「そうだ、王都に行こう」
そう言ったのはぁ、坂井祐一ぃ、であったぁ。
「どうしたんや? 藪からスティックに」
「はやてちゃん、さすがにそのネタは古いの……」
「なん……やと……」
なのはに突っ込まれ
「ということで、今日は休みの日らしいので王都に遊びに行こうと思う」
「先生、それは賛成なのですが、学院の馬の予約はしてあるんですか?」
馬の予約とな。
そんなものは必要ないよ。
そもそも乗馬なんてできないし。
「じゃあどうやって行くの? 私は道も距離も分からないから全部お任せになるけど」
「テファさん、ユウイチ様のことです。私たちでは思いつかないようなお考えがあるのでしょう」
まあ確かに、この世界の住人では思いつかない方法で行こうと思ってるね。
「フェイトちゃん、そこの夜天の書取ってー」
「はい、どうぞ!」
いつも通り僕の腕に引っ付いているフェイトに、机の上に放置されていた夜天の書を取ってもらう。
さて、しばらくぶりの登場だ。
──第34話──
「んじゃリイン、このメンバーの移送よろしく」
「
リインフォースが事前に渡しておいたジュエルリーフを取り出し「武装錬金」と発声すると、それは青い光を放ち、彼女の背中にメカメカしい翼を形成した。
「
形状はお察しの通り某モビルスーツの背部なので細かい描写は省略。
この武装錬金の特性は『重量・体積に関わらず任意のものを自身と共に飛行させる』というもの。
「うわ、わわわ。浮いとる」
「じ、自分で飛ぶのと感覚が違うの」
「これは『フライ』の魔法ですか?」
「他の人を浮かせるなら『レビテーション』ね。でもこんなにたくさん飛ばすなんて規格外よ」
「すごーい! みんな飛んでる!」
「きゃー祐一さん、高いの怖ーい」
「いやフェイトちゃん、そんな棒読みで怖がらなくても引っ付いてていいから。んじゃ出発〜」
王都近くの街道わきに着陸し、そこから出入口の門を目指して歩くことにする。
いきなり街中に着陸するほど常識知らずじゃないからね。まあ、必ず常識に従うとも言っていないけど。
門番による検問で「このハーレム野郎がッ!!」という眼差しを向けられたが無視して街に入る。
そこには王都と言うだけあって、広い道と煌びやかな店が──
「なんや、王都いう割にはショボいな」
「想像してたのとなんか違うの」
「わぁ♪ 祐一さんとデートだぁ」
三人娘の3分の2には不評な街並みだが、中世ヨーロッパレベルの文化ならこんなもんだろうさ。
ちなみにテファはほぼ初めての街の賑やかさに「わぁ、うわぁ〜」と完全に上京したてのお登りさんの反応だ。
「そういえば先生。王都に遊びに行くとは聞きましたが、具体的には何をするんですか?」
うーん、全く何も考えずに来たからなぁ。
しかも文明レベル的に満足できなさそうな子が約2名。
「よし、とりあえず武器屋を冷やかしに行こう」
「分かりました。武器屋は……確かあっちの方、だったかな?」
武器屋の方向に自信なさげなルイズ。
まあ、テキトーにぶらつくだけでも問題ないさ。なにせ目的が無いんだからね。
「らっしゃい」
こちらを見ずに気のない挨拶をした武器屋の店主に、ルイズは
「お客を見ようともしないなんて、失礼にも程があるわ!」
と憤慨した。
驚いてこちらを向いた店主は、僕とルイズのマントから貴族であると察したらしく、へりくだりながら慣れない敬語で謝ってきた。
「すいやせん。ですがウチはお上に目をつけられるような商売はしてませんぜ?」
「客よ。武器を買いたいわ」
「へえ、お貴族様が剣をお振りになるんで?」
「……先生、剣を買うんですか?」
ここに来て何の武器が目当てなのか聞いていない事に気付いたルイズ。
まあ、種類としては剣の類いだね。
という意味を込めて僕が頷く。
「そうよ! この店で一番良い剣を見せなさい!」
なにやら見栄を張ってそんな事を言い出したが、貴族の子どものお小遣いでは厳しい値段だと思うよ。
というか、そんな言い方すると店側は絶対ぼったくろうとするよ?
「へえ、これがウチの店で一番お高い剣でさぁ。かのシュペー卿が打った逸品で、鉄をも切断する切れ味ですぜ」
そう言って店主が持ってきた剣は、ゴテゴテした装飾だらけの金ピカな物で、見るからに儀礼用だ。
まあ、値段は一番だろうね。宝石たくさんだし。
「へっ! まともに剣も握った事のない貴族のボンボンなら、そのナマクラがお似合いだな!」
僕でも店主でもない男の声が店内に響く。
その存在を知っている僕とはやて、店主以外はキョロキョロと周りを見回す。
「え? ここら辺から聞こえたような……?」
特価品の剣が乱雑に入れてある樽の近くにいたテファがその樽を覗き込むが、もちろん中に人などおらず首を傾げていた。
「やいデル公! お情けで置いてもらってる分際で商売の邪魔するんじゃねえ!」
「はっ! こんな
「なんだと! もう容赦ならねえ! 鋳潰して喋れねえようにしてやる!」
「できるものならやってみろってぇんだ!」
店主と激しく口論しだした声を頼りに、今度はなのはが樽を覗き込み、1本の錆だらけの剣を手に取った。
「ボロボロなの。えっと、あなたが喋ってるの?」
「おうよ、その通りだぜ嬢ちゃん。──ん? この感じ……まさか使い手、じゃ、ねぇな。嬢ちゃん、アンタ『右手』か?」
「右手? 私、左利きだけど……?」
「いや、分からねぇならいいんだ。だがそうすると、そっちの貴族様のどっちかが『担い手』なんだろ?」
分かる奴にしか分からない、意味深な喋りをする剣だな。
僕は物語でこういう意味深な事を言いながらも核心の部分をなかなか明かさないキャラが大嫌いなんだ。
「はいはい、謎深め乙。こっちは全部分かってるし、君の使い手もここにいるから大人しく買われるように。店主さん、コレください」
「へ、へい、まいど」
隠語が多くて意味の分からない会話で混乱しながら、店主はなんとかそう口にした。