IS〈インフィニット・ストラトス〉 守鉄の剣   作:刀馬鹿

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文化祭準備

新学期。

ついに始まってしまったまた女の園での学校生活が始まる。

諸事情であまり女性が得意でない俺にとって地獄以外の何ものでもない。

だがこの学園に年上である俺が編入したのは自衛隊というか国家からの命令でもあるので逆らう事も出来ず……まぁ逆らうつもりもないが……とにかく、そう言う事でまたこの場所で頑張っていかねばならんのだ。

 

……空が綺麗だなぁ…………

 

九月の残暑、というか夏の名残と言うべきか、この季節は他の季節と比べて空の青さがよりいっそう際だっている気がしてならない。

それはきっと太陽の熱というか気温が高いからなのだろうなと勝手に解釈してしまう。

ぼけっとくっだらないことを考えていると、段々と他の生徒《女子》達が徐々に登校し始めてきた。

 

…………また始まるのかぁ……

 

女子の声が教室に満ちてきて、俺は心の中で溜息を吐いていた。

山田先生のストーカーの事件によって、女子の敵と認識されたために一学期は随分とひどい目に合っていた物だった。

それがまた始まるのだろうなぁ………………。

 

「門国さん」

「はっ」

 

今日からのことを思い描いて暗くなっていると、真横から声がかかったので俺は瞬時に振り向きつつ返事をした。

誰が声を掛けてきたのかは謎だが……声に覚えがあったのでおそらくクラスの人間だろう。

 

「何か?」

「いやただ挨拶しようと思って。お早う門国さん」

「????? お、おはようございます」

 

??????????????挨拶するだけ???????????????

 

たったそれだけの事だが……俺の立場を考えるとそれは異常事態とも言えた。

 

一学期の六月後半。

俺はこのクラスの副担任事山田真耶先生にストーカーをしたと嫌疑を掛けられて以来、女の敵として認識されていた。

そのために女子が俺に声を掛けることなんぞ無かったのだが……。

あまりにも予想していなかった事態に俺は戸惑う事しかできない。

しかも何故か知らないが、俺に声を掛けてきた女子生徒は、その後ろに控えていた他の女子を何か話していて、時折ちらちらと俺の事を盗み見ている。

その視線も、余り敵意というか悪意を感じず……正直何が起こっているのか全くわからない。

 

…………一体何が?

 

「おはよう護」

 

不思議な現象に頭をひねっていると、一夏が俺の目の前に来て朝の挨拶を交わしてきた。

俺はそれに返事を返しつつ、一夏に質問をしてみた。

 

「一夏……」

「? どうした?」

「……俺なんかしたか?」

「? どういうことだ?」

 

よく意味がわかってないらしい。

まぁ確かに質問の仕方がよくなかったかもしれない。

それだけ俺も焦っているというかてんぱっているということだろう。

 

「いや……なんか女子が俺に声を掛けてきてな」

「? それがどうかしたのか?」

「いや確かにそれが普通の男子だったならばそうだけどな。ストーカー事件の容疑者となった俺にだぞ?」

「あ~~~そういうことか。よかったじゃないか! みんなようやく誤解だってわかってくれたって事じゃないか!」

「……いやそうなのかもしれないけど…………」

 

俺としてはその過程が知りたいのだが……。

 

 

 

俺の謎は結局答えを見つけることが出来ず、その後二学期の学園祭について話があると言うことで俺たちは講堂へと移動していた。

学園祭。

学校行事でも人気の行事の一つだろう。

その学園祭に関する連絡事項があるらしく、わざわざ全校集会を行うことになった。

だがある意味でそれどこれでない俺にとって、そんなことなどどうでもいい。

 

っていうか純粋に四方六方八方……360度周り全てが女子っていうこの状況どうにかしてくれ!!!

 

まぁ一応すぐそばに一夏がいるのが幸いだろうか?

織斑で「お」で、門国で「か」なので出席番号が近いので、必然的に俺たちは出生番号順で並ぶと近い位置にいる。

がその一夏も周り全てが女子という状況で少々居づらそうにしている。

 

俺は冗談抜きで、それこそ裸足で逃げ出したくなるほど、恐ろしかった……

 

「やぁみんな。おはよう」

 

そうして始まった全校集会で、俺は見知った顔が壇上へと昇っていくのを下から見ていた。

 

「さてさて、今年は色々と忙しくって挨拶がまだだったよね? 私の名前は更敷楯無。君たち生徒の長よ。よろしくね~」

 

…………本当に生徒会長だったんだな

 

にっこりとほほえみを浮かべていう生徒会長という肩書きを持つ、妹のような存在の更識楯無。

どうやらなかなかの人気者らしくそこかしこから黄色い声が聞こえてきた。

それに笑顔と手振りで答えつつ、更識は声を張り上げた。

 

「もうすぐ学園祭だけど、今回は特別ルールを導入! その内容は各部対抗織斑一夏争奪戦!」

 

その更識の言葉と主にディスプレイにでかでかと一夏の写真が投影される。

 

「え」

「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~!!??」」」

 

そしてそのあまりにもサプライズな内容に一夏だけでなく、全校集会に集まった女子生徒全員の驚愕の声が響き渡る。

何となく予想できていたので耳栓をして、その大音量から俺は鼓膜を守る。

 

「学園祭では毎年各部活動ごとの催し物を出してそれに対して投票を行い、上位組は部費に特別助成金がでる仕組みだったのだけど、今回はそれだけではつまらない! と思って……」

 

無駄に間を作って会場を期待させる更識。

実に芝居がかっているというか……遊んでいるというか……。

 

「織斑一夏を一位の部活動に強制入部させます!」

「うおぉぉぉぉぉ!!!!」

 

みんなのアイドル? 織斑一夏を自分たち(部活)で保有出来るとあって会場は大喝采&大興奮の渦に包まれた。

 

「さ、さすが会長!」

「やってやる! やってやるわぁぁぁぁ!」

 

ちなみに、当の一夏はというと予想通りというか、やはり許可を取っていなかったみたいで呆然としていた。

そんな一夏に俺は合掌するしかなかった。

が、直ぐに人ごとではなくなった。

 

「あ、あともう一人の男子生徒、門国護は生徒会に入れて雑務にするからよろしくね♪」

「……は?」

 

突然火の粉が降りかかってきた俺は思わずそんな驚愕の声を上げてしまっていた。

そんな俺に気づいたのか、壇上にいる更識がこちらを見つめて……。

 

「あはっ★」

 

なんか笑顔でウィンクしてきた。

一夏のときと違って俺の名前が出ても女子の反応はほとんどなかった。

 

が、一部で反対の声が上がったが……誰だろうね?

 

それを不思議に思いつつ、その笑みに何かの意味があると考えて、俺は不意に先日の事を思い出した。

先日……夏休み終了日に寮の部屋へと勝手に侵入していた更識。

その帰り際の言葉……。

 

『んじゃお願い聞いてくれたお礼に私がいいことしてあげるね★』

 

と言っていた事を思い出したのだ。

 

いい事って……生徒会に入る事?

 

いまいちその利点のわからない俺は頭にハテナマークを浮かべる事しかできなかった。

 

 

 

その後、教室にて放課後の特別HR。

学園祭での我がクラスの出し物を決めるために随分と盛り上がっていた。

しかしその内容というか……出し物が……。

 

『織斑一夏とツイッター』『織斑一夏とポッキーゲーム』『織斑一夏と王様ゲーム』

 

………難儀なHRだなぁ……一夏

 

「却下」

 

クラス委員だったらしい一夏が、クラスの壇上に立ち当然のごとく却下した。

まぁ本人からしたら溜息しか出てこないだろう。

これではまるで動物園のパンダだ……。

そしてその一夏の言葉に、全女子が大音量の声でブーイング。

先ほどの全校集会同様、俺は耳をふさいだ。

 

「あ、あほか!? 誰が嬉しいんだ!?」

「私は嬉しいね! 断言する!」

「そうだそうだ! 女子を喜ばせる義務を全うせよ!」

 

……そんな義務が合ったんだな……イケメンも苦労するなぁ

 

「そんな義務はない!」

「え~ノリが悪いなぁ」

「ともかく駄目! 他に意見は!?」

「はいはい! それが駄目なら私に案があります!」

「はい田村さん!」

 

女子の怒涛の反対意見に助けを求めていた一夏は、手を挙げた俺の隣の席の女子生徒である、田村さんへと指さして発言を促す。

 

しかし……その発言は余りにも予想外だった……

 

 

「織斑君と門国さん、IS学園(ダブル)ホストクラブ!」

 

 

「……」

「……」

「「「……」」」

 

あまりにも予想外の一言に、学園でたった二人の男である、俺と一夏は固まった。

それだけでなく女子達も一斉に固まったのだが……。

 

「「「それだ!」」」

 

なにっ!?

 

何故か一瞬固まった後一斉に賛同の胃を示す女子生徒達。

その意外な意見と、それを肯定した女子生徒達に俺たち男二人はびっくりして声も出なかった。

 

「ちょ、ちょっと待て!? さっきの意見よりもおかしくなってないか!?」

 

壇上できゃいきゃい言ってる女子生徒達に負けないように、っていうか声が届くように大声で叫ぶ一夏。

 

奇遇だな一夏……俺も同意見だ……

 

「織斑君と門国さんがホスト! それの何がおかしいの!?」

「先輩だってうるさいんだから、誰もが楽しめる企画じゃないと!」

「織斑一夏と門国護は共有財産だ!」

 

……俺も?

 

一夏はわかるが……ストーカーで睨まれていた俺が何故こうなっている?

不思議でしょうがないが、なんかこの場の空気に飲まれて声を上げる事すら出来ない。

 

「や、山田先生も! 黙ってないで何とか言ってください!」

「え? 先生がですか?」

 

ずっとクラスの意見を聞いているだけで、何の注意もしようとしなかった山田先生に、一夏が援護を頼む。

その余りにも意外っていう顔はしないほうがいいのではないでしょうか?

ちなみに担任であるはずの教官は、さっさと職務放棄してどこかへ行った。

おそらく職員室で書類仕事でも行うのだろう。

 

「えっと……せ、先生もホストクラブがいいかなぁ……」

 

頬を赤らめながら俺と一夏を交互に見る副担任。

見事に地雷だな……しかも不発弾。

 

っていうか否定するどころか肯定してどうするんですか……

 

若干顔が引きつりながら山田先生を見つめていると、俺の視線に気づいた山田先生と目が合って、その瞬間……

 

バッ!

 

ものすごく勢いよく俺との目線をそらした。

昨日のIS受け渡しの時はまだ普通だったというのに……。

 

何かしたか俺??

 

クラスの女子の変貌差も相まって俺は本当に不思議でならなかった。

 

「あ~もう! と、とにかくもっと普通の意見をだな!」

「メイド喫茶はどうだ?」

 

そうして一夏が半ば自棄になりながら叫ぶと、この大音量の中でもよく通るすんだ声が場の空気を止めた。

 

メイド喫茶?

 

メイド喫茶とは、コスプレ系飲食店の一種であり、主に日本に存在する。店舗内では、メイド服姿のウェイトレスが個人宅の使用人のように振舞い、客はその主人としての待遇を受ける店のこと……らしい。

なぜらしいのかというと俺は行ったことがないからだ。

そのメイド喫茶の意見を出したのは何と意外や意外、銀髪ちびっ子の軍人娘で壱課ハーレム軍団一員のラウラ・ボーデヴィッヒだった。

ラウラ・ボーデヴィッヒ。

銀髪で右目を眼帯で覆っているドイツ軍特殊部隊所属の生粋の軍人。

軍人であるために戦闘で並々ならぬ力を発し、一年でトップクラスの腕前を有している。

ちなみに以前に、他の一夏ハーレム軍団の一員である金髪ロングカール娘のセシリア・オルコットとの模擬戦で、俺が一度も攻撃しなかったことで随分と嫌われている。

冷徹怜悧とも言える性格の銀髪ちびっ子がいうものだからクラス全員がぽかんとしている。

 

「客受けはいいだろう? 飲食店では経費の回収が行える。招待券で外部からの客人も受け入れるのだ。それなら休憩所としての需要があるはずだ」

 

いつも通りの感情があまり表れていない淡々としている口調ではったが、あまりにも本人の性格に合わない意見に、誰もがそれを理解するのに多少の時間を要した。

 

「え、え~っと……みんなはどう思う?」

 

クラス委員としてとりあえず多数決をとることにしたのか、一夏が若干驚きつつも皆に質問をしている。

 

「あ、だったら一夏が執事ってのはどうかな?」

「え?」

 

一夏の言葉に回復したのかそう言ったのは金髪ボーイッシュ、これまた一夏ハーレム軍団のシャルロット・デュノアだった。

シャルロット・デュノア。

短めの髪をしており、また長い髪は後ろで一つに束ねている。

中世的なその顔だちは美少年とも美少女とも思える容姿をしている。

この子はまだ俺と普通に接してくれるので一夏ハーレム軍団の中では普通に会話することができた。

そのシャルロットがとんでもない意見を出してくる。

一夏を執事にするようだ。

そしてその提案を他の女子が逃すはずもなく……。

 

「織村君が……執事!?」

「いい! それすっごくいいよ!」

「メイド服とか執事とかの衣装どうする!? 私演劇部衣装係だから縫えるけど!」

 

途端に先ほどの数倍以上の喧噪がクラスを包む。

先ほどと違って方向性がある程度固まってしまったために、女子達に団結力が出来てしまったので先ほどの数倍以上の喧噪となってしまっている。

そしてその渦中の人物とも言える一夏は顔に手を当てて天を仰いでいた。

どうやら経験上からもう止められない事を理解しているのだろう。

 

哀れ一夏よ……。っていうかその場合だと執事喫茶だっけ? ってのになるんじゃないのか?

 

「何を呑気に考え事をしている。お前も執事になるんだぞ門国」

 

対岸の火事の出来事だと思って、俺は普通にぼんやりと適当な事を考えていると、なんと意外や意外。

人ごとではなかったようだ。

 

っていうか今なんて言いましたこの銀髪ちびっ子

 

「はい?」

「はい? ではない。数少ない男の一夏がやるのだから貴様も執事をするのは当然だろう」

「一夏だけじゃなく、門国さんも似合いそうですもんね」

 

銀髪ちびっ子に続き、金髪ボーイッシュのシャルロットさんまで寝言を仰っているのですが……

 

「冗談ですよね?」

「冗談なものか。貴様もクラスの一員なのだ。行事には参加しろ」

「そうですよ。せっかくのお祭りなんですし」

「賛成!」

「二人とも正装とか似合いそうだもんね!」

「これはもう一位いただきだね!」

 

ラウラとシャルロットの台詞に女子達が次々に賛同し出す。

その様子を見て二人は満足したのか、二人でいろいろと打ち合わせをし出した。

が俺はそれどころではない。

 

…………どういうこと?

 

クラスの一員と銀髪ちびっ子は言った。

つまり少なくともこの俺を嫌っている銀髪ちびっ子は俺の事をある程度認めているというか……少なくとも敵視はしていないわけで……。

確かに先日ハーレム軍団全員が謝罪をしてきたが、それにしたってここまで露骨に変わる物だろうか?

 

いや銀髪ちびっ子とシャルロットはまだいい……

 

それ以上に不思議なのは、他のクラスの女子達が、反対意見を何も言ってこない。

それどころか、ラウラの台詞に賛同していたし、もうすでに俺も執事をすることが彼女たちの中でも決まっているらしく、なんかノートを広げて無駄にこった執事服のデザインを行っている子がいる。

それも当然というべきなのか……二人分だ……。

 

……………………い、いったい何が……

 

何が起こっているのか皆目見当が着かない。

しかしそんな俺と半ば放心している一夏をおいて、着々と状況は進行していき……。

 

 

 

その後、一夏が教官にクラスの出し物が、『メイド喫茶「男は執事!」(仮)』に決まった事を報告を言いに行き……………………。

 

こうして俺の疑問は解消されないまま、我が一年一組の学園祭での出し物は

『メイド喫茶「男は執事!」(仮)』

となったのだった。

 


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