ー俺たちの出会い?聞いたって大しておもしろくもないぞ?ー
ーそれでも構わないって・・・わかったよ、話してやるさ・・・ー
~征歴1922年~
いつからここにいたのかなんて、もう覚えていない。
気がついたらここにいて、毎日毎日身体のどこかに変な機械を付けられて実験、実験の繰り返し。
大体月に一回に増えていく僕と同じくらいの子供達。
みんな親が居ない孤児ってヤツらしい。
大人達はそんな親の居ないこの中でも特別な力って言うものを持っている子達を集めているんだって。
僕もその一人みたいなんだけど僕には親の顔なんて全然分からない。
僕にはここが全てで、ここ以外の場所のことを知らない。
毎日行われる実験も他の子が無く理由が分からなかった。
そんな僕に大人達は「この子は優秀だ」「一番の力を持っている」と言って褒めてくれる。
でも、僕はそんな大人達の言葉も全然嬉しくなかった。
だって、みんながいつもつらそうにしてるから。
なにが痛いのか僕には分からなかったけど、それでもみんなが痛がることを平気でやる大人達が、僕は嫌いだった。
そんなある日、いつもみたいに増えたこの中に一人の女の子を見つけたんだ。
その子は、僕みたいに銀色の髪をしていて、真っ赤な目をしてた。
その子を見た大人達は他のみんなと同じ様な実験じゃなくって、僕がやっているみたいな実験をその子に始めた。
普通の子にはやらないのに何でその子だけにやるのか分からなかった僕は他の大人達に「博士」って呼ばれてる一番偉いらしい人に聞いたんだ。
「なんであの子には僕と同じことをするの?」
そう聞いたら「博士」はジッと僕を見下ろして、
「あの子はお前と同じだからだ。」
って言った。
同じ?じゃあ他の子は違うの?そう聞いた僕に博士は
「お前が知る必要はない」
って言って僕を他の部屋に連れて行った。
それからしばらくして僕とその女の子はよく会うようになった。
その子はいつも実験に連れて行かれる時にビクビクとしていたから、手を握ったんだ。
そしたらその子は最初にびっくりしたような顔をした後、握り合った手をみて、僕のことを見た後おずおずと手を握り返してきてくれた。
「君、実験が怖いの?」
そう聞くとまた女の子はびっくりした顔で僕に尋ねてきた。
「・・・あなたは、怖くないの?」
そう聞かれて僕は困ってしまった。
怖くないって答えたら彼女は多分僕にどうして怖くないのか聞いてくるだろう。
じゃあ怖いって言ったらどうなるか。
そんなの余計に彼女が怖がるに決まってる。
どうしようかって考えてたらいつの間にか答えてた。
「君が居るから、怖くない。」
その答えにさっきよりも目を大きく開いて彼女は驚いていた。
やばい、この後はなんて言われるんだろう。
なんで?って聞かれるのか?それとも、私は怖いって言われてしまうんだろうか?
そう思っていたら彼女はクスリッと小さく、でもとてもきれいに笑って言った。
「じゃあ、私も怖くない。」
その笑顔は僕がここで見た大人達の笑顔なんかとは比べものにならないくらいきれいな笑顔だった。
でも実験の時間が来て、大人達がこっちに来ると彼女は笑顔を消してまた怯えてしまった。
・・・その時僕は初めてこの子の笑顔を守りたいって思ったんだ。
そして、この笑顔を消した大人達を初めて僕は・・・
ー許せないと思ったんだったなー
-・・・恥ずかしいことを言うな、バカ・・・-
それからまたしばらくして、子供達が増え、実験も多くなってきたある日
大人の一人があの子を殴っているのを見た。
殴られたあの子は地面に倒れ込む。その顔は、彼女の、本で読んだ”雪”って言うのと同じくらい真っ白くてきれいな顔には、殴られてついた赤い痕があった。
「ッッッッ!!」
それを見た僕/俺はその大人に今まで浮かんだことのない思いが生まれた。
その熱くて、黒いその思いは簡単に僕/俺の周りのラグナイトに形を持たせた。
本で読んだだけで、見たこともなかった”剣”という武器。
それを持った僕/俺はあの子を殴った大人/クズに全力で叩きつけた。
するとその大人/クズはまるで重さが無いみたいに軽く飛んでいった。
普段なら全く反抗しない僕/俺の行動に唖然となっていた大人達はみんな突然叫びだして逃げ始めた。
ーあのときのお前は凄かったぞ。全く、姿が見えないくらいの早さで周りを破壊していったからなー
-・・・若気の至りだ-
正直それから先は何をしたか覚えていない。
気づいたら僕と彼女は手をつないで一緒に逃げていたんだ。
彼女は泣いていたけれど、僕にはその時なんにもできなくて・・・ただ、ひたすらに逃げていたんだ
ーそう・・・あのときは本当にどこへ行ったら良いか分からなかったなー
ーおかげで疲れ果てて、倒れそうになったんだったなー
どれくらい走ったか分からないくらい走った僕たちは見つけたある家の中に入った。
そこには誰もいなかったけど、食べ物とベッドがあって疲れていた僕たちは思わずそのベットに入っちゃったんだ。
「・・・ねぇ、これからどうするの?」
パンを食べ終えた彼女にそう尋ねられる。
正直僕にもどうしたらいいかなんて全然分かんなかったから何にも言えなかった。
けど、黙っていたら彼女を不安にさせてしまう。そう思った僕はとりあえず人のいるところに行こうと言った。
実際に行った事は無いけど、本で人は”街”や”村”で、みんなで生活するらしい。
少なくとも実験されたりはしないはずだ。
そう考えた僕は彼女にそう言うと彼女も分かったって言ってくれた。
しばらく黙ってベッドの中に入っていた僕たちだったけど、ふと、思い出して僕は彼女に言った。
「ねぇ、名前をつけない?」
「名前?」
「そう、名前。僕たちあそこじゃ番号でしか呼ばれなかったでしょ?だから自分たちで名前を付けようよ。」
ー今思えば、子供心に彼女と”君”じゃなく名前で呼び合いたかっただけだったのかもなー
ー私も同じだったさ、だから私も付けたんだろ?ー
「どんな名前?」
「う~んとね・・・」
僕はきょろきょろと部屋の中を探す。
すると机の上に乗っていた蒼いバラが目に入ってきた。
アレは確か・・・そう・・・
「セルベリア・・・」
「え?」
「決めた!!君の名前は”セルベリア”だ!!あの蒼いバラみたいにきれいだから、セルベリア!!」
ー今思い出すと全く恥ずかしいな。まさか「バラみたいにきれいだから」なんて言う理由で決められるとはー
ーう、うるさいな!!気にくわないんだったら、イヤって言えば良かったろ!!ー
ーイヤだなんて言ってない。今だってこの名前は気に入っている。お前が付けてくれた名だからなー
ーう・・・な、なんだおまえら!!うるさい、茶化すな!!ー
「じゃあ、あなたは・・・ヴァリウス・・・ヴァリウスね!!」
ーそういえば、何でヴァリウスだったんだ?ー
ー・・・教えん!!ー
ーうわ、ズッリィ!!ー
-(本に書いてあった題名を読み間違えてなんて言ったら怒るだろうしな)ー
そうして僕たちは名前を付けあった。
ーまぁ翌日にこの家のじいさんに二人揃って拾われたんだよー
ーまさかの養子という形でなー
~征歴1935年 5月13日~
「これで満足か、お前ら?」
随分昔のことだってのに、こいつら何でこんな話を聞きたがるのやら。
そう思っているヴァリウスの横でセルベリアもまた、頷いていた。
特におもしろい話でもないだろうに、何故こんな話を聞きたがってきたのだろうか?っと。
(いや~、だって・・・)
((((こんな美男美女の出会い話なんて気になるに決まってる))))
期待したような内容では1mmも無かったが、今まで全く知らなかった自分たちの隊長であるガリア公国軍第133独立機動中隊隊長、ヴァリウス・ルシア中佐と同じくガリア公国軍第133独立機動中隊副隊長、セルベリア・ルシア大尉の過去を聞けただけでもまぁ収穫はあった。
これから向かう戦場を前にして、隊員達はそんなことを思っていた。
「隊長!!前方、距離約3300に帝国軍発見!!戦車数4!!規模は中隊規模と思われます!!」
警戒に当たっていた偵察兵からの報告にだらけていた空気が一瞬で変わる。
先ほどまで他の隊員達と喋っていたヴァリウスも表情を引き締め、長年連れ添ってきた相方を見やる。
その視線に当たり前のように気づきながらもすでに上官と部下の対応に切り替わっていたセルベリアはヴァリウスに指示を仰ぐ。
「中佐、ご命令を。」
「決まってるさ。総員、戦闘準備!!帝国の奴らに誰が相手なのかを、たっぷりと教えてやれ!!」
「「「「ハッ!!」」」」
一糸乱れぬ動きで散らばっていく隊員達。
そんな彼らとは対照的にセルベリアはヴァリウスの隣から動かない。
しかし、それでこそ彼ら。ガリア公国の中でも最強とされる部隊の隊長は自ら切り込んでいくのだから。
「さて、行くか。いつもどおり、二人でな。」
「当たり前だ。私たちはいつだって」
ー一緒にいると誓ったのだからー
~これは正史では無かった物語~
~蒼き魔女とともに戦場を駆け抜けた、ガリアの蒼き騎士の物語である~