戦場のヴァルキュリア 蒼騎士物語   作:masasan

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非常に遅くなって申し訳ありません。


第二十六話

「全く、前線をたらい回した挙句、今度は式典に参加しろとは。少しは俺たちにも休息くらいくれても罰は当たらないと思うんだけどな」

 

「そう言うな。殿下直々のご指名なんだ」

 

「殿下からの指名じゃなけりゃ、そもそも招待だって断ってるよ」

 

ヒラヒラと手に持つ一枚の手紙を揺らしながら、ヴァリウスはうんざりすると言いたげな表情で、苦笑を浮かべているセルベリアへとそう漏らした。

 

帝国の補給中継基地壊滅から二週間。戦場を渡り歩き、かなりの数の敵を撃破してきた133小隊は補給と休息のために基地へと帰っていた。

 

溜まっていた書類を片付け、補給物資の手配をし、一通りの業務が終わったあたりで、ヴァリウスはセルベリアから「式典招待状」と書かれた手紙を手渡された。

 

「姫様直々のご指名なんだ。断るわけにはいかないだろう?」

 

「それはそうなんだけどさ・・・」

 

「それに、姫様が直接会いたいと言っているのだろう?いい機会じゃないか」

 

「いや、姫に会うのはいいんだ。嫌なのは」

 

「ボルグ等に会うことだろう?私もできれば会いたくないが、こればかりは諦めるしかないぞ」

 

「そうだな・・・まだ、ひと月も先の話だし、色々と諦める時間が出来たって考えるか」

 

前向きなようで悲観的な考えを締めくくり、ヴァリウスは作戦計画書と書かれた書類を手に取る。

 

「次の作戦計画書だ」

 

「ん・・・北部避難民の護衛任務か・・・ここ最近の任務に比べれば随分と普通な任務だな」

 

ページを捲りながら作戦概要に目を通す。帝国軍の侵攻に伴い、ガリア北西部に残された民間人をガリア勢力圏まで護衛すると言う、特に変わったところの無いごく普通の任務。本来ならば一般の部隊のみで行われる規模の作戦なのだが、アレハンドロ中将の民間人の安全性をより高めるための一手として、現状待機任務に就いている第133小隊が指名されたというのが、今回の作戦に関する概要らしい。

 

「戦線は膠着状態。中部戦線への援軍は糞親父(ダモン)に拒否られてるから無し。休息も充分とったんだから、しっかり働けって言うアレハンドロ中将からのお達しってわけか」

 

「民間人の護衛も重大な任務には変わりない。それに、こう言った任務の方が皆の士気は上がるはずだ」

 

「そりゃな。あいつらだって、裏切り者を消せなんていう任務よりは確実に上がるさ」

 

資料へサインし、セルベリアへと差し出す。

 

それを受け取ると、セルベリアは「私たちも、な」と一言だけ残し、退出。室内にはヴァリウスのみとなった。

 

「しかし、この時勢にパーティーか。周辺国との関係強化のためだろうけど、のんきなもんだよなぁ・・・」

 

主君の主催するパーティーとはいえ、前線で戦う兵士の視点からしてみれば、戦争中にパーティーなど、呑気の一言だ。

 

第一、パーティーなんて言う要人が一同に会する絶好の機会、もしも襲撃されたらどうする気だろうか。

 

城の衛兵は基本的にいいとこのお坊ちゃん達だ。士官学校での成績は優秀でも、実戦経験が圧倒的に不足している新兵同然の者達。警備に難があるのは間違い無い。

 

「ああ、そっか。だから俺達を呼んだわけか」

 

コーデリアの意をなんとなく察し、なるほどと頷く。城の警備をより確実なものとするための、防衛手段。城の警備は宰相に一任されているから、こちらからは手を出せない故に、参加者として自分たちを呼んだのだと考えれば、直々の招待にも納得がいく。

 

「あのオッサンとは合わないからな、俺達」

 

ダモンほど露骨ではないが、純粋なガリア人では無い自分やセルベリアを養子として迎え入れたルシア伯爵を、ひいては自分たちを好ましく思っていない宰相、ボルグ侯爵の顰めっ面を思い浮かべながら、天井を見つめる。

 

貴族政推進派のボルグは、平民が重職に就いているのも面白く思っていない。そんな彼が、出自さえ定かではない自分たちをよく思っているはずがないのだ。

 

自分とコーデリアが出会う切欠となった事件の時も、ボルグは言葉には出さずとも辛辣な目で自分を見つめていたほどで、勲章授与の時も、非常に面白くなさそうな視線で自分とセルベリアを睨み付けていたのだから、相当嫌われている。

 

若輩のコーデリアに代わって国政を仕切るボルグ侯爵に睨まれながらも、こうして軍である程度の地位と行動の自由を確立していられるのは、コーデリアのおかげだ。

 

その彼女が自分をわざわざ呼んでいるのだ。期待には応えなくてはいけないだろう。

 

「そのためにも、色々と手を打っとかなきゃな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァリウスが来たるコーデリア主催の晩餐会に向けて策を練っている頃。異なる場所でもまら晩餐会に向けて謀略を練る者たちが居た。

 

「―――それで、能力の方は確かなのだろうな?」

 

「ええ。常人の3倍近い能力を持つ、恐怖を感じない完璧な兵士。数は多少少ないですが、能力の方は保障しますよ」

 

「失敗作でありながらも、それだけの力を持つのか・・・不安定なあれらよりもこれの方が役に立つのではないか?」

 

「そういわれると耳が痛いですが・・・私たちの目指す場所はあくまでも神話の再現ですので。それ以外は失敗以外の何物でもありませんよ」

 

「ふん、神話の再現か―――まぁいい。数は揃っているのだな?」

 

「ええ、ご注文通りに・・・ですが、あくまでもあれは失敗作。そう長時間は使えませんがよろしいですか?」

 

「分かっている。一晩持てばよい」

 

暗い室内で、二人の男が話し合う。その内容は他の者達が聞いても意味不明なものであるが、少なくともそれが人道的ではないことだけは誰が聞いても明白だった。

 

だが、この場においてそんな些細なことを気にするような者は存在しない。それぞれが自分の、もしくは属する組織の利益のみを追求する者達であり、そのためには手段を選ぶような綺麗な性格はしていないのだ。

 

「しかし、アレを七体つぎ込む策ですか・・・かなり大掛かりなものですかな?」

 

「お前にそれを知らせる必要があるのか?」

 

「いえいえ、ただの興味本位ですよ・・・失敗作とは言え、化物には違いないアレらをわざわざ七体もつぎ込むような策・・・興味が惹かれても仕方ないとは思いませんか?」

 

「好奇心も過ぎれば身を滅ぼすぞ?まぁ、今更それを言ったところで無駄だろうがな・・・神話の再現のために人の道を踏み外すような貴様らに」

 

「褒め言葉として受け取っておきます」

 

「ふん、相変わらず食えない奴だ・・・これらは、火種にするのだよ」

 

「火種、ですか」

 

「そう。ガリアと帝国にはまだまだ争ってもらわねばならんからな。こんなところで下火になってしまってはこちらとしても困るのだよ」

 

「なるほど・・・そのための一手と言うわけですか」

 

「貴様らにとっても悪い話ではあるまい?戦争が長引けばそれだけ貴様らの信者も増えるのだから」

 

「滅相もない・・・我々は常に平和を望んでいます。ヴァルキュリア様の名の下に訪れる、真の平和を」

 

「真の平和、か」

 

両の手を組み祈りを捧げる男の言葉を鼻で嗤うように口許を歪め、席を立つ。既にこの場で交わされる言葉は無いと言う意思表示だ。

 

「とにかく、アレらの提供には礼を言う。今後も資金提供は継続するので、今回はこれで失礼するぞ」

 

「ええ。あなたにヴァルキュリアの加護があらんことを」

 

祝福を祈る言葉を背に受け男は部屋から出ていく。それを見届けた男は、隣室に待機させていた仲間を部屋へと引き入れた。

 

「よろしいのですか?あのような者達に我らの劣兵を与えても・・・」

 

「それが猊下のご意思なのだ。それに、所詮は我らが望んだ存在に成り損ねた出来損ない共だ。失ってもさほどのものではない。必要となればあの者たちに再度献上させればいい」

 

「なるほど・・・申し訳ありません。思慮が足らず、出過ぎたことを」

 

「よい。それよりも、例の者達について何か分かったことは?」

 

「ハッ・・・ガリアに居る信者達からの情報によりますと、例の者達を率いる二人の男女についていくつかの情報があります。高い戦闘能力を持ち、いくつかの勲章を授与されており、ガリア大公であるコーデリア姫とも親密だとか。ですが・・・」

 

「なんだ?」

 

「この者たちが本当にヴァルキュリアの血を受け継ぐものなのかどうかは、確認できておりません。外見的特徴は合致していますが、それだけではまだなんとも・・・」

 

「そうか・・・あの男の方はどうだ?」

 

「基本的には良好な状態ですが、こちらの手の者はことごとく排除されています。既に半数を失っています」

 

「なるほど・・・協力はしても手の内を見せる気は無いということか―――あの狐めが」

 

「如何いたしますか?」

 

「ガリアの方は過剰な接触は危険だ。現状のまま情報を収集せよ。あの男に関しては放置だ。データ自体は多少なりとも送られてきてはいる。ここで下手を打って損失を増やすわけにはいかん」

 

「畏まりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、野郎共。久々にまともな任務がやってきた。北部から脱出してくる民間人の護衛だ」

 

武装を纏い、整列する隊員達の眼前にて、彼らと同じく装備を整えたヴァリウスは新たに上から発せられた任務についての簡易ブリーフィングを開いていた。

 

「今作戦には、俺達の他に、正規軍第8小隊が共に参加する。基本的に避難民の誘導は第8小隊が、周辺警戒と緊急時の戦闘は俺たち131小隊が担当する。なお、脱出してくる避難民は帝国の捕虜となっていた者達だ」

 

「労働力として使役されていた彼等は、酷く消耗しているはずだ。その上、敵から追われていると言う精神的プレッシャーも強い。健全な状態とは言い切れないだろう」

 

強制労働による疲労とストレス、何時敵に追いつかれるのかという恐怖。彼らの精神に多大な負荷が課せられているであろう事は容易に想像できる。そんな民間人が迅速な対応を取れるのかどうかは語るまでもない。

 

「戦闘行為はなるべく避ける方針だが、ハッキリ言って確実に戦闘になるだろう。敵もこれ以上ガリア侵攻のための手間が増える事は喜ぶはずもない。貴重な労働力を取り戻そうと強硬に攻めてくるはずだ。が、今回は積極的攻勢に出ることは許可されていない。なんせ、今回は民間人のガリア勢力圏への脱出が肝なんだ。護衛対象から離れすぎて民間人に被害が出ましたじゃ、笑い話にもならん。できる限りの範囲で専守防衛を心がけるように。何か質問は?」

 

「専守防衛って言いますけど、積極的防衛ってことで仕掛けてもいけないんですかい?」

 

「そこらへんは柔軟に対応するつもりだが、あまり期待するなよ?少なくとも、対戦車槍をぶっぱなす様な派手な攻勢は出来るだけ避けるようにな」

 

「了解」

 

ギオルの質問に口許を緩めながら一言加えながら答える。戦場というものは生き物だ。命令を忠実に守って死にました、作戦を達成出来ませんでしたでは、笑い話にもならない。

 

だからこそ、ヴァリウスは出来るだけ抑えろとは言えども、禁止するような事は言わない。

 

時に現場の判断は司令部の考えに反しようと、重要なものになるのだ。逆の事態も有り得るが、現場に出る立場のヴァリウスとしては現場の判断を重要視する傾向にあった。

 

「さて、他に何かあるか?」

 

「避難民の数は?」

 

「およそ200だ。ほとんどが女子供だが、三分の一程度は男性らしい。が、先程も言った通り、彼等は強制労働によって酷使されていたんだ。足は遅いと考えとけよ」

 

「了解です」

 

「他には?・・・無いみたいだな。なら、総員乗車!出発するぞ」

 

 


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