「ではこれより、ISを用いての訓練を行う。訓練といえど真剣に取り組むように!」
午後。グラウンドにて、ISの訓練を行う授業が開始された。
お題は純粋に実機を使用して慣れろという……あまりにも投げやり感あふれる授業内容だ。
スパーン!
「投げやりな物か。習うより慣れろと言うだろう」
考えていることわかるのか、織斑教官に問答無用で出席簿アタックをされた。
音が派手で結構痛い。
「失礼いたしました。織斑教官」
スパーン!
「教官ではない。織斑先生だ」
「失礼いたしました!」
直立不動の体制になりつつ俺は思わず敬礼をしてしまった。
「ところで門国。お前にこれを渡しておこう」
そうして織斑先生が渡してきたのは黒い円形の金属板……ぱっと見、刀の鍔に見えるようなものだった。
「これは?」
「お前専用のISだ。お前はそれを使って訓練を行え」
その言葉に周りが騒然とする。
それはそうだろう。
ISの専用機というのは国やIS開発企業に正式に所属した場合に与えられるものだ。
確かに俺は自衛隊隊員なので国に所属していないとも言えないが、専用機を託されるほどの腕前を有しているはずがない。
「専用といってもたいしたことではない。学園の打鉄をお前専用として使用させるだけの話だ」
「? といいますと?」
「本来ならば専用機を開発してもいいんだが……如何せんISのコアは数が限られている。その少ないコアを使って、すでに特例中の特例として織斑に専用機が回されている」
そうISのコアは
篠ノ之束博士はこれ以上コアを制作する事を拒否しており、この限られた数を全世界の国家、そして企業が分散して使用している。
つまりそんなに簡単に専用機は得られる物ではないのだ。
専用機持ちというのはそれこそエリート中のエリートと言える。
「それに貴様の存在によって男にもISを使える可能性が出てきたと、学者達はこぞって口にしている。政府、それに世界各国から見てもお前の存在というのはお前が思っている以上に重要視されている」
え? まじっすか?
予想外のその見解に、俺は驚きを隠せなかった。
「そこで政府は後に他の男がISを起動できた事を想定して、お前には量産型機を使用させて誰にでも転用可能なデータの収集を行って欲しいそうだ。要するにお前は専属搭乗士だと認識すればいい」
なるほど……
それは理にかなった理由だ。
つまり俺が一般機による普遍的なデータ収集要員で、織斑君は専用機としての特殊データ収集要員、と分類されるのだろう。
俺は織斑先生の丁寧な説明に心の中でお礼を言いつつ、姿勢を正して正式にその打鉄を受け取った。
「了解いたしました。これより門国護、この打鉄を用いて訓練をさせていただきます」
「うむ。後、お前は授業は最低限出席して出来うる限りデータ収集を行え」
ん? まだあるの?
「お前はすでに高校卒業レベルの学力は身につけているからな。復習も大事だがそれはお前が個人で行うだろう。だから政府は時間を無駄にしないためにも最低限の授業日数以外は訓練を行わせて欲しいとのお達しだ。ここまで回りくどいことをしないといけないのは……わかるだろう?」
織斑教官の言葉に、俺は静かに首肯した。
何故、俺がわざわざ好高校相当レベルの学校に入学させられたのか?
答えは簡単だ。
男である俺のISデータを全世界で共有するためには、どこの国家にも属さず、干渉することができないこのIS学園がうってつけだったからだ。
公然とデータを取るには世界でここしか場所がないのだ。
どこかの国に属すればそれだけで、その国家がある意味で貴重な男のデータを独占することができるからだ。
それをされては困るということで、国連が決定し俺は今ここにいる。
俺はすでに高校卒業レベルの学力は身につけているので普通の勉強をしなくても問題はないのだが、しかしさすがに国連、そして国の命令には逆らうこともできず……逆らう気もなかったが……俺はこの学校へとやってきたのだ。
しかしいくらなんでも……。
ここまで特別扱いするのはまずいのでは?
あまりにも俺に助力を行いすぎな気がする。
授業免除に訓練機とはいえ専用機が使用可能。
反感を買いそうだな
その証拠に周りの女子の目線がきつくなっている気がする。
おそらく気のせいではないだろう。
しかしその次の台詞で、俺は完全にほぼ全ての学生を敵に回す事になる。
「なおその間、私が貴様を指導する事になった」
そう、この織斑教官の言葉によって……って今何て言いました!!??
「え!?」
「「「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!???」」」」」」」」」
グラウンドに俺だけでなくクラスメイト全員から驚愕の声が上がる。
せ、青天の霹靂にもほどがあります織斑教官!!!!!
思い出せるわけもなく……