「祐一さん! 勝ちました!」
えへへ、とはにかむフェイトは、先程までメイジを圧倒していた存在とは思えないほど可憐だった。
とかなんとかそれっぽいことを言ってみた。
どうも、坂井祐一です。
「よしよし、よくやったねフェイトちゃん」
と言いながらフェイトの頭を撫でる。
再び「えへへ」とくすぐったそうに笑うフェイトを見て、なのはとはやては「いいなぁ」と指を咥えていた。
「それで、グラモン君と言ったかな? 君はどうするんだい?」
精神力が切れたためか、満身創痍な感じのギーシュに僕は問いかける。
「ああ、僕の負けだよ。完敗だ。モンモランシーとケティ、それにさっきのメイドにも謝るよ」
どこか清々しい笑顔でギーシュは答えた。
でもね……
「潔く負けを認めるのはいいけど、君はブレイドの魔法のみを使用した、言わば平民同然のフェイトちゃんに負けたんだ。その意味は分かっているかい?」
「……え?」
──第26話──
「……ふざけるな」
始まりは、決闘を見にきていた一人の生徒の言葉だった。
「ふざけるなよっ! 誇り高き貴族が、ブレイドしか使ってないメイジくずれに負けただとっ!? 冗談じゃない!」
「そうだ! しかも平民に謝るだと? 馬鹿も休み休み言いたまえ!」
そんな怒鳴り声と野次が聞こえる中、ギーシュはどうすることもできず、その様子をただ見ていた。
「エア・ハンマー!」
不可視の風槌がギーシュを吹き飛ばす。
数回バウンドして、ギーシュの身体は観客の近くで止まった。
どうやら激昂した観客の一部が魔法を放ったようだ。
観客はピクリともしないギーシュに寄ることはなく、近づくのはひとりの金髪の女の子──おそらくモンモランシー──だけだった。
急いで何かの薬を飲ませようとしているようだが、あれは手遅れかもしれないね。
その姿を見て更に魔法を放とうとする輩が現れたところで、鐘の音が広場に響いた。すると、興奮していた観客たちは次々と崩れ落ち、眠り出した。
僕は能力で呪文を省略して『ディスペル』を唱え、僕の周りを魔法無効地帯にした。
僕にしがみついているフェイトと、近くにいるルイズ・なのは・はやても範囲に入っているので周りの観客が昏倒していくのを不思議そうに見ていた。
「これは、いかんのう」
僕ら以外の広場にいる人間が全て眠ったところで校舎から教師と思われる人たちが飛び出してきて、ギーシュをレビテーションで運んで行った。
「ミスタ・サカイ。こうなることが分かっていて使い魔の彼女にブレイドのみを使わせたのかの?」
オスマン翁は剣呑な目つきでこちらを見てきた。
「いやいや校長さん、そんなわけないじゃないか。確かに極力魔法は使わないように指示は出したけど、こんなことが起こるなんて露ほども思ってなかったよ。で、薔薇の子の容体はどうなの?」
「……どうやら背骨が折れたらしく、身体に麻痺や障害が残るかもしれんようじゃ」
障害、のところではやてがピクリと反応するが、それだけで何も言わない。
「水の秘薬ってのが確かあったよね。それを使えば治るんじゃないの?」
「秘薬の効果にも限界はある。それに我が校には水のスクウェアメイジはおらんでの。水の秘薬はミス・モンモランシーが飲ませたようじゃが、水の使い手がおらねば完治には至らないじゃろうて」
「祐一さん……」
はやてが僕のコートの袖を掴んで言った。
「どうにか治してあげられへんやろうか」
「ん? 対価があればできるよー」
僕は軽いことのように言う。
「それは本当かの?」
「うん。僕の二つ名は『奇跡』だからね。どんな願いも叶えることができる。対価さえあれば、の話だけど」
「ならば対価はわしが払う。だから生徒を助けてはくれないか」
オスマン翁が頭を下げる。
「いいよ。来る者拒まずが僕のモットーだからね」
初めて使った言葉だけどね。
「そうか……感謝する、ミスタ・サカイ」
「いやいや、感謝はお門違いだよ、校長さん。別に僕はタダでチカラを使うわけじゃないんだ。願いと同等の対価があって初めて発動するんだ。だからこれは、言うならば『契約』のようなものなんだ」
「契約、とな?」
「そう、契約。等価交換と言ってもいい。つまりプラマイゼロ。そこに感謝はいらないよ」
「そうかの。では、わしは何を差し出せば良いのかの? この学校には宝物庫があっての。そこから見繕ってもらっても構わんよ」
「うーん、それは校長さんの私物? 対価は願う人のモノじゃないとだめなんだけど」
「大方のものがわしの私物じゃ。中には学校へと国から賜った物品もあるがの」
「うん、それなら大丈夫かな。じゃ、薔薇の子のところへ行こうか」
僕らは学校の医務室へと向かった。