戦場のヴァルキュリア 蒼騎士物語   作:masasan

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第四話

~征歴1935年3月20日~

 

ガリア軍の撤退を支援すべく帝国の追撃部隊を撃破したヴァリウス達第133独立機動小隊。任務を終え、基地へ帰投しようとしていた彼らの許へ、帝国軍の部隊がブルール方面へと進軍していったとの情報が入る。民間への被害を最小限に食い止めるべく、ヴァリウスは機動力のあるライガー分隊、ハウンド分隊、そしてジャガー分隊のアンスリウム号がブルールへ進路をとり、移動を開始した。

 

ジープで部隊の先頭を走っていたヴァリウスの横に、ハウンドを乗せた輸送用トラックが寄せてきた。

 

「隊長!!ブルールの自警団から救援要請が来ています!!」

 

「救援要請?ちょっと貸してくれ。」

 

目標地点であるブルールからの救援要請。すでに帝国軍が向かってきていることを察知したのかと予想しながらヴァリウスは渡された通信機へと呼びかけた。

 

「こちらガリア軍第133独立機動小隊のヴァリウス・ルシア中佐だ。そちらは?」

 

『こちらはガリア自警団団長のラーケンであります!現在ブルール近郊に帝国軍が接近中!至急援軍を要請します!』

 

ラーケンと名乗った自警団の団長から知らされたブルールの状況。予想通り、まだ最悪の事態にはなっていないようで、ヴァリウスは少なからず安堵を覚えた。

 

「了解した。当部隊の現在位置はブルールから東に5キロ地点だ。直に到着するので、それまで何とか持ちこたえてくれ。必ず助けに行く。以上だ、健闘を祈る」

 

『了解しました!!ありがとうございます、中佐どの!!』

 

救援が来てくれることが、よほどうれしかったのか、最初にしゃべっていた時よりも元気な声で通信を終えたラーケンに、苦笑を浮かべながらヴァリウスは通信機を置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ブルールでは正規軍が応援に来てくれるという報告に、それまで迫りくる帝国に対しておびえていた自警団員達は希望が生まれたことに対し喜びの声を上げた。

 

「正規軍が来てくれるのか!!」

 

「これで帝国の奴らを追い払える!!」

 

正規軍が助けに来てくれる。希望が生まれ、士気が上がり始める自警団だったが、団長のラーケンは湧く自警団を「みんな落着け!」と叫ぶ。

 

「みんな、正規軍が来てくれることになったが、かといって気は抜くなよ。いつ帝国軍の攻撃が始まるかは分からないんだ。各自、気を引き締めて警戒に当たってくれ」

 

団長の諌めの言葉にひとまず落ち着きを取り戻した自警団員達。

 

いくら正規軍が来てくれるとはいえ、今すぐここに現れるわけではない。だが、帝国はすぐ目の前まで迫っているのだ。油断は出来ない。

 

気を引き締め直し、各自振り当てられた持ち場へと散っていく。

 

そんな中、自警団の制服を纏った二人の少女、アリシア・メルキオットとスージー・エヴァンスは正規軍が来てくれるというラーケンの話にそれまで緊張で引き締めていた表情を緩め、互いに笑顔を浮かべる。

 

「良かった、正規軍が来てくれるのなら、戦わないで済むかもしれませんね、アリシア」

 

「何言ってんのスージー。団長も言ってたでしょう?油断するなって。確かに正規軍が来てくれるのは心強いけど、いつ帝国軍が攻めてくるか分かんないんだから、私たちが街を守らなくっちゃ!・・・あぁ!!」

 

スージーと話していたアリシアは、捕らえていた男が倉庫から逃げ出して行くのを目撃し、大声を出しながら窓へと詰め寄る。

 

「に、逃げたぁーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方ヴァリウス達は順調に進軍を継続しており、ブルールまであと少しという距離まで来たところで戦闘音と、火の手が上がっているのが見え始めた。

ブルールまではもう少しかかるはずであるが、戦闘音が響いていると言うことはもしや間に合わなかったのかもしれない。

 

最悪の事態を想像しながらヴァリウスは一時行軍を停止。ひとまず情報を集めようとジープを降りた。

 

「ヴァン、状況がイマイチつかめない。ここは一度偵察兵を出した方が良い」

 

ヴァリウスの後に続きジープから降車してくるセルベリア。彼女の言葉に頷きながら歩みを進める。

 

「ああ、分かってる。キース、何人か連れて偵察に行ってくれ。まだブルールまでは多少距離があるが、もしかしたら自警団の一部が戦闘を開始したのかもしれない。もしもそうだったら、無線で連絡を入れろ、すぐに駆けつける」

 

「了解です、隊長」

 

既にトラックの荷台から降車していたハウンド隊隊長であるキースは同じくトラックから地へと降り立っていた隊員達と共に森の中へと消えていく。

 

その後ろ姿を見送ったヴァリウスは残った面々へと新しい指示をだした。

 

「各員、直ちに戦闘準備!!すぐにでも帝国軍と戦闘になる可能性がある!!各員気を抜くなよ!!」

 

「「「了解!!」」」

 

隊員達の返答を聞き届けたヴァリウスは自身もディルフを握りしめる。彼の脳裏には、最悪の状況が浮かび上がっていたが、出来ればそうなってはいないことを彼は祈っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハウンド分隊が偵察に出てしばらくたったころ、件のキースから通信機に報告が入ってきた。

 

『隊長、こちらハウンド1。帝国軍の部隊を発見しました。戦力は二個小隊程度、戦車は二台です』

 

小規模ながらも、帝国の部隊を発見した。すでに戦闘が始まってしまっているのかと考えたヴァリウスはキースへと「分かった。それで、状況はどうだ?自警団との戦闘か?」と尋ねた。

 

間に合わなかったのだろうか。被害は?状況は?もしや、すでにブルールは攻略されてしまったのか?軽い不安を感じながら通信機へと問いかけたヴァリウスに対するキースからの報告は、しかし彼の予想していた全ての状況とも違うものであった。

 

『いえ、帝国軍はブルールから離れた民家らしき物を攻撃していたようです。それと・・・』

 

「なんだ?何かあったのか?」

 

『いえ、実はその民家から戦車が一台、ものすごいスピードで帝国の包囲網を突破。ブルール方面へと逃走していきました。』

 

「何?民家から戦車?間違いないのか?」

 

『はい、間違いありません。その戦車は見た限りですが正規軍の軽戦車とは違い、どちらかというと自分たちのアンスリウム号らと同系統だと思われます。』

 

「アンスリウムと?・・・分かった、すぐに帰還してくれ。」

 

『了解』

 

通信が終了し、音の聞こえなくなった通信機をしばし見つめ、キースから報告にあった戦車について考える。アンスリウムは軍の倉庫に死蔵されていた戦車だ。それを発見し、運用しているからこそ、自分たちが運用しているこの戦車と同型の機体が、このような田舎と言えるような地域にあることがどうにもヴァリウスには気になったのだ。

 

「アンスリウムと同型か・・・どう思う、セリア?」

 

しかし、考えたからと言って必ずしも答えが出るわけではない。そこで、自身の横でキースからの報告を

共に聞いていたセルベリアへ尋ねてみる。が、彼女も適当な理由が見つからないようで、首を横に振り分からないと答えた。

 

ハッキリ言って訳がわからない状況。だからと言って、襲われている民間人を放っておくわけにもいかない。

 

一端戦車について考えることを止めたヴァリウスは、溜息を一つ吐き停めていた行軍を再開させる。

 

しばらくジープを走らせていたヴァリウス達にハウンドが合流。そして、ブルールまで間近に迫ったあたりで、ヴァリウスの脳裏に「そう言えば、戦車に詳しい奴が一人いるじゃないか」と言う閃きが走り、ジープの速度を少々緩め、後ろを走っていた戦車、アンスリウムの横へとジープを着けると車内に居る隊員へと大声を張り上げた。

 

「ウォルター!!ちょっといいか!!」

 

「はい、なんですか、隊長!!」

 

ヴァリウスの声にハッチから顔を出した男性、ウォルター曹長。ヴァリウスは、ダメ元で彼に先ほどの戦車のことを尋ねてみる。

 

「お前戦車について結構詳しかったよな!?アンスリウムと同型の戦車で民間にあるヤツって知らないか!?」

 

自分で尋ねておいてなんだが、民間に戦車がある時点で相当おかしいよなと改まってみるヴァリウスだったが、そんな彼とは対照的に投げかけられた質問に首を傾げながら考えていたウォルターは心当たりがあったのか、「もしかして、それ、第一次大戦で活躍したって言うエーデルワイス号じゃ無いんですかぁ?」を答えを返してきた。

 

「エーデルワイス号?なんだ、そいつは?」

 

「第一次大戦でギュンター将軍が乗ったって言う戦車ッすよ!!なんでも彼の部下だったって言う技師が作った戦車らしいんですけど、コストが高くって、その一台しか作られ無かった代物らしいんですけど、性能はピカイチだったそうですよ。で、ガリア開発部がそいつを基にこいつらを作ったって言う話ですよ!?」

 

「なるほど・・・軍から正式採用されなかった戦車をギュンター将軍が自分の家に隠してたと言う所か。となると・・・そいつを動かしてるのは、多分ギュンター将軍の子供なのだろうな」

 

「たぶんな。しっかし、こいつらのモデルになった戦車か。そんなもの、よく個人で管理してたもんだぜ」

 

セルベリアの推察に同意を示しながら、ヴァリウスは横を並走するガリアの正式戦車に比べて大きな車体であるアンスリウムを見上げる。

 

高性能なのだが、量産には向かないと言う理由で開発途中のままお蔵入りしていたアンスリウムやグラジオラス、そしてストレリチア。その三台を見つけ、上に頼み込み、開発部で各戦車に応じた装備などをつけ、今やこの部隊に無くてはならないものとなった三台のオリジナル。

 

そんなものがこんな国境近くの小さな街にあったなんてな・・・。

 

「まぁとにかく、当てに出来そうな戦力が見つかったって感じかな」

 

「ああ。帝国の包囲網を抜けられるという事は、噂通り性能は高いだろうからな。期待しても特に問題は無いだろうな」

 

想定外ではあるものの、いい方向に転がってくれそうな予感に、ヴァリウスは笑みを浮かべながらジープのアクセルを踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!見えたぞ!!正規軍だ!!」

 

「本当に来てくれたのか!!」

 

見張り台にいた隊員からの報告に、自警団員達の顔が明るくなる。

 

正直、本当に来てくれるのか半信半疑だった。噂では、帝国との防衛拠点だったギルランダイオが帝国の手に堕ち、ここら辺に駐屯していた正規軍は順次撤退していると聞いていた。

 

そんな状況下での救援に向かうという通信。本当に来てくれるのかと内心疑っていた団員たちにとって、姿を見せた正規軍部隊存在は、帝国との衝突を前にして恐怖を抱いていた団員たちにとっては非常に勇気づけられるものだった。

 

自分たちの姿を見て騒いでいる団員たちの様子は、ジープから双眼鏡で様子を見ていたセルベリアの表情をやわらかなモノへと変えた。

 

「なんとか戦闘前にたどり着けたようだな、ヴァン」

 

「ああ、良かったよ。もしかしたら帝国が攻め入る方が早いと思ってたからな。さて・・・」

 

ジープを止め、セルベリアを引き連れて自警団の下へと向かう。

現れてくれた正規軍の姿を目にした自警団の隊員達の顔は一様に明るい。

 

「応援要請をうけ、こちらに来たガリア軍第133独立機動小隊のヴァリウス・ルシア中佐だ」

 

「同部隊のセルベリア・ルシア大尉だ。こちらの責任者は?」

 

二人がそう尋ねると集団の中から一人の男性が進み出てきた。

 

「ブルール自警団のメルケル・スーステンです。ただいま団長は住民避難の指揮を執っているため、自分が代理を務めています」

 

堂々とした敬礼。兵役を経験していると思わせる敬礼に、返礼しながらヴァリウスはメルケルと名乗った男から現状の報告を受けることにした。

 

「了解した。それで、現在の避難状況はどの程度進行しているんですか?」

 

「現在は七割程度の避難が完了しています。残りの三割は現在トラックなどで避難中です」

 

メルケンからの報告に、心の中で「まだ三割も残っているのか・・・」と零すヴァリウス。

 

避難する民間人と言うのは、はっきり言って統制を失いやすい存在だ。訓練されている軍人や、ある程度の覚悟と心許ないとはいえ、武器を手にしている自警団と比べると民間人はパニックに陥りやすい。

 

自分たちだけで戦うのならばまだしも、自警団を戦闘に加わらせるのは正直に言って部隊の連携が乱れてしまう可能性が生じるためにできるだけ避けたかったのが本音なのだが、現在の避難状況では自警団の協力が不可欠なものとなることは容易に想像がつく。

 

故に、ヴァリウスは内心では渋々と、しかし表情には一切出さずにメルケルへと自警団の戦力を尋ねた。

 

「・・・分かった。それで、自警団の戦力を確認したいのだが」

 

「はい。自警団総勢35名、および軽戦車が一台配備されています。・・・ただ、軽戦車ですが、第一次大戦時のものなので、メンテナンスを行わなければ動かない可能性がありまして・・・」

 

「・・・そうか・・・」

 

第一次大戦で使用された戦車など、戦力には数えられない。ハッキリと言葉にはしなかったが、あまり戦力としては期待できそうには無いなと結論を出そうとしていたヴァリウスの視界に、一台の蒼い中型戦車が映った。

 

「あれは?」

 

ヴァリウスが尋ねると、メルケンはああ、と声を出し、見られたくないものを見られたといった表情でその質問に答えた。

 

「なんでもギュンター将軍のご子息が乗ってきた戦車らしいんですがね。民間人が乗る戦車なんて当てに出来るかどうか・・・」

 

そう答えたメルケンに思わず、顔をしかめてしまうヴァリウス。彼に同意したわけでは全くない。ならば、なぜ顔をしかめたのか?その理由は、メルケンの視線が、明らかに「ギュンター将軍の子息」ではなく、その隣に立つダルクス人の少女へと向けられていたからだった。

 

ヴァリウスは、このように人を人種だけで判断する輩が嫌いだった。当人の能力を見もせずに、人種だけですべてを判断する。非常時にも関わらず、そのような判断を下そうとしているメルケンに対し、ヴァリウスは彼に対する評価を下方修正した。

 

「今は非常事態だ。民間人の物であろうが使える物ならば使うべきだ。相手がダルクス人だろうが何だろうがな」

 

今がどういう時だか理解しているのか?言外にそう告げられたメルケンはバツが悪そうに顔をそらす。ヴァリウスはそのままメルケンを放置し、件のダルクス人の少女と20歳くらいの青年の下へと向かっていった。

 

「君がギュンター将軍のご子息か?」

 

前置きなどおかず単刀直入で尋ねてきたヴァリウスに対し、青年はどこかおっとりした表情で「そうです」と答えた。

 

「はい、ウェルキン・ギュンターと言います。あの、質問があるんですが」

 

「なんだ?」

 

「僕たちはいつ逃げたら良いんでしょうか?」

 

「ちょ!!ちょっと、ウェルキン!!いきなりなに言ってんのあんたは!!」

 

彼の傍にいた茶髪の女の子が大声を上げてウェルキンへと詰め寄る。せっかく救援に来てくれた正規軍に対して、いつ逃げればいいのかなんて質問、普通ならばありえない。

 

怒ってないだろうかと少し心配になりながら茶髪の女の子がヴァリウスの様子を恐る恐る伺うと、そこには彼女の予想していた気分を害したような表情は無く、むしろ何かに関心したような表情が浮かんでいた。

 

「なるほど・・・君は現状をしっかりと認識しているようだな」

 

「へ・・・?」

 

少女が思わず抜けた声を上げる。どうなってるの?ここって普通怒るところだよね?なのに、むしろ褒めてる?ていうか、現状をしっかりと認識してるってなに?ただ逃げたいから言ったんじゃないの?

 

「君の言う通り、俺たちは民間人の避難が完了次第、自警団と共にこのブルールから撤退するつもりだ」

 

「な!!ちょっと待ってくれ!!あんたら正規軍なら、帝国軍を追い返すことぐらい出来るだろうが!!」

 

てっきり帝国軍を追い返してくれるとばかり思っていたメルケンは、「撤退するつもりだ」と言い放ったヴァリウスへと詰め寄る。

 

肩を怒らせながら近寄ってきたメルケンに対し、ヴァリウスは冷静な表情のままここにいる全員に現状をしっかりと認識してもらおうと若干大きな声でメルケンへと語りかけた。

 

「確かに今回侵攻してきている戦力ならば倒せないこともない。しかし、このままブルールを防衛し続けることは我々には不可能だ。今は君たちの安全を最優先にしなければならない」

 

「し、しかし!!戦車ならまだ倉庫にある!!それを使えば・・・!!」

 

ヴァリウスの言葉を理性では納得しているはずなのだが、なおもブルールから退避することを認めようとはしないメルケン。

 

ヴァリウスとしては彼の気持ちも分からなくもない。だが、今回帝国軍を追い払うことが出来ても、その状態を維持出来るだけの戦力など、現在のガリア軍には残されていない。正直な話、この町を防衛するだけの重要性もない今、わざわざ戦力を割いてまで守るなどと言う何のメリットも無いことをするような輩は軍にはいない。

 

ここが何かしらの重要拠点なのだとすれば、多少無理してでも戦力を割くこともするだろう。だが、残念なことにここはどこにでもある小規模な街に過ぎない。戦略的価値がない場所を守れるほどの余裕はもうガリアにはないのだ。

 

「勘違いしないで貰いたい。ここに攻めてくる帝国軍は全て撃破するつもりだ」

 

「な、なに・・・し、しかし、こういったら何だが、中佐殿たちの戦力は今いるだけなんだろ?正直たった一小隊くらいの戦力じゃ、どうにも・・・」

 

「安心しろ。私たちにとってはこの程度の戦力差などいつものことだ。それに、この町へ侵攻してきている部隊に名の知れた指揮官の存在は確認されていない。武装もそう大したものではない。ならば、我々が負ける要素など一つとしてない」

 

セルベリアの自信に満ちた言葉に今度こそ沈黙するメルケン。

 

「さて、それでは自警団は避難誘導を継続。民間人の避難が最優先だ、しかり頼むぞ。それと、自分たちの避難の準備もな。「な!!俺たちだって戦える!!戦車があれば」戦車があろうと無かろうと関係ない!!まずは自分たちの安全を考えろ。それに、自警団といえども君たちは軍人ではない。今俺たちがいるのだから余計な犠牲は出したくないんだ」

 

「ク・・・!!」

 

ヴァリウスの言葉に表情を歪めるメルケン。彼自身、骨董品の戦車を持ち出したところでどうにもならないことは分かってるはずなのだが、やはり故郷を捨て去ると言うのは、そう簡単には割り切れない。

 

拳を振るわせ、顔を伏せるメルケンをしばらく見つめていたヴァリウスだったが、すぐに視線を外し、再びギュンター達へと向き直る。

 

「さて、そう言うことだ。ああいっといてなんなんだが、君たちはこちらに協力してもらえるか?戦力は無いよりある方が良いからな。もちろん、後方からの援護程度で構わない」

 

「別に僕は構いませんが・・・イサラ、どうする?」

 

「私も構いません。でも、普通の戦車がエーデルワイス号に着いてこれるかどうか・・・」

 

そう言ってこちらをまっすぐ見つめてくるイサラという少女。

 

彼女のハッキリとした物言いに苦笑を浮かべながらヴァリウスは心配ないよ、と答えた。

 

「中々ハッキリと物を言うお嬢さんだな。まぁ心配には及ばないさ。俺たちのアンスリウム号は君たちの戦車―――エーデルワイス号を基に作られているからな」

 

エーデルワイス号を基に作られた。ヴァリウスの発言に信じられないといった表情を浮かべたイサラはさらに彼を問い詰める。

 

「そんな、エーデルワイス号は父が作った、たった一台の試作品の筈です。なのにエーデルワイス号を基にした戦車が正規軍にあるなんて・・・正直信じられません」

 

「まぁ驚くのも無理はない。アンスリウム号はエーデルワイス号の試作量産機として開発されていたんだが、コストが掛かりすぎると言う理由で未完成のまま放置されてたんだ。けど、うちの隊員が未完成で放置されてたアンスリウムともう2台を発見、俺が上に掛け合って3台とも完成させたんだ。今じゃ部隊に欠かせない、大事な戦力だよ」

 

もっとも、こいつらの基になったって言うエーデルワイス号の事はついさっき知ったばかりなんだが、これは別に言う必要はないよなと自己完結。

 

そんなヴァリウスの内心など分かるはずのないイサラは自分の父が作り上げた戦車が、数は少ないとは言えこうして量産されていた事に少なからず感動していた。

 

自分の父は、確かにガリアへと戦うための力を残していたのかと。ダルクス人の作り上げた物を、こうして評価してくれていた者が、養父以外にも確かに存在していたのだと。

 

「3台も・・・分かりました。そういうことならば大丈夫だと思います」

 

「よし、なら頼む」

 

「はい!」

 

最初に話しかけてきたときよりも少しばかり元気よく頭を下げるイサラ。そんな彼女に微笑を浮かべ、防衛戦の指揮を取るべく踵を返そうとしたが、

 

「あ、あの!!」

 

イサラの背後に立っていた茶髪の少女が緊張気味に、しかし強い意思を感じさせる眼をしながらヴァリウスを呼び止めた。

 

「君は?」

 

「ブルール自警団のアリシア・メルキオットです。あの、私たちも作戦に参加させてください!!帝国軍の数は、確実に正規軍のあなたたちよりも多いです!!少しでも戦力は必要なはずです!!」

 

自分たちの故郷。たとえ捨てていかなければならないとしても、せめて自分たちの手で守りたい。強い意志を感じさせる瞳でそう訴えてくるアリシアに内心苦笑を浮かべながる。

 

確かに、自分達の故郷を自分達の手で守りたいと思うのは当然だ。しかし、こう言ってはなんだが、自警団の戦力が加わったところで大した違いは無いと言うのが彼の偽らざる本音だ。

 

だが、そんな事を彼女達に言える訳もない。だからこそ、ヴァリウスは毅然とした表情で彼女達自警団でも可能な役割を与える事にした。

 

「・・・分かった。ただし、許可できるのは援護だけだ。直接戦闘は我々が行う。自警団の方々はそれでよろしいですね?」

 

正直な話、メルケンの先ほどの様子からここで援護要請を突っぱねてしまえば、戦闘中に、倉庫にあると言う骨董品の戦車を持ち出して出撃しそうな雰囲気だ。不確定要素は出来るだけ排除しておきたいと言う打算の下、ヴァリウスはアリシアの提案を受けることにした。

 

「はい!!ありがとうございます!!」

 

「・・・了解しました・・・」

 

嬉しそうなアリシアと悔しそうなメルケン。

 

対照的な二人の返答を聞いたヴァリウスは、セルベリアと共に少々離れた場所で待機していた部隊の許へと戻って行った。

 

その後ろ姿を見送っていたアリシアへ、傍らに立っていたウェルキンが質問を投げかける。

 

「良かったのかい、アリシア?折角逃げて良いって言われたのに」

 

「何言ってるのよウェルキン。第一あの人たちも言ってたでしょ?民間人の避難が終わるまではここを守んなきゃいけないんだって。だったら私は自警団として、正規軍を手伝うの。それが私たちの任務だしね」

 

自分たちの手でブルールを守る。せめて、避難が完了するまでは。

 

心の中で呟いたアリシアは、それよりもと言いながら、

 

「それよりも、よく援護する気になったわね。正直さっさと逃げちゃうんじゃないかって思ったわ」

 

とウェルキンへと話しかけた。

 

彼らは自警団ではない。ならば、戦う義務などはまったくないはず。にもかかわらず援護とはいえ、戦うことを承諾したのがアリシアにとっては非常に意外なことだった。

 

「ああ、まぁね。あの人はこの状況をしっかりと認識してるみたいだし、無茶なことは言わないだろうと思ったしね。それに、ヴァリウス・ルシア中佐って言えば首都じゃガリア軍最強とまで言われてる人だから大丈夫だろうと思ったんだ」

 

「・・・え?ウェルキン、今なんて言った?」

 

ウェルキンの口から発せられた信じられないような言葉を聞いたような気がして、アリシアは聞き間違いかなと思いながら確認した。

 

「ん?だから、あの援軍に来てくれた正規軍の中佐は今じゃガリア最強とも言われている軍人だからね。そうそう無茶な事は言われないと思うよ」

 

「ガ、ガリア軍最強・・・そんな人が援軍に来てくれたって言うの・・・」

 

たかだかガリアの片田舎に、英雄に等しい人が助けに来てくれた。あまりにも信じられない現実に、しばしアリシアは呆然と目を見開いていた。

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後、ヴァリウス達は帝国軍を迎え撃つ為にそれぞれ配置についていた。

 

「さて、一発帝国にお見舞いしてやるとしますか」

 

「ほどほどにな、ヴァン」

 

ライフルのグリップを軽く握り、セルベリアもまた彼に続きブルールの街を歩いていく。その足取りは、緊張した様子など全くなく、堂々とした姿は、自警団に大きな安心感を与えていた。


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