魔法とかなんとか   作:四季式

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ゼロ魔編
第20話


ルイズside

 

 

「あんた誰?」

 

 言ってから気付いた。

 私の失敗魔法の爆発で窪んだ地面に立っている男は、変わったマントを着て、変な杖と本を持っていた。

 

 メイジ。

 

 恐らく彼はメイジ、私たちと同じ、この世界の人間のヒエラルキーの頂点にいる存在だろう。

 まずいことになった。

 あの上等そうなマントから察するに、彼は上級の貴族だろう。ということは、私はどこかの貴族を使い魔召喚という名の拉致をしてしまったのだ。

 これが自国の貴族ならまだどうにかなる。しかし、もし彼が異国の貴族であったなら、最悪、戦争が起こる。

 

 嫌な汗が身体中から溢れる。

 使い魔召喚の立会いをしていたコルベール先生も同じ結論に至ったのか、焦っている様子が見て取れる。

 そこまで思考したところで、問題の彼が口を開く。

 

「僕はユウイチ・サカイ。奇跡遣いさ」

 

 

sideout

 

 

 

 

 

 

 

──第20話──

 

 

 

 

 

 

 

 

坂井祐一side

 

 

 さて、予定通りルイズの使い魔として召喚された坂井祐一です。

 

 いやー『能力』で召喚主をルイズに設定していたから大丈夫だろうとは思っていたけど、イレギュラーがなくて良かった良かった。

 とりあえずいつもの名乗りをしたけど、周りの人は皆硬直というかあんまりこっちの話を聞いてないみたいだ。舐められないように貴族っぽい格好をしたけど、ダメだったかな?

 うーん、と唸っていると、ハゲ……もとい、恐らくコルベール教諭と思われる人が話しかけてきた。

 

「失礼、ミスタ・サカイ。私はコルベールという者です。確認なのですが、貴方は貴族の方ですか?」

 

「ええ、そうですが」

 

 そう答えると周りがざわめきだす。

 

「ヴァリエールが貴族を召喚したぞ!」だのなんだの騒ぎだしたガキ共。

 

「うるさい」

 

 不機嫌さを醸し出すために低い声色で、『能力』を使ってその場の全員に声が届くように呟いた。

 しーん、と静まりかえる草原。

 

「せ、生徒たちが失礼しました。どうかお怒りを収めてください」

 

 コルベールが焦った様子で謝ってくる。

 

「うん、まあいいけど。それで、ここはどこだい?」

 

「はい、ここはトリステイン魔法学院です。失礼ですが、ミスタ・サカイはどこの国の方なのですか? ここトリステインでサカイ家という貴族は聞いたことがございません」

 

「ああ、ここはトリステインなのか。私の国はここより東、極東の島国のニホン。ここではロバ・アル・カリイエと言った方がいいかな?」

 

 と、嘘をつく。

 

「なっ!?」

 

 驚愕するコルベール。

 近くにいたためルイズにも聞こえたのか、鳶色の目を大きく見開いている。

 

「で、状況から察するに、私は使い魔として召喚されたと見て間違いないかな?」

 

 分かっていることを質問するのって意外と面倒な作業だな。でもこれしないと『なんで知ってるの?』ってことになってしまう。

 

「申し上げにくいのですが、その通りです。彼女、ミス・ヴァリエールが貴方を召喚しました」

 

 名前を挙げられたことでビクッと反応するルイズ。

 

「あ、あの、ミスタ・サカイ。無茶なお願いだと分かっているのですが、どうかこの私の使い魔になっていただけないでしょうか」

 

 おおう、直球で来たね、ルイズちゃん。

 コルベールが「ミス・ヴァリエールッ!」と叫ぶが、ルイズは真っ直ぐ僕の目を見据えている。

 

 覚悟のあるいい目だ。

 僕は笑顔でこう答えた。

 

「いいよ。だってそのために僕はここに来たのだから」

 

「へっ?」

 

 ポカン、とするルイズ。

 まさか受け入れられるとは思ってなかったのだろう。

 

「ミスタ・サカイ? 使い魔になるということがどういうことか理解した上で仰っているのですか?」

 

 コルベールがそう尋ねてきたが、

 

「ええ。主か使い魔のどちらかが死ぬまで、両者は主従の関係で結ばれるのでしょう?」

 

 と、大したことないように言う。

 

「分かっているのなら、なぜ?」

 

 と、ルイズ。

 

「僕の二つ名は『奇跡』。僕は君に奇跡を起こすために来たのさ」

 

「奇跡?」

 

「まあその辺の話は後々ということで、さっさとコントラクト・サーヴァントしちゃおうか」

 

「は、はい」

 

 ルイズは、手に持った小さな杖を僕の目の前で振った。

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」

 

 すっ、と杖を僕の額に置いた。

 そしてルイズはゆっくりと顔を近づけてくる。

 その顔は、林檎のように真っ赤になっていた。

 

 チュッ、と軽いキス。

 

 そういえば僕ファーストキスだなぁ、なんて思っていると、胸元が熱くなってきた。僕は直ぐに『能力』で痛覚を遮断し、ルーンが刻まれるのを待った。

 しかし、予想はしてたけど四番目の使い魔のルーンか。

 ガンダールヴって感じじゃないしね、僕。

 まあ『能力』でいつでも消せるし放置でいいかな。

 

「さて、コントラクト・サーヴァントも無事終わったことだし、行こうか」

 

「え? あ、うん。……えっと、どこへ?」

 

「もちろん、トリステイン魔法学院の校長のところさ」

 


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