戦場のヴァルキュリア 蒼騎士物語   作:masasan

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どうも、お久しぶりです。

新社会人となり、研修に追われる毎日の中での投稿でございます。

久々なので、いつもより短め、しかもクオリティが落ちまくってますが、できれば寛大な心でもってご覧下さい。


第三十二話

「では、北東部への侵攻は無しと言うことですか?」

 

「ああ。参謀本部は、北東部よりも、北西部の鉱山地帯から成る生産能力を重視し、侵攻は見合わせることにした。まぁ、戦略的に見ればこの決定は、まぁまぁ妥当だろう」

 

「ええ。非常に稀なことですが」

 

アレハンドロ中将の執務室にて、コーヒーを片手に参謀本部からの決定事項を伝えられたヴァリウスは、皮肉気に笑いながらコーヒーを口にした。

 

領土奪回だけを主眼とした戦術的観点からすれば、北東部の捕虜を奪還し、「山の嘶き」作戦が成功した今こそが、北部進軍への好機ではある。

 

しかし、戦略的観点から見れば、今北東部へと進軍するのは、あまりにも愚策だ。

 

帝国軍は、自国からの補給物資と、ガリア最大のラグナイト鉱山を有するファウゼンをその手中に修め、その強大な軍事力でもって北部~中部の戦域を支配下に置いている。

 

純粋な戦力で劣るガリア軍が、強大な帝国軍と劣勢と言えども戦えているのは、強大な帝国軍との正面対決を極力避け、補給基地、補給路の破壊と断絶を繰り返してきたからだ。

 

現代の戦争は、補給こそがその鍵を握っていると言っても過言ではない。

 

いかに多くの戦車や、兵力を有していようとも、それらを動かすためには、燃料や食料と言った資源が欠かせない。現在の膠着状態は、資源の輸送を妨害することで、帝国軍の侵攻を鈍らせているからこそのもの。国力の差、明確なまでの戦力差がありながらも、ガリアが持ちこたえていられるのはそうした戦術的勝利をかろうじて得ているからこそなのだ。

 

それを理解している人間が、参謀本部にも存在していたのだろう。

 

でなければ、北部への進撃を声高々に叫び、進軍したガリア軍は、ファウゼンの潤沢な支援を受けた帝国の北西方面軍、帝国本国からの支援を直接受けるギルランダイオ要塞からの本軍、中部帝国軍の三方向から包囲、殲滅され数日の間にガリアと言う国は、世界からその名を抹消されていただろう。

 

ヴァリウスの言葉に全くだと笑いながら、アレハンドロはコーヒーをソーサーに置き、改めて手に持つ書類へと目を通す。

 

「しかし、開発部も無茶と言うか、なんとも言えないものを持ってきたものだな」

 

「それを使わせられるのは、こっちなので笑い事ではないんですがね」

 

書類に記載されている新兵器の詳細について、苦笑いで感想を述べたアレハンドロに対し、苦虫を潰したような顔で苦情とも言えない愚痴をこぼすヴァリウス。

 

普段その開発部に世話になっているだけに、テスターとして武器を試験するのは吝かではないが、どうにもガリアの開発部と言うのは、技術肌と言うか、発明家が多すぎるのではないだろうか。

 

「第一、こんな装備どう言った状況で使うんですか。正直、使い道が限られてて、戦場じゃ使い物にならないと思うんですがね」

 

「まぁ、一応開発部も”局地戦用装備”と銘打っているんだ、普通の戦闘では使い物にならないって事はわかってるんだろがね。技術者の性と言うやつだろう」

 

「だから、それをテストさせられる身としては、たまったもんじゃないんですって」

 

眉間に皺を寄せながら、カップに残ったコーヒーを飲み干す。

 

実際、資料に記載されている装備概要は、空想的と言うか、実戦で使用可能なのかと疑問を抱かざるおえないもので、やはり開発者と言う人種は、机の上でしか戦場と言うものを知らないのだろうと思わせるものであった。

 

「第一、本当にテストは完了してるのかどうかさえ疑問ですよ」

 

「まぁ、そう言うのも、分からんでもない。実際、私としても”これ”に関してはお前と同意見だ。開発部の方も、最低限実戦に耐えうると判断したからこそ、お前たちにテストを申し出ているんだろうがな」

 

「しかし、使うかどうかはお前の判断次第だ。いくらなんでも、新兵器テストのために負傷者を出すわけにはいかんからな」

 

131小隊は、ガリアでも数少ない実績を出している部隊の一つ。そんな彼らから、開発部の兵器テストのために、離脱者を出すわけには行かないと言うのは、紛れもないアレハンドロの本音であった。

 

「それより、近々殿下主催の晩餐会だ。城から、くれぐれも出席するようにとのお達しだぞ」

 

そう言って差し出されたのは、美麗な飾りが施された5枚の封筒。それには、ヴァリウス、セルベリア、キース、ギオル、そして何故だかシルヴィアの名が記されていた。

 

「同伴者はそれぞれ三名まで。当然だが、武装はなしだ。まぁ、お前には今更な話だな」

 

「晩餐会、ですか。苦手なんですけどね、見世物にされるのは」

 

手渡された招待状は、勲章表彰者への招待状。古めかしい字で書かれている内容は、それぞれに表彰される勲章の種類が記載されていた。

 

以前からコーデリアから私的な招待状を受けてはいたが、こうして政府から正式な文として寄こされると、晩餐会が近いこと、そして、ランドグリーズ城の実質的な支配者が誰であるのかを、まざまざと思い知らされる気分であった。

 

「そう言うな。一応、殿下直々の褒賞授与なんだぞ」

 

「一応、ね。勲章授与の場とされてますけど、実質的な連合との会談前の余興なわけですからね」

 

変わってくれるなら、喜んで変わりますけど?

 

遠慮しておく。三度苦笑を浮かべるアレハンドロ。そりゃ残念と肩をすくめたヴァリウスは、しかし一瞬にして表情を引き締め、本題へと移る。

 

「しかし、冗談ではなく、連合との会談は、少し気がかりです」

 

「確かに、戦線が膠着した今、連合の増援が受けられれば戦況の打開も可能ではあるんだろうがな」

 

「問題は、その援助を受けるための条件ですね」

 

「ああ。宰相殿が、この国のために、どんな条件を飲むのかが問題なわけだ」

 

真にこの国を救うためと言うならば、たとえ、それがどんな条件だろうが、交渉の価値はある。だが、もしもその会談が、この国を腐らせるものであるのならば。

 

(俺たちは、必ず牙を剥くぞ。宰相殿)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ギルランダイオ要塞――

 

 

 

「ガリアの式典招待状、か」

 

帝国様式で彩られた司令官執務室にて、ガリア政府から送られてきた式典招待状を手にしながら、皇太子マクシミリアンは、直立不動のままでいるマリーダへと視線を向ける。

 

「お前はどう見る、マリーダ」

 

「交戦国と言えど、外交のチャンネルを閉じたりはしない・・・と言う、パフォーマンスの一つではないかと」

 

「フン、至極模範的な回答だな」

 

つまらなそうに鼻で嗤うマクシミリアン。その瞳は、冷徹な光を帯びながら、鋭い刃物を思わせる。

 

だが、そんな視線を向けられるマリーダの表情もまた、少しの揺らぎも見せない無表情のまま。常人ならば、十秒と持たずに逃げ出すであろう異常な空気が室内を満たしていた。

 

「殿下、ちょっと失礼するぜ~・・・って、なんだよこの空気。ギスギスどころか、もうザクザクって感じなんだけど。殿下もマリーダも、もうちょっと肩の力抜けよ」

 

「貴様、殿下に対して無礼な―――」

 

「よい、マリーダ。それで、何の用だイェーガー」

 

一般兵なら、十秒ともたずに逃げ出すであろう空間に、飄々とした表情で現れたイェーガーはずんずんとマクシミリアンの下へと歩く。

 

「いやさ、連邦の方に行ってる部下から定期連絡があったんだけどね。ちょっと気になる情報があったんで、殿下にも目を通してもらおうかと思ってさ」

 

無表情で佇む二人をからかうように、イェーガーは手にした書類をパタパタと振る。

 

そんなイェーガーの人を食ったような、マクシミリアンへの敬意が欠片も見られない態度に、ナイフのような視線を更に鋭くするマリーダ。

 

そんなマリーダに、嫌だねぇ、怖い顔しちゃってさ、と全く堪えてないように笑みを浮かべるイェーガー。そんな彼の態度にますます視線を鋭くするマリーダだが、当のマクシミリアンは部下たちの様子など、まるで無いかのように手渡された書類へと目を通す。

 

「・・・ほぉ。確かに、貴様の言う通り、中々興味深い内容のようだな、イェーガー」

 

「ま、確証があるって訳じゃないんですけどね」

 

「貴様、そのような不確定の情報を殿下にお目通り願ったのか・・・!」

 

遂に、殺気を滲ませ始めるマリーダ。しかし、やはりイェーガーには全く効果が無いようで、飄々とした表情のまま肩をすくめる。

 

「で、貴様はどう見るのだ?」

 

「ん~・・・ま、信憑性は7、8割ってところだと思いますけど?現に、今度開かれる晩餐会には、連邦からの特使としてあのジャン・タウンゼントが出向くって話ですし」

 

「ほう、あのタヌキがな・・・」

 

イェーガーの口から発せられた名前に、冷笑を浮かべるマクシミリアン。数秒の沈黙の後、マクシミリアンはその瞳をまっすぐにイェーガー、そしてマリーダへと向ける。

 

「イェーガー。マリーダ。お前たちは、来月に行われるガリアの式典に参加せよ。ただし、他の者としてな」

 

「イエス、マスター」

 

「おいおい、いきなりかよ。それに、お前さんも内容聞かずに返事すんなって」

 

「殿下のご命令なら、如何なるものであろうと従うのみだ」

 

「あっそ・・・でもよ、悪いんだけど俺はそんな風に行かないんでな。殿下、どういう意図があるのか聞かせてもらえませんかねぇ」

 

「連邦とガリアの演目に、是非帝国としても参加しておきたい。そういう事だ、イェーガー」

 

「はぁ・・・答えになってないんだけどねぇ・・・了解しましたよ、殿下」

 

答える気がないと見たのか、ため息をつき、退出するべく踵を返すイェーガー。マリーダもまた、他の仕事に向かうのか、マクシミリアンへと一礼し、イェーガーの後に続くようにドアの向こうへと姿を消した。

 

二人が消え、一切の音が消えた室内で、マクシミリアンは再びもたらされた書類へと目を落とす。

 

「我が野望が現実となるならば・・・連邦の豚共に、鍵を渡すわけにはいかんからな」

 

そこには、「ガリア大公女コーデリア誘拐計画」と題され、バルコニーから手を振っている様子のコーデリア・ギ・ランドグリーズの写真が添付されていた。


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