「じゃあヴァリエールちゃん、準備はいいかい?」
「え、ええ」
では今回はそれっぽいセリフを言いながらにしようかな。
「汝、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは何を『対価』とする?」
「えっと、『未来の可能性』を」
「では、何を『願い』とする?」
「『普通の魔法の才能』を願うわ!」
「よろしい、これで契約は成った」
僕を中心に、周りが見えないほどの光が発せられる。
まあこれはそれっぽい演出なんだけど。
「ゆ、ユウイチ? これで終わりなの?」
「うん、終わりだよ。もう失敗魔法の爆発は起きない。保証するよ」
だってルイズの中にあった虚無の力は、
僕の中にあるもの。
──第22話──
というわけで、はやて同様にルイズも騙してその力をいただきました坂井祐一です。
方法は簡単。
僕の魔力とルイズの虚無の力を入れ替えたのさ。
前も説明したけど、細かく指定しない限り、願いの叶え方は僕に一任される。だから、僕の中にあった魔力とルイズの中にあった魔力を、その性質ごと入れ替えたんだ。
そんな感じで僕は虚無のメイジとなり、ルイズは属性は分からないけどかなりの魔力を持ったメイジになったとさ。
「今まで使えなかったコモン・マジックも問題なく使えるはずだよ。試しに『ライト』でも使ってみたら?」
「え、ええ。えっと、杖の先が光るイメージ……『ライト』!」
先ほどの光とは比べものにならないほどの光量がルイズの杖から発せられる。
うおっ、眩しっ!
「ヴァリエールちゃん、もっと込める魔力、じゃなくて精神力を少なくして」
「わ、分かったわ」
光はだんだん小さくなっていき、蛍光灯と同じくらいの光量で落ち着いた。
「──た」
「えっ?」
「できた! できたできたできたぁ!!」
初めてまともに魔法が使えたことがよほど嬉しいのか、ぴょんぴょん跳ねながら「できた、できた」と繰り返している。
「ヴァリエールちゃん。嬉しいのは分かったから、とりあえず落ち着こうよ。それに君がどの属性が強いかも調べないと」
「はいっ! 先生っ!」
いつの間にか先生にクラスチェンジしていた。
一応、君の使い魔なんだけどな。
使い魔が先生とか、まるで意味が分からんぞ?
■■■■■■
結局、ルイズはテンションの高いまま各属性の簡単な魔法を使った。
結果は、風>土>水>火、という感じになった。
とは言ってもその差は微々たるもので、どの魔法も問題なく行使できていた。
魔力量はだいたいジュエルシード3個分くらいあるから、訓練次第では属性的に万能のスクウェアクラスになれるかも。
そう言うとルイズは、
「これもユウイチ先生のおかげです!」
と言って目を輝かせながら僕を見つめてきた。
なんか知らないけど、ルイズの好感度が天元突破しちゃってるんだけどー。
……まあ困ることでもないし、放置でいいか。
いろいろ試していたため、日は沈み夕食の時間となった。
「ユウイチ先生は貴族だから『アルヴィーズの食堂』で夕食を食べますよね? 案内します!」
そう言ってルイズは僕の手を掴み、部屋の入り口まで引っ張っていった。
と、そこで。
コンコンコン。
とドアがノックされた。
「失礼します。ミスタ・サカイ、お食事の準備ができましたので食堂までご案内いたしま──」
「その必要はないわ」
ドアから現れたシエスタを、ルイズは言葉でバッサリと切り捨てた。
「ユウイチ先生は私が案内するわ。メイドのあなたは隣の部屋で待機してなさい」
「で、ですが、ミスタ・サカイのお世話はオスマン校長より仰せつかった仕事ですので、それを放棄することはできません」
むむむ、とシエスタを睨むルイズ。
それに萎縮しながらも、シエスタは自分の職務を全うしようとしている。しょうがない、折衷案を出すか。
「ヴァリエールちゃん。案内はメイドちゃんに任せて、君は歩きながらこの学校の事とかいろいろ教えてくれないかな?」
「むー、ユウイチ先生がそう言うなら……。そこのメイド、私たちを食堂まで案内しなさい」
「は、はい。かしこまりました!」
僕はルイズによる学院講座を右から左へ聞き流しながら、シエスタに先導されて食堂に向かった。
アルヴィーズの食堂は、豪華絢爛という言葉がピッタリなところだった。
「どう、先生。驚いた?」
ルイズはイタズラが成功した子供のような顔で僕を見やると、繋いでいた手を引っ張り、手頃な席に座るよう促した。
僕が座ると、ルイズは僕の隣に座り、シエスタは僕らの食事を配膳するために調理場へ小走りで向かって行った。
「おい、『ゼロ』のルイズが使い魔を食堂に連れてきてるぞ!」
シエスタが料理を運んでくるのを待っていると、小太りの男の子が周りに聞こえるように声を上げた。
「かぜっぴきのマリコルヌは黙ってなさい! それに、もう私は『ゼロ』じゃないわ!」
「ぼくは風上のマリコルヌだ! だったらいつもの失敗魔法以外のを使ってみろよ!」
「後悔しても知らないわよ! 『ウィンド』!」
ルイズが呪文を唱えると、マリコルヌと言う名の男の子は突風に飛ばされたかのように食堂の壁に激突した。
すると、周りがざわつく。
「嘘! あのルイズが」「爆発じゃないぞ」「しかもただのウィンドであの威力」「うわっ、マリコルヌの奴お漏らししてやがる!」
「何事かの?」
と、そこでオスマン翁が登場した。
「ミス・ヴァリエールが魔法を使ったんです!」
近くにいた生徒が、今見たことをオスマン翁に伝えた。
「ここは皆が利用する食堂じゃ。諍いは外でやりなさい。……時にミス・ヴァリエール、君の魔法は全て失敗すると聞き及んでいるが、一体どういうことかの?」
その視線は、しかしルイズではなく僕を捉えていた。
「そうなんです、校長先生! 私、魔法が使えるようになったんです! ユウイチ先せ、じゃなくてミスタ・サカイのお陰で!」
「ほう、それはそれは」
長い顎髭に手をやりながら、オスマン翁は僕に尋ねた。
「ミスタ・サカイ。一体どうやってミス・ヴァリエールが魔法を使えるようにしたのだね?」
その目は鋭く僕を見ていた。
「そんな剣呑な目で見ないでよ。僕はただヴァリエールちゃんの『願い』を叶えただけだよ?」
「『願い』とな?」
「うん、僕の二つ名は『奇跡』……対価さえ払えばどんな願いも叶えるメイジさ」