『さて二人とも。準備はいいかな?』
「はい。俺は大丈夫です」
「俺が全く大丈夫じゃない!」
『何が? 門国さん?』
「何が? じゃない! どういう状況だこれは!?」
悲鳴にも似た俺の声が、ここ
場所はアリーナ、時間は放課後。
そして眼前には白式第二形態を展開し、それを纏った俺の友人織斑一夏。
その一夏に相対するのは激しく疑問符を浮かべながら、前回の事件『
そしてその俺たちに同時にピットで通信をする更敷。
何故か俺は友人一夏の乗る白式第二形態と第一アリーナ中央で対峙していた。
あれ……なんかデジャブ?
『どういう状況って……こういう状況?』
「言葉遊びも大概にしろ」
俺の疑問に答えてあげましたよ? って空中投影ディスプレイ越しにニヤニヤ笑いながら言ってくる更識に俺は軽く睨みながらそう言うが、その飄々とした態度で軽く受け流してしまう。
「本当にどういうことだこれは?」
『単純明快だよ門国さん。二人で模擬戦を行ってもらおうと思って』
「いやだからどうしてそう言う状況になったのか説明をだな……」
いっこうに事情を説明しようとしない更識に若干イライラしながら俺はそう言う。
一夏が教官にクラスの出し物を報告しに行き、そうして帰ってきたと思ったらなんと更識までセットでクラスへとやってきたのだ。
そしてそのまま一緒に来てくれと言われてついて行ってみると、目指していた場所はアリーナ。
そしてそのままISの展開をさせられて……今に至る。
っていうかついてきてって言われた時点で気付くべきだった……
こいつが絡むと本当にろくなことがない。
今後気をつけよう。
「俺が言ったんだ護」
「一夏が?」
更識に向かって問うたのだが、意外な事に返事が返ってきたのは一夏からだった。
しかもなんか申し訳なさそうにしている。
「なんか職員室前で待ち伏せされてて、その後生徒会室に連行されて」
「ほうほう」
「全校集会のことを聞くと、部活動からの苦情の対処らしく」
「部活動からの苦情?」
その言葉に俺は何となく状況がわかった。
生徒だから部活にはいる事は十分に可能なはずだ。
それが男といえども……。
そして部活動に入部すればその部活で一夏を独占できるという事になるのだ。
そうなればどこでも欲しいと言ってくるのはもはや必然だろう。
苦労するな……
となると本日の全校集会での一夏に相談なしの強硬策の、一夏強制入部はそういう事情を考慮してのことなのだろう。
考えているな。
いや……7:3位の割合で面白いからっていう理由が入っていそうだ……
もちろん三割が真面目に考えたほうである。
「勝手に決めたお詫びに俺のISの指導をしてくれるらしいんだけど、理由を聞いたら俺が弱いからだって」
「ふむ」
「それで試合をする? って言われたから負けたら従いますって言ったら……なぜかこんなことに」
結局お前かい!?
やはり元凶はこの女だったようだ。
それに気づいた俺は先ほどよりもさらに睨みをきかせて睨みつけるが、それも軽く流されてしまった。
はぁ~全く……
俺は溜め息を吐く事しかできない。
この状況……何でか知らないが、アリーナの観客席は、全て埋め尽くされており、それにとどまらず立ち見の子もいるみたいで……。
しかも映像部って言うかなんて言うか……ISを撮影するのに特化した特殊カメラまで導入されていて、俺たちの試合開始を待ち望んでいた。
さらに教師もまでいるのは……何故?
『にぶいなぁ門国さん。世紀の対決だからだよ』
「世紀の対決?」
周りを見ている俺の疑問を察したのか、通信越しに更識がそう言ってくる。
そこまで言われて俺は気がついた。
そうか……「男」VS「男」のISの試合……か……
IS登場より早十年。
その間男の操縦者は一人たりとも生まれてこなかった。
それを崩したのが一夏と俺。
この世に二人しかいない男のIS操者。
そしてその二人の対決なのだから周りが放って置くわけがない。
でも決まったの放課後だぞ? 何故ここまでの人数が……
『ちなみに、対決の情報は私が流しました♪』
「やっぱりお前かい!!!!」
扇子を開きながら呑気に宣う妹分に、俺は悲鳴とも怒りの声とも区別のつきにくい咆吼を上げる。
開いた扇子には、『諸行無常』と書かれていて……何というか言い返すのもあほらしくなってしまう。
しかしここまで来たら逃げる事も出来ないだろう。
俺は最終調整というか状態を確認をするために、守鉄のステータス画面を呼び出して、異常がないかの確認を行った。
各部動力計異常なし……装甲等に異常も見られない。
ISの強さの一つと言うべき機構だろう。
ざっと確認を行うと最後に俺は、自分のISの名称欄を見つめた。
俺の信念と打鉄から一文字ずつ取って、『守鉄』……
守るという俺の信念。
そして打鉄という名称。
そこから取ったのが守鉄となったのだが……果たして今の守鉄は守鉄と言うべきなのだろうか?
ラファール・リヴァイブになったしなぁ……
打鉄の痕跡が近接ブレードしかないが、打鉄の名残がある以上間違いではないのだが……。
ラファールからも取らないと不公平?
実にくだらない考えが頭に浮かぶ。
だけど名前というのは重要な意味を持つと考えている俺にとって、名称一つと笑ってすませられるような事柄ではないのだ。
しかし守鉄は外せないとして……ラファールって横文字だよな?
守鉄ラファール? 守鉄リヴァイブ?
……うん、びっくりするほど似合わないというか、自分のあほさ加減に呆れが来る。
ラファールはフランス語で『突風』『疾風』を意味するもので、リヴァイブが英語で『生き返る』『蘇る』といった再生などの意味で……。
あれ? フランス語と英語の混合? 面白いな……
意味を考えてみて意外な事に気がついた。
二カ国語を使用しての名称だったとは……。
自衛隊時代、死ぬほどこの機体にふれていたというのに全く気づかなかった自分に軽く絶望した……。
和訳してつけると……守鉄再風? ………………意味がわからん
名前一つでここまで考えるのもあほらしい気がしないでもないが……。
打鉄からラファールに再生したからリヴァイブでもあながち間違いではないけれども、何か違う気がする。
そこで俺はふと、頭文字が両方ともRである事に気がついた。
両方ともRだからそれを使って……
先ほど考えた者よりは悪くない気がした。
少なくとも咄嗟に考えたにしてもいい感じがするし、しっくりする。
よし、では……
[情報更新 名称を『守鉄』から『
んぉ?
俺が決定事項として心の中で決める前に、守鉄が反応した。
びっくりした事に再び勝手に名称を変更してくれた。
口に出していないというのに俺の考えている事が守鉄はわかるみたいだ……。
っていうか封印および初期化は受け付けないのに俺の思考には反応するのか?
色々と聞きたいことはあったが、聞く相手もいないし……どうしようもない上に問題視する事柄でもないので、放置することにした。
……投げ出したわけではない。
読心術っていうか若干怖いが……まぁいいか……改めてよろしくな
『ま、ともかく。一夏君は門国さんと試合をしてみて』
「別にいいですけど……何で相手が護になるんですか?」
俺は素直に疑問をぶつけてみた。
この類の人は変に言い回さずストレートに言った方がいいからだ。
っていうかそもそもどうしてこうなったんだ?
俺は単に職員室の外で待ちかまえていた、この生徒会長更識楯無さんの異常性というか、強さを見せつけられて……。
それから生徒会室に強制連行。
部活動から俺が入部しない事で苦情が寄せられていてそれに対処するために、あの案……学園祭の投票決戦になったらしい。
その代わり生徒会長が特訓してくれると言ってくれて断ろうとしたら……
何でかこうなったんだよな……
『だって私は最強だから勝負にならないし』
「……やってみないとわからないじゃないですか」
『あは、ムキになってる。かわいい』
「からかわないでください!」
いつまで言っても、どこまでいってもふざけてばかりいるこの人は本当につかみ所がない。
『自分が門国さんより強いと思ってるでしょ?』
「!?」
その会長の言葉に俺は一瞬だが、言葉を詰まらせた。
確かに俺は少なくとも護よりは自分が強いと思っていた。
セシリアとの試合。
あの時の動きは確かに驚異的だったけど、でもそれでも終始結局攻撃を行わなかった護が強いとはどうしても思えなかったからだ。
確かに普段の立ち居振る舞いも隙がない。
徒手格闘術だと勝てそうにないとは思う。
それに手を出さなかったのはおそらく後の先を主体にした戦闘法身につけているからだと思ったからだ。
だけど、それらを全てひっくるめてもISならば俺に分があると思ったのだ。
気分が悪くなると言って基本的に宙を飛び回らない護の機動は二次元機動が主だから、それだけでだいぶ行動が制限される。
『まぁ試合してみて。多分今の君だと一撃で負けるよ』
「一撃で……ですか?」
その台詞、俺が護に負けるということよりも、俺はその「一撃」ということに眉をしかめた。
ことISの戦闘において一撃必殺という言葉はほとんど存在しない。
現代兵器をすべて圧倒した、最強の存在であるIS。
そのISの兵器の中でも最強クラスの装備である荷電粒子砲の威力にさえ、ISは耐えられるのだ。
それだけISの防御力というのは飛び抜けている。
例外は……
俺のISに搭載されている、文字通り一撃必倒の
これは自身のシールドエネルギーさえも攻撃に転化して使用される攻撃で、特徴は相手のシールドバリアを切り裂いて直接相手にダメージを与える事が出来る攻撃方法だ。
これならば一撃必殺もあり得るのだけど……。
けど護の機体は……ラファール・リヴァイブ……だよな?
第二世代後期に開発されたIS。
豊富なカスタムパーツが特徴だが、会長が言うような一撃必殺の武器は開発されていない。
一撃必殺とは言い切れないが、
物理シールドの裏に装備されている69口径のパイルバンカー。
第二世代では最高クラスの攻撃力を有しているけど……。
一撃必殺では……ないよな?
実際にシャルがラウラに使用した事があったけど……シールドエネルギーを大幅に削っただけで、しかも一撃ではなく複数回の攻撃を行っても、とどめを刺すまでには至らなかった。
そもそも護がそれを
おそらく、していないはず
『あ、深く考えてる。大丈夫だよ。どうせ門国さんが勝つから』
この言葉には、安易な挑発とわかっていても、ついついむっとしてしまう。
「何を勝手な事を言っているんだお前は?」
『え? でも本当の事でしょう?』
「無理難題をいうな……」
『え~。出来るでしょう?』
っていうかさっきから随分親しげに話して……そう言えば護が俺以外に素の話し方をしてるのって初めて見るな……
護が俺以外……つまり女子と普通に話している事に驚いてしまう。
俺たちよりも四つも年上なのに基本的に敬語を使って話す護が……。
『まぁともかく試合開始~』
「あ、おい」
ビー
護の反対意見を封じるためか、実にいい加減に試合開始のブザーが鳴らされた。
俺たちだけでなく、IS学園の男二人……世界で最初の男VS男の試合とあって、観客席は満員で、その人たちもその試合の開始の仕方に呆然としていた。
っていうか普通に考えて世紀の対決じゃないか?
何も俺自身が強いと言っているんじゃなくて、さっきも言ったが、男VS男、というのはISの歴史上において世界初なのだから……。
「やれやれ。まぁともかくやるか」
「あ、あぁそうだな」
「よろしくな、一夏」
「お、おう」
「わが名は門国護!
「……どうした突然奇妙なこと言い出して………」
「いや、なんか言わなきゃいけない気がして……」
軽く試合前に互いに挨拶を交わすと、俺たちは直ぐに戦闘態勢に入った。
俺はまだ展開していなかった武器、雪片弐型を展開して右手で持ち、さらに左手に装備されている雪羅を油断無く構えた。
第二形態に移行して顕現したこの武器は、状況に応じていくつかのタイプへと切り替えられる武器で、射撃用に荷電粒子砲、格闘用にブレードと零落白夜のエネルギー爪、防御用として零落白夜のバリアシールドを展開可能。
だがシールドエネルギーをさらに消費するようになり、スラスター増設によるエネルギー消費も加わったため一層効率の良い運用を心掛けなくてはならなくなった。
さらに背部ウイングスラスターも大型化になったためにエネルギーを大幅に使用するようになってしまった。
利点としては瞬時加速のチャージ時間の減少、最大速度の速度が上がったが如何せん大飯ぐらいにもほどがある。
だが、短期決戦を心がければ!
ならば一気に決着をつけてしまえばいい。
そう思ったのだけれど……。
………………武器を展開しない!?
そう。
俺の対戦相手である護は、俺が武器を展開し構えているにも関わらず、一向に武器を展開しようとしていなかった。
しかしかといって戦う気がないわけでもなく、構えを取ってはいるが……。
無手?
無手とは、文字通り手に何も持たない事であり徒手格闘術の事をいう。
そういえばみんなが臨海学校での事件のときに護が、無手で『
臨海学校での特殊任務で俺の事を守ってくれた護。
あの異常ともいえるIS相手に、無手で挑んだその精神。
……つ、強い
普通に高度十メートル近い地点で宙にいる俺と違い、護は地面すれすれに浮かんでいてじっとこちらを凝視していた。
その構えと姿勢からは、一分の隙も見つからず……しかもその身から溢れる気迫は息をのむほどの物であり……。
う、動けない……
俺の白式はほぼ完全な接近戦仕様。
唯一の遠距離武器として、雪羅の荷電粒子砲があるがこれは単発兵器だ。
セシリアのビットを完璧に避けていた護に、そう簡単に命中するとは思えない。
それに対して、護のラファールは遠距離型だが、本人が銃器の類を嫌っているのか、それとも単に使い慣れていないからか、装備されているはずの武装を展開する様子もなく。
一瞬
世紀の対決、男VS男に沸き立つアリーナの観客席とは裏腹に……、アリーナ中央に佇む俺たちは微動だにせず、ただ相手をにらみ据えているだけだった。
「互いに動きませんわね……」
二人の試合……お兄ちゃんと織斑君の試合を、私と同じようにピットで空中投影ディスプレイに写る二人の様子を見ながら、いつも織斑君の周りにいる女の子の一人、セシリアちゃんがそう口にする。
今ピットには私の他に、篠ノ之箒ちゃん、凰鈴音ちゃん、セシリア・オルコットちゃん、シャルロット・デュノアちゃん、ラウラ・ボーデヴィッヒちゃんがいた。
その子、セシリアちゃんの言うとおりで、二人、お兄ちゃんと織斑君はアリーナ中央でにらみ合っているだけで、試合開始の合図のブザーが鳴ってからほとんど動いていなかった。
お兄ちゃんはいつもの通り後の先の構え。
外に出さないように注意しながらも、内心少し焦りつつディスプレイを見てみるけど、お兄ちゃんのISの
「あれは……」
「もう、始まっている……」
この中である意味で一番戦闘に精通している二人、ラウラちゃんと箒ちゃんがそう言う。
ラウラちゃんは軍隊での戦闘訓練経験、そして箒ちゃんはあの場の雰囲気を察しての言葉。
特に箒ちゃんは真剣での訓練も行っているからね
あの場、つまりは試合会場でにらみ合う二人、それはまさしく昔の武士同士の真剣による勝負に似ている様な物だった。
ひたすらに敵の隙を探し、その隙目掛けて刀を振り下ろす……無骨とも言える斬り合いに。
それ故に今の二人の状況を察せられたのかもしれない。
どっちも動けないね
お兄ちゃんの戦闘方法は後の先、つまりはカウンターを主体にした戦い。
それに対して織斑君の武装はほぼ完璧な接近戦武装。
何の武器も持たないお兄ちゃんを見れば嫌でもわかる。
格闘術を用いて戦うのがお兄ちゃんのスタイルなのだ。
そんなお兄ちゃんに対して接近しての攻撃など愚の骨頂と言ってもいいかもしれない。
おそらく織斑君も知っているはずだ。
自分の姉、織斑千冬がかつて自衛隊での総合格闘訓練で、お兄ちゃんに勝てなかったという噂を。
真相としては攻める事をほとんどしないお兄ちゃんは防御しか行わず、その防御を織斑先生が突破できなかったという事なのだ。
IS世界大会モンドグロッソ。
その大会を
いや……
いくらお兄ちゃんでも織斑先生が相手では防御をするだけで手一杯だったんだろう。
故に勝負は付かなかった。
おそらく、今の私が本気で戦っても、お兄ちゃんの防御を突破する事は出来ないだろう。
それが対峙している織斑君は肌で感じ取っている。
後の先を主体のお兄ちゃんと、格闘戦の織斑君。
互いに動く事の出来ないこの状況はある意味で当然といえた。
それは観客席の子達もわかっているのだろうけど、それでも男VS男という世紀の対決に沸き立っているのかざわめきが広がっている。
「!? 動いたわ!」
「一夏、どうするつもりなんだろう?」
鈴音ちゃんとシャルロットちゃんが声を上げる。
動いた方は……考えるまでもなく織斑君だった。
俺も護も、先ほどから相手を睨むつけたまま全く動いていなかった。
話を聞いた限りでは護から攻撃してくる事はほぼ無いと言っていい。
かといって俺から攻撃しに行くのでは、口を開いた虎の元へと向かうようなもの。
だけど、この膠着状態で精神がすり減っていく。
護が攻めてこないとわかっているにも関わらず。
それほど戦闘開始から護から放たれる、裂帛の気配は凄まじい物があった。
このまま続けていてもじり貧で消耗するだけだ。
だけどかといって先ほど考えた
ただでさえエネルギーの無駄遣いを避けたいのだ。
だから俺は……。
接近してからの荷電粒子砲で目くらましをして、そこから零落白夜で仕留める!
短期決戦となるとこれ以外にあまり良案が思い浮かばない。
荷電粒子砲で仕留める事も考えたけど、一撃必殺の事を考えると、零落白夜の方が確実だ。
行くぞ! 護!
俺は固まっていた体に力を込めると、護に向かって飛んだ。
俺の動きに観客席の女子達が沸き立つが、今の俺にはそんな事など瑣末ごとでしかない。
自分に向かってくる俺に対して、護は開始から全く変わらない構えを維持し続けた。
その護に向かって、俺は雪羅を荷電粒子砲に変化させて、出力を最大にして放った。
そしてそれは当然のように護が避ける。
セシリアのビットの波状攻撃を全て躱したのだから、それは当然とも言える。
だけど俺の本命は……。
避けた荷電粒子が地面へと接触し、軽い爆発のような物が起き、辺りに土埃が舞い上がった。
このアリーナの地面は舗装されていないので、土の地面が剥き出し……それでも整備はされているので綺麗だけど……になっている。
そしてそれを見届ける前に、俺は
地面に着地する寸前にスラスターをふかして地面との激突を避けて、俺は右手を大きく振り上げて、振り向きながら振り上げた雪片弐型を振り下ろした。
!? 読んでいる!?
しかし雪片を振り下ろした瞬間には、舞い上がる土埃など一切気にもとめずに、こちらを振り向こうとしている護がいた。
だけど、俺が剣を振り下ろす方が速いと見て、俺は力の限り零落白夜を発動させた雪片を袈裟斬りに振り下ろす。
その時、護が構えを変えて奇妙な構えを取った。
両手でまるで見えない目の前の壁を押しているように前に突き出した構えから、左手を後ろに引き、右手を拳は開いたままに、内側にねじりきった手を刃の側面に入れてきてそれをねじり上げた。
ギュル
なっ!?
たったそれだけの事で俺の雪片は回避された。
正直何が起こったのかわかりはしない。
しかしこれは間違いなく、格闘術の一つ。
しかもこれは古式……。
トン
先ほどの要領で躱した護はそのまま俺の顔の顎に、不気味なほど静かに護が手を添えて……。
まずっ!?
そう思ったときにはもう遅かった。
「はっ!!」
短い呼気と供に、護がそんな声を上げると地面に足が着いていないにも関わらず、ISの
ブオン!
「かはっ!?」
そう考えていていると直ぐにその考え事をしている脳へと凄まじい衝撃が来た。
俺が攻撃を行ってから数秒と経っていないはずだ。
そのたった数秒で勝負は決した。
衝撃が来た瞬間に俺の意識は闇へとのまれていて……。
だけど倒れる寸前に俺の事を手で受け止めてくれている護がそこにいた……。
体から俺のIS、白式が解除されるのが、体が軽くなった事でわかった。
『はい、試合終了~。お疲れ様~』
くすっ、と楽しそうに笑いながら言う声が耳に響いた気がする。
男VS男という世紀の対決は、あまりにもあっけなく、そしてあっという間の一瞬の攻防で決着がついた。
正直、二人で睨みあっていた時間のほうがはるかに長いはずだ。
そのためか、誰もが呆然としており歓声も怒号も悲鳴も上がる事が無く……妙に静まりかえっていた。
勝者は……門国護。
一撃必倒!