第1話
「………飽きたな」
──第1話──
とあるマンションの一室。
見るからに高級そうなソファの上に、少年が気怠げな様子で横たわっている。
広々とした部屋には、しかしその少年以外の人間はおらず、それどころかソファ以外の家具は一切ない。
「………とかなんとか三人称でモノローグってるけど、この部屋は暇だったからなんとなく作ってみただけなんだよね。お金なんていくらでもあるし。まあ僕のお金じゃないんだけどね。まったく、僕の『能力』は便利極まりないけど、その性質上なにごとも上手く行き過ぎるというのが欠点といえば欠点だね。この世に神なんてものが存在するとしたら、何を考えて僕にこんな『能力』を与えたのかぜひ聞いてみたいよ。『対価を払えば願いを叶えることができる能力』なんてどこの侑子さんだよ。キセルなんて使わねえぞ。しかもあれより規制が緩くて、僕自身の願いも叶えられるうえにその場合の対価は僕の気力やら体力やらで払えて尚且つある程度選択できるとか便利すぎだろ」
とかなんとか独り言。
一人暮らしだと独り言の声が大きくなるんだよね。気にする人がいないから。
閑話休題。
「しかしこの生活………というかこの世界に飽きたな。いろいろな手段で様々なルートで多種多様な人物を使って調べたけど、どうやらこの世界には僕みたいに何かしらの『能力』をもっている人間はいないみたいだ。よくテレビでやってる超能力者はごく一部を除いて偽物だったし、本物も異質な能力というより人間にもともと備わっている能力を引き伸ばしたような、まさしく文字通りの『超』能力だったし。あーあ、僕ひとりぼっち。寂しくて死んじゃう! まあそれは気が向いた時にしよう。えーとなんの話だったっけ? そうそう、この世界にもう飽き飽きというはなしだったな。うん、なんかもうどーでもよくね? ここに来るのなんて郵便屋さん以外は政治家のおっさんくらいだし。というか思いつく知り合いのほとんどがおっさんとか鬱だわー。しかも名前なんて覚えてないし。まあ、この生活もお金持ちの政治家さんたちが対価で払ったお金だから、いないと困るんだけどね。………はあ、また話が逸れたな。つまり、この世界にさよならしてもっと楽しそうなとこに行っちゃおう、ということだ。だがしかし、いくら僕の『能力』でも人ひとりの体力やらを対価にして異世界に行くなんてファンタジー溢れることはできない。それでもどうにかできないかと、頭の片隅で片手間に考えて一週間、ついに妙案が浮かんだのだ。そのために僕以外の能力者がいないかを調べたのさ。それだけが足りない前提条件だったからね。この考えが正しければ、『僕としては』小さな対価で世界を渡れる。失敗したとしても代わりに僕の存在が消滅するくらいだから、まあ大した賭けじゃない」
ふう、一息。
「考えてみたらなんてことはない、簡単なことさ。僕以外にこんな能力をもつ者がいなくて、しかも僕自身はほとんど対価なしで自由に物事を操作できる。それはまるで、
この世界が僕のための箱庭みたいじゃないか?
そうだとするなら、この世界は僕のもの。僕の『能力』は僕自身の『何か』を対価とする。ならば、この世界を対価に異世界に渡ることができるのでは? と考えたわけ」
んじゃまあ、そんな感じで行ってみよう。
その日、ひとつの世界が終わりを迎えた。