IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

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終わりの始まり

「う……」

 

ゆっくりと意識が浮上していく。

いつ寝たのかわからないが……どうやら目を覚まそうとしているらしい。

しかしそれを拒んでしまう自分がいた。

 

……すごく、気分がいい

 

これ以上ないほどに、心地よいまどろみだった。

そのまどろみがものすごく甘美なもので……俺はそれをずっと感じていたいとおもった。

こんなことは、少なくとも自分が知る限りでは初めてだった。

訓練を行っていたので、寝起きはかなりいい。

いつもの目覚める時間には自然と目を覚ますのだが……今回に限ってはなぜか、これをいつまでも享受していたかった。

 

なぜだ?

 

こんな気分になるのも、そして何よりもこんな気持ちに陥ったのは……おそらく人生で始めてではないだろうか?

 

そもそもにして俺はいつ寝たんだ?

 

寝た記憶がない……。

正しく言えばいつものように寝た記憶がないのだ。

放課後があり、夕食を食べ、入浴して、そして報告書を書き上げて、ちょっとした訓練をして寝る……というのが俺の日課なのだが……。

そしてその回答が……俺のすぐ上からもたらされることになる。

 

 

 

「あ、起きました?」

 

 

 

 

 

 

「………………………………………………はい?」

 

 

 

 

 

 

真上……それもほとんど距離がない位に間近で声がした。

それに驚きつつも俺はまぶたを開くとそこに……。

 

 

 

「まさか一時間近くも眠ってしまうなんて、私も予想できませんでした」

 

 

 

満面の笑みを受かべている人がいた。

 

身長はやや低めであり、彼女自身よりも年下の生徒達とほとんど大差がない。

 

おっちょこちょいというか、頼りげないというか……思わず守ってあげたくなるような感じをしている。

 

服のサイズも合っていないのか、だぼっとしており、それがますます本人を小さく見せている。

 

だがその胸囲は驚異的なことは俺だけでなく、誰もが一目見ればわかることだ。

 

さらに言えばすごい童顔であり……すごいアンバランスな感じである。

 

やや大きめの黒縁眼鏡の先にある笑顔がものすごくかわいらしいことを俺は知っていた。

 

 

 

長々と口上というか……その人に対する俺が抱いている感想というか感情などを述べたが……

 

 

 

ようするに……俺は誰かに膝枕をしてもらった状態で寝っ転がっていて……

 

 

 

 

 

 

そしておそらく膝枕をしているのが目の前の人物であることは想像に難くない……

 

 

 

 

 

 

そんな状況で俺の目に映るのは……山田先生であって……。

 

 

 

 

 

 

「……うぁ?」

 

 

 

 

 

 

ちなみに上記の思考に要した時間は一瞬の時間である。

 

 

 

 

 

 

そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃhp;dふぁs:¥f、1.・zxqぇfwl;y・cおkm!?!?!?!?」

 

 

 

何だか全く聞き取れない声を発しながら……門国さんがものすごい勢いで転げ落ちて、その回転のままに屋上の柵のところまで転がっていった。

 

ってはや!?

 

恐ろしいほどの速度で転がっていって、柵にぶつかりつつもその勢いのままに立ち上がっていた。

そのまま柵から下へと落下してしまうんじゃないほどの音が鳴っていた。

 

「だ、大丈夫で……」

「……え、え? こ、これはいったいどういう……」

 

? 記憶が混乱してる?

 

何が何だかわかっていないかのように、目を白黒させていた。

基本的に冷静というか……自分をぶらさない門国さんがあわてているのがすごく印象的だった。

 

というよりも……すこしかわいい?

 

「えっと……覚えてませんか?」

「……………………何をでしょう?」

「試合の後……屋上にきて門国さんのお話を聞かせてもらってそれで……」

 

そういえば……私こんなに年の近い男性と二人きりの状況って、初めてもかもしれない

 

そこでふとこんな思考が頭をよぎったけど……そこで取り乱すわけにはいかなかった。

このまま放っておいたら、門国さんが柵から先へと落っこちちゃいそうだったから……。

 

「その……私が抱きしめたら門国さんが寝ちゃって、それで起きるまでそばにいたんですけど……」

 

抱きしめて少ししたら、門国さんはいつの間にか眠ってしまっていた。

起こすには忍びなかったので、私は門国さんに膝枕をしてあげると、すごく安心したような表情で、門国さんは眠っていた。

そのあまりにも無防備な表情をしたこと、そして私が門国さんを安心させてあげられたことが……すごくうれしかった。

そうして、私が密かにそんなことを思っていると……私の言葉で先ほどまでの状況を思い出したのか、門国さんが絶句したその瞬間……

 

 

 

ボンッ!?

 

 

 

音が鳴ったんじゃないかと錯覚するほどに、門国さんが顔を上気させて真っ赤になった。

それがあまりにもうぶな少年に見えてしまって……それになによりも、素な門国さんで……私はそれがすごくうれしかった。

学園にきてからはほとんど苦手な女性ばかりで、ほとんど「自分」というものを出していなかったから……。

それは家でさえも一緒で……。

 

 

 

もしかしたらこのとき初めて、私は「護」さんの本当の姿を……見たのかもしれない。

 

 

 

「……う、うぅ…………」

 

 

 

そしてその当の本人は……。

 

 

 

 

 

 

「し――――」

「し?」

 

 

 

 

 

 

「失礼いたします!!!!!」

 

 

 

 

 

 

敬礼みたいなものをした後に……門国さんはそれはもう高速で走り抜けていった。

いつもはびしっとしてて私よりも年上に見えてしまうのに……今はまるで恥ずかしくて逃亡した少年のようで。

このあまりにもすごいギャップに……私は不謹慎にも、門国さんのことがすごくかわいいと思えてしまった。

 

喜んでばかりも……いられないけど……

 

門国さんの女性が苦手という体質。

何か理由があるとは思っていたけど、まさかこんなにも深い理由があるとは思っていなかった。

それも家庭の問題という……教師だけではとても出はないけど深く入り込むことはできない問題だ。

 

けど……

 

それでも少しでも軽くしてあげたい。

もっと門国さんに……自然体でいてほしいから……。

 

 

 

もっと……近づきたいって思いも確かにある……

 

 

 

けど何よりも……

 

 

 

 

 

 

「私は先生ですから!」

 

 

 

 

 

 

生徒のことを放っておくなんてことはしたくないから……。

 

だからできることでいいから……私はがんばっていこうって……。

 

 

 

 

 

 

そう決めたんだけど……

 

 

 

 

 

 

私は結局……何の役にも立てなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死ぬほど恥ずかしい……それこそ死ねるのならば今すぐ自殺したいほどに……ことがあってから早数日。

その日以来、山田先生とほとんどまともに接することができなかった。

 

か、顔を直視できない……

 

基本的に山田先生とは接しないように行動した。

何を言えばいいのかわからないし、どうすればいいのかもわからないからだ。

そしてそのままタッグマッチの大会当日へと相成った。

自衛官モードで対応しようとしてもどうしてもあのときのことが頭に浮かんでしまって……。

とてもではないが、まともに話すことすらもかなわなかった。

 

だが今日はアリーナにて一夏の警護だ。おそらく早々あうことはあるまい……

 

と思っていた。

そんな俺に、本日教官がいぢめのようなプレゼントをくれた。

 

 

 

~回想~

 

「本日はついにタッグマッチ本番となる。今まで下準備をきちんと行ってきたが、どれだけやっていようとも本番で何かが起きないとは限らない。全員、全力を持って任務に当たるように」

「「「「はい!」」」」」

 

午前六時。

直前の全体会議と言うことで、教員全員《+俺》が勢揃いした状況である。

皆それぞれに真剣な表情であり、この日のために準備を必死になって行っていたことが伺えた。

 

俺も一応そこそこ仕事はしていたしな

 

生徒会役員の下っ端なのでたいしたことはしていない。

それこそ更識の十分の一も仕事をしていないだろう。

 

……更識

 

俺が気絶させたが幸いにして特に異常は見あたらなかったようだった。

だがそれでも俺が更識を気絶させたのは……誓いを破ったことは事実で……

 

「考え事をしてブリーフィングを聞かないなど、軍人失格だぞ」

 

ゴガッ!

 

普段以上にすさまじい衝撃が俺の脳天を打ち砕いた。

あまりの痛さに思考が停止して、その場に俺はうずくまる。

 

「先日からその様子だな? いい加減思考を切り替えろ」

「す、すいません教官」

「織斑先生だ」

「はい、織斑先生」

 

何とか復帰して俺は立ち上がると、目の前の教官に視線を向ける。

一瞬だが……教官が厳しい表情から何か別の表情をした気がしたが、それを聞く前に教官が口を開く。

 

「本日の護衛行動だが、当然のように織斑の護衛を担当してもらう」

「はっ!」

 

本日はついに開催されるタッグマッチ本番とあって、教官もかなり気合いを入れているようだった。

この行事のリーダー的な立場のようなのでそれも当然かもしれないが。

しかし次の言葉で俺の思考は一瞬停止することになる。

 

 

 

「それと貴様だけでは不安なので、一夏の護衛には山田先生にも担当してもらう」

 

 

 

「……はっ?」

 

思わず素の言葉が出てしまった気がするが……それもすぐに先日の記憶が脳裏によぎって、俺は一瞬にして体が熱くなった。

 

「どうも先日から貴様の様子がおかしい。それに今回はタッグマッチだからな。護衛もタッグで組んで損はない」

「し、しかし……」

「基本的に軍事行動を行うときは二人一組(ツーマンセル)のはずだ。それにお前が護衛を行うのは一夏だ。きっと何かを起こすことになるだろう」

 

呆れ半分、心配半分といった感じに、教官はため息をついていた。

しかし俺はそれどころではなく……

 

「し、しかし!?」

「これは元教官としての命令だ。またこれは極秘だが、ある程度の命令ならば私が出してもいいという権限を、武皇将軍からいただいている」

「将軍からですか?」

「そうだ。故にこれは私と武皇将軍からの命令だと思ってくれてかまわない」

「はっ!」

 

さすがにそこまで言われては俺も断ることはできない。

それに今日の俺は自衛官としての立場であることを忘れていた。

いくらあまりにも想定外なことが起こったからと言ってこの体たらくでは……お笑いぐさだった。

意識的に意識を切り替えて、俺は教官へと再度目を向ける。

 

「申し訳ありません。少々腑抜けておりました」

「貴様は少し腑抜けている位がちょうどいいのだが……まぁいい。山田先生との護衛よろしく頼むぞ」

「はっ!」

 

 

 

~終了~

 

ということがあったのである。

まさか山田先生と護衛の任につくことになるとは思わなかったが、それでもISを……守鉄装着すれば自然と意識がシフトするだろう。

 

……守鉄……か

 

IS(インフィニット・ストラトス)の第二世代機であるラファールリヴァイブの装甲をまとった、俺の専属IS。

パワードスーツという割には、スーツという感じがあまりしない、この兵器。

 

手足伸びるしな……

 

なぜ女性しか動かせないこの兵器を、俺が使えるのかは未だに謎だが……これはいったい……。

 

 

 

「お兄ちゃん!」

 

 

 

そうして俺がぶつぶつと考え事をしていると、更識が俺の眼前へと躍り出た。

 

 

 

 

 

 

「織斑先生、私も護衛って……どういうことですか?」

 

今朝方通告された本日受け持つ私の仕事のことで、私は織斑先生に詰め寄っていた。

最初は対策本部で、各所に指示を出す織斑先生の副官的な立場だったのに、突然の変更に、私は思わず面を食らってしまった。

さらに、門国さんと一緒の護衛と言うことも、その驚きに拍車をかけていた。

命令と言うことで拒否は当然のようにできないし……する気もないですけど……すでに私はISスーツに着替えているけど……。

 

どうでもいいですけど……特注でも胸がきつく感じちゃうなぁ……

 

「そのままの意味だ。山田先生にも護衛をしてほしい」

「人手がそんなにないにもかかわらずですか?」

「そうだ……」

 

そんなに織斑君が大事なんですね……兄弟っていいものなんで―――

 

「何を想像しているのか丸わかりだぞ」

 

ガンッ!

 

「っ~!?」

 

相変わらず弟の織斑君が大事なのに、それ関係で何かを思われるのが好ましくないみたい。

けど次の言葉で、私は織斑先生が織斑君のために私を護衛に回したのではないことを知る。

 

 

 

「ちなみに山田先生の護衛対象は、門国護だ」

 

 

 

「……えぇっ!?」

 

 

 

 

 

 

「何ぶつぶつ言いながら歩いてるの? 危ないよ?」

「あ……すまない」

 

そうして肩を落とすお兄ちゃん。

予想していたことだし、だからこそこうしてお兄ちゃんの元にきたんだけど……

 

「もう。人の顔見ていきなり落ち込まないでよ」

「す、すまん」

「まぁいいけどね。何となくわかってたし」

 

そうして私は苦笑した。

きっと落ち込んでいると思ったから。

 

まぁほかにも理由はあるんだけど……

 

「生徒会長がこんなところで油売ってる暇があるのか?」

 

半分逃げるように、だけど半分は私をねぎらっての言葉で……。

顔を合わせにくそうにしているけど、でもそれ以上に私のことを心配してくれているのがよくわかった。

それが……自分のこと以上に人のことを気にかけているから……。

心配で……。

 

「お願いがあってきたの」

「お願い?」

「うん。約束してほしいことがあるの」

「聞くだけ聞いておこうか?」

 

いつまで経っても妹としてだけど、だけどそれでも昔よりはきっと意識してくれているんだと思う。

けど、私のそんな個人的な感情ではなく……更識家の当主としての私は、今日何かが起こると予感していた。

 

 

 

最上級に悪い予感が……

 

 

 

それこそ……お兄ちゃんがいなくなってしまうんじゃないかって言うほどに。

それほどの不吉な予感が……私を襲っていた。

何かが起こるのは間違いない。

けどそれはあくまでも織斑君に関することで……決してお兄ちゃんに関することではないはずだと思う。

 

織斑君には悪いけど……やっぱり私にとってお兄ちゃんは大切な存在だから

 

むろん織斑君を見捨てるつもりなんてさらさらない。

そのために抽選で意図的に私と箒ちゃんの相手に、織斑君と簪ちゃんを選んだのだから。

これにお兄ちゃんが加わればそう簡単に最悪な事態に陥るはずはないはず……。

 

……山田先生もいるし

 

すでに先日から通告をもらっている。

山田先生がお兄ちゃんの護衛を担当するって。

山田先生は代表候補生にもなった折り紙付きの実力者だ。

普段は結構抜けているって言うか……ミスをしてしまうこともあるけど、それでもあの人の実力は十分に戦力になる。

だというのに……私のこのいやな予感は全く払拭されなくて……。

 

だから……無駄だってわかっていたけど、言わずにはいられなかった……

 

 

 

「今日は……無茶しないで……」

 

 

 

それでもこの人は無茶をするだろう。

自分よりも、他者を大事にする人だから……。

それで自分がどれだけ傷つこうと……この人は……

 

 

 

お兄ちゃんは……

 

 

 

「……それは状況次第だな」

 

 

 

思っていたとおりの言葉が返ってきて、私は思わず心の底から溜息をついてしまった。

それを見てお兄ちゃんが顔をしかめていた。

 

顔をしかめたいのは私の方なのにな……

 

「無茶をしないですむ状況ならいいんだがな。一夏がらみだからそれは無理だろう。無茶を、無理をしないといけない状況で、力の限りを尽くさないわけにはいかない」

「そうかもしれないけど……」

 

これ以上言葉を重ねても無駄だと思った私は、仕方なく戦法を変えることにした。

というよりも最初からこっちにしておけばよかったかもしれない。

 

「あ~あ。あんなことされたのに私のお願い聞いてくれないんだ」

 

その言葉でお兄ちゃんの顔がものすごくこわばった。

何となくわかっていたけど、これはある意味で禁句なのかもしれない。 

きっと女の人を傷つけたことを危惧しているから。

確かに気を失ってしまったかもしれないけど、それでも私は全く問題ないから。

だから、少しでも軽くしてあげたくて、私はいつものように軽い口調で、言葉を重ねる。

 

「嫁入り前なのに~。もらい手ができなかったらどうしてくれるの?」

「名家で十二分に美人なお前だ。問題あるまい」

 

美人……?

 

まさかお兄ちゃんにそんな言葉を言われるとは思ってなくて……普段なら赤くなってしまうところだけど……。

それを押して、私はさらに口を開いた。

 

「そうかな~。私傷物にされちゃったし~。お兄ちゃんに責任とってもらおっかな~」

「傷物ってお前……」

「傷物にしたんだから、責任とって……」

 

 

 

この一言を言うのは勇気がいった……

 

だけど……

 

それでも伝えたくて……

 

 

 

私は口を開いた……

 

 

 

 

 

 

「私をお嫁さんにしてくれる?」

 

 

 

 

 

 

「門国さんの……護衛ですか?」

「そうだ。山田先生が護衛するのは一夏ではない、門国だ」

 

予想外の出来事、予想外の任務の内容に、私は一瞬止まってしまう。

その間にも織斑先生の言葉は続いていた。

 

「今回も間違いなく何かが起こるだろう。これはもう悲しいことに間違いないと言ってもいい。しかし……それが果たして誰に向いたものなのか……」

「……誰に?」

「そうだ。喜ぶべきか、悲しむべきか……この学園には世界中どこを探してもほかにない標的が二人もいる。最初の男性でのIS適合者、織斑一夏と……」

「二人目の適合者……門国護さん」

 

織斑先生の言葉の先を口にする。

それに織斑先生ははっきりとうなずいた。

 

「世界各国に、きちんと二人のデータは公表しているが、山田先生も知っての通り、全部をさらしているわけではない」

「……はい」

 

織斑君はそこまで問題はない。

だけど……門国さんのデータ。

これはほとんどが改ざんされたものを公開している。

二人の適合者によって、男性にもISを使用することができるのではないか? という理論が今結構熱い議論となっている。

だけどそれを完全に否定しかねないデータが門国さんの適性データだった。

 

適性「D」

 

これはISを稼働させることが可能というだけで、装着してもほとんどろくに動くことができない。

なのに、門国さんは候補生すらも抜き去るほどの適性と、操作技術を有していた。

それどころか単一能力(ワンオフ・アビリティー)までも使用できてしまっていた。

何度も議論を交わしたのだけど……全くわからなかった。

 

「どうもいやな予感がする。そしてあいつはどうも危なっかしくてかなわん」

「……はい」

 

先日見た、門国さんの過去。

そしてそれが起因で起こる……門国さんの異様な戦闘。

以前はすごいと思っていたけど……彼の過去を見てわかった。

 

あの戦闘方法は、危ない……

 

というよりも彼自身が非常に不安定だから……。

だから危なっかしくって……。

 

それを織斑先生も知ってるのかな?

 

人手が何も関わらず、こうして私を護衛へと回すことが、それを裏付けている気がした。

 

 

 

織斑先生も門国さんのことが……

 

 

 

「考えていることが丸わかりだ」

 

ガンッ!

 

再度げんこつが落ちてきて、私は再び苦悶した。

さすがに織斑先生も、門国さんに続いて何度も殴っているからか、右手を見ながら顔をしかめていた。

 

「全く。右手が痛くなってきたじゃないか」

「……織斑先生、私の頭はそれ以上に痛いです」

「自業自得だろう」

 

右手から痛みを追い出すかのように、手を振りながら織斑先生は呆れ気味にそう答えてくれた。

 

 

 

そうかもしれませんけど……い、痛い……

 

 

 

「別に普通だ。世話の焼ける生徒でしかない。それに私のような引っ張っていくタイプはあいつにはあわん」

 

……そう……かな?

 

よく一緒にいる……婚約者と公言してはばからない更識さんと門国さんのやりとりを見ているとそんな感じはあまりしない。

むしろあまり自分の意見を言わない門国さんにはいい気がする。

 

しかし次の台詞で、私は織斑先生からすさまじい反撃をもらうことになった。

 

 

 

「そうだな……山田先生みたいに、包み込んでやれるような優しさを持った人間なら、話は別だろうが」

 

 

 

 

 

 

「……へっ!?」

 

 

 

 

 

 

先日の屋上の出来事を、まるで見たきたかのようなその台詞に……私の思考は停止してしまって……っていうか!?

 

 

 

何でまるで見てきたかのように!?

 

 

 

「見てきたかのようにじゃない。見ていたんだよ」

 

 

 

心を読まれたって、ぇぇぇぇぇ!?

 

 

 

軽くパニック状態になってしまう。

きっと今の私の表情は、羞恥で真っ赤になっている。

だって……こんなにもほほが熱いから……。

そんな私を見て、織斑先生がニヤニヤしながら詰め寄ってきて……。

 

 

 

「どうだった? あいつの寝顔を見て? 少しは年上らしい行動ができたじゃないか?」

「ど、どうして知って!? っていうかどこで見てたんですか!?」

「まぁそこらは気にするな」

「気にしますよ!?」

 

冗談交じりにそう会話をして、私は何とか織斑先生の口撃を交わすけど……ほとんど回り込まれて撃退された。

そんな私の反応をひとしきりに楽しんだのか、織斑先生が苦笑して一つ息を吐いた。

 

 

 

「私としても……少し心配だったからな。山田先生のせいだとは言わないが、それでも先日の事件のせいで、門国が安定していない可能性もぬぐえない。格闘試合のことも含めてだが。故に山田先生に護衛を依頼した」

 

 

 

「……はい」

 

 

 

「だから、あいつを守ってやってくれ。元教官としての私からの願いでもある。ふがいない教え子をよろしく頼んだぞ」

 

 

 

そういう織斑先生の顔には慈愛に満ちていて……すごくかっこよかった。

そして、そんな信頼をされているのが……うれしかった。

 

 

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

なぜ……こんなことを言ったのか?

 

それはどうしてなのかわからない。

 

不安に感じていたからなのか……。

 

それともこれを言っておかないと……もう二度とお兄ちゃんをあえないことを予見していたのかもしれない。

 

 

 

「お前……嫁入り前の娘が、軽々しくそういうことは言うものじゃないぞ……」

 

 

 

私の言った言葉でさらにお兄ちゃんが顔をこわばらせた。

うぅん。

きっとそんなに表情に変化はないと思う。

だけど……私にはわかったから。

正直、あまり良好な関係ではなかったおじさまとおばさまのことを考えているのかもしれない。

そしてそれは私とお兄ちゃんにもいえることで……。

 

 

 

身分が……違いすぎるかもしれない……

 

 

 

でも……そんなことは関係ない。

私のお兄ちゃんに対する気持ちは……。

 

 

 

この人は本当に……世話が焼けるなぁ……

 

 

 

 

 

 

「本気だよ……私のこの言葉は……。更識楯無として、そして更識六花として……」

 

 

 

 

 

 

当主になったから好きになった訳じゃない……

 

私がお兄ちゃんのことを好きになったのは……楯無の時じゃなくて六花の時だから……

 

でもだからといって楯無としては嫌いって訳じゃない……

 

どっちの私も、お兄ちゃんのことが大好きだから……

 

 

 

 

 

 

「楯無としての、六花としての……私の、お兄ちゃんに対する気持ちだよ……」

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

まだ何も言えないのはわかっているから……だから今回はこれで終わりにしよう。

 

そうじゃなきゃ、お兄ちゃんはきっと……つぶれてしまうから。

 

少しずつ、少しずつ直してあげたい……。

 

 

 

私の大事な人を……。

 

 

 

 

 

 

「嫁入り前の女の子を傷物にしたんだから……覚悟してね、お兄ちゃん♪」

 

 

 

 

 

 

そう言って、私は返事を聞くこともなく、お兄ちゃんに別れを告げて、持ち場へと向かっていく。

 

 

 

試合もそうだけど……この不安にも打ち勝ってみせる……

 

 

 

きっと……

 

 

 

 

 

 

 

……行った……か

 

返事も聞かずに……いや、これはきっと俺を気遣ってくれたのだろう……更識が持ち場へと向かっていた。

実際タッグマッチ開催までまもなくとなっており、今こうしてぼけっと廊下に突っ立ているほど暇ではない。

まだ守鉄の最終チェックや、武装の確認も行えていないのだ。

 

だが……それをする気にはなれなかった……

 

 

 

本気……か……

 

 

 

そういった時の更識の表情に嘘はなかった。

そしてその言葉にも。

だからおそらく、あの言葉は本心なのだろう。

 

しかも幼名まで言っていた……

 

どうにも考えられないことだった。

今まではそうじゃないと思っていたが、そうじゃなかったようだ。

これで気づかないほど……俺も馬鹿ではない。

 

 

 

だけど……

 

 

 

それでどうこうすることは……俺にはできなかった。

できるわけが……ない。

女性のことを……おそれている俺には……。

 

表に出ている訳じゃないが……それでも俺が女性がだめなことに代わりはない……

 

幼少時、俺の世話をしてくれていたあの人が今どうなったかは知らない。

だがそれでも、俺が生まれた性で母上の体が弱くなってしまったのは事実で。

それによって、ぎりぎりのバランスで保たれていた父上と母上の間に溝ができてしまったのも……事実で。

 

 

 

母を知らず

 

 

 

父を知らない

 

 

 

自分のせいで……二人の関係が壊れてしまったから……

 

 

 

そんな俺が、どうして女性という物を知っているのか……。

知っているはずがない。

 

もっと言えば……恋も愛も、訳がわからなかった……。

 

 

 

 

 

それに、俺には……門国護(・・・)には荷が重すぎる……

 

 

 

 

 

 

門国という……没落寸前ではなく、没落してしまった存在と、未だに存在ずる名家では……

 

あまりにも立場が違いすぎる……

 

 

 

「門国さん?」

 

 

 

そう考えていたからか、俺は背後の気配に気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

「どうしたんですか? 廊下でたたずんで?」

 

私はそれこそ普通に声をかけたんだけど……私の声を聞いた瞬間に門国さんは……

 

 

 

ビクッ!

 

 

 

と体を震わせて……

 

 

 

ヒュパッ!

 

 

 

と擬音がつきそうなくらいに素早く動いて私から距離を離した。

 

 

 

……ここまで驚かれるとちょっと傷つくなぁ

 

 

 

まぁ門国さんだから、ある意味しょうがないのかもしれないけど。

あんなことがあった後だったし。

 

……私が意識しちゃだめだよね

 

年上として、そして門国さんの護衛として、今日は私がしっかりするって決めたから。

いつも守られてばかりだった私が、こうして秘密裏にとはいえ、門国さんを守ることができるのがうれしかった。

 

「……失礼いたしました。山田先生。少し考え事をしておりまして」

 

距離はそのままに、それにまるで上官と接するかのような口調で、門国さんが私に返事をしてくる。

格好はまだ制服のままだったけど、ひょっとしたら制服による意識転換を行っているのかもしれない。

 

制服って言えば……私はもうISスーツ姿で……

 

ビキニみたいな格好なので……ちょっと恥ずかしかった。

それがわかっているのかいないのか、門国さんも決して私の顔から目をそらさないようにして、極力視界に納めないようにしている感じだった。

無理に意識させる理由もないし、私も恥ずかしいのでそのことにはふれずに、私は言葉を発する。

 

「もうそろそろ開幕式が始まります。前回のハッキングを考慮して、私たちは試合開始前から織斑君が試合を行う第四アリーナ内部に先にピットインしておきます。だからすぐにISスーツに着替えてきてください。集合は第四アリーナのピットです」

「はっ! 了解いたしました」

 

姿勢を正し、さらには敬礼まで行って駆け足で更衣室へと向かっていった。

 

 

 

その後ろ姿が……すごくかすんで見えてしまって……

 

 

 

なぜかそれが……その後ろ姿が、すごく頭に残っていた。

 

 

 

 

 




さてさて……後五話くらいストックがあるので、近々あげますね~


賛否の感想、お待ちしており……ます……

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