してくる帝国軍はすでに敗走一歩手前と言った様子である。

 

そこにエーデルワイス号の一撃を加えれば、ほぼ確実に帝国軍はブルールから撤退するしかなくなるはずだとウェルキンは語った。

 

「すごい、たったあれだけの戦力で、帝国軍を壊滅させちゃうなんて・・・」

 

「ゲリラ戦は少数で大軍を相手にするための戦法だ。敵に気付かれず、奇襲に成功すれば大きな戦果を生み出すことも不可能じゃないよ」

 

「それはそうだけど・・・まぁ、いいわ。それよりも、そろそろ行かなきゃ!」

 

「そうだね。準備はいいかい、イサラ?」

 

「はい、大丈夫です。行きます!」

 

イサラの声と同時に、エーデルワイス号のエンジンに火が入り、ラジエーターに光が灯る。ペダルを踏み、エーデルワイス号は身を隠していた納屋から飛出し、前方へと必死に銃撃を行っている帝国軍の背後を捉えた。

 

「ウェルキン、ぶちかましなさい!!」

 

「この場合はぶちかますよりも、ぶっ放すと言う方が的確だと思うけど「いいから、さっさと撃ちなさい!!」・・・了解!!」

 

エーデルワイス号の砲塔から轟音と共に徹甲弾が放たれ、背を向けていた帝国戦車へと突き刺さる。戦車にとって弱点である背後からの砲撃は、一撃でその車体を吹き飛ばした。

 

「クソッ、伏兵がいたのか!二号車、三号車で応戦!敵はたった一台だ、さっさと仕留めろ!」

 

指揮官の怒声で砲塔を回転させた二台の戦車は照準をエーデルワイス号に固定。仲間の敵だと言わんばかりにそれぞれの砲塔から徹甲弾を発射した。

 

「なに!!」

 

しかし、徹甲弾はエーデルワイス号の車体に突き刺さることはなく、傾斜のついた装甲によって背後へと弾かれ、建造物の一部を破壊するにとどまる。

 

「もう一発、食らいなさい!」

 

アリシアの声と共に放たれる砲弾。砲弾が弾かれるという非常識な現実に唖然としていた帝国戦車へと突き刺さり、爆発を起こした。

 

「そんな、馬鹿な・・・!」

 

たった一台の戦車に二台もの戦車が、極短時間で撃破されたことに茫然とする指揮官。そんな彼に追い打ちをかけるように前方からヴァリウス達第一陣、エーデルワイスの後ろからアンスリウムが迫り、苛烈な攻撃を加えていく。

 

「挟み撃ちだと・・・!くそ、応戦しろ!ガリアごとき弱小国に栄えある帝国軍が負けるなど、許されることではない!!」

 

負けるなど、敗北などあり得ない。あってはならないはずだ。自分は、ヨーロッパ大陸を二分する超大国、東ヨーロッパ帝国連合のガリア侵攻軍において、一部隊を任された選ばれた人間だ。選ばれた人間なのだ。そんな自分が、こんな田舎町での戦闘で敗北するなど、あってはならない。あってはならないはずだ!!

 

自信のプライドをことごとく傷つけられた指揮官は、すでに正常な判断を下せる余裕は存在していなった。感情を露わにし怒鳴り散らす指揮官。部下である兵士たちは、自分たちを指揮すべき人間が、具体的な策ではなく感情論を掲げ始めたことで下がり気味だった士気に加速が掛かり、逃亡しよとするものまで出始めてしまった。

 

「貴様ら!何をしている!敵前逃亡は銃殺だぞ!逃げるな、戦え!ガリアごとき弱小国に負けるなど、許されんのだ!戦え!!」

 

ただ、「戦え!戦え!!」と怒鳴り散らす敵指揮官に、ヴァリウスは哀れだなと感じながら敵を次々に撃破していく。

 

哀れだと思ったとしても、これは戦争だ。情け容赦などすれば、自分に報いが降りかかる。だからこそ、ここは全力で叩いておかなくてはならない。

 

既に士気はガタガタ、部隊としての体を成していない帝国軍へと止めを刺すべくヴァリウスは剣を振るう。その姿は、味方には希望を、敵には絶望を与えることとなり、戦局を決定づける一手となった。

 

「クソックソックソッ!!貴様などに、貴様らなどに、選ばれた人間であるこの私が!!」

 

「選ばれた人間、ね・・・くだらない」

 

現実を認めようとしない指揮官へ無感動な目を向ける。自身の立場に固執していることが、部隊の損害を著しくしているにも関わらず、なおも下らないプライドのために部下へ犠牲を強いる。

 

同じ部隊を預かる身として、ヴァリウスは目の前の男の存在を許せそうに無かった。だが、かと言ってこれ以上無駄な犠牲を出す必要も無い。

 

だからこそ、ヴァリウスは目の前の現実を見ようとしない男へと降伏を勧告した。

 

「投降しろ。お前に指揮官としての自覚が少しでも残っているならば、部下の命をこれ以上無駄に散らせるな」

 

ヴァリウスの温情からくる降伏勧告。それは、しかしプライドの高い指揮官にとっては死刑宣告にも等しい一言であった。

 

「貴様さえ・・・貴様さえいなければぁ!!」

 

自らが見下していた存在に見下される。プライドの高さ故に、指揮官はそのことがどうしても許せず、降伏勧告のために近づいていたヴァリウスへと腰から銃を引き抜き、トリガーを引いた。

 

至近距離から放たれる一発の銃弾。相互の距離は20メートルもない。その場にいた誰もが、ヴァリウスを銃弾が貫く未来を幻視し、目を見張る。

 

確実に殺った。自らを見下した者が己の前に倒れる未来を幻視していた指揮官は、喜悦に表情を歪める。しかし、彼の想像した未来は、ヴァリウスの起こしたとんでもない行動によって回避された。

 

「ッ!!」

 

「なぁっ!!」

 

ヴァリウスは、自らに迫っていた銃弾を、あろうことか手にしていたディルフを振るうことで、銃弾を真っ二つに切り裂いた。

 

ありえない現実に言葉を失う指揮官。普通ならば降伏勧告に来た敵指揮官へ発砲などしてしまえば確実に待っているのは死のみ。冷静に考えればここはすぐさま逃亡に映るべき場面であるが、男は今目の前で起こった出来事が現実のものと認められずに、固まったままヴァリウスの目の前で静止していた、だが、それを黙って見逃してやるほどヴァリウスは優しくない。

 

「それが、答えか」

 

「ッ!!や、やめ」

 

命乞いの言葉だったのか、それともやはり自身のプライドを傷つけたヴァリウスへの罵倒だったのか。どちらにしろ、最後まで言い切ることなく男はディルフによって首を跳ね飛ばされ、命を失った。

 

「た、隊長が死んだ・・・!」

 

「ガリアに・・・負けたのか・・・」

 

抵抗を続けていた敵兵が次々と膝をつき、銃を取り落していく。底辺まで落ち込んでいた士気は指揮官が死んだことによって完全に瓦解。ヴァリウス達の降伏勧告に敵兵は大人しく従い、武装を解除していく。

 

ブルールにおける戦いが、終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホントに勝っちゃったんだ・・・」

 

戦闘が終了してからしばらくして、アリシアはブルールからの撤退するため自警団や133小隊と共にブルールが一望できる丘にて、帝国の手から守りきることが出来た故郷を見つめていた。

 

帝国との戦闘に勝利し、故郷を守りきることは確かに出来た。だが、最初に言われた通り、たとえ今回勝てたからと言って、これからも勝てる保証はどこにもなく、これからガリア各地へ戦禍が広がることを考えれば、帝国とほど近いだけで、さして重要拠点と言うわけでもない田舎町を防衛するために軍を派遣できるわけがない。

 

故に、アリシア達は渋々ながらも、自分たちの手で守りきることのできた故郷から離れることにしたのだ。故郷を捨てなければならない。そのことは確かにつらいが、だからと言ってブルールに残り、帝国と戦って死んでしまえばすべてはそこで終わりなのだ。

 

「勝てたのは嬉しいけど・・・やっぱり、故郷を捨てるっていうのは・・・辛いね・・・」

 

「確かに辛いよ。田舎町だけど、僕らにとってはたった一つの生まれ故郷だ。たくさんの思い出が詰まったブルールを捨てなきゃいけないのは・・・分かっていても辛いさ。けど、生きていれば、きっと戻ってこれる」

 

「はい。生きてさえいれば、必ず戻ってこれます」

 

ギュンター兄妹の言葉に、アリシアもまた頷いた。

 

「そうだね。生きてさえいれば、きっと・・・ううん、必ず、戻ってこれるよね」

 

ブルールの名物、双子風車を見つめる。いつも、当たり前に見ていたそれと、一時的な別れ。奇跡的に被害が及ばなかったそれを、アリシア達は黙って見つめる。

 

必ず、ここに戻ってくる。

 

この戦争を、一日でも早く終わらせて、またあの日常を過ごすために。

 

「私たちは、絶対に戻ってくる」


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