戦場のヴァルキュリア 蒼騎士物語   作:masasan

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第二十三話

「隊長、民間人の救出作業、終了しました。念の為に欠員等も確認も行いましたが、幸いなことに欠員は無し。多少の怪我を負った者もおりますが、人的被害は極小規模なものでした」

 

「了解。引き続き民間人のケアに当たってくれ。あ、あとこの村以外の民間人に関しては」

 

「分かってます。基本的に女性隊員に対応させてますよ」

 

「余計な一言だったな・・・。引き続き、頼む」

 

「了解です」

 

資料を片手にしたヴァリウスへと敬礼をし、トラックを後にしたアリアの後ろ姿を横目で見ていたセルベリアは、手にしていた資料を横に置くと一言「不幸中の幸いだったな」と口にした。

 

「引渡し前に下衆共(723小隊)を殲滅出来たのは」

 

「まぁな。ただ、精神に深い傷を負った人が数名いたみたいだが・・・」

 

「・・・まぁ、同じ女として理解は出来る。あんな事をされてしまえば、私だって同じような状態になると思うが・・・しかし、最悪の事態は防ぐことが出来た。これ以上彼女達が苦しめられることは無いんだ。上出来とは言えないが・・・それでも、私たちは最善を尽くしたはずだ」

 

「そうだな・・・しかし、また随分と溜め込んでたみたいだな、あの男は」

 

セルベリアから目を離し、視線を机の上に置かれた資料の山へ再度むける。そこには、これまでジョン達が犯してきた罪の証拠が詳細に記されていた。

 

この資料の山は、敵であった第723小隊のトレーラーを無傷で入手したため、接収したものだった。

 

今戦闘において、第133小隊における人的被害、物的被害は一切出ていない。また、敵の戦車や貨物用トレーラーなども同じだ。そうしたトレーラーの中に、この資料は積載、保管されていたのだ。

 

「これだけの証拠を駐屯地で保管するのは逆に危険だと判断したのだろう。こうしてどこへでも持ち歩いていれば情報の漏洩は最低限に抑えられるのは事実だ」

 

「まぁ、そうなんだけどさ・・・これだけ大量に情報が得られるなんて予想してなかったからなぁ・・・逆に怖いわ」

 

「確かにな・・・これだけの証拠があれば、上層部の膿をかなり取り除くことが出来そうだ。だが・・・まさか、あの男、意外と商才があったのではないか?かなり手広くやっていたようだぞ」

 

二人が確認を終えた資料の中には、現在ガリア上層部に居座っている一部の左官、将官の名が記されていた。

 

そのどれもが723小隊が拉致したダルクス人やガリア人の売買契約に関してのもので、中には良将と謳われていたような人物の名前もあった。

 

それだけではない。資料には、こともあろうに現在ガリア軍が行っている、決行が予定されている作戦に関する詳細な情報までも存在していた。

 

これだけの情報を集めるのは、いくら上層部にコネがあるとは言え、そう容易なことでは無い。ジョン個人の才能も加わった結果と言えた。

 

「全く、才能の使いどころを間違えていると言うか、正しい使い方と言うのか・・・これだけの手腕なら、情報部とかに行けばそれなりのポストにありつけただろうになぁ」

 

集められた情報の詳細に感心しつつ、自らの手で引導を渡した男の顔を脳裏に描く。もったいないよなぁ~と言いながら、まぁしっかりと活用させてもらうから別にいっかとまとめた。

 

「それで、この後はどうするんだ?優先事項を終えたとは言え、まだ表向きの任務が残っているが」

 

正攻法でやるのか?一通り見終えた資料を横に置き、この後の事を尋ねるセルベリア。ヴァリウス達に課せられた裏の任務である第723小隊の処理は終えた。

 

次に待つのは、表の任務であるリストニウムの奪還だが、これについてヴァリウスは当初の予定を変更して、新たな作戦を脳裏に描いていた。

 

「いや、ここは一つ、あるものを有効活用しようと思ってる」

 

「?あるもの・・・何の話だ?」

 

「ちょっと、面白いもの見つけてな・・・せっかくだ、是非有効活用させていただこうってね」

 

そう言って笑うヴァリウスの顔は、思わずセルベリアが目を逸らしたくなるほどの”悪ガキ”の顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ん?おい、止まれ!!」

 

朝の霞が晴れ、柔らかな日差しが差し込む昼下がり。いつもと同じようにガリア方面の見張りについていた帝国軍で伍長の位にいた男は、自分達の支配する町、リストニウムへとやってくる怪しげな集団へ向けて手にするライフルの銃口を構える。

 

こちらの警告に集団はあっさりと従い、30mほどの距離で車両の進行を停止、先頭のトラックからガリア軍の軍服を纏った中背痩躯の男が出てきた。

 

「ガリア軍・・・!!貴様、ここが我ら帝国の支配する町だと知って来たのか!!」

 

「おいおい、落ち着いてくれよ。俺はお前さんの敵じゃねぇよ」

 

緊張した面持ちのまま、ライフルの引き金に指を掛ける伍長へと、ガリア兵らしき男はまるで警戒する様子もなく親しげに声を掛けてきた。

 

「俺はガリア軍第723小隊の代理で来たもんだ。お前さんとこの隊長さんに確認を取ってくれ!」

 

「723小隊・・・?敵じゃないとは、どういう意味だ・・・」

 

突然、ガリア軍の軍服を着た男が「自分は敵じゃない」と言いながら現れれば、よほど神経の図太い者でなければ誰だって混乱する。この伍長も、そんな例に漏れなかったようで、目の前の出来事に頭が追いついてこず、引き金に指を掛けたまま混乱していた。

 

「おい、伍長。銃を下ろせ。奴は敵じゃない」

 

「っ!曹長殿・・・し、しかし奴はガリア軍の者では・・・」

 

「色々と事情と言うものがあるのだ。まぁ、混乱するのも無理はないが、これは隊長の命令だ。奴らはこのまま町に入れる」

 

「町に入れる・・・!しかし、万が一のことがあれば・・・!!」

 

「くどいぞ、伍長!これは隊長の命令だと言ったはずだ!」

 

「っ・・・!」

 

下士官如きの意見など聞いてはいない。貴様は黙って命令に従え。

 

No Need to Know―――知らなくてもいいこと、と言うことなのだろうな。

 

「・・・了解しました。しかし、奴らの臨検は行いますよ、曹長殿」

 

命令ならば聞く。しかし、最低限の責務は果たさせてもらう。半ば、意地で申し出た臨検許可は、伍長が思っていたよりも酷くあっさりと降りた。

 

「無論だ。これが、荷物(・ ・)のリストだ」

 

「拝見します・・・!!こ、これは・・・」

 

「そういうことだ・・・分かるな、伍長?これは貴様への配慮を兼ねているのだ。余計なことは仕出かすなよ?」

 

オブラートにどころか、露骨なまでに「貴様は黙って指示に従え」と言う忠告という名の命令。

 

信じられないと言う表情をしながら、それでも伍長は自身の職務だと停車するトラックの荷台の天幕を捲り―――

 

「・・・ッ!!」

 

そこで、家畜のように牢屋に囚われたダルクス人達の姿を見た。

 

一つの牢に三人ほど詰められたそれは、全部で4つ。それに入れられたダルクス人の表情は、すべてを諦めたと言える無気力なもので、とても同じ人間には見えなかった。

 

(これは・・・一体・・・)

 

様子からして、ガリア軍に所属していたようには見えない。全て女性だと言うのもあるが、少なくとも軍に所属している者ならば、いくら捕まっていても、もう少し覇気があるものだと思う。

 

なら、やはり彼女たちは―――

 

「伍長」

 

横から聞こえた少尉の声にビクリと震える。

 

余計なことを考えるな―――言葉にはせずに、しかし声にそう言った意図を含んだ一言は、それまで伍長が脳内で展開していた思考を一瞬で止めた。

 

そうだ・・・真実を、自分のような者が知ったとして何の意味がある・・・。

 

仮に、ここでトラックの中身が違法性(・ ・ ・)のあるものだったとして、それをどこに報告する?確実に隊長はこのことを黙認している・・・いや、先ほどの少尉の言葉からして、確実に隊長はこの件の中心にいる。

 

ならば、どこに報告すると言うのだ?自分に上層部の知り合いなどいないし、よしんば情報を上に挙げられたとして、それでどうすると言うのだ?

 

自分は正義の味方でも、ヒーローでも無い。一介の下士官だ。ここで余計な報告などしても、この先どうなるかなどと言うのは、火を見るよりも明らかだ。

 

だから――――

 

「―――荷物に、不審な点は見当たりません」

 

荷物がなんであろうと―――自分に出来ることなどなく・・・何の関係もないのだ。

 

「よろしい。なら、三番倉庫に誘導し、通常任務へ就け」

 

「―――了解しました」

 

少尉へ答礼と返し、手に持つ資料をくしゃりと握りつぶす。その資料には、

 

”輸送物―――ダルクス人・内約―男13・女10――備考、両性ともに年若く奴隷としては最良の状態である”と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と早かったな?予定ではもう二三日かかるものと聞いていたが?」

 

「ええ、ちょっとしたトラブルがありましてね・・・早めに商品の方をお届けにあがったんですよ」

 

「トラブル?」

 

「ええ。どこから漏れたのか、どうにも723部隊のジョン・エルロー少尉が”帝国軍と内通を図っている”なんて噂が基地内で流れはじめまして・・・それで、上層部の一部が動き出したんだそうで」

 

「何・・・?それで、奴は捕まったのか?」

 

「いえいえ、あくまでも噂レベルの話。物的証拠も無いのでそんな事態にはなってませんよ。ただ、そんなわけで、今はうかつに動ける状況じゃなくなったんで、代わりに私が派遣された次第です」

 

帝国軍リストニウム駐屯部隊臨時司令部として使われている町長宅にて、駐屯部隊長である大尉章を付けた男と、723部隊の代理と語った男がソファーに座りながら言葉を交わしていた。

 

その内容は、何故723部隊ではなく、自分がここに来たのかと言うものだった。

 

「なるほど・・・そのような事態になっていたとはな。しかし、それでも商品の方はきちんと運んでくるとはな・・・下手な商人よりも几帳面だな、あの男は」

 

「それだけあなた方との関係を重大だと考えているんでしょう。まぁ、そんなわけでいつもより数は少ないですが、質の方はなかなかのモノが揃っていますよ」

 

「フム・・・まぁ、そんな状況にも関わらず期限内に商品を届けてくれたのだ。それなりの誠意を受け取ったと言うことにしておこう。それで、商品の詳細は?」

 

「こちらに」

 

男が脇に置いていた資料を大尉へと差し出す。それを受け取り、一枚一枚それなりの時間をかけながら読み進めていた大尉は、あらかた読み終えると関心したように一言漏らした。

 

「中々、大したものだな。質に自信があると言うのも納得だが・・・よくこれだけの事を調べたものだな?」

 

「サービス、と言うやつですよ。お役に立ちますかな?」

 

資料にはダルクス人一人一人の写真と共に出身地域、特技などが記載されていた。自己申告につき、確証性はさほど高くはないと注意書きがあったものの、これだけ詳細に記されていればそれなりに役に立つことは必須だ。

 

「ウム、十分以上と言えるな。こちらとしても、それなり以上の礼はする。いつもの額よりも二割ほど割増でいいか?」

 

上機嫌に答える大尉に向けて、男は「いえ。今回は特別にいただきたいモノがありまして・・・」と頭を下げる。

 

「いただきたいもの?なんだ?これだけのものの礼だ、余程の無理が無い限りは叶えてやるが」

 

「それでは・・・ココ(リストニウム)をいただきたいのですよ、大尉殿」

 

「・・・何?貴様、何を言って」

 

瞬間、窓の外に爆音が轟いた。

 

「―――ッ!!何事だ!!」

 

『た、隊長!ば、爆発が!!突然第三倉庫で爆発が発生!火災が他の倉庫にも広がっています!!』

 

「何・・・!!消火しろ、すぐにだ!!武器庫に引火する前に火を「無駄ですよ」

 

大尉と通信機の男の間に割り込む形で発言した男に、大尉は鋭い視線を向けながらどういうことだと口にした。

 

「既に各倉庫にはこちらの手が入っています。なので、いくら延焼を防ごうとしても無駄だと言ってるんですよ」

 

「何だと・・・!どういうことだ!!貴様、あの男の代理ではないのか!!」

 

激昂する大尉へと男は冷ややかな目を向けながら、「まだ分からないんですか?」と問を返す。

 

「最初に言ったでしょ?ここ(リストニウム)を返してもらうって」

 

「貴様・・・!!ガリアの・・・!!」

 

ようやく事態が飲み込めたのか、腰の銃を抜こうと動く大尉。しかし、みすみす武器を取る事を許す訳がない。男は大尉よりも素早く銃を抜くと、瞬時に額へと照準を合わせた。

 

「気づくの遅すぎですよ。自分的にはもっと早く気づかれるもんだと思ってたんですけどねぇ」

 

「ぐ・・・!!」

 

腰に手を当てたまま動きを封じられ、唸るしかできない大尉はそれでも睨む眼光だけは緩めない。一般人ならば震え上がるだろう眼光を受けながら、男は飄々と笑う。

 

「まぁ、おかげで仕込みも順調に行きましたし、あとはあなたがたを排除するだけなので、そこら辺に関しては礼を言っておきますよ」

 

「・・・貴様ら、一体何者だ・・・!!」

 

「?ガリア軍ですけど、それ以外に言うことあります?」

 

「温いガリアの者に、これだけの手を打てるなど、ありえん!連邦の手のものか・・・!!」

 

「ああ、そう言う・・・」

 

確かに、大尉の言うことも分からないことじゃないなぁと、男は苦笑を浮かべた。

 

彼の言う通り、従来のガリア軍には自分達のように敵陣に侵入し、破壊工作を行えるような人材はほとんどいない。バカみたいに突っ込み、無駄に戦死者を増やす無能な上の下に行動を行っているのが現状だ。そう思われても仕方が無い。

 

「ま、何事にも例外があるってことですよ」

 

男がそう言うと、外で再び爆発が発生。慌ただしく動く帝国兵の気配を感じながら、腕に付けた時計をチラリと見る。

 

「そろそろ、ここにも人が来るでしょうね」

 

「・・・今なら、命だけは助けてやる。ここから無事に抜け出すなど不可能だ」

 

「ご親切にどうも。しかし」

 

カチャリ

 

「―――ッ!!」

 

「それを決めるのは、あなたではありませんから」

 

男は、それだけ言うと引き金にかかる指を軽く曲げた。

 

乾いた音と共に倒れる大尉を無感情に見下ろし、男はそれまで下ろしていた髪を撫で付け、

後ろに流して本来の髪型に戻す。

 

「さて・・・こちら、スネーク4。目標の排除に成功。当初の予定通り、士官クラスの排除を開始します」

 

『こちらライガー1、了解。こちらから見る限り、他の奴らも順調に作戦を消化中だ。とは言え、指揮系統を回復されると厄介だ。手早く済ませろよ』

 

「了解、通信終わり。全く、人使い荒いんだからなぁ~」

 

血まみれの死体が目の前にあるとは思えないほど暢気に笑う男、第133小隊スネーク分隊所属ニコル・レイフマン軍曹はそのままドタドタと騒がしい廊下へと足を向ける。

 

「大尉、被害が拡大して―――パンッ!―――」

 

ドアを開けて駆け込んできた青年額を銃弾が射抜く。それを、再び無感動な目で見つめながら「入ってくる時はノック位しなきゃね~」と冷たく笑う。

 

「さて、手早く済ませますかね」

 

轟く爆発音と、新たに加わった連続して鳴る乾いた銃声を背にしながら、ニコルは冷笑を顔に貼り付けたまま廊下へと出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、呆れるほど上手く嵌ったな」

 

「ああ。正直、仕掛けた俺自身ビックリだ」

 

切り立った崖の上から、炎に包まれる帝国軍駐屯地を見下ろしながらヴァリウスとセルベリアは作戦の成果を確認しながら微妙な笑いを浮かべていた。

 

鹵獲した723小隊の戦車やトラックを流用した潜入工作。書類や、人員などには細工を施し、一般部隊と遜色ない装備に仕立て上げたそれを、「第723部隊にトラブルが発生したためその代理として来た」と言う設定にしてリストニウムの駐屯部隊に接触させた。

 

その後は、眼下で起きている事態の通り。潜入に成功した人員は、駐屯地の資材保管庫、兵舎、武器庫などに爆薬を仕掛け、敵戦力を奪い、残りの敵勢力を所持していた銃器で排除。これが、今回起きた事態の顛末だった。

 

「もう少し疑われるもんだと思ってたんだけどねぇ」

 

「一般市民に化けるならばともかく、敵地へ向かうのにわざわざガリア軍に化ける必要はないからな。そう言った点も今回の作戦の肝だったのだろう?」

 

軍人が一般市民に偽装し、軍事行動を行うのは条約で禁止されている。これは、民間人への誤射などを回避する為に作られた条約であり、これを破った場合その軍はどのような国際的な非難を浴びるかは言うまでもなかった。

 

逆を言えば、一般市民や自軍に偽装することはあれど、わざわざ敵軍に変装する必要など普通ならばあるはずがない。そう言った固定観念を利用することにより、今回の作戦は成功を収めたのだ。

 

「まぁ、そうなんだけどさ・・・にしたって、ダルクス人に化けた奴らの検査くらいはされるかと思って、わざわざ皆に髪染めてもらったり、隊員の中からダルクス人の奴らを選んだりしたんだよ?もうちょっと疑ってくれても良かったんじゃないかって思うわけよ」

 

「あんな事をしているような連中だ。そう精密な検査はしないとは思っていたが、まさか検査すらしないとは私も思ってなかったさ」

 

「ま、その方が俺たちには好都合だったのは間違いないんだけどね」

 

笑いながら、ヴァリウスは再度眼下を見下ろす。既に爆音はほとんど聞こえず、銃声も微かに聞こえるのみとなっていた。抵抗らしい抵抗もないことから、自分達の策が完璧に嵌ったことを今一度実感する。

 

「まぁ、私たちの準備は無駄になったがな」

 

そう言って、背後で待機していた隊員や戦車を見遣る。潜入した人員以外の者を動員しているとは言え、数は本来の三分の一程度しかいない。

 

ただし、その三分の一が所持している武装は、対戦車槍に榴弾槍、対戦車ライフルや大口径榴弾砲など、物騒極まりないものだ。

 

万が一、潜入部隊に何か起こった場合のバックアップとして待機していたのだが、あちらの作戦が予想以上に上手く行ったため、彼等の出番は一切無く終了となったのだ。

 

「バックアップが何にもしなかったのはいいことだろ?備えあれば憂いなしなんて言葉が東洋の方にあるらしいけど、その備えを使わないようにする事の方が大事だよ」

 

「確かにな・・・それで、このあとはどうするんだ?」

 

「予定通り、仕込みをしてから撤収する。もうすぐその仕込みの方も終わる頃合だと思うけど『こちらラビット7、”仕込み”終了』―――丁度だな。こちらライガー1、了解。速やかに撤収、こちらと合流せよ」

 

「―――第723小隊はリストニウムを占拠していた帝国軍との戦闘において壊滅。しかし、敵戦力のほとんどを撃破するに至り、リストニウム占拠継続能力を失うまでの損害を与えることに成功。帝国軍はリストニウムを放棄し、ガリア軍はガリア北西部の攻略橋頭堡を確保する、か。全く、真実を知る身としては一言物申したい気分だ」

 

「そう言うなよ。高度な政治的判断ってやつなんだろ」

 

憮然とするセルベリアに苦笑いを向け、

 

「こんな時期なんだ。軍内部から、それも英雄の息子が国を裏切っていたなんて事実は戦意的にも、政治的にもいろいろとまずいんだよ」

 

色々と黒い内容をさらりと述べた。

 

723部隊を処理した後、ヴァリウスはその報告を無線にてアレハンドロへと知らせていた。その時に、彼の方から「723部隊の死体の処理について」の指示があった。

 

「死体を戦闘での負傷による戦死に見せかけるように細工せよ」

 

要は、裏切り者として処分したのではなく、ガリア軍の兵士として最後まで戦い命を落としたように見せかけろというものだった。

 

これは、ただでさえ帝国に戦線を押し上げられている現状で正規軍から離反者が出ていることを内外に知らせるわけには行かないという政治的判断であり、英雄の息子と言うある種のブランドが汚れることを恐れた一部の者の考えだった。

 

「とにかく、723部隊は敵と交戦し、命をかけて戦った英霊となったのでしたってことだよ」

 

「売国奴として他国へ亡命しようとした男が、死体となったが英雄として祖国に帰るとはな・・・やはり、政治などには関わりたくない」

 

「同感だ・・・さて、それじゃあ、下の奴らと合流後、ここから撤収!急げよ!」

 

声を張り、移動を開始する。

 

残ったのは、帝国から解放された町の残骸と、横たわった無数の死体だった。


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