「祐一さん、今日は何が食べたい? 好きなもん作ったるで」
「祐一さん、今日はふたりで外食にしましょう。ついでに街も見て回りましょう、ふたりで」
こんにちは、坂井祐一です。
現在僕はソファーの上ではやてとフェイトに挟まれています。更にふたりとも僕の腕を掴んで体を密着させてくる。
いや、僕別にロリコンじゃないからそんなことされても特に嬉しくないんだけどな。
「フェイトちゃん、いい加減諦めたらどうや。祐一さんの胃袋は既に私が握ってるんやで」
「はやてこそ諦めたらどう? 私はこの間のご褒美にデートしてくれるって約束してるんだ。邪魔しないでくれる?」
確かにはやてのご飯は美味しい。最近ははやてのご飯じゃないと満足できないくらいになっている。だが、フェイトがなのはに勝ったご褒美になんでも聞いてあげると言ったのも事実である。
それがデートになるとは思ってもみなかったが。
「まあまあ、ふたりとも落ち着いて。そうだね、お昼はフェイトちゃんと一緒にどこかで食べてくるよ」
それを聞くと、はやてはしょぼんとして下を向いた。
いや、そんなに残念がらなくても。
「ああ、でも夕飯は八神ちゃんが作ってくれるご飯が食べたいな。どう? 作ってくれる?」
「も、もちろんや。びっくりするくらい美味しいもん用意するから楽しみにしててや」
これではやての機嫌は大丈夫だろう。と思ったところで反対側からぐいぐいと腕を引っ張られる。
「じゃあ行きましょう、祐一さん」
そう言ってフェイトは僕の腕を引っ張って坂井邸を出た。
──第16話──
というわけでフェイトとデートです。
「~♪」
僕の腕に自分の腕を絡めて若干歩きにくいくらい密着してくるフェイト。
プレシアに捨てられて僕のものになってからのフェイトは、一言でいうとべったりだ。
朝のおはようから夜のおやすみまで──時には寝てる時まで──可能な限り僕と一緒にいようとする。
そのことに何故かはやてが反発して、ウチはさっきのようなことが日常茶飯事になっている。そこにたまにリインが「私もかまってください」みたいな感じで混ざってくるからもうカオスだ。
「祐一さん。祐一さんは何が食べたいですか?」
そんなことを考えていると上機嫌なフェイトが話しかけてきた。
「そうだね、一度行ってみたかったお店があるからそこに行ってみようか」
「はいっ」
カランカラン、と店のドアに付いているベルを鳴らしながら僕とフェイトは目的のお店に入った。
「いらっしゃいませー」
メガネをかけた女性の店員さんが席に案内してくれる。
「えーと、サンドイッチセットひとつと、フェイトちゃんは何がいい?」
「私も祐一さんと同じものを」
「じゃあ、サンドイッチセットふたつでお願いします」
「はい。当店自慢のシュークリームはご一緒にいかがですか?」
「あー、じゃあそれもふたり分」
「ありがとうございます」
さて、勘のいい人は分かると思うけど、僕が来たかった店というのは『翠屋』のことだ。
さっきの店員はおそらく高町美由希だろう。
ここのシュークリームは絶品との噂だから一度食べてみたかったんだよね。ほんとは帰りにお土産として買って行こうと思ったんだけど、ここでひとつ食べるのもいいだろう。
「じゃあ、なのはが抱えていた問題は一応は解消されたってことね」
「うん、ちょっと不本意な終わり方だったけど」
「でもアリサちゃんとなのはちゃんが仲直りできてほんとに良かった」
ん?
後ろからなにやら聞き覚えのある声が聞こえてきた。
振り向いて見てみると、
「やあ、高町ちゃん。奇遇だね」
「え? し、師匠!? それにフェイトちゃん!?」
なのは、アリサ、すずかの仲良し三人娘がいた。
■■■■■■
「えっと、紹介するの。私の師匠、坂井祐一さんとフェイト・テスタロッサちゃん。師匠、フェイトちゃん、こっちは私の親友のアリサ・バニングスちゃんと月村すずかちゃんなの」
「どうもご紹介に預かりました坂井祐一だよ、よろしくね」
「フェイト・テスタロッサです」
「あたしはアリサ・バニングス……です」
「はじめまして、月村すずかです」
あのあと店員さんに頼んで全員が座れる席に移動して、まずは自己紹介ということで両方のことを知っているなのはを仲介しておこなった。
にしても、アリサはあからさまに警戒しているし、すずかは笑顔だが若干硬い。
まあ、自分の友達にこんな年上の怪しげな知り合いがいれば警戒もするよね。
「そう緊張しなくてもいいよ、バニングスちゃんに月村ちゃん。高町ちゃんとは、そうだね、同好の士といったところかな」
「それで『師匠』ですか」
とアリサ。
「そ、だから君たちが心配しているような怪しい関係じゃないよ」
「……一応信用します。なのはの知り合いなら大丈夫でしょ」
「あの、なのはちゃんとは何の同好の士なんですか?」
「ん? ああ、それは秘密。なぜならその方がカッコいいから」
「「キャプテンブラ○ー!?」」
君たちも知ってるのか。
何? 海鳴市では武装錬金が流行ってるの?
「ということで、武装錬金についての師匠だよ。ほら、これが自作した核鉄だよ。青いけどね」
そう言って僕はポケットからジュエルリーフを取り出して見せた。
「うわ、材質から装飾まで凝ってるんですね。なぜか青いけど」
「ほんと、よくできてますね。青いですけど」
「で、これが原材料の石さ」
ぶふぉー、となのはが勢いよく紅茶を吹き出した。
【な、なにさらっとジュエルシード出してるんですか! もし暴発したらどうするんですか!】
念話で文句を言ってくるユーノ。
というか居たのね、君。
【大丈夫大丈夫、ちゃんと封印処理はしてあるから】
「ど、どうしたのよなのは。急に吹き出したりして」
「なのはちゃん大丈夫?」
「だ、大丈夫なの。ちょっとむせちゃっただけ」
「まあ大丈夫ならいいけど。それで、坂井さんとの関係は分かったけどそっちの子とはどういう関係なの?」
「えっと……」
ちらっと僕の方を見てくるなのは。
【師匠、どこまで話せばいいですかね】
【んー、魔法以外のことなら喋っちゃってもいいんじゃない?】
とはいえ、魔法を絡めないでなのはとフェイトの関係を説明するのはなかなか難しい。前言撤回、面倒だからバラすか。
「イッツ、マジック」
パチンッ、と指を鳴らす。
すると辺りはモノクロの世界になり、店内にいた人は消えた。
「な、なによこれ」
「どうなっちゃってるの?」
驚いて席から立ち上がるアリサとすずか。
「まあまあ、落ち着いてふたりとも。これから僕たちが本当はどういう関係なのかを説明するよ」
僕は紅茶を一口飲んだ。
■■■■■■
「つまりあんた達は魔法使いでこのジュエルシードってのを巡って争ってたってことね」
「まあ、概ねそんな感じだね。で、最終的にフェイトちゃんが勝利してジュエルシードを総取りしたのさ。そしてその中のひとつがこれ」
「今まで黙っててごめんなさい。魔法関係は一般人に話しちゃいけないの」
「ボクもごめん。ボクがジュエルシードをばらまいちゃったせいでふたりが仲違いしちゃって」
すまなそうにしているなのはとユーノ。
「ああ、もういいから! そんな風にしない! この話はもう終わったんだから! ね、すずか」
「うん、なのはちゃんもユーノ君ももう気にしないで」
うんうん、仲がいいのは良いことだ。
この友情がぶっ壊れるのも見てみたいと思うけどね。
「さて、話も終わったことだし、僕らは帰るよ」
「え、もう帰っちゃうんですか? 師匠」
「うん。それともなにか話したいことでもあったかい?」
「えっと、師匠にじゃなくてフェイトちゃんに……」
「……──え? 私?」
今まで会話に参加せずにずっと僕の腕に絡まっていたフェイトは、きょとんとした顔をした。
「うん。それでできればふたりきりで話がしたいんですけど、できますか? 師匠」
「お安いご用だよ高町ちゃん」
能力を使ってふたりを隔離した。
「き、消えちゃった」
「う、うん」
残ったアリサとすずかは、いきなり消えたなのはとフェイトにびっくりしている。
「あの、これも坂井さんの魔法なんですか?」
おずおずとすずかが質問をしてきた。
「ああ、これは魔法じゃなくて僕固有の能力、レアスキルと呼ばれるものさ」
「えっと、空間を隔離する能力なんですか?」
確かに今のを見ただけじゃそういう風に見えるね。
「いやいや、僕の能力はそんな限定的なものじゃないよ。僕の能力はね、『対価を払えば願いを叶えることができる能力』さ」
「対価、ですか」
「それって、対価を払えば何でもできるの?」
「そうだよ。不治の病も大きな怪我も特異な体質も何でも治せるよ」
などと伏線を張ってみる。
「特異な、体質……」
それを聞いて俯くすずか。
「へぇー、すごい便利なのね」
「そうとも限らないよ、バニングスちゃん。大きな願いを叶えるにはそれ相応の対価が必要だからね」
「あ、あの!」
「ん? 何だい、月村ちゃん」
「この後、お時間ありますか?」