IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

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待ってた方も、待っていなかった方もお久しぶりです~
いやね~先月仕事でミスしまくって怒られて凹んでたもので書く気力がwww

それで復活したら書いてはいたんだけどいつあげようか悩んでいたら三月半ばまで時間がたっていました~


んで、だいぶ方向性が変な咆哮に走る感じというか……
否意見が増えそうで怖いけど、もう終了間近まで書いちゃったんであげますね~

楽しんでいただければ幸いです



模擬戦

「ではこれより……門国護との戦闘訓練を行う。訓練だからと言って手を抜くな。これは接近戦を行う者に取っては非情に貴重な訓練だ。ないがしろにせず、きちんと己の物にしろ」

「「「「はい!」」」」

 

……結構いるな

 

ついにやってきてしまった、集団で俺をボコる……もとい模擬戦の日がやってきた。

ここはIS学園の道場。

すでに皆、道着に着替えており戦闘準備は万全である。

当然俺も道着だったりする。

左手の甲をカバーするかのような待機状態の守鉄も本日は外している。

それと同様で俺以外にも、身体の動きを阻害するかのような箇所に装備されている待機状態のISは外されていた。

一夏や撫子ポニーなんかのISがそれに当たる。

集まったのは……十数人の女子生徒と一夏。

元々この状況を作るきっかけとなった撫子ポニーは当然として、更識もいた。

 

まぁ申し込んだって言ってたもんな……

 

他には審判役なのだろう、織斑教官と山田先生がいる。

またこの本日の試合は全て録画されているらしく、リアルタイムで放送もされているらしい。

 

……好都合だ

 

本日、俺がやろうとしていることを考えれば、録画とリアルタイム放送というのは都合が良かった。

 

……俺がアクシデントで倒れたりしなければ……だが

 

女性に弱い……俺の性質。

 

 

 

性質じゃなくて……恐怖か……

 

 

 

以前……臨海学校でぶっ倒れたことのような無様な事は許されない。

そうならないように注意すべきだろう。

俺がそんな馬鹿なことを考えている状況でも、教官の言葉は続いていた。

 

「多対一でも構わないが、まずは一対一で戦うのがいいだろう。ISとは違う生身での戦闘では、まだ貴様らの腕ではこいつを倒すことは出来ない。殺すつもりでかかれ」

「「「「「はい!」」」」」

 

多対一でもいいって……というか殺すつもりって……教官……

 

軽く俺の人権というのが捨てられている会話をしていた。

さらに言えばそれを聞いてはっきりと、それはもう力強く頷く生徒達もどうなんだ?

俺と同意見なのか、俺以外の唯一の男性参加者である一夏も苦笑いをしていた。

 

まぁ実際……俺を倒せる可能性があるのは更識くらいだろうな……

 

無論この場にいる人間全員という条件が付けば、1から2に数が増えるわけだが……それはさすがにないだろうと信じておくことにした。

更識楯無。

裏の名家の跡取り娘であり、俺と幼少時より付き合いがあった人間。

裏の名家の頭首になるために相当修練を積んだのだろう。

「守る」ということのみを特化して技を磨いてきた俺でも倒される可能性がありそうだ。

油断できる相手ではない。

生身の組み手を行っていないので確かなことは言えないが……楽勝と言うことだけは確実にない。

 

さらに言えば疲弊もするしな……

 

何試合することになるかわからないが、それでも少ない事はなさそうである。

 

多対一までやるとか言い出しているし……

 

一対一なら直ぐに終わったが、パターンが複雑化する多対一まで含まれてしまってはどう考えても時間がかかる。

さらに言えば今日は休日である。

しかも休日の正午。

 

夕方までかなりの時間があるわけだ……

 

「ではこれよりくじ引きを行う。それぞれくじを引いてしばし待て」

 

俺がそうして状況を確認していると教官の無慈悲というか……開戦の合図に等しい言葉が発せられる。

それを聞き……俺は意識を戦闘態勢へと移行させる。

と言ってもすでに昨夜行っているので、一瞬で完了する。

 

……参ろうか

 

「門国……」

そんな俺へと声をかけてくる教官。

俺は静かに目を開けて、教官へと向き直った。

 

「……何をするつもりだ?」

「何を? とは?」

「しらばっくれるな。それほどの戦闘態勢は、私との試合でも見せたことがなかっただろう? 何をするんだ?」

 

さすがは教官。見抜かれておりましたか……

 

まぁ誰もが認める強者の織斑千冬が気づかないわけはないだろうとはわかっていたことだが……。

俺は静かに呼吸を繰り返し、戦闘態勢を……それこそ今すぐに教官と模擬戦を行うほどの気迫を持って、言葉を紡いだ。

 

「あの日……俺が初めてISを動かしたあの日の事件に遭遇した者として、この学園にいる人たちに俺の考えを伝えるつもりです」

「……」

 

それでわかったのだろう、教官は露骨に渋い顔をしていた。

しかし俺の態度を見ていてすでに無駄だと悟ったのか……直ぐに溜め息を吐いた。

 

「貴様は……どうしてそう自分を痛めつけるのが好きなんだ?」

「痛めつけているわけではありませんが……ただ私は……」

「そう言う意図がなくても結果がそうだというのなら一緒だろうが」

 

どうやら本気で呆れているのか再度溜め息を吐かれてしまった。

だがそれでも、俺の決意は変わらなかった。

あれを見た人間として……俺がやらなければいけないことだ。

 

おそらく反感は避けられないだろう。だがそれでも……俺は……

 

言わねばならない。

自衛隊として、整備兵として……そしてあの日の地獄を見た人間として……。

俺の覚悟のようなものを感じ取ったのか……教官は再度溜め息を吐いた。

 

「まぁ止めはしないが……死ぬなよ?」

「……そのお言葉は……その……何とかならんのですか?」

 

そんなに俺が死んでしまうと思っているのかこの人は?

 

いやそんな意図はないとわかっているのだが……それでもこう立て続けに「死ぬ」という単語を聞かされては少し怖いというか……。

 

まぁあまり死ぬことに恐怖はないのだがな……

 

それは別にいいだろう。

ともかく集中することにする。

 

……そろそろか。参ろう

 

俺の想いを言うために……。

 

ちなみに山田先生はくじ引きを引かせているために、十数人の生徒にもみくちゃにされていた。

 

「み、みなさん! 落ち着いて下さい! 別に逃げたりしませんからぁ~!!??」

 

……お疲れ様です

 

相も変わらず受難が多いようである。

 

 

 

 

 

 

それは直ぐに訪れた……。

 

……すげぇ

 

圧倒的なまでの……力量差。

すでにいくつかの試合を終えたが……護に一撃を入れることも出来ず、ただ全ての攻撃を防がれて、しばらくしてのカウンターを食らって、対戦相手は敗北していた。

千冬姉から言われているのか、それとも護の意志なのかはわからないけど、護は直ぐに倒さないで必ず数分間戦闘をしている。

その数分間、ひたすらに護の相手は攻撃しているのだけど……掠りもしなかった。

武器も使用可だから使用している人もいるけど……それでも結果は同じだった。

 

……すげぇなんてもんじゃないな

 

全ての攻撃を予見しているように、紙一重で躱したり、あるいは手で受け流していた。

その時の動作が、すごく流麗だった。

ちなみに俺も戦ったけど敗北した。

前回とは違って普通に一本取られて敗北したので意識は失っていない。

他の子達も同様で、意識を失った子は今のところいなかった。

 

勝てる奴は……いないだろうな

 

千冬姉すらも倒せなかった相手だ。

その千冬姉に指一本も触れられない俺たちが勝てるわけがない。

 

可能性があるとしたら……箒とか更識先輩とか?

 

護ほどの訓練を行った奴はこの中にはあまりいないだろう。

それこそほんの一握り……軍人であるラウラや箒、そして更識先輩くらいのはずだ。

でもそのラウラも……見事に敗北していた。

軍隊格闘はかなりの腕前なのは見てわかったけど、それでも護に全て防がれていた。

今はとても悔しそうにしながら、睨みつけるようにして試合を見つめている。

 

そして……今行われていた試合も終わった。

 

もちろん結果は護の勝利だ。

一度も危なげな目に遭わず、護は相手に綺麗に一本を取った。

 

まぁ護の性格上、基本的に当て身というか……打撃形で一本取っているのが護らしいな……

 

柔術も使えるみたいな事を言っていたから寝技ももちろん使えるのだろうけど……まぁ俺も相手が女の人だとそんなことは出来ないけど。

それにそんな必要性はないのだろう。

どの試合も危なげなく終えているのだから。

そうして俺が物思いにふけっていると、試合後の礼も終わっていた。

 

「次は誰だ?」

 

審判役である千冬姉が次の対戦相手を呼んでいた。

審判である千冬姉も、護の一挙手一投足を見逃さないように鋭い目を向けて見ていた。

まるで自分が護と戦っているかのように……。

 

千冬姉がそこまで意識する相手か……

 

俺が知る限りでは最強の実力を有している千冬姉がそれほどまでに注目しているのが……少し悔しかった。

今更ながらに最初の頃、護を敵視していたラウラの気持ちがわかった気がする。

 

「私です……」

 

重々しい声と供に俺の隣から声が上がった。

俺の隣りに座っていたのは……。

 

「……篠ノ之か」

 

箒だった。

格好もみんなとは違って貸し出しの道着ではなく、自前の剣道着だ。

いつも以上に鋭い目をしている。

手にしているのは……って!?

 

「ほ、箒!? その手にしている得物は何だ!?」

 

あまりにも異質な箒の得物に、俺は思わず大声を上げて箒に詰め寄った。

濃い紫の紐の巻かれた柄。

鞘は真っ黒だが、上品に模様付けがされていて、余り暗いというイメージを湧かせさせない。

長さは大体竹刀と同じ長さで、僅かに湾曲している。

これはつまり……

 

 

 

「刃引きした真剣だ」

 

 

 

いや真剣って……こともなげに言うなよ!?

 

予想通りではあったけど、当たって欲しくなかった予想である。

さすがに真剣は予想外だったのか、周りの人も驚いていた。

確かに武器の使用は可だったけど、あくまでもそれは木刀や訓練用の竹刀と言った、非殺傷性の物だったのだけど……。

 

「まさかそれで護と試合をするつもりか!? 落ち着け箒! いくら何でも真剣はまずいだろう!?」

 

刃引きしてあるとはいえ、真剣に変わりないそれでやるのは、いくら何でもまずい。

それだけではなくその総身から溢れる気迫も……俺と普段特訓するときよりも遙かに強烈だった。

その気迫に気圧されながらも、俺は何とか箒を止める。

だけど……

 

「黙れ織斑」

「だけど千冬姉!?」

「織斑先生だ」

 

スパン!

 

俺に黙れと言ってきた千冬姉に問答無用で黙らされた。

そしてそこで気づいた。

 

そう言えば千冬姉が何も言ってない?

 

真剣を携えている箒に対して、千冬姉が何も言っていないことに俺はようやく気がついた。

もしも禁止だったなら、直ぐに言いそうだというのに。

いくら刃引きしてあるとはいえ、だめならだめと……。

 

ん? 刃引き?

 

「それは学園の物だ。そもそもにして篠ノ之は真剣での試合を望んでいたのだ。元々篠ノ之と門国の決闘に割り込んだ形で今日のこの時間があるのだ。別に刀を使うことに問題はない」

 

そう言えば護に試合を挑んでいたっけ?

 

千冬姉の言葉で、俺は数日前に箒が護に試合を申し込んでいたことを思い出した。

 

「私としてはお前はもう少し後でやって欲しかったんだがな。まぁくじ引きだから仕方がないのだが……」

 

確かに……箒は刀の扱いすごいしな……

 

ぶたれた箇所を撫でながら、俺は改めて試合へと臨む箒へと目を向ける。

中学の剣道全国大会優勝者。

しかも早朝の訓練を今も欠かさず行っている。

それだけに飽きたらず、最近はついに真剣での訓練も行っているから……相当強いはずだ。

 

だけど何というか……

 

 

 

何でそんなにピリピリしてるんだ?

 

 

 

それが少し気になった。

だけど、止めることは当然出来ず、二人が道場の中心へ進み……互いに礼を捧げた。

 

そして……

 

 

 

「はじめ!」

 

 

 

千冬姉の開始の合図が放たれて……一瞬にして会場に凄まじいほどの圧力がかかった。

これは二人の気迫と気迫のぶつかり合い。

凄まじいまでのその圧力は……意外な事にも護からも発せられていた。

 

……護?

 

普段は……それこそ今までの試合中ですらも気迫を出していなかった護が何で箒に限って? と思ったけど、理由は直ぐにわかった。

 

真剣だから?

 

さすがの護も、真剣相手では本気にならざるを得ないのだと、俺はそう思った。

だけど直ぐに、それは見当違いだったと……知ることになる。

 

 

 

……隙がない

 

わかってはいたことだった。

相手が生半可な相手ではないということなど。

門国護。

自衛隊に所属していた人間。

自衛の格闘術を極めた人物であり、それを応用したカウンター攻撃でISでの勝負で一夏を一撃で倒した男。

あの織斑先生ですらも勝利したことがないという男に……私が勝てるなんて思い上がっていない。

だけどそれでも……この人と戦うことで何か掴めることがあるのではないかと思って試合をお願いしたのだ。

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 

「「「「「……」」」」」

 

今、この空間は奇妙に静まりかえっていた。

試合が始まったというのに……物音一つせず、呼吸の音すらも聞こえてきそうな程静かだった。

 

「……」

 

だがこうしてにらみ合っているのは私の本意ではない。

門国さんのスタイルがカウンターということは、あちらから仕掛けてくることはない。

故に当然のように……。

 

「……はっ!」

 

私から仕掛けた。

手にした刀の重みを感じながら……私は正眼に構えていた刀を一気に振り下ろした。

刀の長さの分、間合いが有利な私。

刀の長さと重さ、その二つを合わせ振り下ろした。

 

空気を切り裂く音が響く……。

 

だがそれ以外に音はほとんどしなかった。

突き出した右腕で側面を払われてそれで終わりだった。

勢いよく突っ込み、そのまま立ち位置が入れ替わる。

勢いが収まり、直ぐに振り返るのだけれど……すでに門国さんは振り向いていた。

まるでずっとその姿勢のままにいたかのように。

もしもその気があるのならば、私が振り返ったその瞬間に攻撃をされていただろう。

 

……ここまで実力差が?

 

全く気配も動きも感じさせず、音すらも立てずに振り返るその実力に嫉妬してしまいそうだった。

それからも幾度も攻撃を仕掛けるが、他のみんなと同じで掠りもしなかった。

そしてしばらくしてそうして攻防を繰り広げていたのだが……やがてそれもとまった。

再び沈黙するかと思ったのだけど……。

 

 

 

「……激しく勝手なことですが」

 

 

 

「?」

 

今まで……それこそ試合が始まってからもほとんど口を開いていなかった門国さんが、言葉を紡いだ。

それに耳を傾けつつも、私は相手の隙を探していた。

卑怯と感じられるかもしれないが、これは文字通りの真剣勝負なのだ。

その時に言葉を放つなど……相手が間抜けでしかない。

何より私が持っているのは、刃引きしてあるとはいえ、人を殺すことが容易に可能な真剣なのだ。

それを前にして話すというのは、自信の表れなのか?

そう思った。

だけど……次の言葉で全てが吹き飛んでしまった。

 

 

 

「……あなたには失望しました。篠ノ之箒さん」

 

 

 

「なっ!?」

「「「!?」」」

 

私だけではない、周りにいる全ての人間が驚いた。

おそらく画面越しに試合を見ている人たちも同様のはずだ。

その侮蔑とも取れる言葉に頭が一瞬真っ白になったが……直ぐに冷静さを取り戻す。

そして再度剣を構える……が……。

 

それを遮るように……再度言葉が紡がれる……。

 

 

 

「いや正しく言えばこの学園の生徒達にでしょうか? 自分たちが扱っている物が、どれほど危険かと言うことを全く実感していない、そのぬるさに……」

 

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

間違いなく……学園全体が震えた。

正しく言えば……学園にいる生徒全員がだろう。

それを知ってか知らずか……門国さんは言葉を続ける。

 

「最初は学生だから……青年だからいいと思っていました。ですが……それを差し引いてもひどいと思って、諫言ということで、私の思いを言わせていただく」

 

それには凄まじいほどの重さがあった。

おそらく、相当の覚悟を伴って言葉を紡いでいるのだろう。

先の言葉とその覚悟が……私から動きというのを完全に奪っていた。

 

 

 

 

 

 

「IS。それがどれほど恐ろしものかと言うことを、あなた方は知ってるはずだ。なのに……そのはずだというのに、それをまるで玩具のように扱っている! 俺はそれが我慢ならない!」

 

それが……俺が感じた思いだった。

 

IS。

現実では考えられないようなその力は、望もうと、望むまいと……あらゆる人間の人生を狂わせた。

特に兵器関連、もしくは防衛などを行う軍人などがそうだろう。

たった一機……そうたったの一機だ。

人型の兵器。

 

IS。

 

それは文字通り……全てを蹂躙した。

 

銃弾を、ミサイルを、戦車を、戦闘機を、戦艦を……それに連なる全ての人間達を……。

 

人型の……それこそほとんど人間と大差のないサイズのそれが、現行兵器全てを無力化したのだ。

 

それがどれほど恐ろしいことか、俺はそれに連なる者として……よく知っていた。

 

自衛技術を徹底的に磨き上げてきた。

 

この技術において、俺は相当の自信と自負を持っていた。

 

だがそれがどうした?

 

例えどんな技術、技量があろうとも、そんなもの、銃弾やミサイルなどの前では無力に等しい。

 

俺は訓練と己の直感のおかげで弾道を見切ることは出来る。

 

しかし見切ることが出来るのと、躱すことが出来るのとでは話が別なのだ。

 

拳銃、アサルトライフル程度ならば躱すのは可能だ。

 

だが、それも数が増えれば……それこそ十数人に同時に撃たれたり、ガトリングガンでも持ち出してくれば話は変わる。

 

もしくはそんな面倒なことをせず、ミサイルの一発でも撃ち込まれればそれで終わりだ。

 

だがそれは当たり前のことだ。

 

だからこそ受け入れたし、それでもなんとかなるように訓練を行ってきた。

 

 

 

だが……そんなことではどうしようもないほどの存在が登場したのだ。

 

 

 

それが……IS。

 

 

 

正式名称インフィニット・ストラトス。

 

 

 

空を駆け回る、その名の通りに「無限に空を翔る」その存在は……それよりも価値の低い存在全てを、地のどん底に突き落とした。

 

空を音速で飛び回る戦闘機を……それすらも破壊し落とすミサイルを……。

 

全て突き落とした。

 

無用の長物……という名の下に……。

 

その存在の登場で、全てが終わった。

 

軍人も……兵器開発者も……。

 

それは喜ばしいことなのかもしれない。

 

人を効率よく殺すための武器を開発する人間。

 

そしてそれを遺憾なく使用し、人を物を壊す存在の軍人。

 

それが無用だという世界があるのならば……どんなにいいだろうか?

 

だが、それはあくまでも第三者の視点だ。

 

軍人達は……兵器の開発者は……存在を否定されたのだ。

 

軍人、兵器の開発者には少なからず人を殺すことに快楽を覚えていた人間もいるかもしれない。

 

例えそれが明確に自覚しなかったとしてもだ。

 

だが……全ての軍人と開発者がそうであったわけがない。

 

祖国を、大切な人を守りたいと思ってその道に進んだ人間はいるはずだ。

 

その思いを否定されたのだ。

 

さらにISは女性にしか使えないことが、それに拍車を掛けた。

 

女尊男卑という言葉も生まれ、名実共に……必要がなくなってしまったのだ。

 

別に女尊男卑の事がどうこうというわけではない。

 

昔は男尊女卑と言われていて、女性が虐げられてきたのだ。

 

立場が逆になった程度で、わめき立てるほどバカではない。

 

それも時流なのだろう。

 

だが、ただ時流と……たったその一言で全てを否定されたことだけは許せなかった。

 

ISが登場したと言っても数は少ない。

 

故にまだ軍人は存在はしている。

 

半ば厄介者の認識で……。

 

IS相手では話にもならない戦闘機に金を掛ける必要があるのか?

 

兵士を雇う必要があるのか?

 

そう言われるのだけは……許せなかった。

 

だがそれを言葉にする権利も……権限も……尊厳すらも……全てを奪われてた「軍人(おれ)」には……何もすることが出来なかった。

 

まさかこれほどまでに自分が無力だったとは……自衛隊に入る前までは考えてすらもいなかった。

 

ただ自分に何かが出来ると思って入隊した。

 

だけど……それでも無力だった。

 

 

 

そう……あの時だって……

 

 

 

「あの日……自分が初めてISを動かしたあの日……。その日の地獄を知る人はほとんどいないでしょう……」

 

「……地獄?」

 

「今回……自分がこの試合を望んだ理由はそれを伝えるためです……」

 

 

 

 

 

 

あの日の……地獄……か……

 

何となくわかっていたけど、お兄ちゃんが何をしようとしていたのかを今明確に知って、私は心の中で溜め息を吐いた。

 

どうして……そんなに自分が傷つくのをいとわないの?

 

確かに有効だろう。

この学園の人間達はまだ大半が学生だ。

現場の現状を知る人間はほとんどいない。

おそらく軍に所属しているラウラちゃんも、現場の状況は……最前線の歩兵(・・)の状況はわからないだろう。

専用機を与えられている彼女には……。

 

「海外派兵でゲリラに襲われたとき……俺の同僚が怪我を負いました……」

 

海外派兵は当然ISを操縦する以外の人間も同行していた。

ISの整備兵、歩兵に戦車兵、戦闘ヘリ乗りなんかもいたはずだ。

それらの誰が怪我をしたのかまでは、私も知らなかった。

 

「ISの実地訓練が終えた後でした。その隙を襲われたのです」

 

実地訓練からしばらく後。

それは起こった。

ゲリラによる急襲。

それがお兄ちゃん達を襲ったのだ。

 

「自衛隊は腐っても軍隊だ。急襲されたからと言って直ぐに瓦解するほど柔ではない……だけど……爆発の余波を受けて同僚は……足が吹き飛びました」

 

その言葉に……誰もが衝撃を走らせる。

それが皮肉に感じたのかもしれない。

お兄ちゃんがギリッと、強くそれを噛みしめていた。

 

世界で二人目のIS操者の登場で……ほとんど報道されなかった出来事……

 

自衛隊隊員が怪我をしたという報道はあった物の、それはその事実の前ではおまけ程度にすらもならなかったのだ。

 

「今もそいつは元気に生きていますし、義手義足がISの技術のおかげで発展したこともあり、以前と変わらぬ生活を送っていますが……そいつの足が、血の通らぬ物であることに代わりはない」

 

ISの技術は世界的な技術の発展をもたらした。

兵器関係だけに関わらず、医療関係も同様だった。

おそらく……それも絡んでいるんだろう。

 

お兄ちゃんの、お母さんの事もあるしね……

 

何があったのかはわからない。

想像でしかないけど……生身で銃弾が飛び交う場所にいたはずだ。

 

ISという絶対的な護りのない状況で……

 

私も訓練を受けているからきっと動くことは出来るし、よほどのヘマをしない限りは死ぬことはないだろう。

だけど、その状況下に進んでいきたいなんて思わない。

そもそもにしてその状況ならば、自分のISを起動させても国際問題でさばかれはしないだろう。

 

あくまでも……(わたし)はだけど……

 

だけど、その時のお兄ちゃんは当然のように生身だ。

そして目の前に存在する……片足が吹き飛ばされてしまった友人。

その時のお兄ちゃんの心境は、想像することも出来ない。

少しでも運が悪かったら死んでいたのだ。

まさに生と死の境界線にいたのだ。

もちろんお兄ちゃんに限った話じゃないけど……歩兵はそれこそ絶望のどん底と言ってもいい状況下に立たされたのかもしれない。

目の前に……それこそ中の細部までも知り尽くしているISがそばにあるのに、男と言うだけで使えない……。

 

それは……どれほどの恐怖と絶望を伴ったのだろう?

 

「そんなやつらを追い払ったのが……何故かISの稼働に成功した自分でした」

 

だけどそのISは女性にしか反応しないはずのそれを破り……お兄ちゃんに力を与えた。

それは……そのISは、それ以来お兄ちゃん以外に反応しなくなることになるISだった。

 

 

 

「同僚の……友人の足を吹き飛ばしたそいつらは……自分の操るISを恐れて撤退していきました。奇襲は成功し、私たちは混乱していた……圧倒的に自分たちが有利だったにもかかわらず、ISが起動した、たったそれだけの事で敵は撤退していったんだ!」

 

 

 

その言葉は苦痛が満ちていた。

もしも敵の奇襲に気づいていれば?

門としての役割を意識してきたお兄ちゃんとしては、それはひどく悲しかったのだろう。

 

そして……同時に絶望したのだ。

 

 

 

それすらも呑み込んでしまった……圧倒的なまでのISの強さに……。

 

 

 

「銃弾も、ミサイルも……2341という圧倒的で絶大な威力と数の暴力を伴ったミサイルですらも、ISの前では無力なんだ! それほどまでに……強大で兇悪な力を有しているのがISなんだ!」

 

 

 

悲痛……それほどまでに痛々しい吐露だった。

 

自分の無力さを……本当に哀しんでいる、そんな叫び声だった。

 

 

 

「それを扱う人間としてここに……IS学園にいるはずなのに、あなたたちはまるでファッションのように、玩具のようにISを扱っている! 人を殺すなんて生やさしい物じゃない! 街を! 国を! 滅ぼすどころか呑み干すかのように蹂躙する力を持ったそれを!」

 

 

 

きっと、お兄ちゃんはISが嫌いなんだと思う。

 

自分の力を否定されたと思っているのかもしれない。

 

例えそれが無意識であったとしても……無自覚だったとしてもきっとそうだと思った。

 

そうでなければ……

 

 

 

こんなにも悲しみに満ちた声を……悲鳴を……上げられるわけがない。

 

 

 

「それだけじゃない! IS操縦者として、一般の人よりも遙かに重い責任と自覚を持っていなければいけないはずの専用機持ちすらも……自分の私利私欲を優先してISを扱う!」

 

 

 

「「「「「!!!!」」」」」

 

あ~……それを言うのね……

 

だから箒ちゃんの時に、殺意にも似た気迫を出してたのだ。

お兄ちゃんが最も憤っていたのは……IS専用機持ち……つまりは織斑君を好いている五人の子達なのだ。

確かにあの子達はよく織斑君の制裁のために、ISを展開していた。

 

おそらくそれが……我慢できなかったのだろう。

 

 

 

「俺にはその気持ちはわからない! だけど……それでも……その行為が……ISを、命を踏みにじっているようで……俺は」

 

 

 

きっとおばさんの事を思ってるんだろうね……

 

お兄ちゃんのお母さん……門国楓さんは、身体の弱い人だった。

 

 

 

体をこわしてしまった人だった……。

 

 

 

それこそ……ISが登場するまではほとんど寝たきりだった程に……。

 

埃にも敏感で、埃が舞い上がれば咳が止まらなくなる。

そうして呼吸困難を起こしてしまう。

それほど身体が弱い人だった。

だから……お兄ちゃんはほとんど「母親」というものに触れたことがなかった。

 

それに……従者さんもいたから……

 

そのために……お兄ちゃんは女性が苦手に……触れてはいけない存在だと思ってしまったのだろう。

それに家が守る者として発展してきた家系で……さらにその思いが……人を守るということ、そして命の大切さを、人一倍に強く感じているのだろう。

そして……それすらも壊したのがISだったのだ。

ISの登場で発達した医療技術。

それによって起き上がることが出来るようになったおばさま。

それが悪い事なんて思っていないだろうし、お兄ちゃんとしても喜ばしいと思う。

 

だけど……どう接していいのかわからないのに、急に「母親」という者が出来て、戸惑ってしまったのだろう……

 

自分のことを生んでくれたと言うことは知っていた。

だけど、それ以外に何もされたことが……母親らしいことを何もされてこなかった。

おばさまとしてはすることが出来なかったのだ。

「女性」という存在すらも未知の存在だというのに、「母親」という存在はもっとわからなかったのだろう。

 

 

 

それがお兄ちゃんが抱えた……抱えてしまった想いだった……

 

 

 

「最初は思春期……それこそ学生であるからいいと思っていた。だが……あの事件を経験した人間として、俺は言わなければならないと思い……言わせてもらった」

 

 

 

「「「「「「……」」」」」」

 

その言葉に、答える者は誰もいない。

箒ちゃんは当然として、他の子達も、織斑君も……そして二人の先生達も……。

おそらくこの場にいない、映像を見ている他の生徒達も同様だろう。

だけどそれでもお兄ちゃんの口撃(・・)は止まらなかった……。

 

「そう言う意味で……篠ノ之さん。あなたには期待していたのです」

「……期待?」

「激しく勝手なことですが……あなたは剣道をやっていた。中学の全国大会で優勝するほどの腕前とお聞きしました。だからこそ……わかっていると思っていたんです」

 

……お兄ちゃん。これ以上言っても、だれも救われないよ

 

そう思っても、私はお兄ちゃんを止めることはしなかった。

お兄ちゃんの言うことも一理あると思ったから。

ISを軽々しく扱う子が多すぎること……といっても気軽に使えるのは専用機持ちくらいだけど……それでもいいことではないから。

学園という閉鎖空間だからこそ処罰程度で済んでいるけど……もしも外で展開しようものなら完全なる国際犯罪になるのだ。

それを、頭ではわかっていても理解している子が少ないから。

 

「だが違った。あなたも同じだった。人を竹刀で斬りかかる。それがどんな意味だか、あなたは本当はわかっているはずだ。だけど……あなたはそれを守らなかった」

「……竹刀」

「そう。竹刀。アレは剣道家にとっては真剣その物のはずです。剣道を始めるときに誰もが教わるはずです。竹刀の剣先を地面に突き立てるなと言うことを……。それがどういう意味だか……わかっているはずですよね?」

「……真剣を地面に突き立てるということは、刀を傷つける事だから、です」

 

抜き身の刀を地面に突き立てたならば土や石にぶつかって剣先が欠けてしまう。

真剣と同じ扱いの竹刀もそれと同じ事を……地面に剣の先を突き立てるのは、許されることではないのだ。

 

それはつまり、竹刀は真剣と同等の扱いであると言うことで……

 

「だが、いくら一夏に制裁を加えるためとはいえ、あなたはそれを守らなかった。剣道家として相当の実力を持ったあなたがそれを行えば……怪我をするかもしれない、最悪死んでしまうかもしれない。仮にそうでなかったとしても、真剣を人に振るうなど……あっていいことではない!」

「で、でもそれは……本気では……」

「ではあなたは遊びと言って、銃口を人に向けるのですか!? もしくはISの……あなたの最強クラスの強さを持っている、第四世代のISの刀を相手に向けるのですか!?」

「……!?」

「俺には人を好きになると言うことがどういうものだかわからない。言う資格がないのかもしれない。だけど……あの絶望的な真実を知るものとして、俺は誰に罵られようとも……これだけは言わせてもらう!」

 

この場にいる全員に、そしてこの場にいない子達にも訴えかけるように、お兄ちゃんは声を大にして……その言葉を口にした。

 

 

 

「ISがどれほど危険な物なのか……もう一度考えて欲しいのです。命を簡単に消せる存在を扱っていると言うことを、もう一度認識してください。あなた方は……やろうと思えば虐殺すらも可能な立ち位置にいる人間なんですよ?」

 

 

 

「「「「「……」」」」」

 

 

虐殺。

実際にそれを目にしたことも体験したこともある人間はこの場にはいないはず。

だけどお兄ちゃんの生々しい体験の話と、悲鳴にも似たお兄ちゃんの言葉を聞いて……その言葉に反論できる人間など……

 

 

 

この場にはいなかった……。

 

 

 

 




すんげ~重々しい話になっちゃったw
もう少しプロットは詰めるべきだね~
R?MHでも学んだはずなのに……どうしてこうなったorz
後編に続くw



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