魔法とかなんとか   作:四季式

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第18話

 結局。

 結局、月村家で僕の能力による体質の正常化を求める者はいなかった。

 月村すずか唯一人を除いて。

 

 

 

 

 

 

──第18話──

 

 

 

 

 

 

「じゃあ月村ちゃん、準備はいいかい?」

 

「は、はい!」

 

 どうも、坂井祐一です。

 時は深夜、場所は月村邸。

 空には満月があり、僕たちをその光で照らしている。

 

 とかまあ、詩人っぽく始めてみたけど似合わないので却下だな。

 さて、先ほど言ったとおり僕は再び月村邸にお邪魔している。

 時間が時間なので、お子様組は夢の中。

 坂井家のメンバーはヴィータとザフィーラ以外の守護騎士がいる。

 ああ、ザフィーラは坂井邸の防犯のために置いてきました。

 

 決して彼の出番を減らそうとか思ってるわけじゃないヨ。

 

 

 

 

 

 

「すずか、本当にいいの? 後悔しない?」

 

 忍がすずかに対して最後の意思確認をしている。

 

「うん、もう決めたことだから。なのはちゃんやアリサちゃんと同じ、普通の体になりたいの」

 

「すずか……」

 

 少し、悲しそうな顔ですずかを見つめる月村家の人たち。

 

「坂井さん、お願いします」

 

 すずかはこちらに向き直る。

 

「最終確認だ、月村ちゃん。『願い』は一般的な人間のスペックになること。『対価』は2億円。これで間違いないかい?」

 

「はい」

 

 すずかが答えると、忍がアタッシュケースをこちらに持ってきた。

 

「リイン、確認して」

 

「かしこまりました」

 

 リインは忍からアタッシュケースを渡されると、それを魔法で宙に浮かせ、中身の札束を得意の演算で数えた。

 その間、わずか0.5秒。

 

「はい、確かに2億円あります」

 

「じゃあ月村ちゃん、こっちに来て」

 

 恐る恐るこちらに寄ってくるすずか。

 

「そんなに怖がらなくてもいいよ。頭に手を乗せてピカッと光れば完了だから」

 

「は、はい」

 

 ポスン、と僕はすずかの頭に手を置いて能力を発動する。

 紫色の光が放たれ、しかしそれはすぐに収束する。

 残ったのは夜の一族としての力を失い、そのせいか髪が黒くなったすずかと、その頭に手を置く僕。

 

「うん、どうやら成功したみたいだね。ちょっと体がダルいかもしれないけど、それは体が普通の人と同じスペックになった証拠だから」

 

「はい。確かにちょっとダルいです。……これが普通の人の感覚……」

 

 両手をにぎにぎして感覚を確かめるすずか。

 その顔は、満足感で満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、と言うべきなのかしらね」

 

 普通の人間になったすずかはあの後すぐにお眠になったため、ノエルとファリンに連れられて寝室に向かった。

 なので、ここにいるのは守護騎士たちと僕、忍だけである。

 

「対価をもらっているのだからお礼の言葉は不要だよ、月村さん。……そういえば、今日は彼氏くんはいないんだね」

 

 先日一緒に話を聞いていた恭也は、なぜかこの場にはいなかった。

 

「あちらはあちらで家族会議があるようで、今日は来ていませんよ」

 

 家族会議、ねぇ。

 まあ十中八九、どころか確実になのはの魔法関係の話だろう。

 もしかしたらリンディさんも同席しているかもね。

 まあそんなことはどうでもいいや。

 

「じゃあ、僕は明日あたりに他の世界へ行こうと思うから、これ以降は僕の能力で何かを解決できないと思ってね」

 

「ええ、分かったわ。私が言うのもなんだけど、気をつけてね」

 

「よほどのことがなければ僕の能力でどうにかなるから大丈夫だとは思うけどね。でもその心遣いには感謝するよ、月村さん」

 

 じゃあね、と気軽なあいさつで、僕らは月村邸を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「主、異世界に行くというのは聞きましたが、それは別の次元世界に行くということですか?」

 

 帰り道。

 僕の隣を歩くリインが尋ねてきた。

 

「うーん、どうなるかは分からないけど、どんな世界に行くかは大体決めているよ。前にも話したけど、ここは僕の元いた世界では物語として存在していた。なら、他の物語も別世界として存在しているんじゃないかと思ったのさ。多少『対価』を多くすれば、行く世界もランダムじゃなく僕の意思で変えられるだろうしね」

 

「そうですか。……その際は私たちも同行できるのでしょうか?」

 

 心配そうな顔つきで僕を見つめるリインと守護騎士たち。

 

「皆が夜天の書に入ってそれを僕が持って行く、という方法なら『対価』も安く済むから、それで良ければ連れて行けるよ」

 

「そうですか。安心しました」

 

 さて、そうすると明日中にやることをやってしまわないとな。

 とりあえずあの世界でも通じるように、手に入れた2億円で宝石や貴金属類を買わなければ。

 確かあの世界では金が貨幣に使われていたし、宝石の類も高価だったはず。あと、一応グレアムさんにしばらくいなくなることを言っておかないとな。

 坂井邸が管理局に見つからないようにいろいろしてくれてるから、あいさつくらいはしようと思ってる。

 これでもある程度の常識は心得ているんだよ。

 まあ、その常識に沿って行動するかといえば、そうでもないんだが。

 

 そんな訳でリリなの編はここらで終わり。

 次からは別の世界へ行くよ。

 

 え? どの世界かって?

 それは次回のお楽しみ。

 


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