IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

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頼まれごと×3

「なぁ、護」

「何だ?」

 

更識、そして山田先生との買い物を終えて帰ってきた俺は、早速ぬいぐるみの縫いつけを行い、その後夕食を早々と済ませて自室に引きこもり、一夏が夕食に行っている間に友人に頼み事(・・・)のメールを送り、それを終えて自身のIS、守鉄のステータス画面を見つめていると、シャワーから上がった一夏が俺へと声を掛けてくる。

俺はステータス画面を閉じると一夏へと振り返った。

 

「護って……進路どうするんだ?」

「……いきなりだな」

 

進路、進む道、将来の自画像。

言い方は様々だが……まぁ自分がどんな仕事に就くか、でもいいだろう。

そんなことを突然聞いてきた一夏に、俺は思わず顔をしかめてしまう。

 

「いや、今日買い物している最中にシャルの立場とか聞いてさ。ちょっと気になって」

「シャルロットさんの立場の話というと、代表候補生の話か?」

 

俺の言葉に一夏が頷く。

何でもシャルロットさんが誕生日プレゼントに腕時計を買ってくれたらしく、その時給料の話になったらしい。

代表候補生は一応公務員のような立場なので給料が支給される。

その話から候補生の話へと発展し、将来自分がどうするかをちょっと考えたらしい。

まだ一夏は俺と違って純粋な高校生、しかも一年生なのでそこまで考えなくてもいいのかもしれないが……一夏の特殊な立場を鑑みればそうも言ってられないのかもしれない。

 

世界で二人しかいない男のIS操者の片割れだしな

 

何でも国際IS機関での審議が長引いているので自分でもどう対処すべきか測りかねているようだ。

 

まぁ一夏のISは本人と相まって特殊だからな

 

IS開発者の篠ノ之束博士のお手製のISだ。

審議が長引くのも無理はないだろう。

 

「だから一応参考って事で……聞かせてくれると嬉しいんだけど」

 

聞くことに引け目を感じているのか、言葉にあまり力がなかった。

だがそれでもある意味で先行き不安なので身近な人間の意見を聞いてみたくなったのだろう。

 

「別に構わん。俺としては自衛隊に戻りたいのだが……まぁ一夏と同じでそう簡単に戻れそうにないんだよな。元々自衛隊に所属していたから不可能じゃないんだが……やはりデータが欲しいらしくて」

「あ~。やっぱり護もそうなのか?」

「幸か不幸か、俺も一夏と同じで稀少な存在なのだろう……世間から見ればだが……。自衛隊に戻るとなると事実上日本が男の操者一人を独占する形になるからな。日本としても大声では言えないが余り好ましくないのだろう」

 

元々自衛隊の人間なので戻るのは簡単だ。

だが方法が簡単でも、状況がそれを許さないのであれば……正直難しくなってしまう。

ISそのものにそこまで特殊性……単一仕様能力(ワンオフアビリティー)はあくまでも能力である……がないため、一夏の白式ほど話はこじれないが、こじれることに代わりはなかった。

 

「俺の希望は自衛隊に戻ることだが、政府というか世界各国としては、世界中を回ってISのデータを収集するための操者……身も蓋もない言い方をすると実験体(モルモット)になってくれると一番いいみたいだが」

「……実験体(モルモット)って自分で言うなよ」

「取り繕ったところでやっていることはそれに代わりはない」

 

これが世界各国の間で導かれた案の一つ。

期間を決めてその間、俺にISに乗せてのデータ収集を行う世界的人材派遣人員となることが、もっとも国家間に軋轢を生まなくて済むらしい。

またデータも取れるのである種で貴重な存在となりうるみたいだった。

 

「そしてもう一つ。これは教官から提示された案なのだが……」

「? 千冬姉から?」

「あぁ、実は―――」

 

 

 

~先日~

 

「IS学園の教師……ですか?」

「あぁ。どうだ?」

「いえ……どうだと言われましても……。いきなりすぎて何とも」

 

特訓中に突然突拍子もないことを言い出した教官に、俺は思わず面食らってしまった。

訓練が一段落し、しばしの小休止になったときに言われても、疲れている頭では余り考えることが出来なかった。

だが内容が内容なので、人に聞かせるわけにも行かないのだろう。

だからこそ二人に容易になれる訓練時間を選んだのだろう。

 

「貴様はある意味で一夏よりも特殊……というか厄介な立場の存在だ。自衛隊に所属しているのがある意味でネックとなっている。先ほど話した実験体になることが一番平和的なのだが……お前が耐えきれるとも思えん」

「……同感です」

 

我が事ながら情けないが、そんな生活……ISの研究と言うことで女性が少なからずいる環境下に、しかも世界中の研究機関に赴いていては俺の精神がすり切れるのは目に見えている。

 

「それに貴様のお母上のこともある以上、余り長い間日本を離れるのは避けたいだろう」

「……その通りです」

「そこで、貴様にはIS学園の教師……整備課の教師になるのはどうだ? まぁ研究所に行くよりも女だらけの職場となるが……日本を離れなくていいというのは貴様にとってもいいことだと思う。またここならば世界中にデータを開示することが出来るので、先ほど言った問題も解決することが出来る」

「……確かにある意味で理想的ですね」

 

女性だらけという点を除けば……

 

世界各国を飛び回らなくて言い分、肉体的な負担は少ないかもしれないが、女性だらけという点では上回っていることは間違いないので、どちらがいいのかははっきりとしない。

 

「教職の科目を履修しなければならないが……貴様ならば頭脳に問題はないのだから期間さえクリアすれば簡単のはずだ。また貴様の自衛技術や整備技術など……学園側としては貴様が教員になってくれれば、得体の知れない人間を雇うよりも遙かに安価でいい買い物になる。それに貴様ならば、生徒に対して不祥事を起こすこともあるまい」

「はい。する気は全くおきませんね」

 

最後の台詞には俺は力強く断言した。

劣情を催して、欲求不満で生徒に手を出す、といって事はほぼありえないだろう。

女性に触れただけで卒倒するようなへたれな俺が、そんなことを出来るとは思えないし、する気もない。

 

「まぁ話が急すぎるし、まだ先の話だ。とりあえず頭に入れておいてくれ」

「はっ」

「よし、では訓練を再開する」

 

 

 

~現在~

 

「ってなわけだ」

「へぇ~」

 

俺は護の話を聞いてしきりに頷いていた。

確かに仮にIS学園の教師になるのならば、確かにそこまで表だって問題が起こることはないだろう。

元々データ取りのためにこのIS学園に入学したのだから、各国も文句は言いにくいだろう。

実際データは提供するのだから、独占は出来ないけど、データを得られることに代わりはないのだから。

 

「だが……正直教師になるのは気が引けるというか……」

「あ~。護女性が苦手だもんな」

「あぁ。とてもではないが……この女性だらけの学園で、苦手な女性に物事を教えるという……自分の姿が想像出来ん……」

 

ア~わかる気がする

 

その護の言葉に俺は頷くしかなかった。

俺は教師になるつもりはないけど……仮に教師になっても、なんか生徒の女子にしっちゃかめっちゃか振り回される気がしてならない。

 

「教師か~。いいんじゃない? お兄ちゃんなら似合いそうだし」

「「へ?」」

 

二人して間抜けな声を上げる。

第三者の声がした方へと目を向けると、制服姿の更識先輩が、こっちに向かってきていた。

 

「は~い。お兄ちゃん、織斑君こんばんは」

「こ、こんばんは」

「気配を消して侵入するな。……前にも言ったが余り男の部屋に出入りするなと」

 

護が更識先輩にいつものように小言というか、注意していたけど《ちなみに俺も同意だ》そんなことなどどこ吹く風、といつものように居座る更識先輩に半ば諦めたようだった。

護に若干に睨みつけられながら、更識先輩が護のベッドへと腰掛ける。

 

「それで、今日はどうしたんだ?」

「うん、えっとその……織斑君にお願いがあって……」

「俺にですか?」

「……うん」

 

更識先輩にしては歯切れの悪い口調で、頷いた。

しかもこの部屋にきた原因が護じゃなくて俺にあるのも珍しかった。

護と顔を見合わせるけどわかるはずもなく、二人して更識先輩の言葉の続きを待つ。

二人の男の視線に晒されて、若干居心地悪そうにしていたけど、直ぐに決意を固めたのか……

 

パンッ!

 

と、突然乾いた音と立てて手を合わせて、いきなり拝まれた。

 

「え、えっと?」

「妹をお願いします!」

「はい!?」

 

突然の言葉に何がなにやらわからず、俺はもちろん護も不思議そうにしていた。

 

 

 

「妹さん……ですか? 俺と同学年の」

「うんそう。名前は更識簪。あ、これ写真ね」

 

一夏へと見せる携帯画面を俺も一夏の後ろから覗き込んだ。

眼鏡を掛けた顔で姉である更識と同じセミロングの髪型をしているが、癖毛が内側を向いているのが違いといえば違いだった。

まぁそれと雰囲気も活発と言える更識に比べればどことなく陰りを感じる。

 

ほぉ。簪ちゃんも結構変わったな

 

幼少時の簪ちゃんと、携帯の画面に映っている姿は当然のごとく、全然違ったものだった。

だがそれでも雰囲気はどことなく似ているのだが……以前よりもとげとげしさが感じられる。

 

というか人を寄せ付けない感じだな

 

「あのね……その……私が言ったって絶対に言わないで欲しいんだけど……」

「はぁ……」

 

あまりにも普段の活発さというか……傍若無人とも言える態度とは180℃回転しているその態度に一夏が面を喰らっていた。

 

「妹ってその……ネガティブって言うか……その……ね……」

 

必死に言葉を選ぼうと考えているみたいだが……

 

「その……暗いのよ」

 

結局ばっさりとストレートに言った。

そしてその台詞に俺は若干の違和感を覚える。

 

暗いだと? 簪ちゃんが?

 

幼少時、更識の後ろにチョコチョコとついて回っていた簪ちゃんは、俺なんかが武道のことなんかで更識に教えていて俺が注意したりすると「おねぇちゃんをいぢめるな!」と言って俺に怒っていた感じの子だったのだが……。

しかしその当時の簪ちゃんは四歳だったので、あまり当てにはならないのだろう。

 

十年以上経っているしな

 

「そ、そうですか」

 

一夏もどう反応していいのかわからず、戸惑っている。

更識の感じが余りにもいつもと違うから戸惑っているのだろう。

 

「でも実力はあるの。あの子専用機持ちで日本の代表候補なんだけど……専用機がなくって」

「はい?」

 

専用機がない専用機持ち……意味がわからないな

 

「はい? って……織斑君のせいなのよ?」

「へ!?」

 

自分が原因と言われて驚く一夏だが、俺は何となくその原因としているところの理由がわかった。

 

日本(・・)の代表候補だとすれば……

 

「簪ちゃんの専用機の開発は倉持技研が行っていたんだけど」

「白式と同じところですか……」

「そう。白式に人員を全員回しているからいまだに完成してないの」

「な、なるほど」

 

予想通りだったようだ。

倉持技研というところだけが日本の専用機開発を行っているわけではないが、日本で開発するのは間違いない。

そうなると同じ国で開発された一夏に原因があっても不思議ではない。

 

「だから織斑君のせいなんだよ? わかる?」

「す、すみません」

 

別に謝らんでも

 

確かにある意味で一夏に原因があるように見えるが、どちらかというと白式開発を行っている倉持技研が一番の原因なのだから。

だがそれでも謝ってしまうのが一夏のいいところなのかもしれないが。

 

「それで妹を頼むって言うのはどういう……」

「あのね、今度各専用機持ちのレベルアップを図るために全学年合同タッグマッチって言うのが開催されるの」

「そうなんですか」

「お願い! そこで簪ちゃんと組んで上げて!」

 

珍しく下手に出ている更識。

拝まれた一夏は慌てていた。

 

「えっと……出来たら護とがいいんですが。何も考えなくて済むし」

 

更識の頼み事に戸惑いつつも、しかし俺とのタッグを望む一夏を非情……とは言えないだろう。

タッグマッチとなるとハーレム軍団が黙っていないから何かが起きるのは間違いない。

その点、俺と組めば誰もが納得するかもしれないからだ。

男と男ということでライバルにリードされることもない。

が……

 

「あ、残念だけどお兄ちゃんはタッグマッチから除外されてるの」

「え? 何でですか?」

「だってお兄ちゃんはあくまでも専属(・・)繰者であって専用機って訳じゃないから。それに他の子と違って特殊な装備を積んでないからその必要性も薄いし、他に仕事もあるから」

 

更識の言うとおりで、俺はあくまでも機体の専属操縦者であって、俺の専用機という訳ではないのだ。

機体だってパーツを換装したとはいえ量産型であるラファールリヴァイブだ。

タッグマッチに出場できないこと、その日に仕事があることはすでに通達されている。

確認の眼差しを向けてくる一夏に、俺ははっきりと頷いていた。

 

「そ、そうですか」

 

ちょっと残念そうにする一夏。

まぁ安全パイがなくなって、容易に想像できる阿鼻叫喚の状況を思って身震いしているのだろう。

が、更識があまりにもいつもと違うために、断るつもりはなかったようだった。

 

「わかりました。その更識先輩の妹さんと組ませてもらいます」

「え、うん……。いいの? だったら極力私の名前は出さないでね」

 

俺も見たことがないほどに、更識が異様なほどしおらしくなっている。

よほど簪ちゃんのことが大切なのだろう。

だが、その態度が余計に以前から思っていた俺の疑念に対して、信憑性を増していた。

 

なんかあったんだろうな

 

おそらく姉妹仲がそこまで良くないのだろう。

一夏もそれを感じたらしく……

 

「簪さんには俺から誘いますけど……あの、仲良くないんですか?」

「う……」

 

一夏の台詞で更識がしょんぼりとうなだれる。

それで俺も一夏も確信に至った。

 

何とかしてやれればいいが……

 

昔お姉ちゃん子だった簪ちゃんと仲が悪いのは俺から見ても心苦しい。

この態度を見る限り更識も仲直りしたいと思っているのは間違いないから、何とかして上げたいと思う。

 

「ならなるべく自然を装って接触しますね」

「ありがとう。それであの子ちょっと気むずかしいところがあるから気をつけてね。それと……お兄ちゃん」

「ん?」

 

一人色々と思案していると、俺に話の矛先を向けてきた。

俺はそれに反応すると、更識がさらに申し訳なさそうにして、手を合わせてお願いしてくる。

 

「お兄ちゃんにはその……整備士として簪ちゃんのフォローをお願いしたいの」

「整備士として?」

 

更識が俺に頼み事をしてくるのは別に珍しくなかったが、その内容が珍しかったので俺は一瞬きょとんとしてしまう。

 

「簪ちゃんはその……私に対抗して自分で機体を組上げようとしているの」

「機体を自分で? すごいな」

 

それは二人に対して賞賛だった。

一人でくみ上げたことのある更識と、対抗してとはいえくみ上げようとしている簪ちゃんに。

一夏もそのすごさがわかっているのか呆気にとられている。

 

うん? 対抗して?

 

その言葉に引っかかりを覚えたが……更識の話が続いていたので俺はとりあえず話を聞くことにした。

 

「私のは七割方完成していたし、薫子ちゃんに意見もらったり、虚ちゃんにも手伝ってもらったからってのもあるんだけど」

「え? あの二人って整備課なんですか?」

「そうよ、三年主席と二年のエース」

 

一夏が疑問に感じたことを口にする。

そして意外なその実力に呆けていた。

無論それは俺も同様だった。

 

「なのにあの子、本当に一人で組上げようとしてて……。幸いなことにあの子の機体は打鉄の後継機の打鉄弐式で、ラファールリヴァイブの汎用性を参考にしてるの」

 

あ、なるほど

 

それを聞いて俺は合点がいった。

確かにそれなら俺の知識と腕で力を貸すことが出来るだろう。

自衛隊で主に使用されていたISは打鉄とラファールリヴァイブだ。

それらの整備に関しては俺自身も多少の自信がある。

 

まぁ仮に自信がなかったとしてもどうにかするが……

 

こんなにもしおらしくしながら、人を引っ張っていくタイプで、自ら先陣を切る更識が頭を下げてまで人に頼み事をしているのだ。

大切な妹の頼みを無下にするつもりはさらさら無かった。

 

「わかった。俺の出来る範囲でフォローしよう」

「ありがとう」

 

断られると思っていたのか、不安に満ちていた表情に、安堵の感情が浮かぶ。

それを見て俺はさらに、頼み事ではない方の決意を固めた。

 

何とかして上げたいな……

 

妹のような存在がいると言っても、血の繋がっていない更識では、真の妹にはなり得ない。

本当の姉妹がいない俺としては真に更識の悩みを解決できるかわからないが……それでもこの大切な妹のために、何とかして仲直りさせようと、俺は誓った。

 

 

 

「織斑君、篠ノ之さん、門国さん」

 

二時間目の休み時間。

何とか授業について行けていることに安堵しつつ、俺が背伸びをしているときにやってきたのは、二年生の黛薫子先輩だった。

後ろには俺の席に来る前に連れてきたのか、箒と護がいた。

 

「どうしたんですか?」

「いやーちょっとお三方にお願いがありまして」

「お願い? ですか?」

 

突然の申し込みで箒も驚いているようだった。

護も同意見なのか、直立不動に起立しながら不思議そうな顔をしている。

 

「うん。私の姉って出版社で働いているんだけど、専用機持ちとして織斑君と篠ノ之さんを、男でIS学園に入学したって言うことで織斑君と門国さんにインタビューをしたいんだって。あ、ちなみにこれが雑誌ね」

 

そう言って差し出されたのはティーンエイジャー向けの雑誌だった。

しかし雑誌を差し出されても、それがどうしてISと繋がるのかわからない。

 

「えっと、雑誌とISって関係なくないですか?」

「アレ? もしかして、知らないの? こういう事ってみんな初めて?」

 

先輩の言葉に俺と箒は曖昧に言葉を返す。

が、護は多少知っているのか、特に表情に変化はなかった。

 

「専用機持ちって普通は国家代表とか候補生のどちらかだから、タレントみたいなこともするの。国家公認アイドルって感じだね。モデルって言った方が正しいかな?」

「そ、そうなのか護?」

「あぁ。自衛隊でも一人くらいしていた人がいたな」

 

へ~。本当に色んな事するんだな

 

十代のくせにとことん知らない俺だった。

がそれは箒もそうらしく、しきりに頷いていた。

 

そう言えばセシリアがイギリスでモデルしてたって前に言ってたな

 

そこで俺は以前写真を見せてもらったことを思い出した。

その写真は見事にドレスを着こなしたセシリアの写真で、強く残っている。

 

「出来たら受けてほしいんだけど……」

「その……専用機を持っていない自分もですか?」

 

今まで沈黙を破っていた護が疑問を放つ。

確かに護には専用機がないのだけれど……。

 

「確かに専用機はないですけど、門国さんは話題性満載なんですよ! 姉が是非ともつれてきて欲しいって言ってたんですよ。読者アンケートでもすごいらしいですよ? 男二人の事をもっと見てみたいって」

「そ、そうなのですか?」

「はい」

 

うわ、男二人って事は俺もか?

 

キーンコーンカ-ンコーン

 

そうして俺が内心で唸っていると、休み時間終了を告げるチャイムが鳴り響いた。

 

「織斑君、今日は剣道部貸し出しよね? 放課後に剣道部行くからよろしくね。出来たら門国さんも一緒に剣道部へきて下さいね! では!」

 

颯爽と立ち去る先輩。

まぁこのクラスの担任を考えるとそれは間違いなく賢い選択なのだけど……。

 

「……俺も行かないとだめか」

 

眠たげな表情のまま、護がげんなりとする。

女性だらけの空間に行くことを危惧しているのだろう。

だが、話が中途半端に終わってしまった以上逝くしかないと思っているのか、護がため息をついた。

そしてそれとほぼ同時にあくびをかみ殺していた。

 

「眠そうだな、護。昨日も俺が寝た後、何かしてたのか?」

「ん? あぁ。友人というか先輩に頼み事のメールと、ちょっと調べ物をな」

「ふ~ん。あまり無理するなよ?」

「あぁ。ありがとうよ」

 

護がすることなら、問題ないだろう。

護の場合はやっていることよりも、それで無茶をしないかということが心配だからだ。

そして俺たちはそれぞれ席へと戻る。

 

「席に着け。授業を始めるぞ」

 

それとほぼ同時に千冬姉が教室へと入ってくる。

どうやら今日は出席簿アタックの餌食になることはなかったようだった。

 

 

 

「タオルどうぞ」

「きゃー! 本物の織斑君だ!」

「こっちにもタオルちょうだい!」

「ねぇねぇ。私疲れてるんだけど……マッサージしてくれない?」

「そう言うサービスはしておりません!」

「ちぇ、織斑君のいけず~」

 

つ、疲れる

 

放課後、武道館で俺は練習を終えたばかりの剣道部員ひとりひとりにタオルを配っていた。

黛先輩の言うとおり、真疲れる事ながら、今日は生徒会の『織斑一夏の部活動貸し出しの日』である。

 

「ほい、箒も」

「……すまん」

 

面を外した箒にタオルを渡すが……何故か憮然としていた。

というか機嫌が悪そうだった。

練習している間はそこまででもなかったというのに……練習時間が終わって俺がタオルとかを配り始めたくらいからだろうか?

 

「何怒ってるんだ?」

「……怒っていない」

「いや怒ってるだろ?」

「怒ってなどいない!」

 

何故か激昂して俺に竹刀を振るってく……って、あぶねぇ!

 

ブン! と唸りを上げて迫ってくる竹刀を辛うじて避ける。

が、それでバランスを崩してしまって俺はこけた。

その俺に箒の竹刀がぁぁぁぁ!?

 

「チェストー!」

「うわぁぁぁ!」

 

パシン! 

 

パシャ←極小さい音

 

力一杯振り下ろしたにしては、軽い音がした……って痛くない?

 

「防具を着けていない人間に竹刀を振るうのは……あまり褒められたことではありませんよ」

 

え?

 

こけている俺の上のほうから声が聞こえてくる。

痛みにこらえて目を閉じていた俺を庇うように、護がいた。

振りかぶっていた竹刀を素手で掴み取っている。

箒としては全力だったのか、それを止められて驚いていた。

 

「た、助かった護」

「別に大したことじゃない」

 

そう言いながら護が俺を助け起こしてくれて……

 

パシャ

 

その時、シャッター音が聞こえた。

そちらへと目を向けると、そこにはカメラを構えた黛先輩がいた。

 

「いや~。門国さんって本当に飽きさせない被写体だなぁ」

 

と、笑っていた。

どうやら何枚か写真に撮られてしまったようだった。

そして何故か周りの人たちも騒ぎ立てていなかった。

 

というか……なんか目が変な色に染まっているような……

 

隣の女子なんかとひそひそと話をしている。

その目が、っていうか雰囲気が異様なオーラを纏っていて……。

 

「や~や~門国さんに織斑君。さっきのお話の続きなんですが」

「はぁ。あの話ですか……」

 

周りの反応が気になったけど、話しかけてきた先輩を放置することも出来ない。

だけど俺と護は、黛先輩の言葉に余りいい反応ではできなかった。

動物園のパンダみたいな扱いをされるのは何度か経験があるが、だからといって進んでなりたいとは思わないのは当然のことだろう。

 

箒はどうするんだろうな?

 

俺と護は不承不承ではあるが、受ける方向でいるつもりだが、箒が嫌がるのならば考え直さないといけないだろう。

そうして箒の方へと目を向けたのだけど……。

 

「……」

「箒?」

 

何故か呆然として固まっている箒がいた。

俺が心配になって箒の肩を掴んで振り向かせる。

 

「箒? どうしたんだ?」

「!? 一夏! 脅かすな」

「いや、脅かすなって……。どうしたんだ? ぼけっとして」

「な、なんでもない!」

 

そう言ってふいっと顔を背けてしまう。

その反応に訝しむ俺だったが、わからないので無理に聞こうとはしなかった。

 

「そんな嫌そうな顔しないでよ。別にちゃんとお礼だってするし」

「お礼……ですか?」

「そう、これ!」

 

と言って黛先輩が取り出したのは一冊のパンフレットだった。

それを俺に渡してくるので、俺は広げてみるのだけれど……。

 

うわ、なんだこれ?

 

広げてみたパンフレットは、テレビでしか見たことがないような超が付くほど豪華なホテルのパンフレットで……とてもじゃないけど一般民がいけるようなホテルではなかった。

 

「そのパンフレットのホテルの豪華一流ディナー招待券よ! もちろんペアで!」

「ペアですか? 俺と箒はともかく、護は?」

「そこらへんはぬかりないよ~。門国さんにはチケット二枚差し上げますので誰か誘って下さい」

「はぁ……」

 

そう言って念を押されるけど、護としては不本意なのは変わらないようだった。

まぁ俺も報酬があるとはいえ決して歓迎しているわけではない。

それに……

 

多分箒が嫌がるだろうしな

 

報酬があるとはいえ箒はこういったこと嫌いなはずだからきっとだめ……

 

「受けましょう」

「え?」

 

意外な箒の反応に、俺は驚きを隠せなかった。

それは黛先輩も同じようで呆気にとられている。

 

「え、本当に? 篠ノ之のさんこういうの嫌だと思ってはいたんだけど……」

「何事も経験ですから」

 

え? え?

 

「あの……箒さん?」

「何だ?」

「本当は嫌なんじゃないのか?」

「……別に構わん」

 

普段の箒なら絶対に断りそうな頼み事なのに、一言返事で受けるといったのは意外だった。

そして当然、箒が受けると言った以上断ることも出来そうになく。

 

「で? 男二人はどうするの?」

 

それを黛先輩もわかっているのだろう。

実に嫌らしくニヤニヤと笑いながら俺と護に発言を促してくる。

そしてそれに対して男二人は……

 

「受けます」

「受けさせていただきます」

「は~い。ありがと~」

 

断ることも出来ず、俺と護は頷いた。

 

「それじゃ申し訳ないけど、明後日の日曜日に取材だからこの住所に、お昼の二時までに行ってね」

「はい」

「わかりました」

「了解です」

 

携帯に送られた所在地が書かれているメールを見て、三者三様の言葉を返す。

それに満足して黛先輩は帰っていった。

帰り際に

 

「現像~現像~♪ いくらになるかな~」

 

という言葉が聞こえた気がしたけど……聞かなかったことにしよう。

 

それにしても日曜日か……

 

更識先輩に頼まれていた事と黛先輩から頼まれた用事。

生半可で終わりそうにない用事が二つもあるので、忙しい週末になりそうだった。

 

「あの……門国さん」

「はい?」

 

そうして俺が一人週末のことで悩んでいると……珍しくせっぱ詰まったような表情の箒が、護に話しかけていた。

箒が護に話しかけることは別段珍しいことでもないのだけれど、その切迫具合がただ声を掛けただけじゃないことを雄弁に語っていて……。

護もそれを感じ取っているのか、はたまた条件反射か……直立不動で今にも敬礼しそうなほどに起立して、言葉を待っている。

 

「その……お願いがあるのですが」

「お願い……ですか?」

 

「はい……私と……」

 

 

それは……俺にとっても、護にとっても予想外な頼み事だった……。

 

 

 

 




頼まれ事が終了だぜい!
いやぁ~護を絡ませながら遣るのが結構難しいね~
結構無理矢理感がある気がしないでもないですがいかがだったでしょうか?
次回は簪が登場です~
あ~楽しみだw


こうご期待!






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