仕事の転勤や、私生活でのゴタゴタなどでちょっと執筆意欲がなくなってて・・・
かなり短めですが、一話書き上げましたので、楽しみにしてくださっていた方が居れば良いなと思い、投稿します。
これからもスローペースではありますが、完結まで行きたいと思いますので、これからも宜しくお願いします。
「いやはや、まさか本当に一緒の車に乗るとは思ってなかったよ。中々、肝が据わってるね」
「お互い様だろ。まさか、本当に乗せてくれるとは俺も思ってなかった」
「なに、せっかく一緒に戦うってなったんだ。お互いに、もっと互いの事を知る必要があるだろう?それに、折角美形が揃ってるんだ。目の保養もしたくなったのさ」
「それはまた、剛毅なことで」
「ほら、そんなにむくれなさんな。気に障ったなら、お宅もうちのマリーダのこと見ていいからさ。なんなら、おじさんのことも見るかい?」
「遠慮しておくよ。男をマジマジと見る趣味なんてないし、女性に対しては失礼過ぎるからな」
「おや、真面目だねぇ」
「そういうあんたは、思った以上に軽いな。いや、軽く見せているだけなのかな?」
「さぁ、どうだろうねぇ。おじさんとしては、取り繕っているつもりはさらさら無いんだけど」
「へぇ・・・なら、あんたとは戦場で会いたくはないな。こっちの読みも裏をかかれそうだ」
「それを言うならおじさんのほうだよ。君たちみたいなのと戦場であったら、何にもできずにやられちまいそうだ」
「思ってもないことをよく言うな」
「いやいや、本気さ。・・・ホント、会いたくないよ」
貴族の中でも一部の者しか手に入らないような高級車のハンドルを握りながら、カール・オザヴァルトはかつてない緊張感に包まれていた。
車内での会話は、一見和やかに見えるが、実態は侵略する側とされている側の軍の高級将校によるもの。その言葉一つ一つに、どんな裏があるのか、その裏をどうかこうとしているのか、下士官である自分には想像もつかないが、ここにいるのは、帝国軍にもその名が伝わるガリアの英雄二人と、それに匹敵する帝国軍の英傑だ。
もしも、自分が一言でも余計なことを口にし、それが元でマリーダ大佐や、イェーガー将軍に害をなしてしまったらと考えると、カールの口内はカラカラに乾いてしまう。
無意識にゴクリと喉を鳴らすカール。そんな彼を横目に見たイェーガーは、フッと笑い、それまで纏っていたピリピリとした空気を一瞬で消し、後部座席に座っているマリーダ、そしてヴァリウスたちに向けて両手を挙げた。
「この辺にしとこうや。どうやら、俺たちのせいで運転手君に余計なプレッシャーをかけちまっているみたいだ。このまんまじゃ、追いつく前に体力を尽かしてしまいかねん」
イェーガーの言葉に、ちらりと運転手であるカールへと初めて視線を向ける。
自分よりも年若く、まだ少年のようなあどけなさを残した青年の顔色は、確かにイェーガーのいう通り、あまりよくはない。
仮にも、共同戦線を申し出た側としては、彼へ与えてしまっているプレッシャーは、よろしくない類のものであることは、あまりにも明白だった。
「・・・そうだな。俺も、大人げなかったみたいだ」
「そんじゃ、そういうことで。そろそろ真面目に作戦会議と洒落込もうじゃないか、御三方」
素直に謝罪した、とは言い難いものの、とりあえず和解が成ったと取ったイェーガーが音頭を取る形でようやく共同戦線のための作戦を話し合う場が整った。
「さて、とりあえず問題なのが、お姫様御一行がどこに行こうとしているのか、だが」
「それなら、明白だろう。敵が帝国ではないのなら、連邦。そして、この国で連邦との窓口となる港があり、且つ移動手段が確立されている町は一つ。そこに行くには二つの街道のどちらかに絞られる」
「なら、君ならそのどちらを選ぶ?」
「俺なら、間違いなく―――」
「「オンフール」」
イェーガーとヴァリウスの声が重なり、共に同じ街道の名を口にする。ローデン街道の終着点であり、中型船舶の寄港も可能な港町。地図上では、シュラーデン街道の名の由来ともなっている港町「シュラーデン」の方が近く、また交通の便もオンフールよりも優れているが、隠密行動をとる者がそうした人通りの多い街道を行く可能性は低いと、二人は予測していた。
「・・・随分とガリアの地理をご存じの様子だな」
「何、海鮮料理が好きでね。ガリアの中でもオンフールの海鮮料理は中々のものだと噂で耳にしたまでのことだよ。そう勘ぐりなさんな」
軽薄な口調を崩さずに手を振るイェーガーに冷めた視線を送りながら、ヴァリウスは心の内で舌を打つ。
オンフールは、確かに連邦との窓口の一つとして機能してはいる。しかし、その内容は細々としたもので、決して噂で聞くような場所では無い。大口の取引もするシュラーデンの方が一般的には有名であり、はっきり言ってオンフールは地元の者ぐらいしか知らない、謂わば穴場に等しい場所。
そんな場所のことさえも把握しているということは、ガリアの地理についてこの男は相当深いところまで把握していることに外ならない。
(やはり、防諜体制を強化する必要があるな)
防衛側が地の利を無くせば、勝機など無いに等しい。今度の上申書にはしっかりと明記しておこうと心の中で決意し、ヴァリウスは目の前の仕事に思考を向ける。
「とにかく、そっちもそれを把握しているってことは、特に俺の意見に反対する理由もないな?」
「もちろん。ただ、保険は掛けておくべきだろ?」
「それは否定しない」
そう告げ腕を組むヴァリウスに、ニヤッと笑みを浮かべイェーガーは車に後付けされた無線機を手に取る。
「では、俺たちはこのままローデン街道を、ギュンター少尉たちにはシュラーデン街道を行ってもらい標的の捜索を行う―――って伝えてもいいかな?」
「ああ、構わない」
「じゃあ、早速―――聞こえるか、ギュンター少尉」
無線を通して交わされる、ウェルキンとイェーガーの会話は、ほぼ先ほどのヴァリウスとの話と同一。唯一違うのは、すでに自分たちの目的地が決定しているため、ウェルキン達に自分たちが進むローデン街道とは異なるシュラーデン街道を進んでほしいと言うことくらいだ。
「―――では、そういう事で頼むぞ、ギュンター少尉」
『ええ。あ、出来ればルシア中佐に代わっていただけませんか?』
「ん?もちろん構わんさ・・・ほら、ルシア中佐殿。御指名だよ」
「・・・どうも。なんだ、ギュンター少尉」
『いえ、その―――今回の件、ご協力していただいて、ありがとうございます』
「何を今更・・・それに、姫殿下の救出はガリア軍人として当然の義務だ。礼には及ばない」
『いえ、それあるんですが・・・アリシアの救出にも、手を貸してくださるのでしょう?』
「?ああ、そのつもりだが」
『だからです。僕の仲間を助けるのに協力していただくんですから、お礼の一つは言わせてください』
「―――そうだな。なら、ちゃんと救い出したときにその言葉を受け取るとしよう」
『はい。あ、もちろん僕たちの方が当たりの可能性もありますが、その場合にもちゃんと受け取ってくださいますか?』
「・・・君、案外細かいとこに拘るんだな」
『は?』
「何でもない。分かった、その時にもちゃんと受け取ることにするよ。それでは、ギュンター少尉。健闘を祈る」
『そちらも、ルシア中佐』
互いの健闘を祈る言葉を最後に、無線機のスイッチを切る。無用となったそれを返そうと顔を上げると、そこにはニヤニヤとしたイェーガーの顔があった。
「・・・なんだ」
「いや、中々に面白い話をしていたもんだと思ってね。俺たちのとこじゃ、今みたいに下士官と親しげに話す将官なんでそうそういなかったからな。なぁ、マリーダ」
「・・・・・・」
イェーガーから話を振られたマリーダは、イェーガーのにやけ顔を一瞥し、すぐに目を伏せる。無言の拒絶にイェーガーも笑みの種類を苦いモノへと変え、「少しは会話に混ざる気ないのかね」と零した。
「いやはや、相変わらずコミュニケーション能力に難があるね。お宅の美女はどうなのかね」
「うちのセルベリアは結構話してくれるぞ。なぁ、セリア」
「・・・この場で愛称を呼ぶな、ヴァリウス」
イェーガーの軽口に乗る形でセルベリアへと顔を向けたヴァリウスに、眉を顰めながら答えたセルベリアに「こりゃ、うちの方が堅物っぽいな」とイェーガーは肩を竦めた。