フェイト・テスタロッサside
伝言を残してジュエルシードをくれた人は、仲間の転移魔法でどこかへ行ってしまった。
「なあフェイト、今日の探索で何かあったのかい?」
「ううん、何もないよ」
あの後合流したアルフにも分かるくらい、私は動揺していた。
結局誰だったのかは分からなかったが、私や母さんのこと、更には恐らく──母さんのしたいことを知っていた。
彼女の蘇生とはどういう意味なのだろう。
お腹の中に重い物を抱く感覚に苛まれながら、私は時の庭園へと転移した。
sideout
プレシア・テスタロッサside
フェイトがジュエルシードの探索から帰ってきた。
いつもは数が少ないと言ってムチで叩くのだが、今回は別の理由でムチを振るっていた。理由は、謎の男からの伝言である。
ふざけているのかと思ったら、その内容は私の悲願を正確に表していた。なぜこちらの情報を知っているのかという疑問より先に怒りが込み上げてきた。
ふざけるな!
私がどんな思いでアリシアの蘇生を研究しているか分かっているのか! それをさも簡単なことのように!
腸が煮え返るような怒りをフェイトにぶつける。
それが代償行為だと分かっていても。
「か、母さ、ん」
フェイトが渡されたジュエルシードには、ご丁寧に謎の男──坂井祐一の自己紹介と家までの地図がプログラムされていた。こんな芸当はそんじょそこらの魔導師では不可能だ。
いいでしょう、その話乗ってあげるわ。
けれど、失敗した時は貴方の命が消えると思いなさい、自称奇跡遣い。
sideout
──第9話──
坂井祐一side
フェイトとの邂逅から3日が経ち、はやてが退院してきました。
検査の結果は筋力以外問題なし。
まあ問題があったら困るんだけどね。
「結局お見舞いに来んかったな」
「結果の分かる検査入院にわざわざお見舞いなんて行かないよ」
「それもそうやね。ところでこの3日間、何があった?」
はやてがキラキラとした目で魔法関係の話をせがんでくるので、ありのまま話してみた。
「ちょい待ち、なんで祐一さんはそのフェイトちゃんの家庭事情を知っとるん?」
んー、誤魔化すのも面倒だからぶっちゃけちゃうか。
皆さんお待ちかねの信頼ブレイクだぜ。
「僕はね八神ちゃん、実は異世界人なんだよ。その世界をぶっ壊してこの世界に来たんだ。もともとの世界のアニメに『魔法少女リリカルなのは』というのがあって、ここはそのアニメに酷似した世界なんだよね。だからテスタロッサちゃんや八神ちゃんの事情ももちろん知っていて、それを利用したんだよ」
軽蔑した?
「………」
はやてはしばらく真剣な表情で僕を見つめると、
「たとえ利用されたんやとしても、祐一さんは私の願いを叶えてくれた。私に希望をくれたんや」
だから、と言いながら車椅子から立って僕の方へゆっくりと歩いて来た。
「対価を払ったからこの言葉はお門違いかもしれへんけど、それでも、ありがとう」
まるでゴールにたどり着いたかのように、はやては僕に抱きついてきた。
あれ? なんかぶっちゃけたことで更に信頼度上がってない?
あれか、あのフラグっぽいヤツのせいか。
まあ、話し相手と料理人が改めて手に入ったと思えばいいか。
ピンポーン
「おっと、お客さんかな」
やんわりとはやてを離しながら玄関へ向かう。
「はいはーい、今出ますよー」
ガチャっと扉を開けると、
「やあ、いらっしゃいテスタロッサさん」
そこには怖い顔をしたプレシア・テスタロッサがいた。
■■■■■■
はやては自室にいるように念話で伝え、客人は居間に案内した。
守護騎士たちは皆プレシアに対してかなり警戒している。
「おいおい皆、そんなに殺気立つなよ。お客さんに失礼だろ」
「は、失礼しました主」
とは言いつつも最低限の警戒は怠らないようで、シグナムの視線は常にプレシアに向いている。
まあ無理もないか。
突然魔力ランクSだかSSの魔導師が訪ねてくれば警戒くらいするさ。むしろ、これでよく戦闘が起こらないものだよ。
「そいつらは何?」
今度は警戒したプレシアが尋ねてきた。
「ああ、彼らは僕の守護騎士だよ」
「4人のベルカ式の守護騎士って、まさか貴方、闇の書の主なの?」
さすが天才、ほんのわずかな証拠から真実を導き出すなんてね。
「なるほど、闇の書ならば死者蘇生の方法も載っているかもしれないわね」
「いやいや闇の書の主までは大正解だけど、それは違うよテスタロッサさん。僕の自己紹介ちゃんと聞いてた? 僕は坂井祐一、奇跡遣いさ。どんな奇跡だって叶えることができる。それと同等の対価があれば」
「ならあの子を、アリシアを生き返らせて! 何でも差し出すわ。あの子との幸せな生活がまた送れるのなら何でも!」
とはいっても、死者蘇生はかなり大仕事なんだよね。まあできないわけではないんだけど。
「死者蘇生は本来願う者の全存在が対価なんだけど、肉体は残ってる?」
知ってることだけど一応確認。
「ええ、生体ポットの中で腐敗しないように保存しているわ」
「なら少しは対価を減らせそうだね。えっとそうだな、僕らの持っていないジュエルシード17個とテスタロッサさんの魔力全て、そして人造魔導師フェイト・テスタロッサの所有権、そんなものかな」
「いいわ、ジュエルシードもフェイトも私の魔力も、アリシアが生き返るならすべて捧げるわ、だから──」
「うん、契約成立だ。ジュエルシードが全部集まったらまたここに来てね」
ということで、解散。
■■■■■■
僕の言葉を信じるように『能力』を使ってたんだけど効果抜群だな。はやての時も使ったけど、心理誘導系は低燃費のようだ。
さて、これでうまく行けば残りのジュエルシードとフェイト・テスタロッサという有能な魔導師が手に入るわけだ。
まあフェイトは魔導師としてよりもオモチャとして欲しいという理由の方が強いんだよね。
ああ、オモチャと言っても性的な意味じゃなくて弄ると面白そうだなという意味なので大きなお友達は間違えないように。
「主祐一、あの者は一体誰だったのですか?」
「死者蘇生とか、なんなんだよ一体」
という感じにシグナムやヴィータに問い詰められたので、はやてと同じことを話しました。
信頼ブレイクその2だぜ。
もし本当にブレイクしたら『能力』で傀儡にするけどね。
「主祐一、あなたはやはり我らが仕えるに値する方でした。改めて忠誠を誓います」
「ぐすっ、そっか、はやてもフェイトって奴も大変だったんだな」
「プレシア女史は、正直いい感情は持てませんでしたが、それでもお救いになるとはさすが私たちの主です」
えー……なんでこっちも評価あがってんのさ。