IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

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守鉄専用装備

ついにこの日が来た……

 

監禁日より数日が経過した……。

俺の運命を決める試合の日へとなり……今俺はこのIS委員会のアリーナのピットへと来ていた。

これからの十数分が……俺の今後を左右するのだ。

 

すなわち……実験動物か、あの場所へと戻れるかの……

 

「……しかしまさかお前が勝負を受けるとはな」

 

そのピットにて……織斑教官がサポート役というか、ピットにて試合の経過を見守る役目を仰せつかったようだった。

サポートというよりも、見守るために立候補してくれたらしい。

それは俺を助けるためということであることは、間違いなかった。

 

「……自分でも驚いています」

 

だがそれは教官の優しさであるが故に、それに対して礼を言ったりはしない。

言葉に出来ないという事もあるが……感謝の念だけは忘れなかった。

左手に装着された守鉄を、俺の鋼鉄の右腕で握りしめてただ静かに瞑目していた。

 

その胸に宿した……想いを握りしめるように……

 

「信念ではなく……勝たねばならない理由が出来ましたが故に……」

「……ほぉ」

 

俺のその言葉に教官は、少なくない驚きの声を上げていた。

俺自身も驚いているのだからしょうがないとは思う。

だが……それでもいくつもの理由がある故に、俺は戦わねばならない。

 

この守鉄で……

 

どういう経緯でこうなったのかは謎だが……こいつは変化ですらも生ぬるいほどの変貌を遂げていた。

それの全貌を理解したわけではないし、何故こうして変貌したのかもわからない。

理由として考えられるのは間違いなく篠ノ之博士だろうが……何故守鉄を変えたのかはわからない。

 

敵視されていたはずだからな……

 

敵視とも違うというか……虫を見る感じだったがために、敵視ですらなかっただろう。

わからなかったが……これは幸運と言うしかない。

 

 

 

それ(俺の命と右腕)が俺の大切な相棒の成果であることを俺は知るよしもなく……また生涯を通しても知ることがないだろう……】

 

 

 

この力ならば、負けない戦から……勝てる事が出来るようになった。

ならばこの力をもってして、俺は勝負に勝ち、戻ってみせる。

 

 

 

【俺の相棒が……命を救ってくれて、そして俺を進ませてくれたことも……】

 

 

 

あの場所へ。

俺が果たさなければならない場所へ。

 

 

 

【それでも俺はこいつを信じて……】

 

【こいつと共に生きていく……】

 

【生きていきたい……】

 

【俺にとって大事な存在と……】

 

 

 

【共に!!!!】

 

 

 

両手を開き……その両手を力強く握りしめた……。

手甲を装備した左手。

血の通らないこの鋼鉄の右腕。

だがそれは血が通っていないだけで、冷たい手ではない。

それを……この左手の手甲が教えてくれる。

 

「克ってみせる……」

 

敵に……己に……克ってみせる

 

勝てる要素はほとんどない。

何せ敵は適性Aランクで教官に互角以上の実力を持った超エリート。

篠ノ之博士には及ばないまでも、相当の天才達が鎬を削る思いで作った最新鋭機。

対して、こちらは適性は最低ランク級のD。

装備こそ最強クラスでだが、一度も使用したことのないぶっつけ本番。

慣熟訓練もしたことがない。

 

さらには、この右手の慣熟すらも終えていない。

 

格闘家の俺としては片腕が完全に使いこなせないこの状況では、勝負を受けるべきではないだろう。

 

だがそれでも……負ける気はしなかった。

 

 

 

否……負けるはずがない……

 

 

 

この相棒となら……

 

 

 

「……掛ける言葉多くはない」

 

そんな俺へと、教官から言葉が贈られる。

それを黙って聞いた……。

 

 

 

「待っているぞ」

 

 

 

「……はい!」

 

ピットの入り口が開かれる。

それは試合を告げる……開戦の狼煙だった。

 

装甲……展開……

 

左手の守鉄へと指令を送る。

それに呼応するように、手甲が淡く発光した。

 

 

 

「参るぞ……守鉄!」

 

 

 

先の特攻を行ったときと同じ言葉……。

だがそれを紡ぐ想いと目的はまさに対極……。

 

生かすために死ぬのではなく……

 

 

 

己が生きるために……俺は往くのだ……

 

 

 

俺の言葉と想いを受けて……守鉄がその装甲を展開した……。

 

 

 

鋼色のその装甲は、俺の体全体を覆うかのように形成されていく。

 

体全てを……それこそ隙間なく覆うように装甲が纏っていく。

 

それはまさにパワードスーツのように体を纏っていった。

 

それは俺を護る鎧であり……武器であった。

 

それを更に堅固するために、三枚の巨大な楯が展開される。

 

楯にそれぞれ……三つの兵器を装備した、巨大な楯を。

 

そして最後に、四肢の装甲が纏われていく。

 

だが、右腕だけはほとんど変化がなかった。

 

否、この腕は元々そのための腕なのだ。

 

この右腕は……展開装甲を展開するだけでIS装着時と同じ状態へと変化できるのだ。

 

四肢の装甲が展開し……再び閉じた。

 

 

 

展開がすべて完了し……そこに三機目の第四世代機が姿を現した。

 

 

 

行こう……守鉄……

 

 

 

[御意に]

 

 

 

守鉄と会話をして、俺はその新たな装備の名を呼んだ……

 

 

 

 

 

 

「守鉄【護式(ごしき)】、参ります!」

 

 

 

 

 

 

……めんどくさいわね

 

それがアリーナにて先にISを展開して相手を……護を待つ対戦相手、リティ・フォルナの正直な思いだった。

アメリカのとある企業に所属する専用機持ちであり、適性、実力共にエリートと呼ぶにふさわしい人間だった。

そんな彼女が乗る機体の名は、アメリカが開発した第三世代機の「シャイニング・レイン(光の雨)」だった。

ビットを六機搭載し、さらには巨大なライフルを装備している。

ビットには三つの砲口に、一回り大きな砲口の計四つがそれぞれに装備されている。

三つの砲口からガトリングにて光弾をはき出し、一回り大きな砲口より実弾を撃ち出す。

そして手にしたライフルの二つの砲火……巨大なビームライフルと戦車砲並みの口径を持つ対IS用の実弾……にてとどめを刺す。

単機にて多数の敵と戦うことを想定に開発された機体である。

また近接戦闘にも対応できるようにナイフが二本、そして圧縮空気噴射口にて威力と剣速を倍加させる剣が二本搭載されてる。

この剣は両腰に装備されており、使わないときは姿勢制御と加速に使用することが出来る装備である。

第三世代機でもかなり上位に位置する機体だ。

その分当然のように扱いはピーキーとなってしまったが、それらすべてを過不足なく使用することの出来るほどリティは抜群の腕前を有していた。

 

その自負と自信が……冒頭の心の声へとなるわけである。

 

何故私がこんなことを?

 

企業にて最先端の技術を応用した機体、およびそれらが使用する武器の開発にも関わっているために、彼女には時間がかなり貴重であり、多忙であった。

また接近戦兵装も扱えるように、血のにじむような努力も行っている。

故に相手が男であり、適性がDであろうとも見下したりはしない。

 

さっさと片付けて帰ろう

 

彼女にとっては自分のこの機体や、他の武器達のとの時間が大切であった。

開発といっても、それはあくまでも試験者として意見や要望を言っているために、武器そのものを開発しているわけではない。

だがそれでも彼女の発想のおかげでこのシャイニング・レインの機体の完成度が上がったのは事実だった。

第四世代機であるという敵の機体にも興味がないわけではないが……それでもリティはさっさと相手を倒して帰ろうと考えていた。

そして、その対戦相手が現れる。

 

……来たわね

 

先ほどまどの気だるげな態度は一瞬にして消え去り、鋭い眼光を相手へと向けて……彼女は驚愕した。

 

……小さい

 

リティが見たその機体……門国護が纏って現れたそのIS。

 

 

 

その機体は……異様の一言に尽きた。

 

 

 

まるで甲冑であるかのように隙間なく覆われたISの装甲。

顔すらも装甲で覆われていている。

そして背中と両肩に装備された、体を覆い隠すことも可能なほどに巨大な楯。

 

だがそれ以上に異様なのがその身体だった……。

 

……これではまるでSFなんかに出てくるロボット兵ね

 

装甲が体全体を覆っている。

逆に言えば身体的特徴はそれだけ……パワードスーツを着た存在であるということだ。

つまり手足がISによって巨大化していないのである。

 

 

 

それが護を守護するために守鉄が設計し、篠ノ之束の技術力によって完成した……

 

 

 

 

 

 

「守鉄【護式】」だった

 

 

 

 

 

 

相手がなんであろうとも、倒すのみ!

 

 

 

一瞬敵の機体の異質さに驚いたリティだったが、それでも彼女は優秀であり、判断が速かった。

すぐに思考を切り替えて、戦闘体制へと移行した。

 

 

 

ビー

 

 

 

そして開戦のブザーが鳴り響いて、戦闘が開始される。

遠距離攻撃型機体の特性を生かすために、リティが後方へと瞬時に移動するのだが……。

 

移動しない?

 

()はブザーが鳴り響いても行動するそぶりを見せない。

いや、それどころか全く持って行動をしなかった。

最初に飛来して空中で制止してから全く動こうとしていなかった。

それを不思議に思うが、かといってそれで行動が変わるわけではない。

 

射出!

 

ビット六機をすべて射出した。

そして、それらを同時に操りフェイントを織り交ぜながら接近させてビームを発射する。

それと同時に手にしている銃からもビームを発射する。

ビットを自在に操りながらも、自身による攻撃も過不足なく行えているのは、間違いなくエリートといって良かった。

迫り来るそれに対して、()は……両手を使用して弾き、更にその巨大なシールドが体と接続されているアームによって稼働して、無数のビームをすべて防いでいた。

そのことに軽く衝撃を受けたリティだったが、右腕の挙動が若干鈍いことを彼女は見逃さなかった。

 

そう言えば、右腕を切り落とされたばかりだって

 

渡された資料にはそのように明記されていたことを思い出した。

更に言えばISの技術で作られているために、それが問題となっているとも……。

生身に近いサイズのその右腕に驚きつつも、彼女はそこに狙いを定めた。

 

……踊らされるのは気に入らないけど

 

国際IS委員会の思惑通りに行くのがすこし勘に障った。

貴重な存在と言うことはリティも当然のように理解していた。

何せ第四世代だ。

第三世代の開発すらも未だ試験的と言っても過言でないこの状況で、それを飛び越えての第四世代機。

興味がないわけではない……だがそれでもここまで有利な条件下での戦闘に気乗りしないのもまた事実だった。

だが……それはあくまでも()の都合。

 

私には関係がない

 

そう割り切っていたが、それでも()の弱点を狙うのをためらってしまうが……それは()の都合と割り切って、攻撃を続行する。

 

ヴォォォォォ!

 

凄まじい連射音が()へと降り注いでいく。

その名が記すとおりの、雨のような弾幕。

それが完全に、完璧に制御された六機のビットから全方位より発射されるのだ。

それをすべて防御するのは至難と言って差し支えない。

しかもそれがすべて適当にではなく、完全に制御された上に本人も攻撃を行うのだ。

遠距離より七箇所より攻撃される。

すべてのビットを完全に制御し、精密な射撃による飽和攻撃。

これがリティのシャイニング・レインだった。

 

彼女は間違いなく、世界でも指折りの実力者だった。

 

その実力を彼女自身きちんと認識しているからこそ……()の対処に驚愕した。

 

……なに、あれ?

 

それを()は最初事ぎこちないながらも徐々に、徐々に……その右腕と三枚の楯を駆使して着実に、確実に……。

リティの攻撃を防いでいった。

慣熟訓練を全くしていないにもかかわらず、()は数分と経たずに対処能力を向上させていった。

異様な速度でその動きの精度があがっていた。

リティの搭載武器はどれもが速度が音速を超えている。

それをすべて確実に防いでいる。

 

一度も使用したことのないこの兵器を、ほぼ完全に制御していた。

 

はっきり言ってそんなことはあり得ない。

 

どれほど優秀な人間とはいえ、初めて纏うISでは絶対に意識と体の動きに齟齬が生じる。

 

だというの敵は生身ではない右腕しか、動きに遅滞がない。

 

 

 

まるでそれが当たり前であるかのように……。

 

 

 

そのことも脅威だったために目をむくリティだったが……ふと違和感を覚えた。

 

……これは

 

それが何なのかわからなかった。

研究者でもある彼女はそれを推理し始めた。

むろんその間も攻撃の手を休めてはいない。

 

 

 

 

 

 

[人機同心……完了]

 

 

 

 

 

 

だが……それを考えきる前に、さらなる驚愕が彼女を襲った。

 

 

 

バカッ

 

 

 

そんな音がアリーナに響いた。

それの発信源は敵の楯からであり……作動したのは、巨大な楯に装備されたビットだった。

それがいくつか作動したのだ。

 

!? バカなのかしら

 

その行動に一瞬こそ動揺したものの、リティはすぐに立て直す。

何せビット兵器だ。

これは己以外の存在を自在に操らなければならないという事で、非常に扱いの難しい装備である。

空間を完全に把握しなければならない装備だ。

ハイパーセンサーにて視覚野の外なども認識、知覚できるようになっているが……それでも生身の感覚が染みついてしまっているために、それを完全に使用できる者はそう多くない。

データを見た限りでは、対戦相手である()はビット兵器を操作したことはなかった。

故に苦し紛れの動作であるとリティは判断した……。

 

 

 

だがそれは、半分正解であり半分は外れであった……。

 

 

 

ボッ!

 

空気を押しのけて、それら複数のビットがリティへと襲いかかる。

一つはリティへと突撃し、一つは遠距離よりビームを放ち、さらには()のそばで()を護衛しているビットもいた。

それはすべて、複雑で機動の読みにくい軌跡を描いていた。

その動作に……一部の乱れもなかった。

 

うそっ!?

 

今度こそ、リティは見るからに動揺した。

複数のビットは、それこそリティが動かすのと同レベルの機動を描いて、リティを襲っていた。

 

一度も操ったことのないビットをここまで正確に!?

 

ちらりと、回避を行いながらリティは護へと視線を投じる。

()からのビット射出によって、攻撃の数が減ったために先ほどよりも余裕で護はリティの攻撃を捌いていた。

捌いてはいるものの、己自身は全くと言っていいほどに機動していない。

確かに自身が動かずにビットのみに操作を集中すれば、そこそこビットを使える人間は多い。

しかしそれでもただの一度も動かしたことのない人間がビットをここまで自由に操るのは無理があった。

 

こいつ!

 

だがそれでも彼女は優秀だった。

被弾はしたものの、それはほとんどが致命的なダメージではなく、また絶対防御も発動することなく、彼女はそれらのビットから放たれるビームを避けていた。

だがそれで()も攻撃の手を休めるわけもなく、執拗と行っていいほどに攻撃を敢行してくる。

 

先にこっちを!

 

戦場では数を減らす、もしくは弱い者から仕留めるのが定石である。

彼女はそれを十全に理解していた。

手にしたライフルを、回避行動を行っているビットへと向ける。

そして引き金を引く。

その攻撃によって破壊までは行かないまでも、事実上の攻撃不可能までは行くかに思えたのだが……。

それは見事にビーム兵器を弾いていた。

 

!?

 

ビットそのものがまるでシールドエネルギーで護られているかのような弾かれ方だった。

またそのはじき方も異様だった。

まるで……幾重もの層をもつもので弾かれたかのように……。

 

この機体!

 

ようやく……というべきか。

ここ事にいたってようやくリティは()の機体が……護が纏ったISが見てくれだけが異様な機体ではないことに気づいた。

 

 

 

守鉄【護式】

この機体は、束が思い描きながらも時間がかかるために、開発を断念した構想の装備。

それを可能としたのが、守鉄だった。

主を護るために、少ない方法でどうすればいいのか? 守鉄はそう考えた。

セカンドシフトを行うことも考えたのだが……それでも急激すぎる変化はさらなる負担を主へと掛けてしまう。

更に言えばまともにデータも取れていないのにセカンドシフトを行うのは愚の骨頂だった。

そう考えた守鉄は己の力を使用して……ある特殊な能力(ちから)を思い描いた。

その能力(ちから)が前羽命手。

そしてそれを応用して開発したのがシールドエネルギーの積層展開だった。

この装備は、それ(能力)を最大限に使用するために作られた装備なのだ。

この装備は……機体は、束が思い描いた第四世代のもう一つの形。

紅椿、白式が「戦士型」であるならば、守鉄護式は「魔法使い型」に分類される。

単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)を応用しての変則的、応用力の高い機体の開発を目指したのだが、単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)がそうそう簡単に発動しないこと、単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)があまりにも特殊であり千差万別な存在であること、またそれを扱いきれる人間がいないので諦めてソフト面ではなく、ハード面に力を注いだ結果が紅椿、白式である。

半ば諦めていた構想を勝手に作ったのだから束としてはどうしても手に入れたい存在となったために、護を拉致し、さらには守鉄の要求を飲んで護式という装備を開発したのだ。

 

 

 

故にこの機体に敗北の二文字はない。

あってはならない。

だがリティはそれを知らない。

最初からなめてかかってはいなかったが、彼女は全力で相手をたたきつぶすことにした。

 

「舐めないでもらいたいわね!」

 

腰に装備している剣の姿勢制御も行い、彼女はほとんどすべての攻撃を避ける。

そしてリティの行っている射撃攻撃を護はそのすべてを防ぎ、弾いていた……。

どちらも互いに全く譲らない……拮抗した状況へと陥った。

 

それがしばらく続いて……彼女は異変を感じ取った。

 

 

 

……どうしてまだ動ける?

 

 

 

護の機体。

確かに攻撃をその四肢で弾き、または三枚の楯で防ぐことによって絶対防御を発動するような状況には陥っていない。

だが試合開始からすでにそれなりの時間が経過している。

その間()はビット以外に攻撃を仕掛けていない。

それに対してリティはビットと手にしたライフルでそれなりの攻撃を行っている。

また回避もほとんど完璧に行っているために、彼女はほとんど無傷と行って良かった。

確かにビームを撃つこと、回避行動によってエネルギーは消耗している。

だがそれでもビーム兵器に何度も被弾しているはずの()が何故未だに動けるのか不思議であった。

 

どうし――!?

 

しかし、それを考える暇を、ビットが与えなかった。

守鉄に装備された九つのビットの内すでに六枚……リティが操るのと同じ数のビットが、リティを襲っていた。

それはつまり、試合開始から現在までの時間だけで、敵はリティとほとんど同レベルのビット操作技術を身につけたということになる……。

いくら敵が制止しているとはいえ、それはもはや異様ではなく異常だった。

 

敵の機体の異様さ。

 

ビットの間断のない攻撃。

 

未だに動くことの出来る異様なエネルギー。

 

それらすべてがない交ぜとなって、リティの思考力と精神力をそいでいく……。

 

 

 

だったら!!!!

 

 

 

すでに短くない時間が経過していた。

それによって貴重な時間と精神力を削ぎ取られてしまったことで彼女は少し冷静さを欠いていた。

嫌気がさしたために、最悪の手段を選んでしまう。

 

ガシッ!

 

両手で構えていたライフル。

その左手を離して、リティは腰に装備されている剣の柄へと手を伸ばした!

 

遠距離がダメなら、接近戦で仕留めてあげるわ!

 

敵がカウンター主体の格闘に特化した人間であることは、リティに渡されたデータにきちんと掲載されていた。

相手が……門国護という男がカウンターを主体とした格闘術を行う敵であるということを。

またこの視界の中で見せる護の動きが、一定の水準を遙かに超越した物であるということはわかっていた。

 

だがそれでも彼女は、研究者であったのだ……。

 

 

 

護の腕がすごいと言うことはわかったが、それがどれだけのレベルなのかは……わからなかったのだ。

 

 

 

ビットから放たれる攻撃を避けつつ、彼女はその剣を手にして突貫した。

 

断言できる……。

 

彼女には才能があった。

 

それこそ、研究者としての能力だけでなく。

 

剣士としての才能が。

 

それを彼女もある程度理解しているために、過剰な威力を備えている剣を腰へと装備しているのだ。

 

またその才能だけではなく、努力も行っていた。

 

過去のモンド・グロッソにて、最強の存在である織斑千冬に敗北した。

 

剣一本のみで自分に挑んできたその存在に……。

 

それ以来、彼女は必至になって努力をしていた。

 

射撃の腕だけでも相当の実力を誇っていた彼女は、更に強くなっていった。

 

モンド・グロッソ第三位というのは、嘘でも虚構でもなく……。

 

 

 

真実なのだ。

 

 

 

そしてその時よりも実力の上がったリティが手にした剣が……敵に向けて振るわれる。

 

 

 

沈め!

 

 

 

遠距離攻撃によってそれなりのダメージは与えたはず。

故にかなりのダメージを与えると踏んだのだが……。

しかしリティはそれでもどうしても一瞬だけ浮かんでしまった一つの単語が頭から離れなかった。

 

ここまで攻撃しても全くエネルギーが減った気配がない……

 

考えられることはいくつかあった……

 

エネルギー総量が多いのか?

 

もしくはエネルギーを増加、増幅しているのか?

 

しかし後者は他の第四世代の紅椿の単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)で絢爛武闘がある。

 

単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)は発動時に金色に輝くという特徴があった。

 

しかし敵の機体からは単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)が発動した感じはなかった。

 

では何故敵は未だに動けるのか?

 

それら以外に考えてられることは、増加ではなく生産か……

 

 

 

エネルギーを吸収しているから……ではないのか?

 

 

 

そんなことが頭を一瞬とはいえよぎったのだ。

 

だからこそ、彼女はそれを振り払うかのように、その剣を握ったのだ……。

 

しかしそれは、じっと静かに身を伏せていた虎の間合いに入り込んでしまった……

 

 

 

愚かな選択であった……。

 

 

 

噴射口より、熱風が吹き荒れて剣速が増す。

それは並大抵の物では扱えないほどの出力を持っていた。

それを御し得るリティは、間違いなく一級の腕を持っていた。

 

だが……

 

こと防御と速攻の反撃に関してでは、一流すらも超えている存在である者が……

 

 

 

門国護だった。

 

 

 

「……」

 

袈裟斬り振るわれたその剣を、()はしかと見据えて……約一歩分だけリティへと近寄った。

そして……その剣を振るっている腕を取ったのだ。

 

なっ!?

 

今まで誰もがしてこなかったその行動に瞠目するリティ。

高速で接近し、さらなる速度で振るわれたその腕を取ったのだ。

普通はそんな速度で振るわれたものを、目で見ることすらもかなわないはずなのだ。

 

しかし今回の相手は違ったのだ……。

 

人でありながら機械であり……

 

機械でありながら人である……

 

そんな存在となっている(護と守鉄)が相手だった……。

 

 

 

全身を覆うことで触覚すらも遮断した。

だがそれはあくまでも普段の感覚で言うのならばである、という前書きがつくのだ。

ハイパーセンサーは人の五感を鋭敏化した装置。

故に全身が包まれていようとも普段以上に空気の流れや、動体視力の向上により敵の動きを捉えることが出来る。

ほぼ完全に一心同体化している状態であるために、敵の接近は容易に把握できる。

センサー(守鉄)が捉えたその情報を、護は一寸も疑わずに信じ、その敵の行動に対して最適な動きと対処を取る。

 

 

 

腕を捕まれて瞠目するが、それでもすぐに冷静になった。

このまま攻撃をされるわけには行かない。

そう思い右腕で手にしたライフルを向けようとしたが……そこで気づいた。

 

懐に!?

 

そう……腕とライフルの長さのために、攻撃できる距離ではなかった。

普段の体であれば、零距離とは言えない。

だが……リティが纏ったISと護のISとでは、体格が違うどころの騒ぎではなく、大人と子供と言っていいいいほどに、手足のサイズが異なっている。

さらに全身を隙間なく覆うことで……火炎からも身を守ることが可能となっている。

絶対防御が発動せずとも……少しは護の負担を減らすことが出来る。

しかしかといってその装甲が邪魔になるようなことはない。

そうでなければ相手の手をつかみ、懐に潜り込むなんて言う動作が出来るわけない。

それはもはや至近距離と言っていいほどの距離だった。

そして懐に入られたリティの顎に掌打が見舞われ……。

 

 

 

そしてその数瞬後……それは爆発した。

 

 

 

――っ!?

 

 

 

何だ……そう思考し終える前に、リティの意識はその力による凄まじい衝撃に耐えることが出来ずに、意識を失った。

 

 

 

そして、試合終了のブザーがアリーナへと鳴り響いた。

固唾をのんで試合の成り行きを見ていた人間達には、何が起きたのか全く理解できていなかった。

護から見れば勝った方が……リティから見れば負けた方が不思議である、そう言っても不思議ではないほどの条件だった。

だがそれを護と守鉄はひっくり返したのだ。

 

誰もがあっけにとられる中……

 

ただ空中に静かにたたずんでいる(護と守鉄)は……

 

その場に制止したままだった……

 

 

 

しかしそこでようやく人間らしい動きを見せた……

 

 

 

右腕を上げて……静かに手に力を込めて握りしめた……

 

 

 

その鋼鉄の右腕を……固く、堅く……

 

 

 

 

 

 

……これで……俺は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




守鉄【護式(ごしき)
己の主である護を守護するために守鉄自身が設計した機体……というよりも装甲と武器。
「護式」には「護のための装備」「守鉄が護を『護る』ための装備」という、二つの意味が込められている。
開発コンセプトは「いかに動かずにいられるか」「長時間の戦闘を可能とする」である。
IS〈インフィニット・ストラトス〉の「メカ×美少女 ハイスピード学園バトルラブコメ」のキャッチフレーズに真っ向からケンカを売っている装備。

これは「門国護」「守鉄のコア」の二つがそろって初めて真価を発揮する装備である。
それは各々の役割分担が完全に決まった装備であるからだ。
格闘の間合いが狂う事を嫌った護のために、完全なパワードスーツへと設計されているその四肢と体躯は護自身が動かす。
しかし今回だけは例外として、守鉄が護の思考を読み、右腕の操作の補助を行っていた。
ビットはそのすべてを守鉄自身が操作を行うように設計されているため、守鉄の信号以外操作を受け付けない。
楯は半ば一心同体となっている二人のどちらもが使用できる。
さらなる特徴として、この機体は競技ではなく実戦を想定して開発されている。


武装各種

【アブソーブシールド】
守鉄【護式】の両肩と背中にアームで接続、装備されている身を覆い隠せるような巨大な楯。
それは敵のエネルギー関係の攻撃を「吸収」するための楯である。
吸収といっても100%吸収できるわけではない。だがそれでも、ただ被弾するのとでは天と地ほども差があるほどに戦闘継続時間は延長される。()を守護し、増援が到着するまでの時間を稼ぐための楯である。
またこの楯はスラスターがいくつも装備されているため、逆に増援に向かう際にも高機動型と同等の速度を出すことが可能である。それに併せて四肢の展開装甲も展開し出力することで、紅椿にすらも匹敵する速度が出せる。


【S2Gビット】
Shield、Sword、Gunの頭文字を取っただけの名称。
その名の通りで、楯、剣、銃となるビットである。これは守鉄自身が操作する武装であるため、護が操作することは出来ない。また仮に出来たとしても護には満足に使用することが出来ない。
この装備の意義はずばり

「楯で吸収されてる! ビットが邪魔で満足に攻撃できない! だったら接近戦で一気にダメージを!」

と相手に思わせるための装備である。防御においては他の追随を許さない護相手に接近戦というのは愚の骨頂である。
またこのビットは護以外にも護るべき対象を守護することも出来るように設計されている。


【四肢の展開装甲】
第四世代であるがゆえに装備されている展開装甲。
これは護の「カウンター攻撃」を速度と威力を倍加させるためのものである。またこれによって高速で敵の攻撃を捌くことも可能となっている。
実弾、エネルギー武器を問わず射撃に関しては、シールドエネルギーの積層展開を纏わせた四肢でほぼ無傷(シールドエネルギーの減少がほぼ皆無)で弾くことができる。


【右腕(義手)】
護の切断されてしまった腕の代わりとなっている義手。これはISを装備したときの腕と同じ物であるため、「ISの部分展開」を常時行っていることになる。すべてを圧倒したISの腕であるために、かなりの強度と出力を誇る。
普段はただの義手だが、展開装甲を展開するだけで他の人間にとっての部分展開を使用可能なため、エリート達の部分展開よりも遙かに速い速度で部分展開を行うことが可能。これによって護の対処能力は向上している。
またISを全身に装備せずに部分展開だけで、シールドエネルギーを展開、積層展開も使用可能なため、生身の状態でありながら絶対の楯を所持している。
右腕のみ部分展開で展開装甲を展開し、出力することでほぼ生身でありながらISの攻撃にも対応可能。


単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)
【前羽命手】
この単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)は、シールドエネルギーの積層展開ではなく、「シールドエネルギーの自在展開」が本来の効力である。
積層に展開するのも自在に操作できるからであって、決して

単一使用能力(ワンオフ・アビリティー)=積層展開

ではない。
一夏と山田先生を救ったのは、二人の前面に設置したシールドエネルギーのおかげである。
神風もそれの応用である。
本人は認識していないが【裏技】として、高速で動く敵の進路上にこれを展開することで「空中で見えない壁に高速で激突」という、妨害とダメージ与えることが可能。何せ音速を軽々と超えている速度で飛翔しているISが、何の備えも無しで激突したらダメージは必至なので、当然のように絶対防御が発動する。
そのためこれを使えば相手にかなりの心理的ストレス(いつ進路に壁を設置されるかわからない&当たれば大ダメージ)を与える嫌らしい戦法。
しかし護自身がそれに気づいていないのでおそらく使用しない。


人機同心
守鉄護式を纏ったときに起こる、護と守鉄の一心同体状態。
これは、二つの意識が同調して一体化することにより、戦闘能力と対処能力を飛躍的に向上させる物。
ハイパーセンサーによる恩恵をほぼ100%受けることの出来るシンクロ状態。
通常人間の五感でしか感じ取れないものを更に拡大、鋭敏化したものがハイパーセンサーであるが、よほど慣れていない限り、それの機能を完全に引き出すことは難しい。特にビット兵器が存在する以上、全天周囲の状況を把握しなければ早々に撃破されてしまう。だがこの人機同心状態では、()守鉄(IS)が融合するために、半ば最強の存在へと昇華される。
ビットを守鉄が操作し、飛来する敵の攻撃を護が認識し、それを受けてアームを駆動させて守鉄が楯を動かす。四肢は当然護が動かすが、展開装甲時などは守鉄がそれをサポートする。
といったように、互いが互いを支え合って守鉄護式の装備を使用する。
これ故にビットをすぐに使用できるようになった。




極秘事項
特殊兵装「S・E・T」

シールド・エネルギー・タンクの頭文字を取った装備であり、これの存在を知っているのは設計した守鉄自身と、それを開発した束だけである。
人を護れるのならば己の命すらも犠牲にしようとする主を護るために、守鉄が設計した……それを言うのならば「護式」そのものが「護を守鉄自身が守護する」ために設計開発された者であるが……装備である。
絶対防御一回分だけのエネルギーが封入されており、コアと護が離れてしまったときに右腕が動かなくなるのを防止するための装備でもある。基本的に試合などの状況に陥った場合はこのエネルギーが使用されることはない(命の危機に瀕した場合はその限りではない)。が、実戦となれば関係なく守鉄は使用する。これがあるために、軟禁状態時にコアが没収されていたときでも右腕を動かすことが出来たのだ。
あまりにも特殊であり、またこれによって世界がどう反応するのか計り知れないため、守鉄と束自身の手によって厳重にプロテクトが掛けられている。
意志を持っている守鉄と、世界最強の技術者の束がプロテクトを掛けているため、事実上この装備が世に出ることはない。
誰に知られることなくひっそりと、護を守護するために存在している装備となる。





長々と機体解説におつきあいいただきましてありがとうございました。
好きな者をいろいろとごちゃ混ぜにした感じですw

外見的イメージは三枚の楯がガンダム00Qの楯を巨大化した物。
ガンダム00Qのアームみたいな感じで両肩と背中に装備している。
高速移動形態はガンダムTR-1ヘイズルの高速移動形態みたいな感じw

パワードスーツに関してはISのどうしても我慢できないところ

「ほぼ生身なのに手足だけ伸びるのって意味なくね?」

意味がなくないだろうが、気に入らなかった作者が反抗した結果。
PS3ソフトのヴァンキッシュみたいな感じのパワードスーツをイメージしてくれ!


友人と話した結果

「この機体に勝てるのって原作だと更識姉妹ぐらいじゃね?」アイディア提供者TT様談

敗北理由
一夏   → 守鉄R2に惨敗していたのに守鉄護式に勝てるわけがない    =敗北
箒    → 遠距離武器が多少なりともあるが吸収される。接近戦もアウト  =敗北
鈴    → 九つのファンネルに対処できないだろ? 決め手もない     =敗北
セシリア → 吸収できるしビーム曲げたくらいで対処しそこねるわけもない  =敗北
シャル  → ラピッドスイッチって結局両手だから二つ。弾幕が足りない   =敗北
ラウラ  → 元々動き止まってるし、動き止められてもファンネルいるし   =敗北

勝利出来るかも知れない理由
更識楯無 → 水を自在に操る攻撃で普通に装甲も楯も突破できそう = 一点集中突破
更識簪  → 圧倒的な数(48発ミサイル同時発射等)で攻撃   = 数だよ数

と相成った。
あながち間違っていないと思う。



以前「小説家になろう」の感想で

相手「主人公の機体は打鉄のまま? そのままでいて欲しい!」
刀馬鹿「主人公のために開発された専用機は今後一切出す予定はございません」

と回答してたのですが↑のような機体が思い浮かんでしまって……へりくつで



守鉄が、護を守護する「ために」開発された機体



と表記しました……
えぇ、これ以上ないほどにへりくつですw

好きな物をこれでもかというほどにつぎ込んだ
「ぼくがかんがえたぼくのだいすきなIS」
はいかがだったでしょうか?www
エピローグも読んでいただければ幸いです!

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