IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

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インタビュー

「おーい、待てよ箒!」

 

日曜日。

幸いと言うべきか、天気に恵まれて俺と箒は一緒に黛先輩に頼まれた雑誌の取材のために、先輩から受け取った住所の場所へと向かっているのだが……何故か無駄に速く歩く箒に俺は置いていかれていた。

「待ってって。どうしてそんなに速く歩くんだよ」

「うるさい! 私は一人で歩きたいんだ!」

「何でだよ? 今日の取材は一緒に受けるんだから一緒に行ったっていいじゃないか」

「……それなら門国さんにもそう言え」

 

何故そこで護のことが出てくるんだ?

 

ちなみに、一緒に取材を受けるはずの護は先に済ませておきたい用事があるとかで、俺たちよりもかなり速く学園を出ていて別行動だった。

本人曰く、取材には間に合うようにするとは行っていたが。

 

っていうか……なんか護に対する箒の態度が変だよな?

 

そんな気がする。

なんか少し前から態度が硬いというか、なんか箒が護に対して思うことが在るような……そんな感じだ。

何があったのかは知らないが、俺としてはIS学園で唯一同姓の友人、護と、幼なじみの箒には仲良くやって欲しいのだけれど……。

 

まぁ、まだそこまで険悪じゃないし、いいか……

 

どういったのが原因でこんな微妙な態度をしているのかわからないが、まだそこまで緊急を要する事態まで発展していなさそうなので、俺はとりあえずこの箒の態度に関しては静観することにした。

 

別に仲が悪いって訳じゃないしな

 

訓練だって普通に一緒に行っているのだから憎み合っている訳ではないはずだ。

そんな箒を改めて観察してみる。

日曜日のために制服を着る必要性はないので、当然俺と箒は私服だ。

その箒の格好が……

 

かわいいの着てるなぁ……

 

「箒、その服……いいな」

「ほ、本当か!?」

「嘘いってどうするんだよ。似合ってる。その胸元のフリル……かな? いいな」

 

ちなみに今の箒は黒のミニスカートに白ブラウス。アウターに薄手の秋物のバーカーコート。

色合いは明るい蒲公英を連想させる、目に優しい色だ。

 

「そ、そうか。これは私も気に入っている」

「いやー、箒って昔は剣道着の印象しか亡かったけど女の子っぽくなったなぁ」

「……お、お前に褒められても嬉しくないな!」

 

そう言いながらそっぽ向かれてしまった。

褒めたのに……。

 

「とにかく、待ち合わせの時間までまだあるんだし急ぐ理由もないだろう? ゆっくり行こうぜ?」

「あ、あぁ」

 

やっと普通の速度に落としてくれた箒と一緒に歩く。

その間……何故か無言でちらちらとこちらを伺ってくるんだけど……。

 

「箒?」

「な、何だ?」

「いや何だって……何でそんなにちらちら見てるんだ?」

「な、何でもない」

 

? 変な奴だな?

 

「……お、お前の服装もか、かっこいいぞ」

「? なんか言った?」

「……何も言っていない」

 

何で睨む?

 

突然黙ってこちらをちらちら伺ったり、急に起こったり忙しい箒だった。

俺にはよくわからないが……まぁいいや。

 

「それにしても寒いな。喫茶店あるから少し暖まっていくか?」

「……そんなに時間に余裕はないだろう?」

「それもそうだな。悪い」

「……手を」

「? へ?」

「さ、寒いのなら! 手をつなげばだろう!」

「あ、それいいな。そうしよう」

 

きゅっ

 

「!?!?!?!」

 

俺は箒の提案に賛同して、地下鉄の改札口へと向かう。

 

「あ……ぅ……」

 

それから編集部に到着するまで、箒はずっと無言だった。

 

 

 

「お~い。護~」

「……よう一夏」

 

俺は指定された住所……ビルの入り口の前で俺と同じく取材を受ける人物を待っていて……片方の男、俺の友人の一夏が俺に声を張り上げながら手を振ってくる。

俺はそれに応えつつ、二人が手をつないでいるのをそれとなく観察していた。

 

あ~女の人と手をつないでも何も感じてないのが丸わかりだな。その割には大和撫子ポニーテールが……あ、そういうことか

 

手を握っても全く照れてもいない一夏に、何か怒っても良さそうな撫子ポニーは、一夏とは正反対で相当恥ずかしく……そしてそれ以上に嬉しいのか遠目から見てもわかるほどに顔を真っ赤にしていた。

どうやら羞恥やら歓喜やらが怒りを完全に上回っているというか……怒ってもいないようだった。

 

「待ったか?」

「待ち合わせの時間にはまだ速いから問題はない。今日はまぁ……お互い頑張ろう」

「……そうだな」

 

俺と一夏はこれからパンダにされることがわかりきっているので……二人揃って溜め息を吐いた。

別に取って食われはしないだろうが……それでも何かすごいことになりそうでめんどくさいことに変わりはなかった。

ここまで来た以上逃げるつもりはないが。

 

「では行くか」

「そうだな。もうそんなに時間もないし……。箒もいいか?」

「……あ、う、うむ! 行こう!」

 

一夏の言葉で再起動し、ようやく俺がいることを認識したのか撫子ポニーがパッと一夏から離れた。

もちろん繋いでいた手も一緒に。

そしてそのまま先陣切ってビルの中へと突入していった。

 

「……どうしたんだあいつ?」

「……さぁ? とりあえず俺たちも行こうか」

「そうだな」

 

恥ずかしさで先に行った撫子ポニーに首を捻っている一夏に内心で呆れつつ、俺は一夏に先を促した。

それに同意して……俺たちは取材へと突入したのだが……

 

「どうも! 私は雑誌「インフィニット・ストライプス」の副編集長をやっている黛渚子よ。今日はわざわざ来てくれてありがとう。よろしくね」

「あ、どうも。織斑一夏です」

「篠ノ之箒です」

「門国護です」

 

取材のために通された部屋は結構広く、ばりばりの会議室……のような部屋ではなく、なんかカジュアルというか……あまり仕事場の雰囲気ではなかった。

 

「それじゃまず、インタビューから始めさせてね~。その後で写真撮影に行きます」

 

そう言いながら、ペン型のレコーダーを起動させていた。

服装はツートーンチェックのスーツとタイトスカート、雰囲気からして結構やり手に感じる雰囲気を醸し出している。

 

「それじゃまず織斑一夏君! 女子校に入学した感想は!」

「……いきなりそれですか」

 

……同意

 

聞きにくいこともばっさり聞いてきたこの目の前でテンションが上がっている女性……黛渚子さんは……間違いなくあの新聞部の黛さんの姉だと納得した俺だった。

 

「だって、気になるでしょ? あのIS学園に入学した男の子よ? 読者アンケートでもすごいんだから。だからこうして来てもらったわけで。で? 感想は?」

「えっと……使えるトイレが少なくて困ります」

 

……さすがだ一夏

 

その言葉には全くもって同意だったが……眼前の人が求めているような回答ではなかっただろう。

が、黛渚子さんは一瞬だけぽかんとした後、爆笑した。

 

「あは、あははっはは! 妹の言っていたこと本当だったのね! 異性に興味のないハーレムキングって」

「は、ハーレムキング……」

 

その通りだな

 

自覚はないが、端から見たらそれにしか見えない。

俺は別に興味ないが……もしも仮にIS学園に他に男子生徒がいた場合、もてすぎてやっかまれること請け合いだろう。

 

「さて、それじゃもう一人の男の門国さんは? 入学してどう?」

 

ふむ、なんて答えたものか?

 

一瞬そう考えてみるが、しかしわかりそうになかったので俺は一夏と同じように、自分の思いを口にした。

 

「大浴場……というか湯船に浸かることが出来なくて困ります。自分、風呂が好きなのですが」

「あ、わかるぞ護。俺もだ」

 

一夏が同意を示し、俺はそれに対して右手を差し出した。

そしてそれを同じく右手を出して握る一夏。

激しく無駄な事で、友情を再確認した俺たちだった。

 

「あはは、仲がいいのね。門国さんは女性が苦手だって聞いたんですけど」

「その通りです。母が病弱だったために余り異性と触れ合う機会がなかったので」

「なるほど。後は自衛技術とかもすごいんですよね? 織斑君とISで勝負して勝ったとか?」

「まぁ一応勝ちましたが……次はどうなるかわからないですね」

「う~ん、聞きたいことが山ほどあるなぁ。時間足りるかしら? まぁそれはそれとして、篠ノ之さんに質問ね」

「は、はい」

「お姉さんの話を……」

 

その内容にがたっと音を立てて立ち上がる撫子ポニー。

篠ノ之姉妹も相変わらずあまり仲がよろしくないようだった。

 

「ディナー券、いらないの?」

 

その言葉に、篠ノ之さんが挙げていた腰を下ろす。

どうやらよほど欲しいようだ。

 

「いい子ね。それで、専用機をもらった感想は? どこかの国家代表候補生になるつもりはあるの?」

「紅椿は……感謝しています。今のところ代表候補生に興味はありません」

 

……撫子ポニーはそうだろうが……国が放っておくだろうか?

 

篠ノ之束博士が自ら作り上げたIS紅椿。

各国が心血を注いで必死になって作り上げている最先端技術の結晶でも第三世代がようやくロールアウトしたばかりという状況下で、それを跳び越えての第四世代のISだ。

世界でたった一つの第四世代。

本人が望む、望まないに関わらず、卒業が迫ったら……えらい騒ぎになるだろう。

二年以内に各国が第四世代を開発するというのは……まぁ無理だろう。

となると最先端技術を越えたもはや未来技術といっても差し支えないその技術……誰もが欲するだろう。

 

……願わくば、皆が笑顔でいられますように

 

別に博愛主義者になったつもりはないが、それでも前途ある若者達が少しでも己が望む未来へと向かって欲しいと……俺は内心で祈った。

 

「なるほどね~。ちなみにこの三人で誰が一番強いの?」

「私です!」

「そうなの?」

「ええ……まぁ」

「そうですね。篠ノ之さんがもっとも勝率が高いです」

 

一夏と撫子ポニーの勝率は僅かに撫子ポニーが、俺との勝率も篠ノ之さんが上回っている。

絢爛舞踏という……事実上エネルギーを無限に供給できる機体が相手では、いくら防御しても敵のエネルギーがつきないのだから、こちらが致命打を負わなくても最終的にこちらのエネルギーが底を突く。

一本を取られたことはないが、今のところ俺が篠ノ之さんに勝てる見込みはあまりない。

 

「男二人も揃ってそれはまずいでしょ~。女の子くらい守れないと。ヒーローになれないわよ?」

「別にヒーローにならなくても」

「ただの一兵士に過ぎない自分には荷が重すぎます」

「あ、そう言えば自衛隊に所属してたんだよね? 所属は?」

「陸軍のISの整備兵です。これ以上はあまり聞かないでいただけると……」

「軍紀に触れるのかな? OKOK」

 

その通りであまり突っ込んだことを聞かれても困るので俺は先に通達しておいた。

それに同意してくれて助かった。

 

「う~んまぁ大体みんなの人となりはわかったわ。ではここで、こう……熱い台詞っていうか自分が頑張ろうとしていることをいってみようか? じゃぁまず織斑君」

「え、えっと……」

 

ちらりと一夏が俺と撫子ポニーを見る。

そして、恥ずかしげに少し唸った後、覚悟を決めたのか一夏が吼えた。

 

「仲間は俺が守る!」

「イエス! いいね~そういうの。ではそれに続いて門国さん」

 

俺もか……

 

まぁ流れ的にそうなるのは予想済みだった。

ので……仕方がない。

 

「……門となり、我が身を持って盾となりましょう」

「おぉ~いいね~いいね~。箒ちゃんは……女の子だから守ってもらおうか」

「は……はい」

 

話しかけられた撫子ポニーは恥ずかしそうに俯いていた。

一夏が吼える前にちらりと撫子ポニーに目を向けたのが原因だろう。

そう言うのを天然でやるからこそ一夏のようだった。

 

「そう言えば男性二人は生徒会に所属してるんだっけ? 楯無ちゃんイカすでしょ?」

 

いやな予感がするなぁ……

 

「すごいとは思いますけど……人を余りからかうのをやめてくれると……」

「あいつはもう少し……落ち着くというか……悪戯気質をどうにかしてくれると嬉しいのだが……」

「あいつ……? あ、そう言えば! 門国さん楯無ちゃんと婚約者なんだって!?」

 

黛さんから聞き及んでいたか……

 

更識の話が上がった時点でこの話題が上がるような気はしていたが……。

話題に上がってしまった以上仕方がない。

それにある意味で好都合だ。

 

「確かにそう言う話もありましたが、それはあくまでも昔の話です」

「そうなの?」

 

期待はずれ……というかいいネタになると思っていた話が違うと知って露骨に落胆していた。

が、本当のことなので俺はそのまま話を続けた。

 

「そうです。確かに幼少時はそんな話もありましたが、しかしそれはもうずいぶん前に白紙になりました。これは両家供に正式な認識です」

「へ~。残念だな。いいネタになると思ったのに~。なら次いってみよう! 織斑君、織斑一夏貸し出し任務はどう? 女の子がスポーツで汗を流す姿にドキッとしないの?」

「しません!」

「本当につまらないわね。もう少しネタないの?」

 

「「ありません!」」

 

これ以上遊ばれてはたまらないので俺と一夏が同時に吼えた。

さすがにやり過ぎたと思ったのか、手を合わせて謝罪をしてくれた。

それからは普通につつがなく取材をし、そしてその後に写真撮影を行った。

当然というべきか……そこでも随分とネタにされたのだが……余り思い出したくもないので割愛する。

 

 

 

取材が終わった後時間も時間だったので、一夏が食事に行こうと俺を誘ってくれたのだが……俺はそれを丁重に断った。

 

女が隣りにいるんだから二人きりで行ってこい!

 

と声を大にしていいそうになった。

一夏は残念そうにしていたが、その横で嬉しそうにしている撫子ポニーを見れば……俺の選択が間違っていないことなど一目瞭然だった。

 

まぁ~あの唐変木の一夏がどの店に行くのかが問題だが……

 

まぁここから先は一夏次第だ。

俺はとりあえず一人で一夏達とは別方向へと向かった。

時間は午後七時。

夕食時にはちょうどいい時間だろう。

 

夕食を食べていくかぁ……

 

たまには外食をしても罰は当たらないだろう。

財布の中身を確認して俺はその辺の店に適当に入り夕食をすましたのだ。

そして学園へと帰還する。

 

ざわざわ

 

ん? 寮の掲示板広場が騒がしいな

 

一年生寮へと帰ってきて、自室へと向かっていると吹き抜けになっている、寮の掲示板広場が騒がしいことに気がついた。

数多くの女子が掲示板の前に群がっている。

気にはなったが……

 

あの数の女性の中に突っ込むとか……俺には無理だ

 

と言うことで気になりつつも俺は自室へと戻る。

まだ一夏は帰ってきていなかった。

どこへ行ったかは知らないが、帰寮時間に間に合うことを祈っておこう。

そして服を脱いで一日の汗を流した。

インタビューでも言ったが、本当に湯船に浸かれないのが残念である。

 

まぁたった二人の男のために大浴場開放するのも大変だしな

 

湯船に浸かりたいのは山々だが、仕方がないことだろう。

それで教師陣の仕事を増やすのは本意ではない。

 

ただでさえ教官も山田先生も急がしそうだし

 

世界に一つだけしかない学園、IS学園。

ただ生徒に物事を教えるだけでは……済まないだろう。

世界各国より選りすぐりの女性がやってくるのだ。

そしてそれは多分に政治的意味も含まれている。

そう考えると……この学園の教師というのは激務という単語では済ませられないかもしれない。

 

……教師か

 

将来の道……仕事に就く。

就職はすでにしていた俺なのだが……その仕事には戻れる可能性は低い。

 

ならば俺は……何になると言うのだろう

 

モルモットは……イヤだしな

 

考えてもわからない。

だがあまり猶予はない。

一年、二年という長くもなければ決して短いとも言えないし……それにそれほどの時間があるとは……何故か思えなかった。

 

ピピ

 

ん?

 

そうして一人で俺がどうすべきかを考えていると不意に、机と一体化している自分用のPCがメールが届いたことを知らせてくれた。

一度考え事をやめて俺はその新たに来たメールを確認した。

届いたのは、先日友人と呼ばせていただいている先輩に頼んだ事に関する返答だった。

 

……了解、か。ありがたい

 

どうやら友人は俺の願い事を聞いてくれるようだった。

交換条件として……「IS学園で知り合った俺の彼女を連れてこい」とか書いてあったが……俺は無理だと返事をする。

俺が女性が苦手なのを知っているので、からかっているのだろう。

その友人に苦笑しつつ、俺は返事を書いた。

 

「こんばんは」

「……お前か」

「お前って……女の子捕まえてお前、はないんじゃない?」

「なら言い換えよう。更識か」

「それもそれでなぁ。二人の時は幼名で呼んでよっていつも言ってるよね?」

 

そう言って苦笑しながら、俺の部屋へと入ってきたのは生徒会長の更識だった。

未だにこの部屋の鍵は返却するつもりはないらしい。

 

まったくこいつは……

 

「今日、薫子ちゃんのお姉ちゃんの取材受けてきたんでしょ? どうだった?」

「どうもこうもない。取材を受けて写真撮影をしただけだ」

「その雑誌っていつ発売するの?」

「……聞いていない」

「な~んだ。じゃあしょうがない。織斑君にきこっと」

 

何しに来たんだ?

 

いつものように勝手に人のベッドにへと向かい、さも当然のように寝っ転がる更識。

そんな更識に呆れるが、何を言っても結局聞かないであろう事は既にわかりきっているので、俺はとりあえず何も言わずに俺はメール内容を確認し、返事を書き出す。

 

「誰とメールしてるの?」

「友人だ」

 

さすがに人のメールを勝手に覗くような無礼なことはしないつもりらしい。

いつものように人のベッドに勝手に寝っ転がりつつ、更識は俺の方へと視線を向けているのを感じた。

俺はそれに適当に答えつつ、返事を書いていたのだが……。

 

「……女の人?」

「……あぁ?」

 

更識の問いかけで指の動きが止まった。

 

「……なんだ突然?」

「メールの相手は誰なのかなって思ってね」

「……別に誰でもよくないか?」

「……よくないよ」

 

……何でだ?

 

突然の問いかけはさっぱり意味がわからなかった。

一旦返事を書くのを中止して、俺は更識へと向き直った。

 

「何がよくないんだ?」

「……お兄ちゃんの朴念仁っぷりが」

 

俺が朴念仁なのが悪い? そもそも俺は朴念仁って認識なのか?

 

更識にとって俺は分からず屋という認識らしいが……何でだろうか?

むすっとしている更識を見ていると何故か俺が悪いことをしている気がしてくるのだが……。

ふくれっ面になった更識を見て、俺は仕方なく……メールのやりとりをしている相手を教えた。

何故……仕方なく「教えて上げないといけない」と、そう思ったのかはわからないが。

 

「……まぁいい。用事を頼んでいるだけだ。自衛隊に所属していた頃の整備仲間だ」

「整備仲間? ってことは……女?」

「何故女であることが前提なんだ? 男だよ。俺よりだいぶ年上の整備士で、もともと戦闘機の整備士だったんだが、ISが登場して真っ先にISの整備兵として志願したらしい。俺が尊敬する人の一人だ」

 

熟練や一流というのはまさしくあの人のためにある言葉だろう。

戦闘機のみならず、まだ登場してよりそれほどの時間が経っていないISの整備に関しても一流なのだ。

しかも機動音や飛行の様子を見ただけで何が悪いのか? どこがおかしいのを瞬時に判断するのだ。

俺がまだ二十歳前のガキであるにもかかわらず、後輩と言うことでこの人にかなり整備の技術を学ばせてもらった。

大切な友人であり、先輩であり……大恩人だった。

相手も俺のことを気に入ってくれているらしく、友人と思ってくれている。

 

「なぁんだ。つまんないの」

「教えたのにつまらないとか……失礼な奴だな」

 

そう言いつつも更識は嬉しそうに笑っていた。

何が嬉しいのかはわからないが、とにかく機嫌が良くなったようだった。

だがしかし……次の台詞で今度は俺が不機嫌……というかとんでもない事態に陥っているのを知るのだった。

 

「でもま、今度お兄ちゃんと勝負できるからいっか」

「……はい?」

「お兄ちゃんと勝負なんて久しぶりだよね。私の今の実力……見せて上げるね」

「ちょっと待って……。何を言っているんだ?」

 

何か穏やかじゃない言葉を話している妹分へと俺は疑問の声を上げる。

すると更識は不思議そうに……それこそ本当に自然に……首を傾げいていた。

 

「何って……もしかしてお兄ちゃん、知らないの?」

「何を……」

「ただいま~」

 

そうしているとドアが開き、俺の同居人、一夏が帰ってきた。

当然ながら服装に変わりはないのだが……。

 

「その顔どうした?」

 

左の頬が赤黒く変色していた。

見た目的に……殴られたような後だった。

 

「え? いやこれは……友達のじいちゃんに殴られてさ。なんか孫を泣かすんじゃねぇ! とか言われて……。確かに蘭が泣いたのは事実なんだけど……何で泣いたんだろうな?」

「……そ~だな」

 

本当にわかっていない一夏が不思議そうにしているが、俺はそれに対して適当に言葉を返した。

どういう状況で友人の祖父に会ったのかは謎だが……「蘭」というのは人物名で、そしてその名前から察して女だろう。

それでもう答えはわかったも同然だった。

 

……相変わらずだな一夏

 

自覚がないのだから直しようがないのだろうが。

とりあえず痛そうに膨れあがっている頬を冷やそうと氷水を用意しようとした……。

 

「っていうか護。来週なんか試合するんだってな」

 

備え付けの冷蔵庫を開けた瞬間に、一夏がそんなことを言い出した。

 

「……試合……だと?」

 

そしてその試合というのは全く知らないことで……。

否、正しく言えば知ってはいた……。

 

「? 知らないのか? 寮の掲示板に張り出されてるぞ? 護との真剣勝負申込者募集って……」

「なんだと!?」

 

俺は思わず、手にしていた氷をこぼしてしまった。

俺の大声に驚いたのかどうかは謎だが……一夏が不思議そうに言葉を続けた。

 

「来週の土曜に試合日程を組まれてたぞ? 格闘特化型のISを用いるのは出来うる限り参加すること、そして参加しなくても見学には極力来るようにって」

「織斑教官~~!?」

 

俺は思わずこの話の立案者、元凶、犯人である織斑千冬教官に向かって思わず吼えた。

ここまで、話が大事になると……誰が予想しただろうか?

 

「やっぱり知らなかったんだ。ちなみにエントリーしてきたよ~。私が言ってたのはそれ」

「……なんと言うことだ」

「……すまん俺もだ」

「一夏もか?」

「あぁ……というか千冬姉に勝手にエントリーされてた」

「……なるほど」

 

一夏も災難である。

まぁ……格闘特化型ISといえば一夏の白式……といってもいいほどに格闘に特化しているので、教官が勝手に申し込んでおいたのは無理からぬ事だろう。

 

しかし……どうしたものか……

 

と考えてみるが……どうにか出来るわけがない。

ここまで 話が大きくなってしまっては……今更どうこうできないだろう。

それに撫子ポニーの篠ノ之箒さんとの勝負がある。

彼女は確実にエントリーするだろうか、逃げるわけにも行かない。

 

……腹を括るしかないのか

 

逃げることが出来ないとわかって……俺は深く溜め息を吐くことしかできなかった。

 

 

 

 




箒から頼まれたことは護との試合だったのだ!
何の試合かはお楽しみw
他の連中も戦いますが……まぁほとんど描写はないかな~
この試合の最大の目的は別にありますのでw
まぁまだ先ですけどw
ご意見ご感想、お待ちしてます。

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