かつて彼女は英雄だった 作:初月
予想通り何の問題もなく着艦に成功した私たちは波に揺られながら武器の整備を行いながら過ごしていた。
勿論専門の整備員もいるのだが、使うのは私たちなので軽いものは自分でも出来るようにしている。
そのついででカスタマイズしたり試供品の感想等を言ったりしているのだ。
ほかのみんなには何かしらの試作装備が積んであったりするのだが、私のものには通信装備が司令部との交信や作戦指揮を行えるよう複雑になっているだけなので雑談しながらでもかなり早く終わってしまうのはいつものことである。
だから私は整備員たちとよく話していた。
といっても私のを担当している人たちだけなので3人だけではあるのだけど。
「朝ちゃん最近無茶しなかったか」
そう話しかけてくるのは駆動系担当の木更津さんである。
30代くらいの優しい人で、整備隊でも一目置かれているくらいの腕がある人だ。整備がはやく終わるのはこの人のおかげでもあったりする。
「ちょっと春風と演習をしたときに跳びましたね」
「・・・できればそういう無茶はさけてくれ。
一度ぐらいなら大丈夫だろうが何回もやられると安定装置がもたん」
「わかりました」
と注文をつけられることもしばしばだ。
まあこれに関しては私が悪いんだろう。
おかげで関節部分を強化するという話がでてしまうくらいに私は気がつくと無茶をしていることが多かった。
そのうち私の装備にもカスタムが施されるのだろう。
「相変わらず防御系のエネルギーの減少が少ないところをみると無理してでも避けてるんだろう。
イ級とかロ級の砲弾なら下手に避けて機体を壊すより受けて守ったほうがいい」
というのは防御系と通信系を担当している能登さんである。
口調からは感じられないが本人はかなりかっこいい系の美人だ。
「・・・当たるの結構怖いんですよ。
脇にはロケット弾抱えてるし」
「まあその心がけは悪くないさ。
ただ無茶してまで避けるのは本当に不味いときだけにしておけ」
なんだか教官みたいではあるのだけどそのことは何故か言う気にはなれなかった。
武装系の整備の人は・・・今日は休みみたいだ。
能登さんが防御スクリーン発生器と一緒に各種武装を取り付けていた。
「よし、整備は終わりだ。相変わらず駆動系以外の整備は楽だな」
「これから行くのは最前線の次くらいに危険な海域だからな。気をつけていけよ」
そういうと珍しく二人は去っていった。
時刻を確認するとすでに1149。
今日は着艦と整備だけで午前中を潰してしまったようだ。
まだ春風や旗風の整備は続いているが昼食に向かうことにしよう。
◇
先ほど話したとおり春風、旗風の整備は未だに続いていたのでただでさえ人の少ない私達のテーブルは松風と私の二人だけになっていた。
「新兵ってのは案外つらいものみたい」
「でも慣れなきゃいけないと思いますよ」
「そうね」
と余り会話がはずまない。
なんだかんだで同じ部隊でも今まで話すことが少なかったのだ。
今の人類戦線は硫黄島-マリアナ-トラックの防衛線がマリアナ陥落により崩壊し、南太平洋撤退作戦と硫黄島防衛線を同時に展開することとなり絶えず襲撃を受けている日本も私達神風型みたいな新兵くらいしか残っていなかった。
おかげで部隊を組んでも分割されることが多かったのだ。
要するに今までほとんどあっていないのだった。
だから食器が少し鳴る音だけの昼食となっていた。
話すこともないのだからしょうがない。
そうおもっていたのだけれど
「ねぇ、この戦争勝てると思う?」
という松風の声で私は一瞬固まった。
「わからないとしか言えませんね。まあ私は勝つことを願ってます」
10秒くらいおくれて出た私の声。
それに対する松風の反応もまた微妙なものであった。
それからはまた何も話さない状態が続き警報が鳴るまで続いた。
キャラ作りって難しい。