「着いたよ。ここがウエストウッドの森さ」
マチルダさんが馬車を止めてそう言ったので、僕はシエスタの膝枕から起き上がった。
「ここからは歩きだ。迷わないようにしっかり着いて来るんだよ」
『は〜い』
となのはとはやて、シエスタが返事をした。
フェイトはいつも通り僕の腕(以下略)
そしてしばらく歩くと、少し開けた場所に家が建っていた。
「テファ、居るかい?」
マチルダさんの声が聞こえたのか、家のドアがゆっくり開かれ、そこからフード付きのマントを被ったひとりの女の子が出てきた。
「……マチルダ姉さん? その人達は誰?」
「あー、えーと……とりあえず敵ではないよ。あと耳を隠さなくても大丈夫。こいつらは既に知ってる」
「え? 姉さんが話したの?」
「いや、私は話してない。なぜか元から知っていたんだ」
そこまで話したところで女の子は、僕を不安そうな目で見つめてきた。
「はじめまして、お嬢さん。僕はユウイチ・サカイ、奇跡遣いを自称しているよ」
「奇跡、遣い?」
「僕はね、対価を払えばどんな願いでも叶えることができるんだ」
「どんな願いでも……? あ、あの、それなら私……」
「うん、分かってるよ。叶えたい願いがあるんだよね。僕はそれを叶えに来たんだ。確か、君の名は……」
「あ、ティファニアっていいます。長いからテファって呼んでください」
「分かったよ、テファ。フードをとってもらってもいい?」
「は、はい」
テファは緊張した面持ちでゆっくりとフードを下ろし、マントを脱いだ。
そこにあったのは……
「な、なんちゅうデカさや……! これはもう『
あ、その単語はそのまま流用するのね。
なのはもシエスタも、そしてフェイトでさえ、テファの
「えっと、わ、私エルフなんだよ?」
テファの前情報はある程度みんなに伝達してあったので、エルフであることは『そういえばそうだった』レベルの反応だった。
「あ、あれ? 姉さん、エルフって人に怖がられてるんじゃなかったっけ……?」
「ああ、そのはずなんだが。まあこいつらに常識を求めるのは諦めた方がいいよ」
「は、はあ……」
「とりあえず、家にお邪魔していいかな?」
──第32話──
家の中には何人か子供たちがいた。
知らない僕らが入ってきて警戒していたが、テファとマチルダさんの様子から危険は無いと判断したようで、近すぎず遠すぎずな位置でこちらを見ている。
「どうぞ、お茶です」
「ありがとう、テファ」
それっぽい笑顔でお礼を言うと、テファは長い耳を真っ赤にしてマチルダさんの陰に隠れた。
こらフェイトちゃん、テファを威嚇しないの。
「さて、落ち着いたところで本題に入ろうか。僕は君の願いを叶えにきたんだ。隠れることなく普通に暮らしたいんだよね」
「は、はい。でもこの耳はエルフであるお母さんとの繋がりでもあるの。ありのままの姿で普通に過ごしたい、っていうのは欲張りかな……」
「そんなことあるもんか! テファは今までいい子にしてたんだから、少しくらい欲張ったってバチは当たらないよ! なあアンタ、テファの願いを叶えに来たんだろ? 対価ならあたしが払う。どんなことでもしてやる。だから、だからテファの願いを叶えてやってくれよぅ」
「姉さん……」
「ふむ、テファは耳を人間サイズにするではなく、世界の認識の改変を望むのか。それは対価が高くつくよ? そしてマチルダさん、対価は願う本人が払わなければならなくてね。『テファの願いを叶える』という間接的な願いもアウトなんだ」
苦い顔をするふたりに、僕は続ける。
「でも大丈夫。テファが払える対価のアテはあるよ。それは君の魔法。『虚無』の魔法さ」
「え? 虚無って始祖ブリミル様の魔法だよね。ハーフエルフの私が虚無だなんて」
「森に迷い込んだ人の記憶を消す『忘却』の魔法。それは四つの属性のどの魔法にもできないものだ。逆に君は普通の魔法がコモンスペルのものすらできない筈だ」
「エルフを敵とするブリミル教の象徴の『虚無』がハーフエルフのテファに宿るなんて、なんて皮肉なことなんだい……!」
「でも姉さん、この人はそれが対価になるって言ってるわ。あの、奇跡遣いさん。私の魔法なら差し上げます。だから、どうか願いを叶えてください!」
「ユウイチ」
「え?」
「ユウイチと呼んで、テファ。僕たちはもう友達じゃないか」
「ゆ、ユーイチ……?」
「うん、友達のテファの願いなんだ。バッチリ叶えるよ」
「うんっ!」
◻️◻️◻️◻️◻️◻️
「では確認だ。願いは『テファの耳を当然だと世界に誤認させる』、対価は『テファの虚無の魔法の力』──間違いないね?」
「はい」
「では始めるよ」
うーん、世界改変は久しぶりだから楽しみだな。
僕は奇跡遣いの力を行使する。
地面が、空が、空間が、時間が、世界が、少しだけ変わった。
「これで完了。ここで改変を見ていた者以外は全てテファの耳が長いのは当たり前、ただの人だと思うよ」
「ほ、ほんと?」
「嘘だと思うなら、今から人前に出てみよう」
「えっ⁉︎ そ、それはまだ勇気が足りないというか……」
「ではテレポートするよ。場所はトリステイン魔法学院の僕の部屋」
「え、ちょ」
ぐるん、と世界が回る。
視界が正常に戻ると、目の前には驚いた顔のルイズがいた。
「え? 先生? アルビオンに行ってるはずじゃ……?」
「ただいまルイズちゃん。ところでこの子を見てどう思う?」
ルイズにテファを見せる。
「すごく、大きいです……! な、なにこのおっぱいお化け! 私に喧嘩売ってるの⁉︎」
ふんがーっ! と激昂するルイズに更に問いかける。
「他には? 特に顔つきとか」
「え? あ、はい。えーと、すごく可愛い子だと思います。ま、まあ私には敵わないけどねっ!」
ルイズは隠していないテファの耳を見ても反応することはなく、顔の造詣を褒めるだけだった。
「姉さんっ!」
「テファっ!」
抱き合って喜ぶ二人。
いやー、いいことした後は気持ちがいいなー。
「祐一さん。なんでこんな無意味なことしたんですか?」
とフェイトが問う。
「だって、僕の周りが最近ロリロリしいから大人っぽい&巨乳属性を追加しようと思って。ダメだった?」
「んー、祐一さんがしたいならそれは最優先ですべきことです」
ならいいかー。