暖かい陽気の中、広い庭を一望できるテラスで飲む紅茶は、良い茶葉を使っているというのもあるけどなんだか美味しく感じるな。
「紅茶のお代わりはいかがですか?」
「ありがとうメイドちゃん、いただくよ」
空になっていたカップに綺麗な琥珀色の液体がそそがれる。
「私ももう一杯貰おうかしら」
テーブルを挟んで僕の対面にいる人物も、同じく紅茶をお代わりした。
「それで、坂井さん、でよかったかしら? そろそろ本題に入りたいのだけれど」
「いいですよ、月村さん。ああ、既に月村ちゃんから聞いていると思いますが、一度ちゃんと自己紹介をしておきましょう。僕は坂井祐一、奇跡遣いです。」
「私は月村忍。この月村家の当主よ。それで、私たちの『体質』を普通の人間と同じ様にできるというのは本当?」
──第17話──
そんなわけで、現在僕はすずかの家である月村邸にお邪魔している。
翠屋でのお茶会のあと、僕とフェイトはすずかを迎えに来た車に同乗した。ちなみに、なのはとアリサはここにはついて来ていない。
最初は2人とも一緒に行くつもりだったみたいだけど、それをすずかは断固拒否した。
なんでも『ふたりは親友で、だからこそ話せない』らしい。
うんうん、大切な友達だからこそ話せないことってあるよね。
僕は友達いないけど。
ああ、そういえばなのはとフェイトの対話だけど、どうやら上手くいかなかったみたいということがなのはの表情からうかがえた。
そのことについてフェイトに聞いてみたんだけど、フェイト曰く『特に問題ありませんでしたよ』とのこと。
問題ないなら放置でいいかな、ということで若干落ち込んでいたなのはへのフォローは特にしなかった。
閑話休題。
さて、現在の状況だが、さっき言ったように僕の対面には月村忍がいる。そしてその左隣にはすずかが、右隣には忍の彼氏である高町恭也が座っている。
さらにその背後にはメイドのノエルとファリンが控えている。
対して僕の左隣にはフェイトが座りながらも僕の腕に引っ付いている。
「ええ、できますよ。綺麗さっぱり跡形もなく。超人的な身体能力も吸血衝動も」
具体的な例を述べると月村姉妹は驚いて互いを見て、恭也は剣呑な目つきでこちらを睨む。
「なぜ君が彼女達の体質について知っている? すずかちゃんはそこまで詳しくは説明してないはずだ」
恭也の殺気に反応してフェイトが臨戦体制になったが、左手で頭を撫でて落ち着かせる。
「ふにゃ~」
うん、こうしていると猛獣を手なずけた気分になるな。
「簡単なことですよ。僕は奇跡遣い。対価さえ払えば基本的になんでもできます」
まあ、実際は原作知識によるものだから能力はあんまり関係ないんだけどね。
「……なるほどね。すずかから聞いたときは半信半疑、どころか9割方疑っていたのだけれど、すずかが体験したという不思議な空間のことも考えるとどうやら本当みたいね」
「なんならその不思議空間を作りましょうか?」
「いいえ、結構よ。それより気になるのはあなたの言う『対価』ね。もし私の、私たちのこの体質を治すのに、いったいどれだけの対価が必要なの?」
「それは程度によりますね。あなた達『夜の一族』全員とその子孫の全てというのなら莫大な対価になりますが、個人だけならばそんなに大きなものにはなりません」
「具体的にはどんな対価になるのかしら?」
「そうですね、一族全体ではあなたの存在全てで足りるかどうかというところですね。個人の場合は金銭でも支払い可能ですね。ざっと2億円くらいですか」
個人のものは、子孫には夜の一族の体質が受け継がれる場合の値段だ。
個人及びその子孫もだと金銭だけでは対価が足りないな。
「一族全体の場合の『私の存在全て』というのはどういう意味なの?」
「ああ、それはですね、過去・現在・未来におけるあなたの全てが僕の支配下になるということです。過去の軌跡も現在の存在も未来の可能性も全て僕の思いのままになるんです」
「それは……ぞっとする話ね。──分かったわ。現在連絡がとれる月村家の者と相談して結論を出そうと思うから、しばらく猶予をくれるかしら?」
「ええ、ただ最近ちょっと暇してて、そのうち別の世界に行くかもしれないんで結論は早めに出してくださいね」
「……ちょっと出かけるみたいに別の世界に行くなんて、対価は大丈夫なの? 聞いた分には能力者であるあなたでも例外なく対価を支払わなくてはならないようだけれども」
「まあ、対価に当てはあるので多分大丈夫ですよ」
当てというのはもちろん残っている魔力だが。
「では、結論が出ましたらここに電話してください」
そう言って僕はウチの電話番号を記した紙を忍に渡す。
「ええ、ありがとう」
「なに、お安い御用ですよ。対価さえ頂ければ願いを叶えるのが僕のスタンスですからね」
さて、そろそろお暇しますか。
「フェイトちゃん、帰るよー」
「はい」
「おかえりですか? 今車を出しますので少々お待ちください」
とノエルが言うが。
「いえいえ、僕の能力で瞬間移動できるので気になさらず」
「……本当になんでもできるのね。まるで魔法使いみたい」
「魔法はこの能力とは別に存在しますよ。ね、月村ちゃん」
「ふぇっ!?」
今まで会話に不参加だったすずかに話をふってみた。
「それ本当なの? すずか」
「えっと、うん。そこにいるフェイトちゃんとなのはちゃんが魔法使いらしいの」
一応僕もなんだけど茶々は入れないでおこう。
「なに? なのはが絡んでるのか?」
と恭也。
「えっと、ジュエルシードっていう青い宝石みたいなのを取り合ってたらしいです。そうですよね、坂井さん」
「まあ大筋は合ってるよ」
「何か隠し事があるのは分かっていたが、魔法か……予想外だな」
「そこら辺は高町家で話し合うのがいいと思いますよ。では僕たちはここらでお暇させていただきますね」
ということで、能力を使って家まで転移する。
「そういえば祐一さん」
「ん? 何かなフェイトちゃん」
「どうしてあの人達に魔法のことまで話したんですか?」
「んー、いろいろ理由はあるけど、一番の理由は面白そうだったからかな」
「そうですか」と、もうその事には興味はないようでフェイトは僕の腕に自分の腕を絡めることに集中した。
「ただいまー」
「おかえりー。今夜はスペシャルハンバーグやで!」