IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

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生徒会

「は~い、みんな注目~」

「……」

「はい、は~い♪」

 

放課後。

文化祭の衣装合わせもすんだ俺は……げんなりとしつつも、行かないとどうなるかわかったものではないので、俺は渋々と、生徒会長である、更識楯無の指示に従い、生徒会室へとやってきた。

すると、部屋の外で待ちかまえていた更識に手を取られ、ノックもなしに部屋へと入った。

そこには二人の女子がおり、一人は眼鏡を掛けた女性、一人は俺と同じくラスの、布仏 本音だった。

 

っていうか生徒会に所属していたのか?

 

「知っているかと思うけど、一応念のために。生徒会の雑務に任命した門国護さんね。これからばりばり働いてもらうから、みんなじゃんじゃん仕事振って上げてね♪ はい門国さん、挨拶!」

 

む、無茶振り……

 

気構えを造る前に連行されて、自己紹介を強いられる情けない男。

今の俺を見たらまさにそんな感じだろう……。

 

「……生徒会、雑務に任命されました、門国護と申します。どうぞよろしくお願いします」

 

ちなみにあのげんなりするような六時限目があって、その余韻というべきか……まぁ興奮冷めやらず……更には他のクラスの女子生徒たちも乱入してきて教室は大混乱に陥った。

俺は一夏に女生徒が集中したために、どうにか逃げ出せた。

 

『ま、護! たす……っ!?』

 

……すまない一夏

 

置いてきた戦友の無事を祈る事しかできない自分が口惜しかった……。

しかし感傷に浸っている場合でもなかった。

 

「いた! 門国さんよ!」

「者ども出会え出会え!」

「ブラボー2から各員。ポイントα3-2-4にて捕獲対象Bを発見。至急増援を求む」

『ブラボーリーダー了解。そのまま追尾し、可能ならば捕獲せよ』

「ラジャーザット」

 

な、なんという統率のとれた行動!? て、手強い!

 

びっくりするほど組織的、かつ協力しながら襲ってくる物だから逃げるのにも一苦労だった。

こんな感じで俺も捕獲対象だったので、教室から離脱しても全力で逃げるハメになったのだが……。

まぁそんなわけで、全力疾走して逃げてきて、どうにか撒いて一安心し、生徒会室に向かっていくと、外に更識が待ちかまえており……結果として自己紹介なんぞ考えている暇がなかったので実に普通な自己紹介となってしまった。

 

「……」

「お~。門国さんだ~。よろしくね~」

「普通すぎ! つまんないなぁ~。お兄ちゃん」

 

……ピク

 

 

「おにいちゃん? 何で門国さんが、会長のお兄ちゃんなの~?」

「いや、更識。そんなこと言われてもだな……」

 

…ピク

 

「幼名」

「え?」

「幼名で呼んでっていつも言ってるでしょ?」

 

ピクピクピクピク

 

「そ、それって二人きりの時とか言ってなかったか?」

 

ピクピクピクピクピクピクピク!!!!!

 

「幼名? 会長の幼名ってどんなの~?」

「うふふ。ひ・み・つ♪」

「え~おしえてよ~、会長~」

「だ・め♪」

「ぶ~。いいもん。なら門国さんに聞く~。門国さん教えて~」

「え、あ~~~」

 

イライライライライライラ

 

「えっとだな……」

 

イライライライライライライライライライライライラ

 

何だろう。俺が何かしら行動を起こしたり、更識が俺に対して何かをするたびに、眼鏡をつけた、女性の雰囲気が険悪になっていくのだが……

 

俺はそれとなく、俺が部屋に入ってから一言も発せず、黙々と書類仕事を行っている眼鏡の女性へと目を向けた。

眼鏡に三つ編み、制服もきっちりと着こなしており、良家のお嬢様に見えなくもない美人系の顔立ちをしている。

が、その身に纏った雰囲気が全てを台無しにしている。

この部屋に入ったときも俺を見ようとするどころか、顔も上げずに書類仕事を行っていた。

まるで俺の事などいないとでも言うかのように。

だが、更識や布仏さんと会話をして、俺や更識がらみの話になると、こらえ切れていないのか、反応をする。

特に俺の時は顕著に反応していらっしゃる。

 

……なんだろうな?

 

しかし心当たりがないのでどうしようもない。

この目線は……すごくあの人を思い起こさせるのでかなり怖い……。

だがあの人とはある意味で決定的に違うのでまだ大丈夫だが……俺は必死になって自分を抑えていた。

 

「まぁまぁ。私の幼名はまた今度にして。まずは二人とも自己紹介して」

「は~い。私は布仏本音だよ~。同じクラスだからお互い知ってるよね~?」

「は、はい。よろしくお願いします」

 

顔ぐらいしか知らなかったが……。あ~でも一夏がのほほんさんって呼んでたからどっちかっていうとそっちの方がしっくり来るな……

 

どういう経緯でこのあだ名をつけたかは知らないが……まぁぴったりなニックネームだ。

ほや~んっていうか……まぁそんな感じのする子だからつけたのだろう。

友人のネーミングセンスに心の中でうんうん、と頷く。

そして布仏本音さんの自己紹介が終わると……生徒会長の更識は知っているから自己紹介の必要はない。

そうなると必然的に残った一人……未だに黙々と一人で書類仕事を行っている彼女へと目が行くのだが……。

 

「………布仏虚。三年生」

 

……終わりかな?

 

実に端的な自己紹介である。

というかこの子完全に俺の事歓迎していないな。

特に何かをした覚えはないのだが……。

それともストーカー事件の容疑者として警戒しているのか?

だがそれだけではない気がする……。

 

「ちなみに~、私のお姉ちゃんです~」

「姉妹なのですか?」

「そうだよ~」

 

黙ってしまった布仏虚……お姉さんの自己紹介に補足説明をする布仏本音さん。

確かに名字が一緒である。

珍しい名字だし姉妹なのだろうが……顔というか外見的特徴はともかく、性格が余りにも正反対すぎる気がする。

まぁ姉妹だからと言って似る物ではないが。

その妹の説明にも反応せず、黙々と作業を続ける。

 

「は~い。最後は私ね」

「いらん」

 

イライライライライライライライライライライライライライライライライライラ

 

「え~どうして~? 私の事知りたくないの?」

「別に今更知りたいとは思わないな」

「……スリーサイズとか興味ないの?」

「お~。会長だいた~ん」

「知りたくもない」

 

バキッ!!!

 

俺が素っ気なくそう答えると、ついに堪忍袋の緒が切れた! というようなタイミングで、今まで書類仕事を行っていた、布仏虚さんが使っていたペンが折れた。

おそるおそる顔を見てみると……キッ! と一瞬俺を睨み、直ぐに更識へと目を向けた。

 

「会長? あまり遊んでいる余裕はないんですよ。直ぐに仕事に取りかかってください」

「え? でもほとんど仕事終わってるよ?」

「いいから! お仕事をなさってくださいお嬢様!」

「? お嬢様?」

 

怒り心頭! という感じにしゃべった布仏虚さんの最後の台詞が気になって思わず口にしてしまった。

すると、失言だと思ったのかはっと口を閉ざし、黙々と仕事を再開した。

そんな布仏虚さんを見てクスクスと笑いつつ、俺に補足説明をしてくれた。

 

「布仏姉妹は、私と簪ちゃんの付き人をやってるのよ。幼少時はまだいなかったから今回が初顔合わせでしょ? 早く互いに覚えてね」

「さすが名家の更識だな。って今簪ちゃんって言ったか?」

「……え。うん」

 

? なんか反応が変だな

 

更識の反応が気になったが、それ以上に俺は話題の人物の方へと思考が動いていた。

更識簪。

更識の一つ下の妹であり、俺から見たら三つ年下の妹のような存在だ。

幼少期にあったこともあるが、その時彼女は四つだったので、俺のことは覚えていないかもしれないが。

お姉ちゃんっこで、よく更識にくっついてきていた可愛らしい子だった。

 

「簪ちゃんもIS学園に来ているのか?」

「そうだよ~。本当は私、簪お嬢様の付き人なんだ~」

「そうなのですか」

 

反応が鈍くなった更識の代わりに、のほほんさんが応えた。

更識の反応、そしてのほほんさんが応えたことから、聞かれたくないことだと思った俺は、その話題を続けることをやめた。

 

「っていうか、簪ちゃんのことは名前で呼ぶのにどうして私のことは幼名で読んでくれないの?」

「だから前にも言ったが、お前は裏の名家の当主なんだぞ? 俺とは立場が違う。それをいくら昔親しかったとはいえ幼名で呼ぶのはおかしいだろう? さらに言えばお前は正式に襲名して楯無が本名だろう?」

 

今まで成り行きで何度か呼んでしまったが、家の当主として正式に襲名した目の前の女の子は、間違いなく名家といわれる家の主人なのだ。

誇っていいはずのその名前を、何故か呼ばれたくないというのが俺には不思議だった。

 

「そうですよお嬢様」

 

ん?

 

そうして更識の説得に乗り出すと、意外なところから援軍が出た。

なんと先ほどまで一心不乱で書類仕事を行っていた布仏虚さんが、手を止めて更識へと声を掛けていた。

 

「昔は立場が対等だったかもしれませんが、門国家はもう既に没落したい家なのです。そんな人にお嬢様が声をおかけする必要なんてありません」

 

棘があるなぁ

 

そう力説する布仏虚さんの言葉には言い方もそうだが、言葉の端々に棘が含まれていた。

その通りなので別段腹も立たないが。

 

「え~そうかなぁ。というか虚ちゃん? 今の言い方はお姉さん感心しないよ?」

 

そう言う更識が扇子を取り出して顔の半分を隠した。

それと共にちょっと威嚇を込めて布仏虚さんを睨み据えている。

 

……いつもよりも迫力があるな

 

そう、表情こそ普段とそこまで変化がないが、本気で怒っているのがすぐにわかる。

それをこの人もわかったのか、すぐに言葉を改めた。

 

「……そうですね。言い方に問題が合ったことは申し訳なかったと思います。ですがお嬢様、私は意見を変えるつもりはありません。更識家の当主であり、ロシア代表候補、そしてIS学園生徒会長としてもう少し自覚をお持ちになってください」

「は~い。わかりました。でも虚ちゃんも人のこと言えないよ? 呼・び・方♪」

「……失礼いたしました会長」

「ロシア代表候補? 更識、ロシアの代表候補だったのか?」

 

俺は布仏虚さんが言った言葉、ロシア代表候補という単語に驚きを隠せなかった。

説明しなくてもわかるかもしれないが、ISの代表にはそれぞれ三つのランクがある。

まず最初が代表候補生、次に代表候補、そして最後に代表となる。

代表候補生は候補のさらに候補という立場であり、エリートに代わりはないがその中で一番の下っ端なエリートといえる。

それに対して候補生はその上であり、既にひよこの段階を卒業していると言える。

世界各国はISはあくまで防衛用の手段と公表しているが、そんなこと誰も本気で言っていない。

戦争が起これば間違いなく戦場へと駆り出される。

候補生ともなると即戦場へといけるほどの戦力になる……。

 

 

 

それをどこまでここの生徒達は理解しているのだろうか……

 

 

 

文字通り手を伸ばせば国の代表……もしくは防衛戦力になれるほどの腕前を有していることになる。

国の代表……しかもISの代表だ。

世界でも数百程度しかないその中に選ばれるというのだから相当腕前がいいという事になる。

学園最強という肩書きはあながち嘘ではないようである。

 

「そんなことも知らないのですか? 全くこれだから男と言うだけでこの学園に来た人というのは……お嬢……会長がどれほどすごい存在かも知らないなんて」

 

俺が一人頷いていると、そんな俺の鞭を咎めるような視線が、布仏虚さんから向けられてくる。

実際その通りなので俺は何も言い返せず、ただ黙っていることしかできなかった。

そうして黙っていると、布仏虚さんがどう思ったのかは謎だが、さらに補足説明をしてくれて、さらに更識の美談も聞かせてくれた。

まぁそれを聞いた限りでは……女に生まれなくてよかったと思った。

別に女性差別しているわけではない。

ただ、もしも更識と同じ性別だった場合、俺もこの学園に普通に入学していた可能性が会ったからだ。

そう考えると背中に悪寒が走りそうだった。

 

それにしても嬉しそうに話すね

 

黙って布仏虚さんの話を聞きながら、俺はそう思った。

彼女、布仏虚さんの話し方が「私の自慢のお嬢様」というのが態度や表情だけでなく、言葉の端々にまで満ちていたのだ。

よほど更識のことが大事のようだ。

 

これで理解できた……

 

この人が俺に憎悪にも似た気持ちを向けてくるのは、私の大事なお嬢様になれなれしくするな!ということなんだろう。

 

「それにして……いつも不思議に思いますけど、どうして男のあなたにISが使えるのでしょうね? ……いっそ解剖実験でもすればいいのに」

 

怖いこというなぁ……

 

ぼそっと言った最後の言葉……本人は聞かれていないつもりなのかもしれないが、身体能力を鍛えた俺の耳には聞こえていた。

人体実験はごめんだが……俺自身もそれは疑問だった。

 

しかし……不思議だ……

 

生徒会室へと来て、布仏虚さんに改めて話を聞いて、俺は疑問を深めた。

仮に俺と一夏の性別が女だった場合、ISの繰者に選ばれる確率は低いだろう。

一夏はともかく俺は恐らく無い。

世界でも数百しかないIS。

絶対数が圧倒的に少ないISというのはそれだけ貴重なのだ。

一夏は素質があるので選定に引っかかりそうだが、俺は恐らく無い。

自分の血、さらには性格が災いし恐らく選定基準を満たさないはずだ。

だが俺は男としてISが使えると言うだけで、ここIS学園へと入学していた。

本来、女性にしか使えないはずのそれ……ISを偶然使ってしまった俺と一夏。

何か意味があるのかもしれないが……今の俺にはわからなかった。

 

「虚ちゃん。そう言わないの。お兄ちゃんだって突然の出来事で気構えなくこの学園に来たんだから」

「ですが会長。こんなこと一般常識ですよ? それすらも知らないなんて」

「え~。でも私もよく知らなかったよ~? てへへ」

 

俺の隣でふんふん、と頷きながら聞いていたのほほんさんが、だぼだぼに余った袖を振り回しながらそう答えていた。

それに対して、姉である布仏虚さんは、無言でのほほんさんに歩み寄ると、ガンッ! と頭に拳骨をお見舞いしていた。

 

「うえぇぇ~いたい~」

「あんまり他の家人に我が家の恥をさらさないように」

「う~いつもよりもいたい~。おね~ちゃんの鬼~」

「……まだ足りない?」

「うそうそ~。うそです~。ごめんなさい~」

 

瞬時に俺を楯にして俺の後ろに隠れながら謝るのほほんさん。

あの申し訳ないんですが、お姉さんの表情がもの凄いことになっているので出来ればそう言った行動は控えていただきたいのですが……。

 

「はいはい。じゃれ合うのはそこまでにして、仕事に移りましょ。文化祭もそろそろだし、あまりのんびりしてられないでしょ?」

 

締めくくるように、更識が大仰に手を鳴らして自分へと意識を向けさせた。

そしてそう言われて誰も反抗する物もおらず、それぞれが所定の位置らしいイスへと腰掛けると、そのまま作業を始めた。

 

なんかよくわからんが、まとまったのか?

 

初対面であることは更識の言葉で確認できたのだが、しかしだからこそなおさらこの布仏虚さんの不機嫌な理由がわからなかった。

初対面だから何かをしたわけでもないし、ストーカーとして疑っている様子も見られない。

ならこの人を不機嫌にさせている原因は何なのか?

まとまっていないような気がしたが……それを蒸し返すとまたぞろ心臓に悪いことになりそうなので俺はそこですぱっと意識を切り替えて、雑務としての責務を全うすることにした。

 

「俺は何をすればいいでしょうか?」

 

が、きたばかりで何をすればいいのかわからないので、俺は情けないながらも仕事をもらいに行った。

文化祭関係の仕事というのは当然わかっているのだが……それだけではどうしていいのかわからない。

 

「いきなり敬語?」

「この部屋の長は間違いなくお前だろう? そうした方が締まると思ってな」

 

上の立場の者が下の立場の者になれなれしく話しかけることは褒められた行為ではない。

それもプライベートなどならばまだしも、公務……というよりも仕事中にすることではない。

普段ならともかく、生徒会室で仕事をしているときはきちんとしなければいけないだろう。

 

「そんなの気にしなくていいよ。私とお兄ちゃんの仲じゃない?」

「いや……そうはいうがな」

 

そう言ってくれるのは嬉しいのだが……いかんせん後ろからもの凄い殺気を飛ばしてくる人がいるので恐ろしくて仕方がない。

殺気の量が半端無い。

あれなら目線だけで人を殺せる。

 

俺がそう内心思っていると、更識はやれやれ、と言ったように溜息を吐くと、俺の後ろの方へと向けていた目をこちらに向けるとこう言ってきた。

 

「そうだね……とりあえずお兄ちゃんには外に出てもらって、第二報告書を各クラブから回収してきてもらっていいかな?」

 

はいリスト、とそう紙媒体の冊子を渡された。

それを開いてみると、結構な数の部活が羅列されており、短時間では解決できないことがわかった。

 

「道案内が必要よね? 本音ちゃん。悪いんだけど門国さんと一緒に行ってもらっていい?」

「は~い、りょ~かいです~」

 

イスに腰掛けて、机に向かって何かパズルのようなものをしていたのほほんさんが立ち上がって元気よくそう応えた。

 

「んじゃ~さっそくいこ~そうしよう~」

「よろしくお願いします」

「二人ともよろしくね~」

 

余った袖をぶんぶんと振り回しながら、俺はそれに引きずられるように生徒会室を後にした……。

 

 

 

 

 

 

さてと、とりあえず人払いは出来たから……後は虚ちゃんのケアね

 

ドアを出て行ってしばらくし、二人の気配が完全に遠のいた後に、私は未だに、名前の通りの仏頂面で、一心不乱に仕事をしている虚ちゃんへと目をやった。

 

「ね~虚ちゃん」

「……なんですか? 会長」

「やん。二人きりなんだからそんな他人行儀じゃなくお嬢様って呼んでもいいのよ? それとも……たっちゃんでもいいよ♪」

「何ですかお嬢様?」

 

私のお願いに応えてくれたけど、その顔はこちらを向かずに作業の手を止めていない手元へと落ちている。

私は虚ちゃんのその作業している手に右手をそっと添えた……。

 

「あ……」

 

それに虚ちゃんがほんのりと顔を赤くして私を見上げてくる。

そんな初心で可愛らしい虚ちゃんに、私は静かに顔を近づけた。

 

「何を怒ってるの?」

「……お、怒ってなんか……いません」

 

近づいてくる私の顔を避けようと、首を逸らす。

でもはねのけないことから本気で嫌がっていないことだけはよくわかった。

そんなかわいい虚ちゃんに、私はさらに顔を近づけていく。

 

「嘘つき。怒ってるくせに……そんなに門国さんが嫌い?」

「……怒ってなんていませんし、それにあの人の事なんてどうで……ひゃっ!?」

 

どうでもいい、そう答えようとしていた虚ちゃんの首筋に、近づけていた口から静かに息を吹きかけてその先の言葉を封じた。

自分にとって大事な人を、別の大事な人が陰口を言うのはききたくないから。

 

虚ちゃんは首が弱点なんだよね~♪

 

「ふふふ。かわいい声♪」

「や、やめてくださいお嬢様」

「様なんてやめてよ。いつもどおりたっちゃんでお願い☆」

 

そうやって虚ちゃんをいぢりながら、私は虚ちゃんが座っている隣の席のイスを机から引き出した。

そうして、虚ちゃんが倒れ込める場所を確保しておき……まだ使っていなかった左手を、虚ちゃんの秘部へと誘っていく……。

 

「きゃっ!? お、お嬢様、やめてください!」

「だから呼・び・方。いつも通り呼んでくれないとやめないよ? それに……本当にやめていいの?」

 

ゆっくりと、語りかけるように私は虚ちゃんへとそう聞く。

その時は虚ちゃんの動きを封じている右手も、秘部へと誘ったその左手も、一切の力も入れず、そのままにしておいた。

全く力を入れていないので、誰でも払いのけることが可能だ。

だけど……

 

「……ここでは……その」

「うん? 何か言った?」

 

言っていることは聞こえた……仮に聞こえなかったとしても、何を言っているのかわかっていたのだけれど……けど、私はあえて虚ちゃんに問いかけた。

虚ちゃんも恥ずかしいのか、それ以上言わずに……ちょっとした悔しさをにじませた目で、私を見つめてくるだけだった。

そんないつもの素直になれない……かわいい虚ちゃんを見てしまって、私はいつものように虚ちゃんの顔に手を添えた。

 

「私も……お嫁さんが欲しいな♪」

「? ど、どういう意味ですか? 会長はその、いつもあの人のお嫁さんになりたいって……子供の頃から言ってたじゃないですか」

 

お嫁さんという単語で、お兄ちゃんの事を思い出した虚ちゃんがあからさまに機嫌を悪くして、ぷいっとそっぽを向いてしまう。

確かに昔から、私はお兄ちゃんのお嫁さんになりたいといっていた。

当時の門国家の当主、お兄ちゃんのお父さんが亡くなって力を失ってしまった後もそう言っていた事もあって、虚ちゃんも悔しいながらお兄ちゃんの事は認めているというか……ある程度は受け入れているのだ。

だけどそれでも抑えきれなくて、ああいった態度を取ってしまったんだと思う。

それがわかって、さらに今、拗ねているその表情と態度が……もはや私の精神のリミッターを完全に破壊した。

 

「確かに、私はお兄ちゃんの……護さんのお嫁さんになりたいよ? で・も、それとこの話は別♪」

「???」

 

言っている意味がわからないのか、恥ずかしげにしながらも、私の方へと目を向けてくれる。

そんな虚ちゃん……私の大切な友達であり、お嫁さん候補の虚ちゃんに微笑みかけた。

ちなみに旦那さん候補とお嫁さん候補は、それぞれ一人しかいないけど。

 

 

「わ・た・し・の……お嫁さんが欲しいの♪ たとえば……私の事を大好きでいてくれて、私が私の未来の旦那様の事を話していると拗ねてしまう位に、私の事を大切に思ってくれている……そんなお嫁さんが」

「~~~っ!?」

「うふふ♪」

 

私の言葉で真っ赤になってしまった虚ちゃんの肩に手を添えて、私は静かに先ほど引いていた虚ちゃんの隣の席に、虚ちゃんを横たえらせた。

しっかりと抵抗できないよう……けど力は入れずに、虚ちゃんの手に私の手を添えて……。

ここの生徒会室の椅子はクッション素材を使用しており、さらに言えば椅子がへこんだりしないので、二つつなげれば何の苦もなく寝っ転がることができる。

 

「お、お嬢様!? お、お戯れが過ぎます! し、神聖な生徒会室で……」

「その神聖な生徒会の長は私。そしてこれからやろうとしているのは……別に邪な事じゃないでしょう?」

「公序良俗を考えてください!

「え~? 本当にやめて……いいの? 私はもう我慢できないんだけど♪」

「で、ですが誰かに聞かれたら……」

「大丈夫。この部屋は完全防音、窓ガラスは磨りガラスで防弾仕様。壁にも分厚い鉄板入り。それに何より……私がいる生徒会室に盗聴や盗撮の類が出来るわけ無いじゃない?」

「で……ですが…………ほ、ほかにも!?」

「もう終わり?」

「~~っ!?」

 

「なら……もういいよね?」

 

 

 

「ま、まって下さいお嬢様!?」

 

 

 

ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

※自主規制 見せられないよ(書けないよ)

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました」

 

俺は更識に指示された、第二報告書を回収し終え、生徒会室へと戻ってきた。

のほほんさんは、購買にジュースを買いに行ったので一人で帰ってきた。

 

のだが……

 

 

「ふんふん♪ ふふ~ん♪」

「~~~~っ!!!」

 

……………………えっと?

 

室内に入ってみればそこには……大丈夫? と思わず声を掛けてしまいたくなるほど、顔と首、耳などを真っ赤にして、何故か体を守るように両手で抱きしめている布仏虚さんと、普段以上に超が付くほど上機嫌……なんか心なしか頬って言うか顔がつやつやしている気がするのは俺の気のせいか?……な更識がいた。

さらにいえば……なんかすんごい甘ったるい空気が場を満たしていた。

 

「……何があった?」

 

余りにもその異質な空間に、俺は疑問を思わずそのまま口に出してしまった。

それに対して、更識が上機嫌な顔をこちらに向けるが……その前にバッ! と音がするんじゃないかと言うほどの速度で、顔を真っ赤にしたままの布仏虚さんが、俺の方を向いてきた……。

 

「あなたのせいですよ!!!!!」

「あれ? そんなにいやだった虚ちゃん? あんなにかわいく……」

「ちょ!? 会長!!!! 何を言うんですか!!!!」

「え? さっきの虚ちゃんのかわいい姿を……」

「そ、そんなことありません!」

「ね~お兄ちゃん? みてほしい動画があるんだけどみる?」

「!? 盗撮はあり得ないって!?」

「ん? 私が見たかったから自分で撮影したんだから盗んで撮影してないでしょ♪?」

「な……ななななな!?」

「ね~お兄ちゃん? み・た・い?」

「馬鹿な事言わないでください! そんな物を人に見せるなんて!!」

「え~? 虚ちゃんのかわいい乱……」

「余計な事なんて言わなくていいんです! 速く仕事に戻ってください!」

「え~。さっきまであんなに愛し……」

「会長!」

「は~い♪ もう、私の未来のお嫁さんはかわいいんだから☆」

「~~~っ!!!???」

「それじゃちょっと書類出してくるから留守番よろしくね~」

 

………………

 

もう何がなにやら全くわからない。

とにかくもう聞くのが危険だとわかった俺は……何も声を上げず、端の方でおとなしく座って、回収してきた第二報告書に目を通し、まとめの活動を始めたのだった……。

 

 

 

「どうですか? 最近のあいつの様子は?」

 

来賓用の部屋へと将軍を招き入れ、お茶を出して二人で対面し、開口一番に武皇将軍がそう質問してくる。

護衛のSPは、部屋へと入ってきていないために、部屋には現在、私と将軍しかいない。

部下の目を……人の目を憚る事が無くなったので、もっとも聞きたかったであろう事を、将軍は言ってきた。

将軍が「あいつ」と親しげに呼ぶのは、目下、IS学園の問題児ともいえる二人の男の片割れだった。

 

「特に問題なく過ごしております。まぁ……少々誤解も受けていましたが」

「誤解であるならいいですよ。あいつが元気でやっているのならば。……()のISのほうは?」

 

しかし身内の話だけで終わらないところは、さすが将軍だった。

まぁ、目下問題の人物と問題のISの組み合わせなのだから自然な流れではあるが……。

 

「問題なく稼働しています。あいつ専用(・・)にしたために、他の人間に使わせていないので何とも言えませんが……。少なくともあいつがあのISを、あの問題のあったコアを使って……使えている事は確かです」

「ならばよかった。あいつが使えなくなっていたら、私が今日ここに来た意味もなくなりますからね」

「こちらから以前お渡ししたISのほうは?」

「何の問題もなく稼働しています。……あいつが何かしたのでしょうかね?」

「……私には何とも」

 

それに関しては私も全くわかっていなかった。

確かに私は問題のあった友人のおかげで他の人間よりもISの知識は豊富だが……こんな事聞いた事もなかった。

 

「IS自身が……操縦者を拒絶するなど他に聞いた事が無いですからね」

「……えぇ」

「……博士には?」

「一応聞いてみたのですが……何故かあれはあいつを目の敵にしていまして。話もろくに聞きませんでした」

「? 何故ですか?」

「………………私には何とも」

 

あれ、篠ノ之束にも電話で聞いてみたのだが……あいつめ、人の話を全く聞こうとしなかった。

 

「つまり進展はなしですか……」

「そうなりますね」

 

私の結論を聞いて、将軍は一つ息を吐く。

そしてそれで気分を入れ替えたのか。にっこりと私に微笑んでくれた。

 

「まぁあまりにも奇怪な出来事ですしね。焦らずにやっていきましょう」

 

イスに深く腰かけ直しながら、武皇将軍が苦笑混じりにそう言ってくる。

私もそれに頷いた。

 

コンコン

 

それを見計らっていたかのように、ちょうど会話がとぎれたそのタイミングで、ノックがされた。

入室を促すと、そこにはこの学園の生徒会長である更識楯無がいた。

 

 

「会議中に失礼します。IS学園生徒会長、更敷楯無です。自衛隊の陸将さんにひとことご挨拶をと思って、参上させていただきました」

「これはご丁寧に。自衛隊将軍、武皇と申します」

「……更敷、勝手に教職員の極秘ファイルを覗くな」

「何の話でしょう?」

「しらばっくれるな」

 

私は、白を切る更敷にこれ見よがしに溜め息を吐いた。

今回の武皇将軍の来訪はごく一部の人間しか知らない。

山田君も、来賓が来ると知っているだけなのだ。

ならばあまり褒められない手段で情報を入手した事になる。

 

「まぁ確かにちょっと覗かせてもらいましたけど、裏を取ったのは家の情報ですから」

「……わかった。今回は許しておこう」

「ありがとうございます」

 

そうして私たちがやりとりをしていると、厳しく引き締まっていた将軍の頬がゆるみ……苦笑を浮かべた。

 

「くはははは。相変わらずだな、楯無ちゃん」

「おじさんこそ、相変わらずのご壮健ぶりで安心しました」

 

まるで「堅苦しい挨拶はここまで」とでも言うように、ものすごく親しげに会話を始めた。

 

まぁ両家とも裏の名家だから知り合いでも不思議ではないが

 

しかも武皇将軍はあいつの叔父だ。

更識と面識があっても何ら不思議はなかった。

 

「楯無ちゃんから見てあいつはどう?」

「不器用ですけどきちんと生活していますよ。ISもきちんと使えています」

「そうか……」

 

その報告を聞いて、武皇将軍は安堵の溜め息を吐く。

しかし、それだけで更識は終わらなかった。

 

「おじさん」

「……なんだ?」

 

更識の声色が変わった。

それを敏感に察し、逃げられないと思ったのか……武皇将軍も態度を改めた。

 

「一つ質問していいですか?」

「……あぁ」

 

 

 

 

「お兄ちゃんのIS。元は自衛隊の専用機だったって言うのは……本当ですか?」

 

 

 

 

 




いかがでしたか!? 二回連続で結構危ない感じのお話でしたが!?

「おい」

私変態だから百合物も結構好きなんですよ……まぁ二次元だけの話ですがね。三次元の百合もいいのかもしれませんが……私にはよくわからんっす。男だしね

あ、ちなみに私は当然のようにノーマルですので

「おい!」

さて次回はついに文化祭と相成ります! 山田先生に動いてもらいます!
おっぱいおっぱい! あの乳はマヂで反則ですよね!!!

「おい! 話を聞いてくれ!?」

え~。……何かね五反田弾君?

「原作だと虚さんの相手って俺だよね? 俺だよね!? 俺……文化祭でちゃんと出番あって、虚さんといい感じになるよね?」

……さぁ? ←ニヤニヤ笑いながらw

「!?」

だって……まぁまだ原作がそこまで進んでないからわからないけど……必要なくね? っていうか作者的には二人の恋の始まり方があまりにも不自然というか……

「で、でも……一目惚れってあるでしょ!?」

う~んかもしれないけど……ごめん、作者の頭の中ではそれは無理だわw

「……!!!」 ←涙流して逃亡


まぁそんな訳でして……虚ちゃんの相手はまさかの会長となりますw
だって……腐った目をしている作者の目では二人の関係が……こうしか見えなかったんだもん! っていうか護を絡ませて妄想してたらこうなったw

第二の男護登場→その護に立花(更敷楯無)がべたぼれ→何かこう……絡みが足りない(いやらしい意味でなく)→誰と絡ませるか?→護の性格上誰かを巻き込むのは不可→なら立花は?→うってつけ(布仏虚)がいるじゃん!!!!

以上です! ←世界で一つだけの学園で、世界で一人だけの男の操者がいった感じに!

それでもよろしければ今後ともお読みいただけると嬉しいです!

次回は文化祭~
護の「○○最強説」がかいま見える!

こうご期待!?

※ 後書き長くて申し訳ない……



ハーメルンにて追記
まぁ確かに一目惚れってあるのかもしれないけど・・・・・・それでもなぁ・・・・・・
と、彼女いない歴=年齢の作者が悔しがりながら言ってみるwww

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