「というわけで、今日あたりに別世界に行こうと思うから、準備するのを手伝ってね。フェイトちゃん、八神ちゃん」
「は、はい」
「なあ祐一さん。それはもちろん私らも一緒に連れてってくれるんやろうな?」
「え? 違うけど?」
──第19話──
なにやらショックを受けて立ち直れないでいるフェイトとはやて。
一緒に連れて行かないのがそんなにダメなのかな?
「ここまで依存させておいて、これでお別れなんて鬼畜の所業ですよ? 主」
と、リイン。
「いやいや、僕の能力では連れて行かないけど、これでお別れってわけじゃないからね? ちゃんと別の方法で連れて行くことを考えてるからね?」
「ほ、ほんまに?!」
「祐一さんは私を見捨てない祐一さんは私を見捨てない祐一さんは────」
はやては涙目状態で縋りついてきて、フェイトは虚ろな目でこちらを見ながらブツブツと呟いている。
「主祐一、お申し付けの通りの宝石類を買ってまいりました」
「どこの世界でも宝石って高価なんですね。昨日のお金がほとんどなくなっちゃいました」
と、そこへ宝石を買いに行っていたシグナムとシャマルが帰ってきた。
「ああ、お疲れ様。問題なく買えた?」
「はい。買い物の途中に強盗が入ってきましたが、無力化して警察に引き渡しました。そうしたらお礼だと一番高価な宝石を店主からいただきました」
うん、それは問題なかったとは言えないよね。
まあ、ただ得をしたのなら問題ないといえばないのだけれども。
「ただいま! 祐一、言われたとおりのコート買ってきたぜ!」
「おかえり。ヴィータ、ザフィーラ」
シグナムたちに続いてヴィータとザフィーラも買い物から帰ってきた。
二人には黒いマント風のコートを買ってくるように頼んでいた。
探すのに時間がかかるかと思ったけど、意外と早かったな。
「スーツとか売ってるところにあったんだ。確かトレンチコートとか店員が言ってたかな?」
受け取った袋からコートを取り出すと、なるほど、確かにマントっぽいトレンチコートだな。
「デュランダル、このコートの形をバリアジャケットとして登録できる?」
「OK boss」
「じゃあデュランダル、セットアップ」
展開されたバリアジャケットは、もちろんマント風のトレンチコート。インナーとズボンも同じ黒で統一されている。
「さて、あとは細かい荷造りだけで完了かな」
荷造りとは言っても、着替えやら日用品やらは持っていかない。『能力』でどうにかなるしね。
持っていくのは、フェイトの持っているもの以外の20個のジュエルリーフ、デュランダルと夜天の書、そしてさっき買ってきてもらった宝石類くらいかな。
「んじゃあ、久しぶりに真面目に能力を発動しようかな。『対価』は残りの魔力の半分。『願い』は僕が想像している作品の世界への転移」
僕の中にある残りの魔力は、おおよそジュエルシード7個分くらい。その半分を使用した大掛かりな能力の発動。
まあ、対価が不十分ということはないだろうから失敗はしないと思うけど。
フッ、と僕の中から魔力が抜けたかと思うと、目の前には光る鏡のようなものが現れた。
なるほど、どうやらこれがあの世界への入口らしい。
「フェイトちゃん、八神ちゃん。多分明日になるだろうけど、同じような入口が出現すると思うからそれまでに自分の準備をしておいてね」
では、と二人の返事も聞かずに鏡の中へと足を踏み入れた。
■■■■■■
鏡を抜けると、そこはクレーターの窪みの中心のようで、周りには数人の人間が確認できた。どうやらあの世界の、予定通りの場所に着いたらしい。
「あんた誰?」
桃色がかったブロンドの髪を靡かせて、こちらを鳶色の目で見つめる女の子が問いかけてきた。
「僕はユウイチ・サカイ。奇跡遣いさ」
さてさて、ここからゼロ魔編が始まります。