IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

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戦闘

『お兄ちゃんと織斑君がタッグを組んで敵フレイヤタイプ1に攻撃を敢行。その間残った四人は残り二機の足止めを行います。ただし回避が最優先。無理だけは絶対にしないこと』

 

更識のこの言葉を元に、俺たちは行動を開始する。

まずおれと一夏が並んで敵フレイヤ型1へと攻撃を行う。

シールドエネルギーの積層展開を、以前と同じように手首から先に展開しているので、レッドバレットは一度しまっている。

 

「行くぞ一夏!」

「あぁ!」

 

縦列に並び、俺と一夏はフレイヤタイプ1へと突進する。

それを見て、敵は後退しながら左腕に搭載されているレーザーを連発で放ってくる。

俺はそれをことごとく、前羽命手の積層展開ではじいた。

そして敵へと接敵し、俺はブレードを展開し振り上げた。

 

「おぉぉぉぉぉ!!!!」

 

振り下ろされたそのブレードを、敵がその広大なエネルギーシールドにて防御する。

しかしそれは問題ではない。

こちらの本命は……

 

「一夏!」

「おう!」

 

俺の後ろより一夏が敵へと斬りかかる。

すでに展開装甲によって発動している零落白夜が敵へと迫るが……

 

フワッ

 

それを敵は、人間では不可能な機動で回避する。

無人機ということはわかっているのだが、そのあまりにも人間離れした機動は気持ち悪いほどにすごかった。

だがそれに見とれているわけにも行かない。

敵がよけつつも、こちらに銃口を向けてきている。

 

「くっ!」

 

瞬時に一夏の前に躍り出て、俺は敵の攻撃をはじいた。

 

「すまない護」

「大丈夫だ。だが……」

 

速攻で片付けなければいけないと状況下の焦りが、こちらに余裕をなくさせる。

加えて言えば、俺はあまり三次元機動が得意ではない。

長期戦は出来ない。

しかし強敵相手に速攻というのは難しい。

 

どうする!?

 

 

 

 

 

 

まずいね……

 

わかっていたことだけど、相手があまりにも強い。

どこの誰が設計したのか知らないけど、この機体は相当に強い。

仮にこちらがシールドエネルギーの妨害を受けていなかったとしても、早々簡単には勝てない相手だというのは、機動を見ていればよくわかる。

 

『くっ! 一夏、まだ終わらないのか!?』

『わかってる! だけど箒、こいつ動きが……』

 

ゴーレム型の攻撃は、ほとんど動かずにその圧倒的な火力を持ってこちらへと攻撃を仕掛けてきている。

あまりに膨大な数の攻撃に、こちらは攻撃よりも回避に専念せざるを得なくて……。

一発でももらうわけにも行かないこの状況が、私たちを追い詰めていた。

もう一機のフレイヤ2には簪ちゃんと山田先生が対処しているけど、簪ちゃんがまだ恐怖がぬぐえていないのか、ほとんどダメージを与えていなかった。

 

長引けばそれだけ不利になってしまう……

 

この場には、私にとって大切な存在が二人もいる。

とくに一人の方は自分のことを全く顧みない人だから……。

お兄ちゃんの技量は信じているけど……でも、三次元機動を行っている以上、いつもより消耗は激しいはず。

 

「箒ちゃん……。お願いがあるの……」

『え?』

 

互いに敵の攻撃をよけながら、私は箒ちゃんに話しかけた。

命令ではなくお願いを言ったことで、驚いているのかもしれない。

箒ちゃんの驚く顔が横目に見えた。

 

「敵を壁際まで追い詰めて、体制を何とかして崩して。その瞬間に……切り札を使って一撃でしとめるわ」

 

それはミステリアス・レイディの奥の手。

これを使えば私もただじゃすまない。

だけど、そうでもしないとお兄ちゃんがまた無茶をしてしまう。

今でも十分無茶をしている。

でも……嫌な予感がしてしょうがないのだ。

今朝からずっと……。

 

 

 

だから……私が守らないと……

 

 

 

 

 

 

自分のことを全く考えないあの人を……。

 

 

 

 

 

 

「出来る?」

『……何とかしてみます!』

 

キッと目を細めて、箒ちゃんが敵へと突貫する。

それに追随し、私は敵の攻撃を封じるために蒼流旋に装備されているガトリングで敵を攻撃する。

 

ガガガガ!

 

ガトリングから放たれた弾丸すべてがその広大なシールドによってはじかれる。

これで敵が倒せるなんて思っていない。

一瞬でも敵の攻撃を阻害できれば……。

そしてその隙を……箒ちゃんが見逃すわけもない。

 

『はぁぁぁぁぁ!!!!』

 

裂帛の気合いとともに、手にした二刀のブレードを敵へとたたきつける。

展開装甲すら用いたその強烈な一撃は、無人機の相手を吹き飛ばすには十分な威力を秘めていた。

そしてその体制を崩した相手を逃すわけにはいかないので、私はすぐさまに瞬時加速(イグニッション・ブースト)で、相手へと近寄り、蒼流旋を相手へと突き刺した。

 

……堅い!

 

敵の装甲は思ったよりも堅いのか、ナノマシンの力を用いて旋回している蒼流旋の一撃はほとんど刺さっていない。

そして突き刺した蒼流旋を抜こうともがく敵に対抗して、抜かせまいと私は力を入れる。

このままではせっかくのチャンスが無駄になってしまう。

だから私は早急に手を打った。

 

「箒ちゃん! 私の体を後ろから押して!」

「えっ!? は、はい!」

 

箒ちゃんにお願いをして私ごと敵を壁へとたたきつけようとする。

その私たちの動きは、もう一体のフレイヤタイプが襲いかかってくるけど……。

 

「行かさない!」

 

山田先生がレッドバレットを使用して、敵を遠ざけてくれる。

簪ちゃんも、少し恐れながらも、敵へと攻撃を仕掛けて牽制してくれている。

 

……あ~あ。どうしてこうなっちゃうかなぁ

 

正直……無事に終わると思っていなかった。

きっとまたどっかの誰かさんが、織斑君を狙ってやってくるって。

それは裏の情報でもわかっていたことだし、仮にそれがなくても安易に予想できた。

だけど……それでも私は普通に一回戦をしたかったのだ……。

 

 

 

簪ちゃんとの……一回戦を……

 

 

 

手遅れではないけれど……でも言葉で語って終わるほど簡単ではなくなっていて……

 

だからこの戦いで……互いに本気になって戦えば……

 

何かが変わると思った……

 

 

 

うぅん……。仮に変わらなかったとしても、絶対に何とかした……

 

 

 

けど現実はこんな状況で……

 

それどころか山田先生までいる始末……

 

ここで抜けてしまったら、きっとお兄ちゃんは傷つくし、差をつけられてしまうかもしれない……

 

だけど……これ以上お兄ちゃんにひどい目に遭ってほしくないから……

 

簪ちゃんを……速くこの恐怖から解放してあげたいから……

 

 

 

だから……

 

 

 

 

 

 

私は!!!!

 

 

 

 

 

 

行くよ……ミステリアス・レイディ!

 

 

 

 

 

 

自分の相棒へと……そう呼びかけるとともに、私は覚悟を決める。

 

 

 

「ミステリアス・レイディの最大火力……受けてみるといいわ……」

 

 

 

その言葉とともに、体を覆うように展開していた水がすべてが、蒼流旋へと集まっていく。

 

防御用に装甲表面を覆っているアクア・ナノマシンを一点へと集中して放つ……一撃必殺の大技……。

 

不吉な気配を感じてか、敵が大型のブレードで私を斬りつけて、何とか逃げようと試みるけど……私は意地でも相手を逃がさなかった。

 

「箒ちゃん、離れて……巻き込まれるわ」

「え?」

 

私を手伝ってくれた箒ちゃんが傷つかないように、虚を突いた瞬間に私はさらなる加速で箒ちゃんから離れる。

 

この子も妹みたいな物だから……

 

私と同じ悩みを持つこの子を守りたくて……

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)で敵を壁へとたたきつけた。

 

 

 

そしてその瞬間に……引き金を引いた……

 

 

 

 

 

 

【ミストルテインの槍】発動……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

!!!!!!!!

 

 

 

轟音がアリーナを駆け抜けて……

 

いけないと思いつつも……私はそちらへと目を向けて……

 

 

 

目を疑った……

 

 

 

……ぇ?

 

 

 

ゆっくりと……ゆっくりと……

 

それはまるで、スローモーションのように流れていて……

 

だからなのか……

 

それとも違うのかわからない……

 

 

 

……な……んで?

 

 

 

見覚えのある水色の装甲……

 

それは誰よりも嫌いな人が身にまとっていた物で……

 

そしてそれが見間違いでないことが……その後に続く動く物が証明してくれた……

 

ゆっくりと……

 

ゆったりと……

 

 

 

それが……

 

 

 

倒れていった……

 

水色とは違う、赤い何かを……

 

まき散らしながら……

 

 

 

……お姉ちゃん?

 

 

 

地面へと倒れたその人は……ぴくりとも動かなくて……

 

いつもの笑顔は浮かべていなくて……

 

その笑顔が嫌いだった……

 

何でも出来るお姉ちゃんの自信に満ちあふれたその笑みが……

 

だから、その笑みを浮かべてないことは……嬉しいことのはずなのに……

 

なのに……

 

どうして……

 

 

 

こんなにも……心をかきむしるんだろう……?

 

 

 

ぐにゃりと……視界がゆがんで見えた……

 

 

 

……どうして?

 

 

 

大嫌いだけれど……誰よりも尊敬してて……

 

私と違って何でも出来て……

 

私と違って優秀で……

 

私と違ってかっこよくて……

 

それなのに……

 

 

 

嘘……だよね?

 

 

 

口元に手を当てて、吐き気をこらえた……

 

恐怖はいつの間にか吹き飛んでいて……

 

そして私はそれを見た……

 

 

 

無人機故の無機質で無感情なそのフォルム。

 

 

 

華奢に見えるその体躯からあり得ないほどの力を出していて……

 

その体には異質な巨大な腕が……それとは反比例するかのように鋭い刃を持った腕が……

 

 

 

その存在すべてが……

 

 

 

 

 

 

■い!!!!

 

 

 

 

 

 

そう認識した瞬間に……私は相手へと突進していた。

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

自分が出した物とは思えないほどの声量が、ほとばしった。

スラスターを最大出力で展開し、瞬時加速(イグニッション・ブースト)で相手へと詰め寄る。

ない交ぜになってしまった……胸の内に宿ったそれを乗せて、薙刀をたたきつける!

 

!!!!

 

だけどそれは敵によってあっさりと破壊されて……だけどそれで止まらなかった……。

 

「わぁぁぁぁっぁ!!!!」

 

何かをはき出すかのように……私はさらに荷電粒子砲を構えて、それをむちゃくちゃに打ち込んでいた。

たまらず相手が後退するのを追いかけて、それでも荷電粒子砲を連発した。

 

「あぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

何が何だかわからなかった。

見た物があまりにも信じられなかったから。

だからこれは夢……。

きっと夢で……。

だってそうじゃないとお姉ちゃんが……。

 

カチリ

 

そうして意識が暴走していた私を我に帰させる感触が、指先へと帰ってきた。

それは、荷電粒子砲の引き金で……。

 

……え?

 

何度引いても、それはむなしい感触を返してくるだけで……。

その感触が……これが夢ではないといっていた。

そして私へと迫る……敵のブレード……。

 

……ぁ

 

それを見ても、何とも思えなかった。

あまりにも無感情に襲ってくるそれを、認識できていなかった。

 

『やらせません!!!!』

 

そんな私を守るために、山田先生が、レッドバレットで敵を足止めしてくれる。

その足止めによって生まれた一瞬の時間を……白い騎士が飛来した。

 

『おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!』

 

敵の背後から織斑君が、その剣をたたきつけた。

単一使用能力(ワンオフ・アビルティー)の零落白夜の渾身の一撃を食らってか、敵はそのまま吹き飛ばされてぴくりとも動かなくなった。

 

 

 

 

「大丈夫か簪!」

 

あまりにも無謀につっこんでいった簪を何とか救えることが出来て、俺は胸をなで下ろしていた。

荷電粒子砲のエネルギーが切れたことで冷静になったのか、

 

「あ、うん……。ありがとう」

「箒! 更識先輩は!?」

『……大丈夫だ。意識はないが命に別状はないみたいだ!』

 

倒れた更識先輩を介抱していた箒からのその言葉に、俺たちはほっとした。

けど……

 

『なるほど……それは好都合だ』

 

その言葉に驚いて、声の主の方を見る……。

けどそれは、この場において誰もが予想だにもしなかったやつで……。

 

「護!? お前……」

 

そう……そんな絶対に言うはずがないと思っていた護だったのだ。

 

『更識のおかげで敵が一体減り、そして今の一夏の攻撃で残りは一体。それに対してこちらは五人。十二分に勝機はある』

『『『『!?!?』』』』

『貴様、本気で言っているのか!?』

 

そばで看病した箒が激昂した。

だけどそれに対しても護は冷静だった。

 

『命に別状がないのならば、むしろ喜ぶべきだ。敵は一夏が狙いである可能性が高い。ならば行動不能になった人間を、敵は狙わないだろう。むしろ安全だ』

『……!!!!』

 

今の言葉に、簪が憎悪の目線を護へと向ける。

それを止めないといけないのだけど……俺にはあまりにも意外でびっくりだった。

 

……どうしたんだ護!?

 

許嫁って話もあるほどに親しい間柄の更識先輩に対して、どうしてそこまで冷たく出来るのか……。

普段だって、二人はとても固い絆で結ばれているように、仲がいいのに……。

 

 

 

『みなさん、落ち着いてください』

 

 

 

そんな不穏な空気を、一蹴する凜とした声が響く。

普段の言動……というか、おっとりした雰囲気が完全に吹き飛んでいる山田先生だった。

以前、セシリアと鈴と模擬戦を行ったときよりも、さらに冷静で真剣だった。

 

『門国さんの言うとおり……とまではいいませんが、こちらが有利なことに代わりはありません。すぐに残った一体を倒して、更識さんを医務室へと運ぶのを優先してください』

 

その言葉に、俺たちははっとした。

今は敵の妨害でアリーナの外へと出ることは出来ない。

早めに終わらせればそれだけ早く治療ができる。

 

……それがわかってたから冷静だったのか?

 

護の真意はわからないけど、でも山田先生の言うとおりだったから……。

 

『フォーメーションは先ほど同様で……門国さんの後ろに織斑君。私たち三人はそれのフォーローを。更識簪さんは、確かミサイルを積んでましたよね? それで牽制を。みんな決して無茶だけはしないでください!』

『『『『了解!』』』』

 

その言葉で俺たちは再び行動を開始する。

一国も速く更識先輩を救うために……。

 

行くぜ! 白式!!!!

 

 

 

 

 

 

……本当は一番心配なのに、無理をしてるんですね

 

私の指示に従ってそれぞれが動く中で、ちらりと私はそれとなく門国さんへと視線を投じる。

冷徹に、そして冷静に任務を全うしようとしている姿が……痛々しかった。

それに……右手を強く握りしめているのがわかったから。

確かに、ISで確認した限りでは命に別状はないと思う。

 

だけどそれだけで……ここまで冷徹になれるのだろうか?

 

不思議に思った私は、敵が攻撃してこないことをいいことに、門国さんを見た。

 

『かど……』

 

そのとき……少しだけ唇がうごいているのが見えた。

それは残念ながらわからなかったけど……けど、悲しみに耐えていることだけはよくわかったから……。

それだけではなく、先ほどの爆発を鑑みれば更識さんの体もあまりよい状態とはいえないはず。

一刻も早く敵を倒さなければいけない。

教師として……

 

そして一人の人間として……

 

『無茶をする可能性がある』

 

その織斑先生の言葉は、悲しいことに現実へとなってしまった。

この状況では、門国さんが無理をしてしまう可能性が非常に高い。

それこそ自分の体が傷つくのをいとわずに、何とか事態を収拾しようとするかもしれない。

 

……そんなことさせない!

 

それを防ぐために私は今ここにいる。

この人に対する想いがどういった物なんかまだ私にも明確には掴めていない。

だけど、幾度もお世話になったこの人のことが心配だし、すごく気になっている……。

 

 

 

恋をしている……そう言っていいと思う……

 

 

 

今まで女子校育ちで男の人とほとんどふれあったことがなかったって言うのも大きいと思う。

だけど、それだけじゃないっていえるから……。

 

言ってみたい……

 

言ってあげたい……

 

 

 

私のこの気持ちを……

 

 

 

どんな反応が返ってくるのかわからない……

 

ひょっとしたら嫌われてしまうかもしれない……

 

それ以前に……ふれることすらも出来ないかもしれない……

 

 

 

あんな辛い記憶を背負っていたなんて……

 

 

 

『兵器を扱っている自覚が希薄すぎる……』

 

 

 

以前門国さんが言っていた言葉……

 

命という物がどれだけもろいのかということを知っているからそんな言葉が出たんだと思う……

 

そしてそれによって苦しめられてきた人……

 

その傷を埋めてあげることが……癒してあげることが出来るのかはわからない……

 

母性本能をくすぐるような……彼の存在……

 

年下の小さな男の子を見守ってあげたいと……

 

時には守ってあげたいと……

 

 

 

救って……あげたい……

 

 

 

そんな気持ちを抱いている……

 

 

 

 

だからほっとけない……

 

ほうっておけるわけがない……

 

 

 

あんなにも傷つき、泣くことすらも我慢している……

 

 

 

 

 

 

そんな(子供)を……

 

 

 

 

 

 

だから……私はここにいる……

 

 

 

今再び、私は自分の役割を再確認した。

だから……この戦いを終わらせて、そして彼を救うんだ……。

 

 

 

いろいろと助けてくれて……命を救ってくれた……

 

 

 

年下の男の子を……

 

 

 

 

 

 

『おぉぉぉぉぉぉ!!!!』

 

唸りを上げて迫る絶倒の剣を、それはその巨躯に見合わぬ動きで回避する。

さらに双刃の刀がそれへと迫るが、それは巨大なエネルギーシールドを展開して防いでいた。

 

『なっ!?』

 

それに驚き、箒が悲鳴を上げたときには、それは行動をしていた。

 

『ぐっ!?』

 

振られたその巨大な腕が箒の前腕へと突き刺さり、その衝撃が箒の体を揺さぶった。

そしてそれと同時に吹き飛ばされる。

 

『箒ぃぃぃ!!!!』

 

一夏の悲鳴にも似た絶叫がアリーナを木霊する。

その一瞬の隙を見逃さず、巨大な腕を振りかざし、先端より巨大な熱戦をはき出した。

 

『させん!!!!』

 

一瞬にて迫るそれを、護が積層展開したシールドエネルギーではじき飛ばす。

攻撃後のその隙を、二体の機影が迫った。

 

『はっ!』

 

後方より接近した真耶がそれに向かって銃口からいくつもの弾丸をはき出した。

しかしそれも巨大なエネルギーシールドで防ぐ。

 

『やぁぁぁぁぁ!!!!』

 

それを切り裂くかのように、簪が展開した薙刀を振りかぶって、怒りをぶつけるかのように勢いよくたたきつける。

だがそれすらも、そのエネルギーシールドの前には無意味だった。

防がれたそのエネルギーシールドの先から、敵が何か行動を起こそうとしたのをみて、簪の顔に恐怖が刻まれる。

それが発射される前に、護が簪の前へと躍り出ていた。

移動のエネルギーすらも乗せた、そのブレードをたたきつけた。

 

『おぉぉぉぉぉ!!!!』

 

カウンターではなく、自ら攻めたその行動は、あまりにも荒々しかった。

だが立て続けの全力の攻撃に敵も少しひるんだのか、後方へと回避した。

全員が全員……疲労のピークへと達し掛けていた。

 

……きつい

 

己の限界が近いことを、護は己でよく理解していた。

二次元機動ではなく、三次元機動を行わざるをえないこの状況。

さらには紛れもない実戦という事実が、軍人でもある護からも、じわじわと体力を奪っていった。

護にとって死はそれほど恐ろしい物ではない。

だがそれ以上に恐ろしいことが起こりえる……起きてしまう可能性が高い。

それが何よりも護の疲弊を招いている……。

 

このままでは……

 

 

 

全滅してしまう……

 

 

 

全員の脳裏によぎったその最悪の事態は……まるでそれがカウントダウンの合図であったかのように……

 

カチリ

 

カチリ

 

と……

 

動き始めていた。

 

 

 

 

 

 

「う~ん、予想よりもおもしろくないなぁ~」

 

薄暗い部屋にて、そんな声が響いた。

光源はその声を発した人物の前のモニタのみだった。

その光に照らされた表情は、落胆という物をまさに体現した……というほどにがっかりした表情だった。

モニターに映し出されているのは、IS学園に奇襲してきた所属不明のISの内の三体、一夏と護がいるアリーナの映像だった。

映像を見ればそれが、巨躯のISの視点だと言うことがわかった。

その映像を見ているのは、奇襲させたISを製造し、学園へと送り込んだ張本人、篠ノ之束だった。

 

「この不思議な固まり君なら、私の理想の形の一つに近いと思ったんだけどな~。見込み違いだったかな? まぁ箒ちゃんでもちーちゃんでもいっくんでもないからどうでもいいんだけど」

 

それでも、その表情には確かな期待の感情が見え隠れしていた。

稀代の発明家といっても過言ではない、篠ノ之束がいう理想。

彼女自身にとって、地球という入れ物はあまりにも小さかったのだ。

だからこそ彼女は入れ物の外……宇宙に憧れた。

ISを開発しようと思ったのは、それが起因していた。

だがそれを開発し、世界へと解放したことによって幸か不幸か……外だけではなく、内にも興味がわいてしまった。

彼女の知的好奇心を刺激する物……それらは彼女にとって非常に貴重といって良かった。

篠ノ之箒、織斑千冬、織斑一夏……この三人だけはある意味で一線を画しているが、それでも彼女にとってこの三人がもっとも興味の対象だったと言っていい。

そこに現れ、そして彼女のわからないことを行い、さらには彼女にとってのもう一つ思い描いた姿を体現しようとしている……と束は思っている……男は非常に興味があったのだ。

 

それこそ、一種の治外法権区といってもいいほどのばしょである、IS学園に戦力を投入するほどに。

 

彼女にとってISに属することで不可能はないといっていい。

 

だが不可能ではないだけであって、実現が容易でない物も存在する。

 

それを実現しようとしている男がいたのだ……。

 

だからこそ束は、少なくない危険を犯してISを学園へと送り込んだのだ。

 

 

 

だから……

 

 

 

 

 

 

「見せてくれないと……困るなぁ……」

 

 

 

 

 

 

そばにその笑みを見る者がいれば、ぞくりと……身震いしてしまうほどに邪悪な笑みを浮かべた。

邪悪な笑みといっても、表情そのものは笑顔だった。

だがその笑顔からにじみ出ていた邪悪な感情は……実に恐ろしい物だった……。

その笑顔を浮かべるその視線は、画面の一点へと……真っ黒な装甲を身に纏った人物へと向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




わ~い
来週もっとも書きたかった話があげられる!



お楽しみに~♪

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