IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

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エピローグ

個人的傑作の一つになった!

時間を掛けて良かったぜ!

 

 

 

 

 

 

 

門国さん……どうなっちゃったのかなぁ……

 

すでに新年度の新学期。

今日からまた新しい生徒達を迎えて一年を過ごしていくことになる。

あの日……門国さんが特攻してしまって以来、本当に平和に時間が過ぎていった。

出来ればこの数ヶ月の平和な時間を、門国さんにも体験させてあげたかった。

 

門国護さん

 

自爆特攻によって敵に捕獲された門国さんが織斑君の家に郵送されて、IS学園へと運ばれた。

その時だけだった。

それからすぐに国際IS委員会に連行されてしまって、私は少ししか言葉を交わせなかった。

門国さんの処遇を決める試合の事は、織斑先生を通して知った。

そのあまりにも一方的な条件に一瞬だけ怒りそうになったけど、織斑先生の言葉ですぐに我に返った。

 

「あいつが負けるはずがない。己自身で「克つ」と言っていた、あいつがな」

 

克つ。

その言葉に、どれだけの言葉が込められていたのかはわからないけど……門国さんの口からそんな言葉がでたのを驚くのと同時に……嬉しかった。

そして試合にも勝ったって聞いてほっとしてたのだけれど。

 

それから音沙汰がない……

 

何度かメールのやりとりはしたけど、完全に事務連絡でそれも最近は途絶えてしまった。

試合の勝利の結果、どうなったのかもわからないし、織斑先生に聞いてみても。

 

「まぁ死ぬほど大変だろうな。あいつにとっては……」

 

としか返してくれないし。

 

……少しは、気にしてくれていると思ってたんだけどな

 

別段下心……ないと言えば嘘になるかも知れないけど……だけであのとき、私は門国さんのそばにいた訳じゃない。

ただあの人が放っておけなかったから。

それであの人も私を頼ってくれて。

だから……少しは気にしてくれてると思ったのに……

 

「……失恋……しちゃったのかなぁ」

 

ぼそりと……職員室へと行きながら私はそうつぶやいていた。

初恋といなくもないのかも知れない。

ISの適性が認められてからはほとんど同性としか触れてこなかった。

周りに同性愛の人もいたけど、私はそんな気はない。

 

……織斑先生のことはかっこいいと思ってるけど、それは憧れだし

 

あんなにも強いのに……それはまるで幼く震えている子供が、必死になって自分を護っているみたいな人だった。

成人しているから生徒……織斑君……よりも年が近い。

何よりもその強さに憧れて。

私を護ってくれた優しさが嬉しくて。

女性を怖がるその弱さが愛おしくて……。

だから私は好きになってしまった。

 

なのに……

 

「あ~あ。残念」

 

その言葉では割り切れないほどだったけど……でもしょうがない。

それに何となくわかっていたから。

以前からそう思っていて……やっと吹っ切れた気がした。

 

ちょうど新年度だし……頑張らなきゃ!

 

新年度は忙しい。

新入生を迎えて学年も繰り上がって、クラス替えもあって……。

だからしょんぼりしている時間はないんだ。

 

だから……頑張る!

 

空元気に近かったけど、それでも私は何とか思いを振り切って職員室の扉を開けた。

 

「おはようございます!」

「お、山田先生。ちょうどいいところに」

 

職員室にはいるとすぐに織斑先生がいた。

 

それだけならいいんだけどちょうどいいところ?

 

「新任の先生を迎えに行くところなんだ。来てくれ」

「新任の先生? もう来られたんですか?」

 

以前に職員会議で新任の先生が来ると言っていた。

確か……整備課の。

 

「学園長室で今理事長に挨拶している。その後体育館であいさつもあるから悠長にしてられん。急ごう」

「ま、待ってください」

 

言われた時間よりも早く来たにもかかわらずばたばたとしてしまう。

新任の先生がどんな人になるのかわからないけど、私の後輩になるのだ。

どんな人が来るのか楽しみにしていたのと同時に不安だった。

 

私、きちんと先輩が出来るかな……

 

まだほとんど織斑先生に頼りっぱなしで……ミスだって多い。

そんな甘えている場合じゃないけど……それでも私は不安だった。

それが顔に出てのたのか、織斑先生が苦笑しながらこう言った。

 

「そう気負うな。大丈夫だ」

「でも……」

「まぁ他の意味で心配ではあるがな」

 

え?

 

その言葉に一体どんな意味が会ったのか、それを聞く前に、理事長室へと着いてしまった。

 

「理事長。よろしいですか?」

「どうぞ」

 

私が言葉を発する前に、織斑先生がノックして理事長室の扉を開けた。

その先にいたのは……

 

「え……えぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」

 

 

 

 

 

 

今日から新学期か……

 

体育館へと向かう道すがら、俺はこのIS学園へと訪れてから一年が経過していたことがすごく感慨深かった。

 

……よく生きてたな、俺

 

99.9999%は女子生徒しかいないこのIS学園で、俺は一年を過ごしたのだ。

箒と再会して無視されて、セシリアと鈴と、対戦して、シャルとは同室になって、ラウラには出会い頭に平手打ちを喰らった。

更識先輩には振り回されてばかりだったし、その関係で簪と知り合って、でも最初は受け入れてもらえなくて……。

 

こうして振り返ってみると、ここで出会った人とは最初はいろいろあったんだな

 

箒と鈴とは、最初少しぎこちなかったけどすぐに以前と同じように話せるようになった。

セシリアとラウラは、激突したけど今では大切な仲間だ。

更識先輩と簪だってそうだし……。

シャルだって最初は男だって変装して来たけど、それでも今では正体も明かして幸せそうにしている。

 

でも最初は男装して……俺と同室だったんだよな……

 

同室。

その言葉で今はいなくなってしまった、もう一人の……男性の友人を思った。

 

……護。お前は今どこで何をしているんだ?

 

年上だけど、それでも俺と親しくしてくれた大事な友人。

格闘技がすごく強くて、千冬姉すらも勝つことの出来ないほどの腕を有していた。

でもその強さは……命の大切さを知っているからであって。

 

……もっといろんな話をしたかったな

 

それが残念だった。

友人としても、そして自衛隊として海外にも派兵された本物の実戦を知っている……そんな人にもっと話をしておくべきだった。

何度か千冬姉に聞いたけど、教えてくれなかった。

知っている風だったのに……。

連絡を取ろうとしても連絡先は変わってしまったみたいで連絡がつかなかった。

 

「何をしているのだ一夏。早く行かなければ遅れてしまうぞ」

 

俺が一人だけ廊下で空を見ていると、箒がそう声を掛けてくれる。

先に行ったと思っていたけど、俺が来ないのに気づいて戻ってきたらしい。

 

「そうだな。行こう」

 

俺が何を思っていたのか、何となくわかっているのか箒は何も言わずにただ二人で体育館へと足を運んだ。

 

「遅いですわよ一夏さん」

「あんまりのんびりしている時間はないよ」

「そうだぞ一夏。のんびりしている教官にしかられてしまうぞ」

「あんたは前からのんびりしすぎなのよ。少しはしゃきっとしなさいしゃきっと!」

 

何を思っているのか、みんなわかっているのかも知れない。

でもそれを聞いてこないみんなの優しさが嬉しかった。

新年度に変わったことでクラス替えも行った。

その際に親しい人間は全員が同じクラスになれたのは嬉しかった。

この場にはいないけども簪とも一緒のクラスになった。

担任は替わらず千冬姉だ。

 

でも新年度のクラス替えは大変だったって俺に言っていたけど……どうして俺に言うんだろうな?

 

「そうだぞ~」

 

ペシ

 

そうして俺が不思議に思っていると、そんな声と共に頭を何か軽い物で打たれた。

いつの間にか誰か背後に近寄っていたらしい。

そしてこんな事をする人は俺の知り合いに一人しかいなくて。

 

「あんまりぼけ~っとしてるんじゃないよ。新年度早々」

「更識先輩……」

 

案の定というべきか、そこには今思いをはせていた友人、門国護と親しい更識先輩だった。

生徒会長にして俺のことを指導してくれている人でもある。

 

「生徒会長がこんなところで油売ってていいんですか?」

「暇ではないけど、まぁ大事な後輩を見に来ただけだよ?」

「大事って……」

 

相も変わらずからから笑いながら、そんな冗談を言ってくる更識先輩に苦笑する。

この人なら護のことを知っているだろうと思った。

だけどそれを何度聞こうとしても、はぐらかされてしまった。

 

「きっとすぐにあえるわよ」

 

そう言って。

それが一体何を意味するのか、それを予想しつつもそれを護が選択するとは思えなくて。

 

「それよりも本当に急いだ方がいいわよ」

 

そう言って更識先輩は先に行ってしまう。

しかし時計を見てみるともうすでに新年度の開会式前だった。

 

「うわ、本当にまずい!」

「急ごう!」

 

ばたばたと、あわただしくみんなで体育館へと向かっていく。

一人欠けてしまったのが……すごく残念だったけど、それでも俺に取って大切な仲間達と共に今年も頑張っていこうって、そう思った。

 

んだけど……

 

 

 

「それでは新任の先生の挨拶です」

 

 

 

そんなのは、一瞬で吹き飛んだって言うか……

 

 

 

驚いた……。

それはもういろんな意味で……。

 

 

 

壇上へと上っていくその人の姿は見慣れないというか……服装が変わっているから少し違和感を感じるのであって……。

その人物は、俺のよく知る人間だった……。

 

 

 

 

 

 

「えっと、その……一年生の皆さん、初めまして。そして二年、三年生の方々はお久しぶりです。門国護です」

 

 

 

 

 

 

護!?

 

 

 

壇上に立つのは、俺の同室の友人だった護だったんだ。

 

 

 

「本年度より、整備課の実技教師兼体育教師として赴任しました。といってもまだ教育実習生としてですが……。いろいろとご迷惑を掛けるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

……とりあえず最初の関門は突破したな

 

式が終わり、俺は職員室へと移動しながら内心で安堵の息を吐いていた。

あの一件より多少は女性に対して恐怖を感じなくなった俺だったが、それでもまだ恐怖そのものが消えたわけではない。

だからこそ全生徒が注目しても不思議ではない新任の挨拶というのはひどく緊張したのだが、なんとか無事に終えてほっとしていた。

 

だが……まだ肝心な儀式が残っていた。

 

 

 

というよりも……こっちの方が俺にとっては大事だな

 

 

 

例えるならば……両手両足を縛れられ目隠しをされた状態で、教官と格闘試合をするような状況だろうか?

もっというのならば守鉄なしでISと戦うと言ってもいいかもしれない。

 

さて、やめるという選択肢はあり得ないが……しかし……

 

「護!?」

 

そうして俺がこの後の事を考えていると、後ろからそんな声が掛けられた。

その声で相手が誰かなどわかりきっていたが、俺は背後を振り返ってその顔を見て、ひどく嬉しかった。

だが……

 

「一夏。気持ちはわからんでもないが教師となってしまったので、一応先生と呼んでくれないか?」

 

偉そうに聞こえるかも知れないが、それでも他の生徒……特に一年生……の手前そう言うわけにも行かなかった。

そのためなるべく親しみを込めながら、笑みを浮かべてそう言った。

 

「あ、す、すま……すいません、門国先生」

「こっちこそすまない。まぁプライベートの時とかは以前と同じ感じで接してくれると俺としても嬉しい」

 

背後に一夏ハーレム軍団を従えて……本人はそんなつもりはないだろうが……息も絶え絶えにこちらへと来ていた。

 

簪ちゃんはいないんだな……

 

まだ来たばかりで詳しくは聞いていないが、ナデシコポニー、まな板娘、金髪ロング娘、金髪委ボーイッシュ、銀髪ちびっ娘が勢揃いだったが、簪ちゃんの姿が見あたらなかった。

どういう意図かは謎だが、簪ちゃんも含めた全員が、教官のクラスになったと名簿には書かれていたのだが、果たして?

 

「まも……門国先生。教師って一体」

「そのまんまの意味だよ一夏。整備課の教師としてこちらに赴任させてもらったのさ」

「させてもらった?」

「いろいろと面倒ごとになってな」

 

整備課として赴任した理由の大半は……守鉄にあった。

試合にて勝利したがために自由の身となったがかといってそれで完全に解放されるわけがない。

第四世代のデータは世界中の誰もがほしがっているのだ。

一夏と篠ノ之箒さんの第四世代の装備も閲覧することは可能なので、更に別パターンの装備のデータも欲しいのだ。

特に守鉄護式は、篠ノ之博士が設計してきた装備とはあまりにも性格が違ったのでそう言った意味でも注目されているのだ。

どうして守鉄護式の装備がここまで性能が違うのは俺にもわかっていないが……遊び心なども入っているのかも知れない。

そして公然とデータを公表し、かつ平等にするためにはIS学園の教師になるしかなかったのだ。

更に言えば整備課の教師としても期待されているらしい。

専用機は苦手なのでそこら辺を把握する必要があるが、絶対数が少ない中で更に数が少ない専用機の整備よりも、一般機の量産型の方が整備する機会は多い。

特にそれが軍隊などに勤めた場合はなおさらだ。

故に以前よりも俺がIS学園に赴任するのが現地味を帯びたので……俺はこうしてここにいた。

しかしこれは俺を守る意味もあったが、それは言わないでおいた。

 

まだ知らなくていいことは知らない方がいい……

 

俺を守るという意味以外を説明した。

それを聞いて、一夏他五名が納得の表情をしていた。

 

「でもよく来ましたね? 女性があれほど苦手だったのに」

 

しかしそれでも納得しきれないところがあるのか、金髪ボーイッシュのシャルロットさんがそう言ってきた。

それは誰もが思っているのか、皆が納得したようにうなずいて俺へと視線を投じてくる。

 

……確かにな

 

その言葉に、俺はすぐには回答できなかった。

というよりも、俺自身よく来たなと思っているのだ。

いくら少しは回復したとはいえ、俺にとってまだ女性というのは恐怖の対象だ。

では何故、ほとんど女性のみで構成されているIS学園に俺が教師として戻ってきたのか?

 

それは……俺にとって大切な存在にあった。

 

 

 

「……伝えたいことがあったから、ですね」

「伝えたいこと?」

 

俺のそんな言葉も聞き逃さずにそう聞き返してくるが、そのときちょうどチャイムが鳴った。

それは俺にとっては開戦の狼煙であり……

 

一夏達にとっては閻魔大王の宣告に等しい物だった。

 

「って時間!?」

「一応HRがあるはずだが……大丈夫なのか? 俺はこの後山田先生に学園の教師が関係する場所を案内してもらう予定なんだけど……」

 

ある程度の場所は把握しているが、それはあくまでも学生の行ける場所のみ。

これから生徒はいけないような秘密区画などを、案内してもらう予定なのだ。

慣れた人間が案内を行った方がいいだろうと言うことで教官……織斑先生が気を利かせてくれて案内役は山田先生へとなったらしい。

何を考えているのかはわからないが、それでもこの申し出はありがたかった。

 

全く何を考えているのだろうな……

 

こうしてIS学園に赴任することも、口止めされていたくらいなのだ。

それがどういった意図なのかは謎だったが、恩義もある故に従ったのだ。

俺としては心配してくれて……俺のことを想っていただいた山田先生に黙っているのはひどく心苦しかったが……。

 

「本当にまずい! ま……門国先生! 失礼します!」

「廊下は走らないようにな。危ないから。まぁもっと危ない目に遭うから急いだ方がいいな」

 

暗に走ってもいいと言ったのだが……それに気づいたのか気づかないのか、一夏達はばたばたと、来たときと同じように急いでクラスへと向かっていった。

教官の地獄の折檻は果たしてどんな物やら……。

 

……人の心配ばかりもしてられんな

 

この後は俺に取って激戦になる。

少しはまともになったとはいえ、果たして俺に出来るかどうかは謎だが……。

それでもしないわけには行かないのだ。

故に、俺は気合いを入れるためにネクタイの位置を調整して少し絞めた。

 

……さて、往こう

 

 

 

 

 

 

ど……どうしよう

 

待ち合わせ場所……というか案内する最初の場所にいながら、私は今にも逃げ出したい気分だった。

というよりも何度も逃げ出しそうになっていた。

何度も腕時計を見てはそわそわしていた。

 

……ど、どんな顔で会えばいいのかな?

 

こんな事になるなんて思ってなかったら普段通りの恰好で来てしまった。

門国さんがそんなことを気にするとは思えないけどそれでも気になってしまう。

 

織斑先生……わかってたのならどうして

 

いや、だいたいわかってる。

きっと私に気を遣ってのことだって言うのは。

でもそれ以上におもしろがっていると感じてしまうのは……気のせいじゃないと思う。

 

「……山田先生」

「ひゃい!?」

 

そうこうしていると、いつのまにか誰かが後ろに来ていた。

この時間にこの場所に来る人は、他には考えられてなくて……。

私は高鳴る鼓動を必至になって抑えながら後ろへと振り向いた……。

そこには……

 

 

 

スーツ姿をしている門国さんが目に前にいて……

 

この人のことをどれだけ心配しただろう?

 

どれだけこの人の事を考えただろう?

 

会えない時間が多くて……

 

話すことも出来なくて……

 

私は織斑先生みたいにすごい存在じゃないから……

 

門国さんみたいに……実力がある訳じゃないから……

 

更識さんみたいに……名家の当主って訳じゃないから……

 

だから……全然あえなくて……

 

ほとんど連絡が取れなくて悲しかった……

 

そんな人が今、私の目の前にいて……

 

 

 

思わず涙が出そうになったけど……それを必至になって抑えた。

だって泣いてしまったら困らせてしまう。

ただでさえ、この人は女性に対して免疫がないのだから。

 

「山田先生?」

「だ、大丈夫です。そ、それじゃ早速行きましょうか!?」

 

そう言って返事を待たずに歩き出した。

だってこのまま二人で立ちつくしていたらどうにかなってしまいそうだったから。

だから私は率先して仕事を行った。

そうしていれば気が紛れると思ったから。

 

それからしばしの間、私は門国さんに施設の案内を行った。

省略できるところは省略して、だけど緊急時のことも考えて長すぎず短すぎず……。

それをしばらく続けて……数時間後には一通りの説明が終わっていた。

まだすべてを案内しきれていないけど、それでも最低限必要なことは教えた……はず。

 

初めての後輩がまさか気になっている人なんて……

 

この状況、半年ほど前の私では夢にも思っていないだろう。

それを言うのならこの人のことを好きになってしまうなんて……つゆほども思っていない。

二人目の男のIS適合者ということで学園へとやってきた。

最初はただ、二人目の男の人で……織斑君よりも年が近いと言うことで気になっていただけだった。

それが織斑先生が勝てなかったって事でみんなの注目を集めて。

セシリアさんとも戦って善戦。

クラス対抗戦では生身でIS相手に突撃。

そんなことをしていたら私のストーカー疑惑をかけられてしまった。

 

……あのときは臨海学校の前で私がいなかったから、申し訳ないことをしちゃったな

 

それから臨海学校の買い物で水着を選んでもらった。

臨海学校では本当にいろいろとあった……。

ビーチバレーで盛り上がって、夜は酔いつぶれたのを介抱されて……

 

……し、失敗してばかり

 

それからこの人は……私の命を救ってくれた。

 

それからすごく意識するようになった。

女子校育ちで、そんなに男性と触れてこなかったのが大きかった。

だけどこの人を好きになったのは……守ってあげたいと思ったのはそれだけじゃないって断言できる。

 

屋上で見た……門国さんのもろさ……。

 

その強さが……内に抱えた弱さの裏返しだと言うことに気づいて……。

 

それを取り除いてあげたかった……。

 

だけど……この人は最後に自爆特攻を……

 

 

 

「山田先生」

 

 

 

そうして回想していると、私に門国さんが声を掛けてきた。

少し反応が遅れてしまったけど、それでも何とか感情を表に出さずに私は返事をする。

 

「何でしょうか?」

「これで終わりということですが……その、最後に行きたいところがあるのですが、つきあっていただけないでしょうか?」

 

そう行ってくるその表情がひどく真剣で……。

真剣そのもので。

それがあのときの自爆特攻の時の表情に似ていて……ひどく怖くなった。

だけど、それを拒むことは出来なかった。

 

「……わかりました」

 

だから、私はそう答えた。

 

 

 

……風があるな

 

護は山田先生と共に屋上へと向かい……屋上へと出た。

四月ということもありまだ肌寒い日が続くときもあるが、基本的には暖かい。

だがまだ風吹くと冷たいのは仕方がない……。

 

桜は……まだ残っているか

 

葉桜に近い状況だが、まだ少しだけ桜が残っていた。

風に舞って屋上へとたどり着き、俺の前を通り過ぎていく。

それを確認しながら、俺は静かに深呼吸を行った。

 

「あの……門国さん? 話って何ですか?」

 

そうして覚悟を決めていると、後ろからついてきていた山田先生からそう言葉が掛けられた。

重要な話だと言うことはわかっているのだろう。

緊張している様子だった。

しかし俺はそれどころではないほどに、緊張していた。

これほど緊張したのはおそらく生涯でも初めての事だろう。

 

……父さんはどうやって母さんに話をしたのかな

 

そんなどうでもいいことを思ってしまう。

だがそれでも俺は父上のあの笑顔を思い出して……右手を握りしめた。

以前からかわいい人だとは思っていた。

だがかわいいだけの人ではないことは、俺が一番よく知っている。

 

……こんな俺を救おうとしてくれた人だから

 

これが果たしてどういった物なのか俺にはわからない。

だがそれでも……俺はこの言葉を伝えたかった。

 

「……山田先生」

「は、はい!」

 

俺の言葉にびくりと体を震わせた。

何かなきそうなほどに顔が真っ赤になって、体を震わせている。

それを和らげられたら良かったのだが……俺にもそんな余裕はなかった。

そしてこの緊張が互いに良くないとわかったので……俺は覚悟を決めた。

 

「以前ここでお話を聞いてくださったように……はっきり言ってしまって俺は欠陥者です」

「?」

 

いきなり何を言い出すのか? とそう言った顔をしている山田先生だったが、俺はそれには取り合わず、言葉を続けた。

ここで止めてしまえば口が動かなくなってしまうかも知れないから。

 

「両親の……父と母の二人の仲を引き裂いた俺が果たして存在していいのか? そればかりを考えていました」

「そんなことは」

「だけど……それは俺が思っていただけでした。俺はこの世に生まれて良かったと……思っています」

 

俺の言葉に目を丸くしていた。

それはそうだろう。

何せほんの少し前に自爆特攻をした男が、その行動とは真逆のことを言っているのだから。

それに構わずに俺は言葉を続けた。

 

「父上が俺のことを……息子が生まれたと、そう言ってくれていたんです」

「え?」

「俺が生まれたときに……」

 

俺が見た父さんの笑顔と言葉が、生まれたそのときに……耳にし、見た者であるのかはわからない。

だがそれでも……あのときの父さんの笑顔が嘘だなんて思いたくはないから……。

不肖の息子で申し訳ありませんが……俺はあれが嘘ではないと信じます。

俺がそうして亡き父さんにそう祈りを捧げていたら、山田先生が満面の笑みで俺を見ていた。

 

「……良かった」

 

その言葉と笑顔が……俺のことを本当に想ってくれての物だとわかって……。

俺はあまりにも綺麗なことの人のことが、とても美しいと想った。

しばし見つめていたら、山田先生が不思議そうに俺のことを見つめていた。

今の笑顔で、更に俺の思いが強くなったのを俺は自覚していた。

だから……更に言葉と紡いでいく。

 

「それから……」

「それから?」

 

これを口にするのは本当に覚悟と勇気がいった。

だが……これが俺の素直な気持ちだから……。

 

その言葉を口にした。

 

 

 

「あなたと出会ったのが……俺に取って本当に幸せなことでした」

 

 

 

怖くて見ることも出来なかった。

だがそれでも、俺は勇気を振り絞って山田先生へと視線を投じる。

そこには……

 

驚きのあまりに目を丸くしている山田先生がいた。

 

 

 

「……国際IS委員会に軟禁される前に、機密区画で俺のために泣いてくださった時……すごく想ったんです」

 

 

 

「な……何をですか?」

 

 

 

「この人に取って、俺は好かれるような存在でありたいと……」

 

 

 

好意を抱くというのが俺にはどんな物かわからない。

しかもそれが異性であるのならばなおさらに。

だが……それでも……

 

 

 

「山田……真耶さん」

 

 

 

「は、はい!」

 

 

 

異性の名前をフルネームで呼んだのは……六花をのぞけば初めてかも知れない。

山田……真耶さんもひどく驚いている様子だった。

だがそれでも俺は……言葉を続けた。

 

 

 

「まだまともであるとは言い難い俺ですが、もしも……もしもですが、もしよければ」

 

 

 

「こんな私があなたに好意を抱いていても……構わないでしょうか?」

 

 

 

人生で初めての告白といってもいいだろう。

頭が爆発しそうなほどで、とてもではないがまともに言葉を出せている自信がなかった。

だが……

 

「……!?」

 

山田真耶さんのその真っ赤になった表情を見れば……俺の言葉がきちんと伝わったのだということがわかった。

 

だがまだだ……

 

まだ話せていない。

すべてを……

 

再度俺は深呼吸を行った。

 

それで覚悟が決まるわけではない。

 

だが……それでも……

 

 

 

「……そしてもしもよければ、こんな俺のことを、あなたが……好きでいてくれたらと……その……」

 

 

 

好きでいてくれたら……嬉しい。

そう言い切ろうとしたのだが……顔が真っ赤になって、とてもじゃないが最後まで言い切れることが出来なかった。

 

もう途中で完全に頭が真っ白になってしまって……。

 

とてもじゃないが最後まで言い切れなかった。

それどころか……

 

「も、申し訳ありませんが……こ、これにて失礼いたします!!!!」

 

山田先生の顔を見ることも出来ず、この場から逃げ出した。

あまりにも緊張しすぎて……逃げ出すことしか頭になかった。

まだ春先で風が吹けば十分に冷たく感じる季節だというのに……俺の体も顔も真っ赤でものすごく熱かった。

だから逃げ出したのだが……俺はそのとき俺がいなくなった屋上で山田先生がどう思っているのか全くわからなかった。

 

 

 

 

 

 

……今のは夢……なのかな?

 

顔を真っ赤にしながら、淡い期待に似たような事を言われて私の頭は機能が停止していた。

初恋の人と行ってもいいと思う。

だけど初恋なんて対外実らないのが普通って言われてて。

それにあの女性の苦手な門国さんがまさかあんな事を行ってくるなんて……。

心臓が飛び出しそうになるほどに緊張していたのと、自分にとって嬉しい言葉を聞かせてくれたから……見ていた物の方が印象に強く残っていた。

 

……顔を真っ赤にしてた門国さんが、かわいかったなぁ

 

まだ理解が出来ていなくて……成人を迎えている門国さんが子供みたいに顔を真っ赤にしていたのがかわいらしかった。

それが……何というかすごく母性本能をくすぐるような表情だった。

以前は……ただあまりにも傷ついていた少年だった。

けど今見た門国さんにはそんな危うさは全くなかった。

それがわかってほっとするのと同時に……ようやく言われたことが告白に近い事であることを頭が理解して……顔が真っ赤になっていった。

 

……ど、どうしよう

 

こんなことで果たして明日からまともに接することが出来るのかな?

以前と違って、生徒と教師ではなく同じ職場の同僚だって言うのに……。

今の言葉を思い出しただけで……胸の鼓動が早まっていくのに。

 

だけど……

 

 

 

同僚……つまり同じ立場になったんだよね?

 

 

 

以前は一応私と門国さんと私の立場は生徒と教師だった。

いくらIS学園が特殊で、門国さんの年齢が普通の高校生とは違うとはいえとてもではないけど……恋人とかになれるわけがなかった。

だけど今日からは違う……。

 

教師同士……

 

以前から社会人として生きていた門国さんが高校生となってしまって……。

でもそうでもないと私と門国さんが会うことはなかったと思う。

だから……今のこの状況は喜びたい。

 

これで……頑張ってアタックしてもいいって事ですよね!

 

と思ったけど……生徒の寝ているときにおでこにキスしたって言うのはどうなるんだろう?

 

……時効! 時効にするもん!

 

自ら恥ずかしいことを思い出して屋上で顔を真っ赤にしているのはひどく滑稽だったと思う。

だけどすごく嬉しかったから。

 

門国さんが私のことをす……好きになってくれたのが!

 

私の思い過ごしかも知れないけど……それでも好きだって言ってくれたのだから……。

 

 

 

失恋しちゃったって今朝思ったのに……現金だなぁ私

 

 

 

だけど……頑張ろうって思った。

強力なライバルだっているのだから……。

 

 

 

負けない!

 

 

 

ふんっ! と気合いを入れて私は空へと向かって拳をつきだした。

いつか……この手が門国さんとつなげることを思いながら。

 

 

 

 

 

 

……悶死するかと思った

 

屋上から駆け下りて、何とか冷静になるくらいに走った後に一息つく。

あのまま言っていたら悶絶していたかも知れなかったので良かったと思う自分もいるが、それ以上に言い切れなかったことに対する自分の情けなさが入り交じって……何とも奇妙な心境になっていた。

以前からすいてくれているとは思っている。

だがそれでも……こうして自分が意識し出すとものすごく恥ずかしい。

しかもそれが……いくら自分が参っていたとはいえ抱きついてそのまま寝てしまった女性が相手では……。

 

明日から職場の先輩として師事してもらうというのに……どう接すればいいのか……

 

そうして俺が悶々といろいろと考え事をしていると、鋭い殺気が前方より発せられた。

咄嗟に防衛行動へとでたその右腕が……

 

ガィン!

 

と激しい音と衝撃を受けた。

それに驚きつつ距離を取ると……

 

 

 

「ちぇっ、防がれちゃった」

 

 

 

いつもの扇子とは違う、非常に巨大な鉄扇を構えた更識六花がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

「……どういうつもりだ?」

 

戸惑いながらも……だけど少しの怒りのこもった視線を私へと投じてくる。

いつものように全くわかっていないこの人に半ば呆れながら、私は溜息を吐いて返答する。

 

「どうもこうもありません。逢い引きしている人に対していらだったから攻撃したの。ただそれだけ」

「逢い引きって……お前」

「告白めいたことしてたでしょ? なら十分に逢い引きです」

 

……言っててムカムカしてきた

 

こっちは生徒会の仕事にも追われていたのに。

虚ちゃんがいなくなったから人でも少なくなって大変なのだ。

お兄ちゃんという雑用係もいなくなってしまったし……人員の補充を急がないといけないのかも知れない。

 

「だからって今の攻撃……受けとめなかったら死んでたぞ」

「人の告白に対して何も言ってくれない人なんて死んで当然です」

 

本日はいつもの扇子ではなく、本当に人を殺すことも出来る鉄扇を用いての攻撃だった。

別段殺したいと思った訳じゃない。

それにお兄ちゃんなら防ぐってわかっていたから。

だから気持ちを完全に表したこの鉄扇を開く。

 

【乙女の鉄槌】

 

扇子にかかれたこの言葉が、私の気持ちだった。

その言葉でお兄ちゃんはぐっ、と息を詰まらせていた。

忘れていたわけもないし、ましてや忘れようとしていた訳でもないと思うけど……それでも何も言ってくれないのは悲しかった。

 

「あそこまで言ったのに何もないっていうのは……どうなのかな?」

「……それもそうだな。明確に言ってなかったのは俺が悪い」

 

!?

 

そんな言葉が返ってくるとは思っていなくて……。

言葉と雰囲気から言って返答をくれる事になるんだと思う。

だけど……お兄ちゃんの雰囲気を見れば……。

 

 

 

「……すまない。やはりお前の事は妹……だから……。結婚……は……」

 

 

 

『妹』だから……ね……

 

妹という言葉で逃げたけど……言いよどんだ時点で本当は違うというのはすぐにわかった。

というよりもわかりきっていたのだ……。

山田先生とは違って……私が相手だと難しいのかも知れない。

お兄ちゃんと私の立場は……立場だけで見れば……

 

おじさまとおばさまの関係そのままだから……

 

名家の当主である私と……没落名家の息子であるお兄ちゃん。

私とお兄ちゃんの立ち位置はほとんど一緒なのだ。

だからこそ……名家の私の家に婿入りするというのは、どうしても抵抗が出来てしまうのだと思う。

 

「……そっか」

 

あのときは……嫌な予感があまりにも強すぎて言ってしまったけど、こうなることは半ばわかっていた。

わかっていたけど……それでも心にくるものがあった。

だけど嬉しかったのは……以前のお兄ちゃんの危うさが薄れている感じがすることだった。

武皇のおじさまがきっと……うまいこと話をしてくれたおかげだと思う。

 

そうじゃないといくら何でもお兄ちゃんが山田先生に告白なんてするわけないし……

 

本当はもっと言ってやりたい。

だけど繊細とも言えるお兄ちゃんのもろい心にはまだ難しいと思うから。

私は内心で溜息を吐きながら、言及をやめた。

そしてその溜め息と共に……悲しみもはき出した。

 

こうなったらうかうかしてられない……

 

悲しんでいる余裕なんてないし、手を休めるなんて事はしない。

強力なライバルがいるから……のんびりなんてしてられない。

 

「なら特別に私の従者にしてあげる」

「……何?」

 

あまり深刻になりすぎて、お兄ちゃんからさらなる言葉が……締めくくる前に言葉を放つ。

これが今の答えだって言うのならそれは構わない。

だけど……これが結論になんてさせない。

 

させてあげない……

 

「甘いなぁお兄ちゃん。世の中には事実婚なんて言葉もあるんだよ? 名家「更識家」の当主の用心棒兼従者として雇って上げよう! 雇用期間は一生涯で!」

「……いや……六花?」

「それもいやなら奴隷にしてあげてもいいけど? 所有物ってのも悪くないかも?」

「……お前なぁ」

 

冗談めかしていう私の言葉に半ば本気で呆れながら、お兄ちゃんが溜め息をつく。

どういう意図で言っているのか……わかっているのかも知れない。

だけどそれでも私は結論を出させなかった。

確かに今のお兄ちゃんには難しいのかも知れない。

だけど……それで諦めるほど簡単な想いじゃないから。

諦めるつもりもなければ、やめるつもりもない。

 

絶対に……。

 

「もう、しょうがないなぁ。とりあえず生徒会顧問になってくれたら許してあげる」

「生徒会顧問?」

「という名の雑用だね。みっちりこき使ってあげる」

 

ちゃかして言うのだけれど、それは半分本当で半分嘘だった。

ただでさえ教師と言うことでライバルの人と接触する機会が増えるのに、こっちだけ減るわけには行かないから。

 

まぁ……新任の先生が生徒会顧問ってのは無理かも知れないけど……

 

いくら一定期間生徒会に所属し、さらには生徒として学園に在籍していたとはいえそれとはまた別問題だから難しいだろう。

コネを使ってもいいし、最悪手段を問うつもりはないのだけれど……。

だけど……そんな私に取り合わずに、お兄ちゃんは真剣な面持ちで考えていて……。

顔を上げてすぐに。

 

「それが一番いいな。そうしよう」

 

と即答していた。

それにはさすがの私も少し意外性を禁じ得なくてぽかんとしてしまった。

けどすぐに冷静に戻って私はお兄ちゃんに問いただした。

 

「ほ、本気?」

 

 

 

「当たり前だ。生徒会顧問ならばお前のことを簡単に護ることが出来るだろう。それならばそれが一番だ」

 

 

 

一切の嘘のないその言葉……

 

それは以前と同じお兄ちゃんの想い……

 

だけど……以前よりも遙かに想いの込められた言葉で……

 

私は頬が上気するのを自覚できるほどに顔が赤くなった……

 

 

 

この人って……本当に……

 

 

 

何度も思っていた事だった。

その鋼鉄となってしまった右腕を私の頭を乗せてなでてくれる。

それがどこか心地よくて……。

それで気がゆるんでしまったのか……ぽつりとつぶやいてしまった。

 

「本当にお兄ちゃんって順序が逆だよね?」

 

あまりにも突然の言葉に……お兄ちゃんが首を傾げた。

 

「どういう事だ?」

 

 

 

「恋と愛が逆って事……」

 

 

 

普通は気になった人と何かをしたい、好きになって欲しい……そう思って、それが高じて結婚とかするのに。

結婚してから、それからその人や子供に何かをして上げたいという想いへと変わっていく……

 

子供が出来たら……その子に愛情を注いでいく。

 

なのにこの人はそれをしなくても私にいろんな事をしてくれる。

恋……ということを飛ばして、愛情を与えてくれる。

命すらも投げ出したこの人は……。

私の言っている意味がよくわかっていないのか、ただ怪訝そうに顔をゆがませている。

だけどすぐに苦笑して……

 

 

 

「恋だか愛だかなんて関係ない。俺はただ、俺という存在が存在するために……これからもお前を護るよ。……護らせて欲しい」

 

 

 

 

 

 

それが俺の偽らざる気持ち。

おそらく永遠に変わることはないであろう……俺の信念。

こんな俺のために泣いてくれたこいつを……俺は護っていこうと思う。

例えそれが……こいつが本当に望んでいないことでも……。

 

 

 

自分勝手だな……

 

 

 

結婚というのは嘘でも偽りでもない本音なのだろう。

だがそれでも……俺には身分違いの結婚というのは考えられないことだった。

父さんと母さんの例もあるし……なにより俺自身が恐れている。

それが俺の本音だった。

自分のことを好いていて欲しい……そう言った相手である山田先生は、こんな俺の本心を知ったらどう思うのだろう?

 

こんなダメな男のことを……本気で好いてくれた女の子に対して、身分違いが怖くて告白を断るなんて事をする男の事を……

 

いたずら心が旺盛なのが玉に瑕だが……それでも六花はすごくかわいい女の子だ。

それに名家の当主でもある。

いくらでも相手がいるだろうに……。

そう言うことではないのだとわかっている。

だがそれでも……俺にはあまりにももったいない子だった。

 

「あ、か……門国さん!」

 

ちらりと六花をみながらそんなことを思っていると、後ろから声を掛けられる。

その声は山田先生に間違いがなく……。

むろん六花にも聞こえたのだろう。

二人して背後を振り向いた。

 

「言い忘れていたんですけどこの後職員会議があって……って、更識さん」

「……こんにちは山田先生」

 

挑発的な物言いをしながら六花が俺の右腕に抱きついてきた。

いくら高性能とはいえさすがに触覚までは完全に再現できていないが……それでもこいつの胸も十分に育っているはずなのだが、それを見せつけるかのように押しつけてきている。

まるで以前買い物に行ったときのようだった。

あのときはまだ、俺自身山田先生に好意を寄せていたわけでは……といってもそれはあくまでも恋愛的な意味での好意だが……なかったし、六花の気持ちも理解はしていなかった。

今だからわかるが、これはこいつなりの自己主張という物なのだろう。

 

しかしそれを自覚しても……こいつ相手では何とも思わない

 

いや思わないわけではない。

だがそれでも俺にとってこいつは……そう言う対象にはまだみれない。

 

「さ、更識さん! 門国さんはこれから会議が!」

「職員会議って言ってもお兄ちゃんの紹介だけですよね? なら必要ないと思います」

「で、でも……」

 

そのまま俺を生徒会室へと連行しようと腕を引っ張ってくる。

確かに更識の言うことにも一理あるが……それでも最初の会議に出席しないのは一社会人として問題がある。

故にふりほどこうとしたのだが……

 

「ま、待ってください!」

 

ふりほどく前になんと、山田先生が俺の左腕に抱きついてきた。

それは俺にとってはあまりにも刺激が強すぎた。

咄嗟に拒絶しそうになるのを必至になって抑えたが……いくら少しは女性に対して免疫が出来たとはいえ、俺にこの状況は耐え難……

 

「~~~~~!?」

 

耐えられない……と考えていたら、なんと自分で行動したはずの山田先生が、ものすごく顔を真っ赤にしていた。

本人も咄嗟の行動だったのだろう。

それを見て少しは冷静になれた。

というか冷静にならざるを得な……

 

 

 

「放課後でもないのに何を呑気に遊んでいる」

 

 

 

再び背後より忍び寄られての死刑宣告。

そしてそれと同時に……

 

ゴッ!×3

 

各々の頭から……打撃音が鳴り響く。

それを受けて三人して頭を抱えることになった。

声でわかっているが……この人は……

 

「山田君。浮かれるのはわかるがだからと言って仕事を放棄していい理由にはならないぞ」

「ご、ごめんなさい」

「それと更識。お前と門国の関係は十分に理解しているが曲がりなりにも教師と生徒だ。せめて卒業するまで異性交遊は待て」

「は、はい……」

「そして門国……」

「はい……」

「初日から会議に遅刻とはいい度胸だな? 後で私との模擬戦でも行うか?」

「申し訳ありませんでした。謹んで辞退させていただきたく……」

「ならば以後は気をつけるように。全く……」

 

一つ溜息をついてそれで締めくくってくれたのは織斑教官だった。

世界最強のIS操縦者にしてIS学園の教師。

今日からは俺の大先輩と言うことになる。

 

「更識はさっさと生徒会室へいけ」

「は~い。了解です」

「山田先生もまだ会議の準備が終わりきってないでしょう。すぐに準備するように」

「は、はい!」

 

教官に矢継ぎ早に指示を出されて二人はすぐに行動する。

そうして残ったのは俺と教官になった。

俺もすぐに山田先生を手伝おうと会議室へ向かおうとしたのだが……

 

「……やっていけそうか?」

 

俺が駆け出すその前に、そんな言葉を掛けてくださった。

どうやら俺に気を遣ってのことだったらしい。

だがそれを言ってもこの人はうなずかないだろう。

だから心の中でだけ感謝を言って……俺は素直な感想を述べる。

 

「大変そうですが……やっていきたいと思います」

 

やっていける……ではなく、やっていきたい。

それはつまりは自信はないが、それでもやってみたいということだ。

実際自信などあるわけもない。

何せ今度は学生ではなく教師だ。

学生であればクラスに閉じこもっていれば早々他のクラスと交流などはない。

必要以上に女性と接触する事もないのだ。

だが今回は教師であるために必然的に不特定多数の女性と接触することになる。

とてもではないが考えただけでも相当卒倒物だ。

だがそれでも……

 

護る者がいるここで……頑張っていきたい……

 

「……あまり手間を掛けさせるなよ。まぁ……期待はしている」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

教官の嬉しい言葉に俺ははっきりとうなずいてた。

 

 

 

 

 

 

ISを……守鉄を動かしたことによって俺の人生は大きく変わってしまった。

 

最初こそ何故自分なのだろうと不思議に思った。

 

そしてそれと同時に憎んでいる存在が何故使えるのか不可解だった。

 

だが……結果論だが……

 

 

 

俺が守鉄に出会ったことはこの上ないほどの幸運だったのだろう。

 

 

 

護るという信念を貫いていくためには、あまりにもISという存在が大きすぎた。

 

世界をひっくり返したISを相手では、俺など本当に塵芥に等しい。

 

だがそれでも……守鉄が俺に力を貸してくれたからこそ、俺はこうしてこの場にいて……。

 

大事な人を護っていけるだけの力を得たのだ……。

 

 

 

これからも……よろしく頼む……

 

 

 

鋼鉄の右腕で、左手の守鉄を優しく包んだ。

 

俺の命を救ってくれた相棒に……。

 

俺の信念を手助けしてくれる相棒に……心からの感謝を込めて……。

 

 

 

[御意に]

 

 

 

その言葉を聞いて……俺は右腕を握りしめる。

 

女性に対して恐怖を抱いている俺がどこまでやれるのか……わからない。

 

だけど……それでも俺は父さんのように、誇りを持って生きていきたい。

 

 

 

残された人間がどんな想いをするのか……俺は知っているから。

 

 

 

だから、俺は信念を貫きながら生きていく。

 

それを父さんも……望んでくれているはずだから。

 

門という役割。

 

家人を……自分にとって大切な人を温かく迎えて……。

 

 

 

大切な人と自分を護って……俺は生きていく。

 

 

 

自分なりに見つけた、新たな信念を胸に刻んで。

 

 

 

俺は……守鉄と共に、この学園で自分にとって大切な人々を護って行く。

 

 

 

それが俺の……役割だから。

 

 

 

この鋼鉄の右腕と……

 

 

 

 

 

 

この左手の相棒と共に……

 


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