IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

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デート?

「……疲れた」

 

放課後。

訓練後の仕事(・・)も終え、俺は夕食をさっさと済ませた後に始末書作成を行っていた。

 

先日の、亡国企業『ファントム・タスク』とかいう組織がIS学園を……さらに正しく言えば一夏を襲撃したときの行動の報告とそれに関する始末書だ。

独断行動を行った事と、一夏のISを奪い返したとはいえ手傷を負ったこと、自身のISに無理をさせたことが問題となってしまった。

そのため大量の始末書作成を命じられてしまった。

 

まぁ……慣れてなくはないのだが

 

これが初めてというわけではないので、詰まってしまうことはない。

 

まぁ量が量なので面倒なことに代わりはないし……はかどるわけもないが……

 

一夏のISも奪い返すことが出来たので事実上の損害はほぼない。

戦闘によって一部施設が損壊してしまったのだが、それは仕方がないことだろう。

一機だけで全ての現代兵器を無力化したその兵器IS。

それがぶつかりあったのだから、むしろ一部損壊程度で済んだことの方が驚きだった。

 

さすがというべきか……

 

更衣室での戦闘で、更衣室だけしか損害を出させなかった、生徒会長更識楯無。

妹分の存在の技量に俺は感心していた。

といっても本人に直接言うつもりはないが。

調子に乗り――

 

カチャカチャ ガチャ

 

「たのも~」

「……せめてノックはしろ」

「え~。いいじゃない別に。私もこの部屋の住人よ?」

「いや合い鍵持ってるだけだろう」

 

俺はノックもせずに普通に……ピッキングとかではなく……部屋の鍵を開けて入ってきた人間に溜め息を吐いた。

IS学園生徒会長、更識楯無。

最強の称号たる「生徒会長」の肩書きを持つ、裏の名家の人間、更識家の当主。

成績優秀で当然スポーツも万能。

さらに庶務や事務仕事も普通に出来るので優秀なんて言葉では収まらないのだが……。

 

「いいじゃない。私とお兄ちゃんの仲なんだし。それにこの鍵を入手したのは私だよ?」

 

厄介な物を……

 

からからと笑いながら、戦利品であるこの部屋の鍵につけたキーホルダーに指を通して、回しながらそんなことを宣ってくる……。

更識がこの部屋……俺と一夏の部屋の鍵を持っているのは理由があった。

前回の文化祭での生徒会の出し物、観客参加型の劇「シンデレラ」……賞品は一夏と同室になれる権利……のシステムが「参加するには生徒会に投票すること」という、半ば詐欺のようなシステムで、そのため当然文化祭の出し物の一位は生徒会になった。

最初こそブーイングが起こった物だったが、これは一夏を生徒会に強制的に入れるための措置で、生徒会に入れることによってどこの部活にでもマネージャーやら雑務係として派遣することが出来るというメリットがあった。

一部の部活で独占されないための措置だ。

一夏には一応副生徒会長という肩書きがあるが、これは文字通りただの肩書きである。

実際問題、雑務として入った俺すらも必要がないほどに現生徒会のメンバーは優秀なのだ。

つまり生徒会に入ったのは本当に一夏を派遣させるだけと断言してもいいのだ。

今日早速抽選会を行って、今はどこの部活から行くかを調整中らしい。

ちなみに俺は、雑用とはいえ正式に生徒会に所属しているのでこの部活雑用派遣任務はないらしい。

これを見越しての生徒会雑用係の人選だったようだ。

女性が苦手な俺が、精神的に疲労しないようにと、一夏とは違い正式に生徒会に入れることによってそれを阻止するための半ば強制的な生徒会人事。

そのための一夏争奪のシンデレラであり、派遣要員らしかった。

んで、そのシンデレラで更識が王冠……一夏と同室になれるための物体……を入手したのでこの部屋の鍵を手にする権利を得たのだ。

同室になるとさすがに生徒からブーイングがくるし、二人いる男がばらばらになると面倒なので、結局部屋自体は男二人での部屋のままだ。

ここまで色々と考えてくれていた妹分に俺は心の底から感謝していた……のだが……

 

「とうっ☆」

 

ボフッ

 

「あ~。疲れたよ~。お兄ちゃんマッサージして~」

「……断る」

 

自由奔放すぎる……

 

せっかくの景品、ということで結構な頻度で更識は俺と一夏の部屋にやってきていた。

大体今ぐらい……一夏が飯に行っている時間にだ。

人の部屋に勝手に入ってきて人のベッドに無断で寝っ転がり……あげく無防備にも背中を見せてマッサージを要求してくる。

しかも足をパタパタする物だから……下着が見えている。

 

「もう少し男の前で見せる格好というのを気にしろ。若い男がいる部屋にそんな格好でくるんじゃない」

「そんな格好って? どんな格好?」

「そんな丈の短いスカートでくるな」

「……見えた?」

 

若干顔を赤らめながらわかりきったことを言ってくる。

俺は心の中で溜め息を吐きつつ、さらに言葉を続けた。

 

「だから言ってるんだ。嫁入り前の女が軽々しく男に下着を見せるな」

「問題です。私の下着の色は?」

「桃色だ」

「いやんえっちぃ♪」

「……はぁ」

「……いや、さすがに本気で溜め息吐かれると傷つくんだけど」

「ふざけてばかりいるからだ」

 

俺はそんな更識を放っておいて、さらに始末書を書きあげる。

とりあえず形になったので気分を変えようと風呂にはいることにする。

着替えを取り、脱衣所へときて制服を脱ぎ捨てて、ズボンだけになる。

 

……さすが最先端医療技術。母上を救った(・・・)だけのことはあるな

 

上半身にある傷跡を鏡で確認しても、うっすらと痕が残っている程度だった。

今回の傷と、以前からあった無数の古傷が刻まれている。

 

あまり人に見せられる体ではないな

 

己の体を、治療を終えて改めてみてみると、本当に古傷だらけである。

この傷が懐かしくもあり、同時に寂しくもあった。

そんなことを考えながらズボンも脱ごうとした矢先に……。

 

「……何でわざわざ洗面所で着替えるの?」

 

一応女である更識に気を使って脱衣所で着替えたのだが。

何でかついてきた。

 

「一応女だろう? 配慮しただけだが?」

「もう。そんなこと気にしなくていいのに」

 

鏡越しに更識の顔を見ながら俺は溜め息を吐いた。

更識も鏡越しに俺を見て、苦笑していた。

そして……ほとんど癒えた傷に、そっと触れる。

 

「……傷。大丈夫?」

「かすり傷だ。心配することはない」

「……IS相手に特攻する馬鹿なお兄ちゃんだもん。心配するよ」

 

 

 

先日の学園襲撃の時、お兄ちゃんに防衛を手伝ってもらった。

ただ私の考えが甘く、お兄ちゃんが怪我を負ってしまった。

生徒会長として防衛を行ったので、私にも報告が届いたのだけれど……お兄ちゃんの行動が余りにも異常だった。

 

ISの防御に全てを任せての……特攻……

 

およそお兄ちゃんらしからぬ事だった。

織斑先生の攻撃すらも完全に防御することが出来るお兄ちゃんが、その凄まじい技量全てをかなぐり捨てての特攻。

それによってお兄ちゃんは何とか敵……イギリスの強奪されたIS、サイレント・ゼフィルスに打ち勝ち、そして織斑君のISを奪った、私と戦ったあの女からISを奪い返すことに成功したのだ。

 

……傷を負ってまで

 

ほとんどISの防御に任せての特攻だ。

どこかに不具合が起きない方がおかしい。

がむしゃらと言っていいほどの特攻を行うためにかなり無茶なIS機動を行っていた。

しかもその無茶苦茶な機動を行うために、瞬時にシールドエネルギー分配をIS()が変更したらしく、そのほとんどを瞬時加速(イグニッション・ブースト)に回していたために、最低限しか防御にエネルギーをまわしていなかった。

そのために、シールドエネルギーを貫通した攻撃でお兄ちゃんが深くはないけど、軽視もできない怪我を負ってしまって……。

怪我自体はほとんど最先端の治療で治っているけど……痛々しい傷跡が新しくできてしまった。

訓練による古傷と……お兄ちゃんがここに来ることになる原因になった、あの海外での戦闘行為の古傷、そして今回の傷跡……。

 

たくましくも、古傷だらけのその背中に手を添えて、次におでこを乗せた……。

 

 

 

「……無茶しないで」

 

 

 

普段とは違う、私の本気の言葉……。

ううん、いつだって本気だ。

私のお兄ちゃんに対する思いは……。

 

お兄ちゃんに対しては……私はいつだって本気だから……

 

だからいつもよりも、より気持ちを込めて、言葉を紡ぐ。

これ以上傷ついて欲しくないから……これ以上傷を負って欲しくないから……。

だから無茶をしないで欲しいと……そう願う。

矛盾しているかもしれない。

自分でお兄ちゃんを戦場に引っ張ったというのに……。

だけど、本当に頼れるお兄ちゃんだから頼ってしまう……頼りたくなってしまう。

 

「……あぁ。善処しよう」

 

さすがに私の本気を雰囲気で察したのか……お兄ちゃんがそう返してくれて。

それが嬉しくもあり、悲しくもあった。

 

私は当主になっても、この歳になってもまだ……お兄ちゃんにもらってばかりで……

 

小さい頃から私のことをよく見てくれていたお兄ちゃん。

色んな事を教えてくれて、見守ってくれて……様々な物をもらってきた。

そして今も、お兄ちゃんに甘えて……私は安心と信頼という本当に大切な物をもらっていて……。

 

悔しいなぁ……

 

まだこの目の前の人に追いつけないことが……。

まだ与えられているだけの自分が……。

 

けど次の台詞でそれも軽くなると言うか……

 

「妹の頼みだしな」

 

……結局はそこに行くのね

 

嬉しくもあり、複雑でもあるその言葉……。

私は鏡越しに抗議の目をお兄ちゃんへと向けると、お兄ちゃんは苦笑していた。

本当に、優しい笑顔をしていて……。

その笑顔を見ていると、毒気が抜けてしまった。

私はそんなお兄ちゃんに苦笑しながらそっと……その大きくて頼りがいのある、優しい背中から体を離した。

名残惜しかったけど……でもこれ以上はまだだめだから……。

まだお兄ちゃんが私のことをそういう風に見てくれていないから……。

 

でもいつかきっと……

 

もらうだけじゃなくて……きっと私からも何かを上げられるようになってみせるから……。

必ずそういう風に……一人の女として見てもらえるように、なってやるんだからね……。

だから……。

 

覚悟しててね、お兄ちゃん♪

 

 

 

俺が風呂から上がると、既に更敷は帰った後で部屋に気配はなかった。

変わりに同居人の一夏、それとは別に二人の気配がある。

とりあえず洗面所で寝間着に着替えてから部屋に入ると、一夏ハーレム軍団のまな板娘の凰鈴音と金髪ボーイッシュのシャルロット・デュノアが一夏のベッドでなんか戯れていた。

 

「お、護。ただいま」

「こ、こんばんは」

「……門国さん。お邪魔してます」

「何をしてるんだ?」

 

なんかまな板娘が上機嫌で金髪ボーイッシュが不機嫌なんだが……

 

その二人の態度がよくわかってないのか、一夏がきょとんとしている。

もうこの時点で一夏の鈍感が何かをやらかしたのは目に見えていた。

 

「そうだ。護も買い物行かないか?」

「「え?」」

 

一夏の発言に、二人が驚く。

もう嫌な予感しかしないが、返さないわけにもいかないので、俺はその内容を聞いてみた。

 

「……何の買い物だ?」

「シャルが俺の誕生日プレゼント買ってくれるみたいなんだ。だから買い物行こうって話になって」

 

プレゼントね。青春だな……って……誕生日?

 

「誕生日プレゼントだと? 一夏、誕生日近いのか?」

「あぁ、今月末の二十九日だ」

「……なるほど」

 

確かにそれなら週末買い物に行くのも悪くはない。

ハーレム軍団の二人は、一夏の提案に微妙な表情を示していたが、俺は二人に一夏に気づかれないように一夏から見えない位置で手話のサインを送った。

 

『途中で消える』

 

そのサインを見て二人が一瞬喜び、すぐに表情を曇らせた。

 

気にしなくていいのにな……

 

俺が気を使ったのを気にしているようだった。

ならば最初からいかないという選択肢もあったのだが、今月末にはIS学園の行事がある。

そしてその行事のために生徒会はそろそろ本格的な裏方作業に入る。

雑務である俺も例外ではない。

そのため自由に使える週末はもうそんなに多くはない。

ならば買いに行けるときに行って買うのが得策だろう。

 

「待ち合わせは……駅前のモニュメントに十時でみんな大丈夫か?」

「問題ないわよ」

「うん。大丈夫だよ」

「大丈夫だ。問題ない」

 

とりあえず終末の予定が決まった。

その日も色々と波乱が起こりそうだが……その前に抜け出せばいいだろう。

気を遣ったので会って、決して騒動に巻き込まれたくないからではない……。

少女たちの乙女の戦は、堕天使たちと闘う戦よりもよほど恐ろしい。

主人公でもない俺は一夏と違って神様のお告げなんてないから巻き込まれたら死ぬこと請け合いだ。

 

俺がそうして一人で内心言い訳をしていると……。

 

「シャル」

「……何?」

 

プニ

 

「…………」

「…………」

「あ~……」

 

突然一夏が金髪ボーイッシュの頬をプニプニとし出した。

何がしたい……したかったのかは謎だが、あえて言おう。

 

バカか?

 

俺と同意見なのかツインテールのまな板娘の鈴音さんも腕を広げていた。

 

そして案の定……

 

「一夏のバカ!!!!」

 

と、顔を真っ赤にしながら出て行ってしまった。

顔を羞恥で赤くしていたには単に照れただけだろう。

 

「一夏、あんたってさぁ……」

「……皆まで言うな」

 

「「バカだな」」

 

「ちょ、護まで!?」

「いや、俺も素直にそう思ったから」

 

自分の行った事の何に、シャルロットさんが怒ったのか原因がわかっていない一夏は一晩中、金髪ボーイッシュが突然出て行った事に首を傾げていた。

 

 

 

さて……買い物に行くことに相成ったが……

 

よくよく考えたら……苦手な女性と一緒に買い物に行くことになったと……後っていうか夜になって気がついた俺だった。

 

……どうした物か

 

基本、あの二人だから俺のことはほとんどそっちのけで一夏と接するのは間違いない。

別にそれは悪い事じゃないし、俺としても助かるのだが……だからといって俺が女性と一緒に買い物に行くという事実に代わりはない。

さっさと抜け出すことも考えたが、しかし余りにも速く抜け出すのは不自然だ。

護衛に関しては、国家代表候補が二人もいる以上、そうそう簡単にはやばいことが起きるとは思えない。

仮に起こったとしてもISがあるので、よほどの事じゃない限り緊急事態にまで事が発展する可能性は低いだろう。

 

……先日の連中の目的は一夏のISコアか

 

やはり男が使うISというのは希少価値があるのだろう。

ましてや一夏のIS『白式』は、束博士も一枚噛んでいる、裏の組織だけじゃなく国家でさえも喉から手が出るほど欲しい物体だろう。

IS学園に在籍しているために今は余り表だって行動を開始していない国々だが、果たして卒業が差し迫ってきたらどうなるか……。

 

……軽く面倒なことになりそうだな

 

世界を震撼させたISがらみだけ会ってそう簡単に終わる話でもないだろう。

厄介な話である。

 

……IS……か

 

明日の準備を整えつつ、俺は自信の左手の甲にある、己のISに触れた。

更識と一夏に話を聞き、どうしてISを奪取されたのかを知った俺は、自身のISの特異性というか……異常なことを知った。

敵が俺の胸に取り付けた電撃装置は、実はISを強制的に解除させる剥離剤(リムーバー)という物で、これを使われて一夏は『白式』を奪取されたらしい。

そしてその剥離剤(リムーバー)を俺も確かに使用されたはずなのだ。

だが俺の専属IS……『守鉄R2』は強制解除されることなく、俺を守ってくれた。

耐性がついた一夏のIS『白式』ならばもう二度と通じないのは確実なのだが、まだ喰らっていない俺の専属IS『守鉄R2』に効果がなかったのはおかしいはずなのだ。

 

守鉄……。お前が何かしてくれたのか?

 

そう心で思い、問いかけてみたところで答えが返ってくるわけがない。

自身を守ってくれた、俺の背中を押してくれたこいつを信用しない理由はないが……何故剥離剤(リムーバー)を防げたのか? それはどうしても気になってしまう。

だが当然、それがわかるわけもなかった。

 

 

 

 

 

 

母を救い……俺の思いを妨げ……

 

 

 

 

 

 

だがそれでも俺を守ってくれたこの存在に……俺は……

 

 

 

 

 

 

髪、変じゃないかな? もう一回確認しておこう

 

速くもやってきた週末。

僕はもう何度目になるかわからない前髪のチェックを行う。

時刻は待ち合わせの少し前。

もうすぐ一夏……好きな人がくる、ということで嬉しさと同時に緊張が僕の体にあった。

 

なんか決まらないなぁ……

 

取り出した手鏡に写った自分を見つめる。

今日は念入りにセットしてきたはずなのに、一向に決まる気配がなかった。

ちなみに今手にしている鏡は二つ折りの輪島塗で先日インターネットで直感で購入したお気に入りの物だった。

 

ふぅ……ちょっと気合い入れすぎたかな? リラックスして待ってよう

 

にこっと笑顔の練習をしてみる。

いつも通りの自分に戻れるように努力してみるのだけれど、緊張でやはりそれどころではなかった。

そしてそんな僕に近寄ってくる……二人の男がいた。

 

「カ~ノジョ♪?」

「ひょっとして一人? 暇なら俺らとどっかに行かない?」

 

……面倒なのがきたなぁ

 

僕は寄ってきた二人組の男に内心で深い溜め息を吐いた。

いかにも遊び人といった感じの男二人で、ちっとも好みじゃない。

 

……一夏みたいに頼れそうな人でもなさそうだし

 

しかも線が細い。

明らかにスポーツなどをしていない体躯をしている。

 

「約束がありますから」

 

でも一応年上みたいだったから、僕は普通に返事をする。

だけどこの類の人は簡単に諦めてはくれなかった。

 

「えー? いいじゃんいいじゃん! 遊びに行こう!」

「車もあるからさ。好きなところに連れて行って上げるよ? フランス車のいいところ教えて上げるからさ」

 

……フランスかぁ

 

今はあまり聞きたくない……意識したくない単語だった。

自分の母国だけど……それ以上に思うところがあるから……。

 

「日本の行動で燃費の悪いフランス車ですか? ふぅん」

 

拒絶の意味も込めて、僕は作り笑顔で二人に返事をする。

一瞬たじろぐ二人だけど、それでも遊び人としての性なのか……何故か脈ありに感じたらしい一人が僕の肩に手を置こうとして……。

 

横合いから飛んできた誰かに吹き飛ばされた。

 

「俺の連れに何してんだ?」

「一夏っ!」

 

颯爽と現れた一夏が、僕に触ろうとしていた相手をパンチで吹き飛ばして助けてくれた!

それがすごく嬉しかった。

しかもその台詞が……俺の連れ……って。

 

な、なんか特別な関係みたい

 

「な、なにしやがんだてめぇ!」

 

相方が吹っ飛ばされたもう一人の男の人が、一夏に殴りかかろうとする。

体勢を立て直しきっていない一夏はそれを防ごうとするのだけれど間に合いそうになくって……。

だけどその一夏の前に現れた人物がそのパンチを受け止めて、さらに何か格闘術を用いて相手を投げ飛ばしていた。

といっても別段危ないとばし方をしていないので、相手もけがはないみたい。

 

「突っ込むのまではいいんだがツメが甘いぞ? もう少し状況判断力を磨け」

「わ、悪い護。助かった」

「別に大したことじゃない」

 

す、すごい

 

後からやってきた門国さんは相手を一瞬でいなして無力化してしまった。

荒々しく登場して、僕を助けてくれた一夏が剛なら、門国さんは柔だった。

 

か、かっこいい……

 

僕を助けてくれた二人は格好良くて、それに二人が信頼し合っているのがすごく格好良かった。

 

 

 

「わりぃ! 遅くなってしまって!」

 

そう言って一夏が大きな音を立てて、シャルロットさんに手を合わせた。

それを向けられた当の本人は、きょとんとしている。

ちなみに男二人組は女性を強引に連れ出そうとしたとして、警察に補導された。

 

「う、ううん。だってまだ待ち合わせ時間前だし。……その助けてくれてありがとう」

「そんなの当たり前だろ?」

「門国さんもありがとうございます」

「いえ、礼には及びません」

 

俺にも礼を言ってくれたシャルロットさんに対して、俺は首を振って答えた。

 

「ところで鈴は? 一夏達と一緒じゃないの?」

「あれ? シャルと一緒だと思ったんだけど。俺たちは二人で来たんだけど。護知ってるか?」

「朝から一緒にいただろう? 俺は知らないぞ?」

 

もう一人の参加者、ツインテールまな板娘の凰鈴音がきていないことに気づく。

てっきり金髪ボーイッシュときているのかと思ったのだが……。

 

「おっかしいなそろそろ待ち合わせ時間だぞ? 鈴は遅刻してくるような奴じゃないのに」

 

そう言いながら、一夏が己の携帯を取り出し、連絡がないかをチェックする。

金髪ボーイッシュのシャルロットさんが心配そうに一夏の行動を見ていた。

 

……流れ的にあれだよな?

 

何となく先の展開を予想した俺は、いつでも行動が出来るように、二人から不自然にならない程度に距離を離す。

さらに己の携帯を開き、マナーモードをオフ。

ボリュームを最大にし、さらに通話の音声も最大音量にした。

いつでも通話が出来るようにしておく。

 

そして……

 

「あ、なるほど」

「どうしたの? 鈴から連絡あった?」

「急用らしい。来ないみたいだな」

 

 

 

ほら来た!!

 

 

 

一夏がそのセリフを言っている最中……急用と言い切る前に俺は既に選択していた人物に通話した。

 

 

 

ヴーヴー

 

「ん?」

 

生徒会室で作業をしていた私は、スカートのポケットに入れている携帯が震えたのに気がついて作業を中断した。

しかし、携帯は本当に一瞬震えただけですぐに静止した。

 

? 誰?

 

一瞬だけ通話するイタズラ……ワン切りとかいうのかと思った私だけど、この携帯は更敷当主としての携帯なのでその可能性は低い。

皆無といってもいいかもしれない。

その消去法で照らし合わせて考えたら、直ぐに相手がわかった。

幸いに作業に集中していた虚ちゃんには聞こえていなかったみたいで、私は心の中で謝罪して虚ちゃんに言った。

 

「職員室に提出する書類って、もう出来てたっけ?」

「はい既に出来ています」

 

流石私のお嫁さんの虚ちゃん。

仕事が出来て可愛い子。

 

「それじゃこの書類と一緒に職員室に提出してきてもらっていい?」

 

まだ提出期限には余裕があるのだけれど、出しておいても別に問題のない書類を虚ちゃんに提出してきてもらう。

仕草に不自然さはなかったので虚ちゃんは何の疑いもなく書類を提出しにいった。

再び虚ちゃんに詫びて、私は携帯を取り出した。すると案の定、かけてきた人はお兄ちゃんの門国護だった。

 

「ひょっとしてかどくにさん~?」

 

ポヘポヘと、のんびりしていた本音ちゃんが、正確に電話してきた相手を言い当てた。

露骨すぎたのかもしれない。

本音には嘘をつく理由はなかったので私は素直に頷いた。

 

「虚ちゃんには内緒ね」

「はーい♪」

「いい子ね☆」

 

素直に協力してくれる本音ちゃんに笑顔を向ける。

そして私は色々とどきどきしつつ、お兄ちゃんに通話した。

 

プルルルルルルルル ガチャ

 

長くもなければ短くもない時間でお兄ちゃんが出た。

 

「あ、もしもしお兄ち――」

『更敷か? どうした?』

 

私の台詞を覆うようにお兄ちゃんが言葉を発した。

しかも返ってきた言葉の整合性がなく、その声の大きさは……まるで誰かに聞かせるようなもので……私はとりあえずお兄ちゃんの出方を待った。

 

『何? 生徒会の雑務だと?』

『護? 更敷先輩からか?』

『何かあったんですか?』

 

今の声は織斑君とシャルロットちゃんだね

 

お兄ちゃん以外の声を電話から聞き取って、私はすぐに状況を判断した。

 

「そうなのお兄ちゃん。申し訳ないんだけど、今すぐ生徒会室にきてもらえる? あ、お兄ちゃんだけでいいから」

 

少し大きめの声で発言し、お兄ちゃんのそばにいるであろう織斑君とシャルロットちゃんにも聞こえるように返事をする。

 

『了解。すぐに行く』

 

プッ ツー、ツー

 

その言葉を最後にお兄ちゃんが通話を切った。

私は携帯を一旦閉じた。

 

「何だったの?」

 

そばにいる本音ちゃんが不思議そうにしている。

私はその本音ちゃんにため息を吐きながら返した。

 

「どうやら利用されたみたいね」

 

 

 

パタン

 

「更敷から呼び出しだ。すまない俺も駄目みたいだ」

 

貧乏でバトラーな人の知識を使用してのこの作戦は、妹分の更識がうまく空気を読んでくれたために、成功した。

 

ありがとうございます! 天然ジゴロのハーマイオニー!!!!

 

俺を救ってくれた疾風さんと更識に、心から感謝した。

更識には後々お礼をしないといけないだろう。

とりあえず三人で買い物を始めてから後々姿を消すことも考えたが、一夏が探しに来る可能性が高いし、シャルロットさんも探してくれるだろう。

そうなると俺を捜すという行為でロスタイムが出来てしまう上に、せっかくの二人きりの時間を、俺を捜すという行為で終わらせてしまう可能性が高い。

 

一夏の長所でもあり、欠点でもあるな……

 

ならば最初からいなくなったほうが得策だ。

しかもある程度しょうがない形で。

 

「生徒会か。俺もいったほうがいいか?」

「いや、その必要はないみたいだな。だから一夏はいいよ」

 

二人とも残念そうに顔を曇らせてしまう。

 

「安心しろ。誕生日プレゼントはちゃんと買っておくから」

「いや、そんなことどうでも……!!」

「冗談だ」

 

からからと笑いながらそう言うと、一瞬一夏がきょとんとする。

が、すぐにからかわれたことを理解し苦笑した。

 

「やられた」

 

そんな一夏に笑みを向けて、俺は駅のホームへと向かう。

そして金髪ボーイッシュのシャルロットさんにすれ違いながら小声でこう言った。

 

「頑張って」

「っ!?」

 

俺の言葉は狙い通りシャルロットさんにしか聞こえておらず、突然顔を赤くしたシャルロットさんに一夏は首を傾げていた。

そんな初な……乙女な彼女の反応を微笑ましく思いつつ、俺は二人から見えない位置に来た瞬間に携帯を取り出す。

するとまるでどこかで見ているかのような見事なタイミングで電話が鳴った。

そしてその相手は案の定、更敷だった。

 

「もしも……」

『私を出しに使ったね』

 

さすが更敷。

まぁ先ほど空気を読んだ時点でそんなこと分かり切っているのだが。

 

「あぁその通りだ。一夏とシャルロットさんと鈴音さんと一夏の誕生日プレゼントを買いに着たのだが、鈴音さんが来れなくなってな。だから抜け出した。馬に蹴られたくはないからな」

 

俺は簡潔に更敷に事情を説明する。

傍から見たらすぐにわかるくらいに、露骨に一夏のことを好いている子とその一夏の間に入る勇気はない。

 

『だからって私をうまく利用しないでよ』

「悪いと思っている。だが頼れるのが更敷、お前くらいしか……」

『……幼名』

「何?」

『幼名で呼んで』

 

 

一瞬頭に?マークが浮かんだが、俺はすぐに思考を切り替えて、要望に答えた。

 

「六花しか頼れるやつがいなかったから」

『……それは嬉しいけどさぁ~』

「ならどうしたら許してくれる?」

 

ダシに使ったのは確かなので、俺は素直に相手の要望を聞くことにした。

 

『……買い物に行ってるってことは今学園の外だよね?』

「? そうだが?」

『なら今から行くから私の買い物に付き合って』

「そんなんでいいのか?」

『十分だよ』

 

実に安い要求である。

何かを俺に買わせる腹積もりかもしれないが、相手が更敷だ。

こいつはあまりにも法外な物を買わせようとはしないはずである。

 

いや、俺としてはそれで助かるが

 

とりあえず今から更敷が来ることになったので、俺は近くの茶店で待機することになった。

 

 

 

……だしに使われたけど思わぬイベントに発展しちゃったわね。棚からぼた餅~

 

私はにやけそうになってしまう表情を必死に制御した。

今回は本気で感情制御をしたから本音も気づいていないみたいだった。

 

「それじゃ、ちょっと私出かけて来るわね」

「は~い」

 

本音にそう告げて、私は虚ちゃんが帰ってくる前にそそくさと生徒会室を出る。

そして大急ぎで準備をして、私は学園を出た……のだけれど……

 

ただ買い物に行くだけじゃさすがに虚ちゃんに悪いかぁ~

 

私のわがままで仕事を抜け出すのだから最低限、仕事としての用事で抜け出すことにする。

それに、ただリードするだけではつまらない。

 

恋は障害が多いほど燃えるわよね~

 

まだ私は相手のこと、そして相手に対してお兄ちゃんがどう認識しているのかわからない。

戦をするのならば情報は多すぎて困ることはない。

なので、以前話に上がっていた次の学園行事のためのスポンサーさんに挨拶に行く仕事を平行して行うことにした。

 

そうと決まればさっそく電話~♪

 

私はウキウキしつつ、かつ若干の緊張を味わいながら、職員室(・・・)に電話をかけた。

 

 

 

 




作者的書きたかった話上位~~~

シャルロットを応援するために貧乏執事の知恵を借りて護さんが離脱するというこの話が書きたかったんですよね~
次回は六花と……マヤマヤさん二人を侍らせてのデートだ!!!!!!


ハーメルンにて追記
私明日(10/4)からゾンビ狩りにいそしみますので連休明けまでは続きをあげられません
感想はできうる限り読ませていただくようにしますが遅れるかもしれませんのでそこんとこよろしく!!!!

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