え? 決闘?
そんなのやるわけないじゃん面倒くさい。
なので、僕の代わりにフェイトがすることになりました。
というか、僕の敵ということでフェイトがヒートアップしちゃって。
女の子に守られて恥ずかしくないのか! みたいなこと言われたけど、いやガンダールヴは虚無のメイジを守るものだからなぁ、と思ったので『この子は僕の使い魔だ。僕が戦うほどのことではないからこの子が相手になるよ』と適当に言っておいた。
するとギーシュはなぜか怒りだし、フェイトを倒したら僕と戦うという約束を取り付けられた。まあ、フェイトが負けることは無いだろうから『いいよ』と返事をした。
そして僕らは今、ギーシュの取り巻きに連れられて決闘の場所であるヴェストリの広場に来た。
──第25話──
「先に忠告しておく」
前髪をかきあげながらギーシュは言った。
「降参するなら今だよ、小さなレディ。僕も本来なら君のような可愛らしい女性を傷付けたくはないのだよ」
「祐一さーん!」
フェイトは後ろにいる僕に振り向き、笑顔で手を振った。
ギーシュをガン無視である。
さすがのギーシュも我慢ならないようで、引きつった笑顔で、
「僕を無視したことを後悔させてやる」
と低い声で呟いていた。
「あー、フェイトちゃん。勝ったら何かご褒美あげるから集中しようか」
「ご、ご褒美!?」
『ご褒美』という言葉でフェイトは
「やっとやる気を出したようだね。では自己紹介だ。僕はギーシュ・ド・グラモン。二つ名は『青銅』だ」
「私はフェイト。二つ名は……ありません」
「ふん、僕は貴族でメイジだ。だから魔法を使うが構わないだろう?」
そう言うとギーシュは薔薇の花を取り出し、花弁を周りへ振りまいた。するとその花弁は青銅の戦乙女となり、フェイトに対峙した。
「さあ、君も野良とはいえメイジなんだろう? なら魔法を使いなよ」
「……ブレイド」
フェイトがそう呟くと、バルディッシュから金色の魔力刃が形成された。
ヴェストリの広場に来る途中、3人に念話で伝えた決め事がある。
それは、こちらの世界では元いた世界の魔法の使用を一部制限する、というものだ。
主な制限内容は、
・同時に2つ以上の魔法を使わない。
・元いた世界の魔法に似ている魔法は使用可能。ただし発声する魔法名はこの世界のものとする。
・魔法は非殺傷設定だが、殺傷設定だと想定して使用する。
・緊急時以外のヴィクター化及び核鉄の使用の禁止。
といったものだ。
この世界ではまだお尋ね者じゃないから、できるだけ表では穏便に事を運びたい。なのでこのような規制を設けた。
「……ブレイドのみで戦おうと言うのかい? それでは平民を相手にしているのと変わらないじゃないか。僕を馬鹿にしているのか?」
ギーシュが少しキレ気味で問いかけた。
「いいえ、あなたにはこれで十分だと判断しました」
「くっ、行けっ! ワルキューレ!」
ギーシュの周りにいた戦乙女の1体が、フェイトへ武器を構えて特攻する。
しかし、フェイトはさして問題ないかのように、バルディッシュを特に構えることもなく、自然体で立っていた。
そして戦乙女とフェイトの間が1メートルを切った時、一瞬金色が煌めいたと思ったら、次の瞬間戦乙女はバラバラの青銅に成り果てた。
「なっ!?」
ギーシュや観客が息を飲むのが分かった。
何が起こったか分かるのは、その現象を起こしたフェイト自身と僕、はやてくらいかな。
まあ、僕とはやてはどうしてそうなったかが分かるだけで、どうやったのかは速過ぎて全く見えなかったのだが。
簡単に言えば、バルディッシュを持ったことでフェイトの『ガンダールヴ』が発動して、超高速で戦乙女を切り刻んだ、ということだ。
「一体、何が起こったんだ……?」
目の前で起こったことが信じられなくて呆然としているギーシュ。
だがそれも数秒のこと。
ギーシュは相手が自分以上の実力者と分かると、残っている薔薇の花弁を全て散らし、6体の戦乙女を作り出した。
「どうやら君はかなりの実力者のようだ。本気で行かせてもらうよ」
そう言うとギーシュは先ほどの無闇な特攻とは違い、時間差で攻撃するように戦乙女に指示を出した。
剣や槍を持った戦乙女たちがフェイトに向かっていく。
今度はフェイトも動き出し、その距離は急激に狭まっていった。
1体目、構えた剣ごと真っ二つに切り捨てる。
2体目、返す刀で首と腕をきり落とす。
3、4体目は同時に攻撃したが、フェイトが身体をかがめて避け、足を切り落とした。
5体目、盾を構えていたが、高速で動くフェイトを捉えきれずに後ろを取られて袈裟斬りに。
6体目、ギーシュの近くに残っているそれを、フェイトは一歩で近づき切り伏せる。
「参った」
精神力も切れ、自慢の青銅の戦乙女たちも全て破壊されたギーシュは、そう言って負けを認めた。