IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

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友人

キーンコーンカーンコーン

 

授業終了のチャイムが鳴りやむ。

それは俺にとっては地獄の特訓のゴングに等しいものであった。

 

「よし、これにて実機訓練を終了する。各員、速やかに除装し、着替えて教室に戻れ」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

織斑先生の号令の下、生徒達がちりぢりになって行く。

ピットに行く者、ISを片付ける者、グラウンド整備の者と様々だ。

グラウンド整備は無論専用機組も行っている。

専用機といえどひいきはしない。

 

さすがは教官。鬼……

 

スパーン!

 

「今失礼な事を考えただろう?」

「滅相もございません。教官」

 

パーン!

 

「織斑先生だ」

「申し訳ありません! 織斑先生!」

 

癖でどうしても教官と言ってしまう。

癖というよりも恐怖の刷り込みの方が多いかもしれないが。

 

「では織斑先生。私も教室に戻りますので失礼します」

「何を言っている。おまえはこのまま訓練だ」

 

ぐ、やっぱり逃げられない!!

 

「……い、いえ織斑先生。自分も授業に……」

「なんだ門国。おまえは先ほどの私の話を聞いていなかったのか?」

 

おぉ教官の後ろに般若が、般若がぁぁぁぁぁぁぁ

 

スパーン!

 

「誰が般若だ」

「申し訳ありません」

 

そしてそのまま俺は織斑教官によるありがたい死の特訓を覚悟する。

 

午後。

グラウンドで俺の悲鳴が木霊したがそれはまったく、これっぽっちも関係のないことである。

 

 

 

いたたた。さすが教官……

 

午後の授業も終わり、放課後間近になって俺はようやく解放された。

さすがに初日と言うこともあり、放課後は自由にしていいらしい。

日頃鍛えていたから特に問題はなかったがそれでも疲れるものは疲れるのである。

 

俺は気怠げな体に鞭打って帰りのHRに参加するために、教室へと戻ろうとしたのだが……。

 

すげ~視線を感じる

 

そう。

速いところはもうすでにHRを終えているのだ。

視線の重圧から言ってすでに俺の噂は行き渡っているようである。

さすが噂大好き花の女子高生……情報伝達が速い。

居心地も悪いので俺はさっさと自分の教室に戻った。

 

「すいません遅れました」

「遅い。もっと迅速に行動しろ」

 

そこには黒いスーツをばっちりと着こなした織斑教官の姿があった。

 

あれ~教官。俺の方が先に教室向かったのに何故……さすが人外、織斑千……

 

ガンッ!

 

「くだらないことを考えてないでさっさと席に着け」

「……はい」

 

ありがたい拳骨を食らって、俺は迅速にすごすごと席に座る。

その様はさながらご主人様に叱られた犬のように惨めな様相を呈していただろう。

 

「え、えっと~…とりあえず今日報告することはありません。皆さん気をつけて帰って明日も元気に勉強しましょうね」

 

山田先生がほにゃんと、かわいらしい笑顔を振りまきながらそう告げてくる。

いや、若干引きつって見えるのは気のせいではないだろう。

 

ふむ。これで今日の学校は終わりか……

 

ISの学校なのだから授業、訓練時間とやることがてんこ盛りと思っていたのだが……。

やはりそこは学生なのだろう。

 

「ハヅキ社製のスーツのがいいなぁ」

「え? そう? ハヅキのってデザインだけって感じがしない?」

「そのデザインがいいの!」

 

何となく聞こえてしまった放課後の会話。

別にバカにするつもりはないが、やはり会話を聞いている限りでは「軽い」と感じられてしまう。

戦場では考えられないような空気だ。

やはりISの学校とはいえ学校なのだろう。

この子達はまだ学生だ。

青春真っ盛りなのだから青春を謳歌させた方がいい。

 

 

 

とは思うが……しかし……

 

 

 

ちなみに余談だが、俺のISスーツは織斑君のスーツ同様、イングリッド社製の特注品……政府関係者から聞いただけなので真偽のほどは不明……らしい。

 

「門国さん?」

 

そうして考えていると、誰かが声を掛けてきた。

うつむけていた顔を上げるとそこにいたのは織斑一夏くんだった。

 

「この後何か用事とかあります? 無いんでしたらこのまま部屋に案内しようと思うのですけど」

「あ、ありがとう」

 

確かに男である織斑一夏君と寮で同室になる場合は男である俺以外にいないだろう。

俺は部屋案内をしてくれるという織斑一夏君の好意に甘えることにした。

 

 

 

トテトテトテ

ゾロゾロゾロ

トテトテトテ

ゾロゾロゾロ

 

「しかし……すごい状況だな」

「うん? 何がですか? あぁ、他に俺たち以外に男子がいないから珍しがっているんですよ。俺も最初は珍獣扱いでしたよ?」

「まぁ……そうかもしれないけども」

 

俺はそう一夏君に返す。

彼の意見は半分位しかこの状況を言い当てていなかった。

確かに、後ろに着いてきている女の子達のことも気になっているが、それ以上に俺が気まずいと思っているのは【一夏ハーレム】に『男』という理由だけで入り込んでしまったために他の子達が非常に気まずそうにしているからだ。

 

「「「「「……」」」」」

 

会話に入り込めないために、一夏ハーレムの多国籍軍団の子達は何も話してこない。

その代わり心なしか俺に対する目線がきつい。

ポニーは若干の嫉妬、金髪ロングは明らかな悔しさと嫉妬、洗濯板ツインテは目をつり上げながらの殺気、ボーイッシュな短い金髪はこの状況に戸惑いつつも、やはり俺に対していい感情は抱いておらず、最後の一人の銀髪ちびっ子はジと眼で俺を見つめている。

そしてそんな息苦しいとも言える雰囲気であるにも関わらず、渦中の人物である織斑一夏君は本当に気づいていないらしく呑気に、そして純粋に仲間が出来たことが嬉しいらしく俺に嬉々として話し掛けてきている。

 

「でも本当に助かりました。俺以外にもようやく男が入ってきてくれて」

「まぁ……確かにこの状況で男一人ってのはきついだろうけど」

 

だが、多分まだ君のほうが楽だぞ。

少なくとも君はここまで女子の怨念こもった目線を向けられたことはあるまい。

いや仮にあったとしても気づいていないかもしれない。

 

それに欠点もないだろうしな……

 

俺のように――――はないだろう。

 

鈍感にもほどがある……

 

周りが女の子しかいないというこの状況でも今までやってきたのはこの鈍感さが大きく作用しているに違いない。

 

 

 

そんなことを思いつつ、寮について俺は真っ先に部屋へと案内してもらった。

部屋さえわかれば後は自分で探検できる……変な意味はない……からだ。

というかまずはこの状況をどうにかしたい、脱したい。

具体的にはこの多国籍ハーレムの重圧から解放されたい。

 

「ここが俺たちの部屋ですね」

 

寮のとある一室に案内をされて俺はすぐさまドアを開けて部屋へと入った。

さすがに部屋の中まで入ってくる気は無いらしい。

ようやく女子の視線による重圧から解放された。

 

「ぐあ。きついな」

 

俺はすぐさまイスにドカッと腰を落とす。

視線による重圧があまりにも重かった。

物理的に感じるほどの視線だった。

特に織斑教官の特別授業が全校に知れ渡った放課後。

 

「やっぱりきついですよね。俺も慣れるまでは苦労しました」

「そうだろうね」

 

男二人になってようやく少し気が楽になった。

俺はとりあえず制服の上着を脱ぎ、玄関に置かれている段ボール箱を二箱、俺が使うと思われるベッドのそばへと運んだ。

 

窓際か……。ちょっと困るが……まぁいいだろう

 

窓際に面した方のベッドはすでに織斑君が使っているらしく、使用されている感があった。

任務の都合上、できれば窓際がよかったのだがそこまで神経質になる必要性はないだろう。

 

スペックを見る限り、防弾性だしな……

 

「それ、門国さんの荷物ですか?」

「あぁそうだよ。それと織斑君」

「はい?」

「確かに俺は年上かもしれないが、ここではそう言った事はなしにしてくれないか? 敬語を使われるのは余り慣れていないし」

「え、でも……」

「気にしなくていいよ」

 

ずっと気になっていた事だが、やはり敬語はちょっと嫌だった。

まぁ彼からしたら年上の俺にタメ語というのは少々やりにくいかもしれないが。

 

「えっと……わかった。門国さん」

「名前も呼び捨ててでかまわないよ」

「え、マジですか? ……わかったよ門国」

 

若干ぎこちない口調ではあったが、俺の望み通り織斑君は俺の望みを叶えてくれた。

 

「織斑教官が言っていた通り、君は優しいな」

「千冬姉が? ……そういえば結構親しそうにしてま……してたけど、千冬姉とはどういう関係なんだ? しかも教官って?」

 

さすがに実の姉の事になると態度が変わった。

どうやら姉弟共に仲がよく、相手の事を大切に思っているみたいだ。

 

「別にたいした事じゃないよ。俺が自衛隊にいたときに織斑教官が自衛隊の臨時顧問として来たときに知り合っただけだから」

「臨時顧問? 千冬姉、自衛隊にも行ってたのか?」

「あぁ。聞いてないのか? ドイツの臨時教官をしたからその流れで本当に一時だけ自衛隊に来てね」

 

俺の言葉に織斑君は首を振った。

どうやら本当に知らないらしい。

まぁ知り合ったといってもその時の織斑教官のIS整備をしていた俺に興味を持たれてしまって(・・・・・・・・)、もしくは目をつけられて、自分の訓練に俺を利用していただけだったのだが……。

しかもなんか知らないがその時織斑教官が使っていたのISの整備を俺が何故かやることになったのだ。

それから俺は織斑教官の下っ端になった。

食事時によく弟の話をしていたのを思い出す。

 

「ところで俺はもう晩飯を食いに行こうかと思うんだけど、織斑君はどうする?」

「え? もう行くの?」

「あぁ。今なら時間的に早いから人も少ないだろうし」

 

食事の時もあの視線にさらされたら俺は本当に胃を痛めてしまう。

ならばさっさと食べて部屋に引きこもった方が安全だ。

 

「さすがに早いから俺はまだいいや」

「そうか。わかった」

 

そう返してくれるが実はほっとしていたりする。

織斑君には悪いが織斑君と一緒に食事に行くのもあまり歓迎したくなかったからだ。

別に織斑君自身が嫌いではなく、一夏ハーレム軍団が間違いなくついてくる、と思ったからだ。

 

さすがにいわれなく敵視されるのはごめん被りたいしな

 

一緒に食事に行こうものなら間違いなく敵視されそうだ。

俺は内心ほっとしつつ、そのままドアに向かった。

 

「あ、門国」

「ん?」

 

そうして靴を履いていると、後ろから声が掛けられた。

 

「どうした?」

「俺も君付けじゃなくて呼び捨てにしてくれよ。出来れば下の名前で」

「え? マヂで?」

 

一瞬拒否しそうになり、言葉が出そうになったのを飲み込んだ。

確かに人に呼び捨てを強要しておいて、自分だけ君付けはよくなかったかもしれない。

俺は立ち上がって後ろを振り向いてこういった。

 

「わかったよ一夏。なら俺の事も護って呼んでくれ」

「わかった。これからよろしくな、護」

「こちらこそ」

 

そう言って俺たちは互いに笑みを交わした。

 

どうやらうまくやっていけそうだな……

 

若干不安だったのだが、どうにかやっていけそうである。

そうして一日にしてどうにか同じ境遇の織斑君……ではなく一夏と親しくなった俺であった。

 

 

 

 




ルビを直したつもりが治っていなかった……

今度は大丈夫だと信じたい……

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