IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

6 / 52
護の信念

ね、眠い

 

眠気に瞼が重くなるIS学園編入にし初めての朝。

上瞼と下瞼の交際を必死に妨害しつつ、俺は食堂へと足を運んでいた。

朝飯を食わないという選択肢はあり得ないのだが、今日ばかりは飯すら食わずに数分でいいから寝ていたい気分だ。

しかし頭が栄養を欲している以上、食わないわけにも行かないので三大欲求の食欲を優先する。

 

頭と体を朝からフル回転~

 

脳内でくだらない歌を考えつつ、俺は本日の朝飯、ニラレバ炒め定食大盛りを受け取る。

若干ふらつきながらテーブルへとついて、手を合わせて食物と食堂のおばちゃんに感謝しつつ俺はゆっくりとご飯を咀嚼し飲み込んでいく。

 

昨日も思ったけど、ここの飯うますぎないか?

 

海原○山もうなること請け合いの味だろう。

この米の輝き具合から竈で炊いているに違いない。

 

「お~い、護」

 

そうして船を漕ぎながら食事をしていたら後ろから声を掛けられた。

声からして誰かわかっていた俺は、振り返りながら返事をする。

 

「……おはよう、一夏」

 

だがしかし頭が回らない俺は、覇気のない声しか返せなかった。

 

「ど、どうした? なんか死にそうだけど」

「気にするな。慣れない環境で寝れなかっただけだ」

 

心配してくれる一夏に手を挙げて反応しつつ、隣の席に座った一夏と一緒に朝食を食べ始めた。

 

 

 

なんか辛そうだけど大丈夫か?

 

朝起きたら既に護が出た後だったので、普段よりも早かったのだけれど、急いで着替えて食堂に来たんだけど……。

 

な、なんか眠そうだな

 

俺が寝た後も何か作業を行っていたみたいだけど、何をしていたんだか。

 

「織斑君おはよ! 隣いいかな?」

「お、おはよー。いいぜ空いてるし」

 

隣の席に食事を乗せたトレイを持ったクラスメイトの……やばい名前忘れた。

 

「一人なんて珍しいね? いつも一緒にいる専用機のみんなはどうしたの?」

「え? いや最初は待とうと思っていたんだけど、護が先に行ってたから俺も追いかけてきたんだ」

 

俺の隣に護がいるにもかかわらず、まるで護がいないかのように話しかけてくる。

 

なんか妙な雰囲気だな

 

俺は何となくだがこのテーブルに漂う微妙な空気を感じ取っていた。

みんなが散々俺のことを鈍いだの鈍感だの言うけど、別に普通だと思うけどな?

 

「なぁ護? 昨日聞けなかったんだけど護って何で自衛隊にいたんだ? 護の歳だったら大学にだって行けただろ?」

 

不穏な空気を変えるために、俺は昨日聞きそびれていた事を聞いてみた。

 

「うん? 俺が自衛隊にいた理由?」

 

すると眠そうにしつつも、護が反応した。

よほど眠いのか眼が半開きになっている気がしないでもないのは気のせいではないだろう。

 

「大した理由じゃないよ。俺はただ誰かを守れたらいいなと思って、入隊しただけだよ」

 

大した理由じゃないといいつつも、その顔には万感の思いがにじみ出ていた。

きっと護にとって大切な思いなんだと思った。

 

だけど……

 

「ぷ、何それ」

「守るって言ったってISもろくに動かせないのに?」

「そもそもIS動かせなかったのに自衛隊いったって意味無くない?」

「今の世の中女性の方が強いんだよ? 男の人が強かったのなんて十年前以上の話だよ?」

 

その護の台詞に周りの女子は大笑いしだした。

確かにISは女性にしか動かせないために女尊男碑という構図ができあがってしまったけど……。

それにしたって人の思いを踏みにじっていい理由にはならない。

そうして笑われているにも関わらず、護は何も言い返さない。

それどころかそれがもう普通だと思っているのか、悔しそうにすらしていなかった。

 

自分の思いが踏みにじられたのにそんなのでいいのかよ!

 

「みんな笑う事……」

 

 

「何がおかしい!!!」

 

 

俺が叫ぼうとしたその数瞬前に、食堂全てを振るわすような怒声が鳴り響いた。

誰もが驚いて声のした方へと顔を向けると、そこには腕を組んで仁王立ちしている、千冬姉の姿がそこにあった。

 

「門国の守りたいというその思いの何がおかしいんだ?」

 

周りを、見渡しながら千冬姉が声を張り上げる。

その顔には今まで授業などで、見せたことのない本当に怒っている表情が刻まれていた。

肉親である俺でさえ普段見せないその怒りの表情に恐怖を覚えてしまう。

 

「おい、沢村」

「は、はい」

 

千冬姉が本気で切れたのは、この学校でも初めてなのか誰もが固唾をのんでいて、そして俺の隣に座った、沢村さんが……そうそう、沢村さんだった……が千冬姉に呼ばれて恐怖していた。

 

「確かにISは事実上、女にしか使えない代物だが……その整備や開発は誰が行っているんだ?」

「え、そ、それは整備する人や……開発者の人が……」

 

さすがに千冬姉が本気で怒っている事に気づいているのか、沢村さんも随分と緊張および恐怖を覚えている。

かくいう俺も、ここまで怒った千冬姉を見るのは久しぶりだった。

 

「そうだ。ISの整備や開発はそれに特化した人間が行う。それの内に男がいないとでも?」

「そ、それは……」

「そして自衛隊で仕事をしているのはISを操縦する操縦者だけじゃない。他にも航空機、戦車、歩兵などの仕事もある」

「は……はぃ」

 

うわ、千冬姉に睨まれすぎて沢村さん痙攣を起こしそうになってるよ……

 

「それら全てをIS操縦者がやるというのか?」

「そ、そんなことは……」

 

「貴様ら小娘は勘違いしているようだから私から一言言っておいてやろう」

 

いったん沢村さんから視線を外し、千冬姉は食堂をいったん全て見渡す。

そして息を吸い込んで間を開けると、こう言い放った。

 

 

 

「確かにISは女にしか使えず、その女の中でも適正のない者ある者がいる。貴様らは適正が高い、ないし適正のあった者達ばかりだ」

 

 

 

そう、ISの適正低い場合女の人でも動かせない人は普通にいる。

この学園は適正のある者、もしくは適正値が高い人しかいないから女の人全てが使えるような錯覚に陥ってしまうけれども……。

 

 

 

「ISを使える事は確かに特別ではある。だが、特別なだけであって、お前らが選ばれた人間であるという事は決してない」

 

 

 

「「「「「……」」」」」

 

 

 

「訓練課程の卵から孵ってもいない貴様らが人の思いを侮蔑し、否定する権利はどこにもない! ましてやこいつは自衛隊で海外に出て仕事をしていたのだ。いまだ戦場に出た事もない貴様らが笑うなど、愚の骨頂だぞ。以後慎め」

 

 

 

再度回りを見渡して、千冬姉は食堂に集まった生徒達を睨みつけた。

当然異を唱える人間は誰もいなかった。

 

「門国」

「はっ」

「話がある。食事が済み次第、職員室にこい」

「了解いたしました」

 

そう言い放つと、千冬姉はさっさと食堂を出て行こうとする。

その背中はとても凛々しくて、しゃんとしていて……本当にかっこよかった。

 

「あぁ、それと」

 

そうして食堂を一歩出る手前で千冬姉は足を止めて振り返り、食堂の上の方にある時計を指さし……ってげっ!?

 

「いつまでのんびり食べているんだ? もうすぐHRが始まるぞ?」

「「「「「「えっ!?」」」」」」

 

そう、千冬姉の言うとおり、時計はすでにHR開始十分前を指していた。

 

「や、やっべ!!」

「んじゃ一夏。俺ちょっと織斑先生の所行ってくるな」

 

そう言って俺の隣の席に座っていた護が席を立つ。

 

うぉい!? あの状況下でも食事を続けていたのかよ!?

 

「や、やばいよ急がないと!?」

「千冬様に殺される!?」

「でも……かっこよかったね」

「……叱られて欲しいな」

「……あんたそれ絶対に危ない方の意味で言ってるでしょ?」

 

回りの女子達も忙しなく食事を再開し始める。

 

って俺も解説してる場合じゃない!

 

俺は朝食の鮭定食を大急ぎで掻き込み始めた。

 

 

 

「お前は相変わらずだな門国」

「はっ。申し訳ありません」

「謝る必要はないが……もう少し自分の実力を信じたらどうなんだ? ……まぁいい。説教のために呼び出した訳じゃない」

 

職員室に向かった俺はその途中で教官に拉致されて、教職員以外使用不可能なエレベーターへと乗っていた。

そして鍵を使って階層ボタンの下の、普段は隠されている中に手を突っ込み何かしら操作をしだすと、上の表示板には記載されていない地下へと下り始めた。

 

「わかっているとは思うが、ここの事は他言無用だぞ?」

「もちろんであります。教官」

「織斑先生と呼べ」

「申し訳ありません」

 

半ば恒例となってしまったやりとりだが、今回は出席簿アタックが飛んでこなかった。

得物を持っていないという理由もあるだろうが、今は教官の雰囲気が柔らかくなっていた。

きっと仕事の時とは違う精神に……家族を気遣う姉としての織斑千冬になったのだろう。

 

「ここだ。物に勝手に触るなよ」

 

ドアが開き、外へと踏み出すとそこは薄暗い空間で、部屋の中央部に何か……ちょうどISを横たえさせる事の出来る大きさのベッドがあった。

しかしその上には何も乗っておらず、教官もそこが目的ではないのか、そのすぐそばにあるコンソールへと向かい、キーをたたき出した。

 

ブゥン

 

「……これは?」

 

空中の立体投影ディスプレイに映し出されたのは、巨大な腕を持つ、謎のISだ。

普通では考えられないような巨体で、全身にスラスターを装備し、頭部には剥き出しのセンサーレンズ、極めつけが巨大な腕に装備された何かしらの砲口が四門搭載されていた。

 

「これは五月中頃に行われたクラス対抗戦に乱入してきた謎のISだ。全身を装甲で固めており、無人機。そして何よりの特徴は未登録のコアを使用されていた事だ」

 

映し出された漆黒のISについて、教官が口頭説明をしてくれるが、俺はその台詞に思わず眉をひそめてしまった。

 

「未登録のコアに無人機? 教官、ISは人間が装着しなければ動かないはずですが……」

「その通りだ。その気怠げな態度はやはりそう言う事か?」

「い、いえ……なんのことだか」

「ふん。まぁいい。熱心なのもいいが、倒れるなよ」

 

み、みぬかれとる……本当にこの人、人間か?

 

俺が今日どうしてものすごく眠いのかというと簡単だ。

寝ていないからだ。

整備の方の知識はあるがいかんせん操縦者としての知能が皆無といっていいほどないのだ。

二ヶ月ほどたっているためにだいぶ差が開いてしまっているがそんなことは関係がない。

その差をどうにかして埋めなければ俺がここに来た意味がない。

誰かを守るという俺の信念を執行することは出来ないが、それでも任務として、仕事としてきている以上遊んでいるわけにもいかない。

だから俺は一睡もせずに基本的知識以外にも、操縦者として必要な方の知識も頭に叩き込んだのだ。

 

洞察力ありすぎです……

 

俺が教官の相変わらずの恐ろしさを確認している間も、教官の説明は続く。

 

「そして乱入してきた試合は……織斑一夏と凰鈴音の試合だ」

「……データ収集でしょうか?」

「おそらくな」

 

一夏の試合に乱入してきた謎の無人機。

ある意味での治外法権区ともいえるこのIS学園にこんな事をしてくるのだから目的がないわけがない。

そして世界でも珍しい男のIS操縦者の試合へ乱入。

子供が考えても目的がなんなのかわかる。

 

「この時は無人機故の応用力のなさ、そして二人の連携でかろうじて事なきを得たが……代表候補生とはいえまだ実戦を知らない小娘どもがそう何度も無事に切り抜けているとは思えない」

「はっ」

 

今言っている教官の言葉に嘘はないのだろうが、本音が別にある事など考えるまでもなかった。

 

「私は教師だ。特定の生徒にそこまで肩入れするわけにはいかん。貴様はある意味で特別だがな。光栄に思え」

「恐縮であります、教官」

 

どうやら特別扱いしていること自体は自覚があったようだ。

まぁ教官も上からの命令で行っているのだろうが。

 

「そこで入学してきたのが貴様だ」

「……つまり友人としての立場を利用し、一夏君の護衛を行えと?」

「……そうだ」

 

お、肯定した

 

てっきり否定してくると思ったのだが、さすがにこの状況下では素直に家族の事を心配している姉の織斑教官だった。

 

「ご安心ください織斑教官。私の上からも同様の指示が出されておりますので」

「まぁそうだろうな」

 

世界でも超稀少価値あふれる男の操縦者。

もしもそれを独占できるのならば……そう考える輩は絶対にいるだろう。

そのためならばISの一機や二機、失っても目的の品が手に入ればおつりがでるのだ。

しかしそのISその物も貴重な代物だ。

そんな物を使い捨て覚悟で使用するという事は、相手はそれなりの規模を誇る裏組織になる。

いくらIS操縦者を育てている学園と行ってもまだ学生達だ。

もちろん教師陣は腕利きの操縦者ばかりだが、当然その教師陣も女性。

生徒とはいえ、体はすでに大人になりつつある男の事を四六時中見張っているわけにも行かないだろう。

ましてや教師が一日中張り付くと、いろいろと問題になりかねない。

ならば年上とはいえ生徒という肩書きを持つ俺が、友人として一夏のそばにいればそれだけで護衛の役割を果たす事が出来るのだ。

国からそんな命令を受けていたのだ。

 

まぁ無論、そのために一夏と友達になったわけじゃないけど

 

世界中で二人だけの男のIS操縦者。

仮に任務などがなくても、反りさえ合えば友人になるのは必然だろう。

何せ全校生徒が自分たち以外女の子なのだから……。

それにそんなのを抜きにしても一夏は好感の持てる男だった。

 

まぁあのモテ具合は腹が立つけど

 

これはまぁ……いろいろとしょうがない感情だろう。

 

「なかなかに不出来な弟なんだが……まぁあんなのでも私の唯一の家族だからな。よろしく頼む」

 

恥ずかしいからか、普段ならば『目を見て話せ』としかるはずの教官が、珍しく人の顔も見ずに話を続けて締めくくった。

そんな素直じゃない教官に苦笑しつつ、俺は自衛隊式に敬礼を行った。

 

「お任せください、教官!」

 

 




人を護るということ・・・・・・

時と場合にもよるかもしれない

だがそれは護るべき対象を自己よりも優先するというある種歪んだ行為で・・・・・・



それを目指す……目指し続けている護という青年は……





どこかいびつだった……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。