IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

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簪援護作戦開始

「何? 放課後の使用許可だと? しかも明日?」

「はい……。お願いできませんか?」

「使うこと自体は可能だが……どうするんだ?」

 

放課後、武道場より抜けた俺は教官を捜して職員室に赴き、篠ノ之さんの頼み事の使用許可をもらっていた。

当然何に使うのかを聞いてくる。

それに対してやましいことは一切無いので、俺は教官に素直に答えた。

 

「篠ノ之さんに勝負を挑まれまして」

「勝負? この書類に書かれた物体を使ってか?」

「はい」

 

使う物が特殊だったために、どうしても正式に使用許可がいるので、俺は貸し出し申請用紙に必要事項を記入し、教官へと渡していた。

受け取ったその書面をじっくりと見て……ふと教官が何か考え込んだ。

 

「……篠ノ之とお前の勝負か?」

「はい。そうなります……」

「ふむ……」

 

……何か嫌な予感がするんだが

 

教官が何か思案しているその姿が、何故か俺の第六感を刺激している。

だが、何を考えているのかわからない以上、俺は黙っているしかなく……。

 

「わかった。申請しておこう。使用を許可する」

「はっ」

「が、さすがに明日の使用許可は難しいので来週にしてくれ」

「了解です」

「それとお前と篠ノ之だけではなく、他の連中もさせるぞ? いいな?」

「……何をさせるのでしょうか?」

 

それを聞いては決定的になってしまう。

教官の考えていることが確定になってしまう。

だがそれでも気になるというか……恐ろしいことは先に知っていた方が心構えが出来るので、俺は嫌ではあったが、教官の考えを伺った。

 

「決まっている。貴様と勝負するのをだ」

 

やっぱり……

 

予想通りでした。

教官は判子を机の引き出しから取り出し、受理の所の捺印に判子を押す。

そしてそれを下の切り取り線を切り取り、上半分の生徒が持つべき方を俺へと差し出してきた。

 

「貴様の自衛技術は間違いなくトップクラスだ。生身での戦闘をさせることは間違いなく接近戦タイプのISを使用する人間に取ってプラスになる。だからこれはお前の責務だ。わかったな」

「……イエスマム」

 

嫌々ながら、俺は素直に頷いた。

それを見て何が楽しいのか、教官は直ぐにパソコンへと向き直り、何か作業を開始する。

それが間違いなく俺にとって都合の悪い物なのは間違いなかったが……頼まれてしまった以上断ることは不可能だろう。

しかも不承不承とはいえ、申請したのは俺なのだ。

 

……なんか大事になったなぁ

 

数十分前に篠ノ之さんに頼まれたときはここまで大事になるとは予想すらもしていなかった。

俺はうなだれながら静かに職員室から出て行った。

 

 

 

さて……昼か

 

なんでか部屋で頭を抱えていた護を心配しつつも……とりあえず次の日を迎えて午前の授業は終わり現在はお昼。

昼休みを告げるチャイムを聞き、俺は席を立った。

 

「一夏。食堂いこ」

 

いつもの優しい笑顔絵で話しかけてきたシャルに申し訳なく思いつつ、俺は手を合わせた。

 

「シャル悪い。今日はちょっと用事があるんだ」

 

そう言って俺は教室を出る。

更識先輩情報では簪さんの教室は四組で、お昼ご飯は教室でパンを食べるのが普通らしい。

 

俺も今日はパンを買ってきたし、スムーズに話が進むといいけど……

 

四組に向かいながら俺はそう内心で祈った。

 

全学年合同タッグマッチの話は今朝のSHRで説明された。

そのためさっさとでないと、他の専用機持ちと組む話になってしまうかもしれない。

そう内心焦りながら、俺は四組へと一人で急ぐ。

ちなみに、整備に関してフォローを頼まれていた護はきていない。

護には何とかタッグを組んだ後に助力を頼む事になっている。

そうしないと何で機体をくみ上げているのを知っていたのか、そしてそれを手伝うために護にきてもらうことになっているのか説明が付かないからだ。

四組まですぐのところを、俺はわざわざ遠回り……一度一階に下りてから別の階段で二階へと上がった……して、何とか誰とも会わずに四組の教室へとたどり着いた俺はさっそく簪三を探そうとしたのだけれど……。

 

「うわ!? 一組の織斑君!?」

「え? うそうそどうしたの?」

「よ、四組に何かご用でしょうか?」

 

何故かわーと人が集まってくる。

 

男って言う生き物がそんなに珍しい……んだろうな。ここほとんど女子校だし

 

「えっと、更識さんっている?」

「「「え……?」」」

 

俺の言葉に女子一同の声がハモった。

 

「更識さんって……」

「あの?」

 

皆が更識さんの方へと目線を向ける。

クラスの一番後ろの窓際の席、そこに更識先輩に見せてもらった写真と同じ少女がいた。

購買のパンを脇に避けて、空中投影ディスプレイを凝視しながらその手はひたすらキーボードを叩いていた。

 

「ちょっとごめんね」

 

俺はそう言って、群衆から抜け出して簪さんの席へと向かう。

 

「えっと……イス借りていいかな?」

 

適当に近くの女子に頼んでイスを調達して、断りもなく簪さんの正面に座る。

そしてとりあえずということで、俺は自己紹介を行った。

 

「初めまして、織斑一夏です」

 

カタカタカタと、定期的に叩かれていたキーボードの音が止まり、ちらりと俺へと目線を上げる。

だけどそれは一瞬で直ぐに作業へと戻っていた。

 

「知ってる」

 

反応してくれたけど、なんか明らかに声に嫌悪感が込められていた。

心当たりを先日更識先輩聞いていたので、何とかそれに触れずに済む。

 

「私は、あなたを殴る権利があるけど……バカみたいだからやらない。……それで用件は?」

 

もう邪魔だからさっさと消えて欲しい、というのを言外に伝えるためか、その声には明らかに負のオーラが漂っている……だけでなく、さらには目線にも明らかに負の感情が込められている。

 

うぅ……言いづらいなぁ

 

だけど頼まれた以上言わないわけにも行かないので、俺は用件を言う。

 

「おぉ。そうだった。今度のタッグマッチ、俺と組んでくれないか?」

「イヤ」

 

わ~即答だぁ~。だ、だが諦めないぞ!

 

「そんなこと言わずに頼む!」

「イヤよ。それにあなた、組む相手……困ってないし……」

「あ~いや……その……」

 

いい理由が思いつかない。

まさか更敷先輩に頼まれたからだなんて言えるわけもない。

 

「見つけたわよ一夏! あんた四組で何してんのよ!」

 

と、そうしていると何故か鈴が四組に乱入してきた。

そしていち早く俺を見つけると、問答無用で……

 

ガシッ

 

と俺は制服の襟を掴まれる。

それで息が詰まったのだが……その程度で鈴の行動は収まらなかった。

 

「ちょっと来て」

「じゃ、じゃあ更識さん。また」

「……」

 

簪さんは俺に返事をすることもなく、パンの包装を開けて食事を開始していた。

一筋縄でいかないことを確認して、俺は内心で溜め息を吐くのだった。

 

 

 

やれやれ。これは一筋縄ではいかなそうだな

 

俺は遠目で一夏がハーレム軍団の一員、凰鈴音さんに連れて行かれるのを見て、苦笑した。

タッグマッチのことは今朝のSHRで説明された。

その時、俺はそのタッグマッチから除外されることも説明された。

他のクラスでも同様に同じ事をアナウンスされているはずなので、俺に声を掛けてくる人はいないだろう《仮に除外されなくても俺は声を掛けられないだろうが》。

つまりこれによって一夏を誘うという活動が活発になると言うことである。

そして予想通り、掴まっていた。

 

交渉は……うまくいってないだろうな

 

直感的にそう思った。

口べた……とは言わないが、一夏は余り交渉事が得意ではないと、普段の言動から考えられる。

それに簪ちゃんもあの写真を見る限りでは一筋縄ではいかなそうである。

 

何があったのかは知らないが……あまりいいとは言えないよな

 

あの己を貫くというか……自由奔放、天上天下唯我独尊……は言い過ぎかもしれないが、それでもあれだけ自信に満ちあふれた更識が、妹の事で人に頼み事をする位なのだ。

普段の更識ならば自分で何とかしようとするのだろう。

よほど大事にしているのがわかる。

 

やれやれ、フォローでもしておくか

 

女性が苦手な俺としては、あまり別の教室に行きたくはないのだが。

だが妹……のような存在のために俺は頑張ることにした。

というわけでやってきました四組……だが……。

 

「あ、か、門国さん!?」

「え? 織斑君に続いてもう一人の男が!?」

「あ、う~~~!!!!」

「ちょ、ちょっと。門国さん見て固まったらさすがに失礼でしょ!」

 

……なんかよくわからん状況に

 

俺が教室のドアを開けて入った瞬間に、すごい状況になってしまった。

何人かの女子が顔を赤くしながら俺を見て固まっている。

突然来て驚かれてしまったのかもしれない。

 

が、俺も人のことを余り気にしている場合ではないが

 

俺としても余りにも見知らぬ女性の所に来るのは正直避けたかった。

が、更識のために俺はとりあえず行動する。

そして、そんな俺を見て、簪ちゃんが瞠目していた。

そして直ぐに俺から目を離す。

 

まるで嫌いな相手を見たくないとでも言うように

 

相手がどこにいるのかわかった以上、今すぐに向かっても構わないのだが……簪ちゃんの写真を見せてくれたのは更識《ややこしいな》だ。

十年以上であっていないのに一直線で向かっていくのはいくら幼少時あっていたとはいえおかしい物がある。

というわけで俺は手近な女子に聞いてみることにした。

 

「すいません」

「は! はい!?」

 

何故そこまで驚く?

 

そこまで威圧的に話した覚えはないというのに。

疑問に思うが、それを考えるほど俺も余裕がないのでさっさと用件を済ませることにする。

 

「更識簪さんの席はどちらでしょうか?」

「え? えっと……あの席に座っているのが更識さんですけど」

「感謝します」

 

俺は教えてくれた女子に軽く一礼すると、すぐに簪ちゃんの席へと向かった。

周りが何か口々に何かを言っているが……それは全て無視をする。

 

「更識簪……さん。こんにちは」

 

どう話しかけていいのかわからなかったが、しかし何も話さずに人の前に立って黙っているわけにもいかない。

前の席などを借りることも考えたが、人の席を、それも女子の席を借りるなんて言う度胸は俺にはなかった。

そんなことを考えていると、簪ちゃんが俺へと顔をあげて……すぐにうつむいた。

 

「……お久しぶりです」

 

ぼそりとそう言って、すぐに食事を再開する。

 

「こちらこそお久しぶりです。お元気でしたか?」

 

簪ちゃんは昔俺のことを敵視していたので、あまり仲良くなることができず、またあまり話す機会がなかった。

そのため更敷と違ってあまりフランクというか、普通に話すことが出来ない俺だった。

 

「……はい。どうして突然来たんですか?」

 

どうやらあまり話したくないようだった。

さっさと用件を話して切り上げてほしいというのが言葉の端々に出ていた。

何故そう思われているのかは謎だが、昔から俺のことを快く思っていないことは知っていたので、俺も特に気落ちすることもなく、普通に話をする。

 

「いえ、一夏が更識さんのところに行くと言っていたので、自分も挨拶に行こうと思いまして」

「……敬語」

「はい?」

「敬語じゃなくていいですよ。昔からの知り合いなんですし」

 

おぉ、知り合い程度には思ってくれているのか

 

姉に武道の指導をし、互いに稽古の相手として日々組み手を行っていた俺を敵視していたのだが……どうやら知り合いとは思ってくれているらしい。

そう内心で安堵しつつも、更識ほど親しくなかったし、あまり接する機会もなかったために余り妹と思えないので……結局敬語でしか話せそうになかったりする。

 

「ありがとうございます。が、これは癖のような物でして……。その、気にしないで下さると嬉しいです」

「……」

 

そう話すと何故か露骨に怒気を放ってくる。

感情制御をしているのかどうかは謎だが、その怒気は偽りでも何でもなく、本心のようだった。

 

「あ、あの……何か気に障ることでも?」

 

突然怒らせてしまったことに焦りつつ、俺は何故怒ったのを聞いてみたのだが……。

 

「……お姉ちゃんとは……普通に話すのに……。私よりも……お姉ちゃんと仲……いいくせに……」

 

うん?

 

ぼそりと……それこそ本当に小声で話した簪ちゃんだったが、しかしその声はばっちりと俺の耳に入っていた。

多少だが、耳を良くするための修練をしている俺にとって、声に出せる程度の声だと耳に入れることが出来るのだ。

そしてその耳に入った内容は……

 

やはり……な……

 

「……食事の邪魔ですから、帰って下さい」

 

今度ははっきりと、拒絶の言葉を口にされた。

少々棘のある言い方だったが、十分すぎる収穫を得た俺としてはその程度では何とも思わなかった。

 

「はっ。食事中に失礼しました。これにて失礼します」

 

顔を背けて食事をする簪ちゃんに頭を軽く下げて、俺は四組の教室を退室した。

 

……希望はあるな。まぁ半ば予想通りだったが

 

今の台詞を鑑みるに、内心では更識と仲直りしたいと思っているのは明白だった。

俺がうまく立ち直れるとは思えないが……だがそれでも二人のために何かをして上げたかった。

 

俺には家族という物がよくわからないが……それでも……

 

姉妹が仲良くないのは良くないことぐらいはさすがにわかる。

教官と一夏の兄弟仲を見ていれば自然とそう思えてくる。

四組から自分の教室へと戻りながら、俺はどう動くべきか必死に頭を動かしていた。

 

「あ……」

「……うん?」

 

そうして一組へと向かって歩いていると、途中で一夏ハーレム軍団一員、撫子ポニーの篠ノ之さんと出くわした。

 

「こ、こんにちは」

「ど、どうもです」

 

挨拶をしてきてくれた撫子ポニーに言葉を返すが、何故か気まずい雰囲気になってしまった。

俺が別にかしこまる理由はないのだが、何故か萎縮している撫子ポニーを見ているとこちらも接しにくかった。

 

「その……昨日のお話なのですが」

 

そうして無言で直立していると、撫子ポニーが気まずそうに言葉を発する。

 

あぁ、なるほど

 

その内容で俺は何故撫子ポニーが萎縮、というか話しにくそうにしているのかわかった。

昨日の頼んできたことの結果を知りたかったのだろう。

まだ言っていなかった事を思い出して、俺はすぐに言葉を放った。

 

「使用許可を頂くことは出来ました。が、なにぶん急な物で……来週にしてくれとのことです」

「そ、そうですか」

「あと、何故か知りませんが自分と篠ノ之さんだけで終わりそうにないです」

「? どういう事ですか?」

「自分もよくはわかりません。ただ、教官が自分を相手にべつのやつとも対戦させると仰りまして」

「……はぁ」

 

よくわかっていないのか、篠ノ之さんが頭に?マークを浮かべている。

まぁそれも当然だろう。

なぜならば……

 

俺自身よく理解していないのだから……

 

……何をさせるのか実に気になるところであるが聞いても教えてくれない可能性が高いし、それになにより教官の中では俺と学生達を対戦させるのは決定事項だろう。

何が起こるのかはわからないが、まぁすでに何かが起こるとわかっているのならば対処もできる。

 

……対処というか……心構えを造っておくぐらいしか俺には出来ないが

 

といってもおそらく格闘技での対戦だろうから、別に問題はないだろう。

問題は他の奴ともやらせるといっていた、「他の奴」が果たしてどれほどの規模になるかと言うことだろう。

 

「とりあえず後日また教官から連絡があると思いますので」

「わ、わかりました」

「では、失礼します」

 

とりあえず挨拶を告げて、俺は教室へと戻る。

まだ昼休みの時間は半分ほど残っているので、俺は先に買っておいた購買のパンを自分の席で食す。

来週行うことになってしまった、試合に対して色々と考えを巡らせていると……。

 

「失礼します」

 

と静かながらも妙に通る声を出しながら、更識が我が一組の教室へと入ってきた。

 

「あ、会長。こんにちは~」

「はいこんにちは☆」

 

勝手知ったる他人の教室……いつの間にか教室の女子とも仲良くなっている更識は気軽に挨拶を交わしながらまっすぐに俺の席へと向かってきた。

 

「こんにちはお兄ちゃん。お昼一緒にいい?」

 

と言いながら購買で買ったパンを掲げながら俺の正面の席に腰掛けた。

そして疑問系で俺と一緒に昼を食べていいか聞いておきながら許可もなくパンの封を開けている。

 

「聞いておきながら既に一緒に食うことを決めているのならば聞くなよ」

 

そんな更識に呆れながら俺は机を半分ほど更識へと譲る。

それを見て嬉々としながら更識がパンを頬張った。

 

「うんおいしい♪」

「まずは頂きますと言いなさい。頂きます」

「頂きます」

 

食物と作ってくれた人への感謝もせずに食事を始めた更識に呆れつつ、俺は率先して手を合わせて食事を始める。

それを見て慌てて更識もあいさつをする。

 

「それで一体何のようだ?」

「? 何のようって……用がないと来ちゃ駄目?」

「駄目とは言わないが……そんなに暇じゃないだろう? 生徒会の仕事も結構押していると思ったが」

 

世界に一つだけのIS学園。

その学園の生徒会長である更識は普通の学園の生徒会長よりも遙かに多忙だ。

俺も雑務を手伝っているが……更識の仕事量は俺の比じゃないだろう。

 

「う~んまぁその通りなんだけど……それでも今年はお兄ちゃんもいるしそこまで……って感じかな? それにお昼くらいゆっくりしたいし。三大欲求は満たそうよ」

 

なかなかすごいことを言い出した更識の言葉に、近くにいた女子が一瞬吹き出しそうになり、気管にでも食物が入ったのか何人かは咳き込んでいた。

 

「お前は……。嫁入り前の女がそんな台詞を」

「いいでしょ~。言っていることは間違ってないんだし。それともお兄ちゃんには欲求ないの~♪」

 

ニヤニヤと笑いながら俺へと問い詰めてくる妹分。

 

いかん、話が変な方向に……

 

あまり飯時……というか大勢がいるところで話す話題でもないので話題転換を図ろうとする……のだがそれも相手に封じられてしまう。

 

「ま、まさかお兄ちゃんって……男色家?」

「ブッ!?」

 

思わず吹き出しそうになってしまった物を何とか口内で抑える。

がその代償として気管に入ってしまい……思いっきり咳き込んだ。

そして咳き込んでいる間……

 

「……男色家だったの?」

「だからこんなに女がいるのに、嫌らしい目線を全く出さなかった?」

「女性が苦手だから男に走ったのかしら?」

「……でも門国さんなら顔もいいし……問題ないと思うんだけど」

「……同意するわ」

「ってことは……夜な夜な一夏君と……!?」

「「「「っ!?」」」」

 

何を言っているんだよ!?

 

周りの女子たちがなんか好き勝手に言っている。

というか、最後の方の言葉はちょっとまずい気がするのだが……。

思わず突っ込みたかったが、いかんせん咳き込んでいてそれどころではなかった。

 

「あんなにアプローチしても反応しなかったし」

「……ゴホッ。お前相手じゃ何も感じないわ」

「なら他の人は? 例えば田村さんとか?」

「え!?」

 

いきなり名指しされた田村さんが、驚愕して声を上げた。

そしてなぜかちらちらと……俺の方を盗み見ている。

 

……どう答えろと?

 

何を言っても墓穴のような気がしたが……だが黙っていてもまずそうだったので、俺はその質問に返答する。

 

「田村さんは俺の隣の席の方で、よくしてもらっている」

「そういうことじゃないよお兄ちゃん。女性として見てどうって話なんだよ?」

「……済まないがそう言うのは」

 

「それとも……イ○ポ?」

 

「………………は?」

 

「「「「!?」」」」

 

余りにもあれな発言に、俺は思わず間抜けな声を上げてしまった。

そして更識のあまりにも……下世話な発言はクラスを震撼させた。

 

「……イ○ポって……あのイ○ポだよね?」

「本当に?」

「……これはさすがに、あまり聞いてはいけない気が」

 

「…………うぉい……更識……」

 

さすがにこの言葉は聞き捨てならないというか……お昼時の教室で言う言葉ではない。

それを込めて睨みつけるがその先にあったのは、何を考えているのかわからないいつもの笑顔の更識だった。

 

「だって……あんまりにもお兄ちゃんが女の()に興味がなさそうだから」

 

そしてそれでもなお言いつのるその言葉……。

俺は相手にするのもバカらしくなったので、席を立った。

 

「あ、待ってお兄ちゃん」

 

だが敵も易々と逃がすつもりはないようだった。

その言葉に怒りを一瞬叩きつけそうになってしまったが、一旦呼吸をして怒気を吐き出す。

 

「……確かに女の子に余り興味はない」

 

俺のその言葉に教室がざわついた。

やっぱり、だとか、本当にリアルBL……、とか……聞き捨てならない単語が飛び交っているが……俺はそれを全て黙殺した。

 

「ただ……」

「ただ……?」

 

しかし更識だけは、俺の言葉をきちんと聞いていた。

まぁこいつは俺の家庭の事情も理解しているからそれも当然かもしれないが。

その更識に、そして教室の子達にも聞こえるように、俺は言葉を放った。

 

「わからないだけだ……俺には……」

 

女という……存在が……

 

 

 

……やっぱりそうなんだね。お兄ちゃん

 

私は少し怒り気味に席を立ち、そしてぼそりと……言葉を残してお兄ちゃんはそのままどこかへと行ってしまう。

 

……まぁお昼休みの時間も少ないから、おそらくトイレだろうけど

 

教室の時計を見てみると、お昼時間はもうそれほど残っていなかった。

そんな中でこのIS学園でお兄ちゃんが行く場所なんて限られている。

 

……悪いことしちゃったね

 

先日の買い物にて、ちょっと焦ってしまったのかもしれない。

情報収集のためにここまで来たのだけれど……拙速過ぎた。

 

巧遅拙速とは言うけど……失敗したなぁ

 

速すぎたというか……あまりに急ぎすぎたと言うべきか……。

ともかく今回のアプローチは完全に失敗だった。

お兄ちゃんの評判を無駄に下げてしまった。

といっても女の子達的にはおいしい話題の種だし、そこまで危ない訳じゃないからいいけど。

 

イ○ポはまずかったかな……

 

まぁそれも深刻な問題じゃない。

というかお兄ちゃんが女の子とそういった関係になるのははっきり言ってあり得ないので全く問題にならなかった。

 

……女の()はだけど

 

情報を入手することは出来たけど、あまりお兄ちゃんの気分を害してしまった。

これでは本末転倒だった。

 

疲れてるね。私も

 

私はそんなことを考えながら席を立った。

隣の席の田村さんに詫びながら。

田村さんは気にしていないみたい……というか話題に挙げられて嬉しかったみたいだった。

その時、頬が若干赤くなって乙女の顔をしていたのを、私は見逃さなかった。

 

むぅ……ここにも敵が……

 

山田先生以外の敵を見つけて、私は警戒するべき相手の脳内メモ帳に、新しい人物を記入しておいた。

そんなことをしながら私は廊下を歩いていく。

自分の教室へ帰る途中、色んな子が私に声を掛けてくれる。

それに返答しながら、私は先ほどの失敗について考えていた。

 

確かに……疲れてはいるんだけど……

 

お兄ちゃんの言うとおり疲れているのかもしれない。

生徒会の仕事は確かに山積みで……大詰めだった。

近々タッグマッチが開かれる以上、あまり悠長なことはしていられない。

当日の準備だけでなく事前準備だってあるのだ。

また警備だって考えなければいけない。

 

……警備か

 

警備……。

教師はもちろんのこと警備には学生の精鋭達だって参加する。

そしてその中には……お兄ちゃんの名前も含まれていて。

 

……何も起こらないといいけど

 

それだけが心配だった。

だけど今までの経緯を考えてみても何も起こらないというのはあり得ない。

だから……私が願うのはたった一つだった……。

 

どうか、みんなが……お兄ちゃんが怪我をしないで無事に終われますように

 

ただそれだけを……祈っていたのだ……

 

なのに……

 

 

 

それは私にとって……儚い願いとなってしまう……

 

 

 

「すまん! ふたりとも本当にごめん!」

 

パンッと、小気味いい音が俺の部屋……正しくは俺と一夏の部屋に響いた。

一夏がタッグを組もうとやってきた二人、一夏ハーレム軍団の大和撫子ポニーテールとお嬢様金髪カールに対して手を合わせて謝っている。

 

たいへんだね~

 

ちなみに今の時間は放課後で、放課後恒例の特訓後である。

着替えを済ませ、夕食には少々速い時間になった午後六時。

俺はいつも早めなのでそろそろ食事に行く時間だったが……出入り口でやりとりを行っているので出るに出られなかった。

 

予想通り……一夏も大変だな……

 

予想通りというか……誰もが予想して然るべき状況……すなわち一夏のパートナー争奪戦が開幕されていた。

お昼休みも中国ツインテールのまな板娘に拉致されていたらしい。

 

まぁ本人が色恋に少し意識を傾ければそれで解決……しないか

 

今のところ有力株は五人のハーレム軍団だろう。

大和撫子ポニーテールの篠ノ之箒、中国ツインテールまな板娘の凰鈴音、イギリス金髪カールお嬢様、セシリア・オルコット、フランス金髪ボーイッシュ、シャルロット・デュノア、ドイツ銀髪ちびっ子、ラウラ・ボーデヴィッヒ。

仮に色恋沙汰に敏感になった場合……一夏は誰を選ぶのだろうか?

 

恋……ね

 

と、内心で偉そうに言っていても、実は俺も色恋沙汰は全くわからない。

 

もっといえば……俺は人をあ……

 

「どういうことだ一夏!」

「どういう……事ですの!」

 

そしてその一夏に二人揃って激昂し……その怒りにまかせてISを召喚しようとしていた。

 

「……あ」

 

が……片方は俺の存在に気づき、手を止めた。

そちらへと目を向けると大和撫子ポニーテール、篠ノ之箒さんが気まずそうに俺を見ていた。

 

そんな目でみられ……

 

めしっ……

 

めし?

 

バキャァァァ!

 

謎の音に訝しんでいると、ドアがものすごい勢いで吹っ飛んできて……そのまま大和撫子ポニーテールと金髪カールに命中した。

ちなみに俺の方にも飛んできたが、俺はそれを右手で難なくキャッチする。

 

「おい、バカ共。部分展開とはいえ、ISの無断使用には変わりないぞ……とまだ召喚までは至ってなかったか。速すぎたな」

 

いや、召喚させちゃまずいでしょ、教官

 

「まぁ未遂とはいえ違反に代わりはない。篠ノ之、オルコット両名は今すぐグラウンドを十周してこい」

「「えっ!?」」

 

うわ、きび……

 

「なんだその不服そうな顔は? ……そうだな、そんなにISが好きなら望み通り装着させてやろう。IS装着したまま十周してこい。当たり前だが、PIC(パッシブイナーシャルキャンセラー)はもちろん、補助動力も入れることを禁ずる」

「「いっ!?」」

 

うわ~……

 

聞いているだけで身震いしてしまいそうな罰則だった。

一番近いというか身近な例は……スキー靴を履いてグラウンド十周だろうか?

重し……動力なしのIS……付きなので当然それ以上に辛いが……。

 

「さっさといけ」

「「は、はい!」」

 

びしっ背筋を伸ばし、二人が部屋の外へと出て行く。

その時、ポニーテールが俺へと一瞬視線を投じていた。

 

……気にしているのかね?

 

その視線の真の意味は俺には理解しかねるが……まぁ、それも不本意ながら後日わかるだろう。

 

「おい織斑」

「は、はい?」

「騒動の発端としての自覚を持て。もう少しどうにかしろ」

「は、はい……」

「……それからドアの修理申請を出しに来い」

 

それだけ言って教官は立ち去っていった。

言われた当の本人は呆然としている。

ちなみに、すでに申請用紙に俺は記入事項を記入していた。

 

それを持って、今日の波乱はとりあえず終了したのだった……。

 

 

 

 

 

 




はい一応こんな感じで護さんは絡んでいきますよ~

簪ちゃん……扱いが難しいな……
そこらを頑張っていきたいです!
あと六花がどんどん下ネタキャラに……。
いや……六花のことは大好きなんだけど……う、動かしにくい!?

が、頑張ります!

とりあえず次回は雑誌のインタビューへとむかいまっす!

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